第11話 さて、本題だ

「ただいま戻りました」


 ピュートと一緒にコフィーヌが戻ってきた。


「ご苦労。状況は?」

「ガル殿の仰った通り、街道から少し離れた休憩所に、大量の矮鬼ゴブリンの焼死体が。穴も深く、死体が折り重なっているため、正確な数までは分かりませんでした。周辺を探りましたが、逃亡した痕跡は皆無でしたので、あれで全てかと」

「大まかな数は分かるか?」

「恐らく、50匹以上」

「街道で最初に襲ってきた矮鬼は?」

「そちらも確認しました。装備からして同じ部隊の矮鬼です」

「そして、ここの矮鬼と黒醜人オークか……」


 地面に並べられた矮鬼と黒醜人の死体を見下ろしながらサリィンが言った。


「本当にお2人で殲滅なさったのですね、感服致しました」

「矮鬼は単純だからな。その隊長だった黒醜人も頭が悪かった」


 煙草をふかしながら俺が言う。


「黒醜人は百人長のバズグルと名乗った」

「百人長・バズグル。軍の情報部に詳細を調べさせます」

「伍長、休憩所に関してなのですが、あそこはあのまま埋めてしまった方が良いかと。なにぶん穴が深く、死体を引き上げる場合、かなり時間が掛かると思われます」

「確かにな。あのままだと感染症の温床になりかねん。経緯は報告書にまとめ、早急に埋め立てる様に。ピュート殿」

「はい?」

「あの休憩所は閉鎖しもよろしいですか?」

「問題ないと思います。他の休憩所に比べ、街道から少し離れていますし、利用頻度も引くですので」

「そこまで考えてあの場所に罠を貼ったのですか?」


 サリィンが俺の方を見る。


「まぁな。商団の休憩所は俺達も世話になっている。被害を最小限に収める為の貴い犠牲だ」

「お見逸れしました。我々も事後処理が楽で助かります」

「お互い、暇じゃないからな」


 サリィン達の見聞が終わる頃には日が翳り始めていた。


「我々は一度戻り、東方司令部に報告して参ります。エルウィン殿の事もお任せください」

「例の穴、埋めるだけでよいなら、ワシが埋めておくぞ?」

「助かります。ピュート殿には、くだんの休憩所の閉鎖手続きをお願い致します」

「承知致しました。既に商団には連絡しておりますので、明日にでも規制線を張れるかと思います」

「改めてガル殿、グロー殿、ピュート殿、今回は魔王軍の討伐、ご苦労様でした。街へお戻りになられましたら、軍の事務局までお出で下さい。ささやかですが、報奨金をお渡し出来るよう準備しておきますので」

「そいつはありがたい」


 話が終わった所で、俺はエルウィンを見た。

 不安そうな顔をしていた。


「エルウィン、俺達とはここでお別れだが、この人たちはお前を悪いようにはしない。何かあった時は、俺を訪ねて来い」


 エルウィンは筆談だったが、サリィンと会話をしたお陰か、俺達の話す言葉を多少理解できるようになっていた。

 恐らくエルウィンは、一度街に戻って手続きをし、それが完了したら王都へ行くことになる。


「ガル、グロー、ありがとう。忘れない」


 たどたどしくも、しっかりと喋るエルウィン。

 あの優雅なお辞儀をした後、コフィーヌの馬に同乗する。


「では」


 サリィン達は街に向かって馬を走らせた。


「色々と忙しい1日だったのー」


 グローはパイプに火を点けながら言う。


「お前、穴埋めて来いよ。昨日荷馬車止めてた休憩所で飯の準備しとくわ。ピュートもお疲れさん。大役だったな」

「いえいえ!矮鬼を退治してもらえて、こちらとしても大助かりです!」

「しっかし、あの水晶は便利だったなー」

「一回使い切りですがね。周りの風景を記憶して映し出せる魔法の水晶、面白いでしょ?」

「お陰で矮鬼どもをまんまと騙せたわい。少々楽過ぎたがの」

「あの油も面白い。料理油よりも燃えやすいみたいだな」

「我々はあれを灯油と呼んでいます。寒い地域では暖を取るのにも使えるかと」

圃矮人ハーフリングは面白いものを持ってるな。使えそうなやつがあるなら紹介してくれ」

「毎度あり!市場価格よりも安く扱えますよ!」


 そんな話をしながら、俺達は遺跡を後にした。

 矮鬼の件とエルウィンの件、両方が解決して、やっと本当の目的である村へ向かう事が出来る。


「ところで、ピュート」

「なんでしょう?」

「俺達がなんでこの護衛依頼を受けたのか、アンタはもう分かってるんだろ?」

「え?」


 ピュートは笑ったままだったが、微妙に顔の筋肉が引きつったのを、俺は見逃さなかった。


「向かっている村からは、巨人トロルの討伐依頼が出てる。あの依頼を出させたのは商団だろ?」

「なに?」


 ピュートより先にグローが反応した。


「村は水薬ポーションが特産だって聞いた。その水薬の原料となる薬草が群生する場所に、巨人が居座っている。そのせいで、新しい水薬が作れない。水薬を村から買い取り、市場に流しているのがアンタらの商団だろ。水薬が作られなければアンタらも困るって訳だ」

「なるほど……」

「同じころ、街道で襲撃が起き始めた。巨人討伐だけでなく、輸送隊の護衛任務も出す必要が出てきたんだろ?」


 ピュートは小さく溜息を吐いた。


「……そうです、ガル殿の言う通りです。そこまで見抜いて依頼を受けて下さったのですね」

「いや、依頼を選んだのはグローだ。感謝するならグローにしろ。アンタらの思惑通りになったんだからな」

「それならそうと、最初から一つの依頼として出せばよかろうに!」

「護衛及び討伐って依頼になると、手数料が跳ね上がるんだよ。知らないのか?」

「そうなのか?」

「簡単な依頼を複数まとめるくらいならそこまで上がらんが、討伐とその他の依頼となると跳ね上がる。複数討伐より高い筈だぞ」

「そうです。それだったら別々の依頼で出して、まとめて受けてくれる人を見付けた方が手数料も安く済むんです」

「だから基本的に、討伐依頼は一件のみで出されるんだよ」

「知らんかった」

「俺より依頼掲示板ボード見てるのに知らなかったのかよ……」

「それにしても、ガル殿のお陰で、街道も安全になりましたし、大助かりですよ!」

「それは上々。しかし……」


 俺は少し気になる事があった。


「ピュート、アンタは件のトロルを見たことあるか?」

「いえ、私は基本的に事務方なので……。仕入れ担当は見たと言っていました」

「その巨人の特徴とか聞いてないか?」

「そうですね……、大きいとか」

「当たり前だろ」

「それと、武装していたとも聞きましたね。だからこそ、手出しができないでいるんですよ」

「武装ねぇ……」


 俺はある予測を建てた。

 恐らく、全て繋がっているんだろう。

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