第8話 隠し通路の先はお宝が相場では?

 俺とグローは神殿の外、入り口の近くに簡易テントを張り、3時間ほどの仮眠を摂った。

 硬いパンを、ピュートから分けてもらったコッフェで流し込み、再び例の壁の前に立つ。


「今度こそ大丈夫だろうな?」

「任せておけ。8メートルくらい、一瞬だわい!」


 そう言って、壁に手を押し当てて詠唱を開始するグロー。

 微かに、地面が揺れ始める。

 今回は上手くいった様だ。

 壁が砕け、ガラガラと音を立てて崩れる。


「ほーれ」


 グローが自慢してくる。

 確かに凄い。

 凄いのだが、俺はある事に気が付いた。


「……、石は人力でどかすのか……?」

「当たり前だ!邪魔で進めんだろうが」

「いや、そうじゃなくて……」


 俺は溜息を吐いた。


「何じゃい、不満か?」

「石をどかす魔法はないのかよ……」


 俺の言葉にグローは少し考えた後、俺を見た。


「なくはない。使うか?」

「その方が手間が省けるだろ」

「分かった」


 グローはそう言って短い詠唱の後にこう言った。


石礫ストーン・ブラスト!」

「おいおいおいおい!」


 俺は思わず後ろに飛び退け、頭を腕で守った。

 グローの足元に散らばった、無数のは殺人的な速度で反対側の壁に飛んでいき、突き刺さる。


「天才だのぉ、ワシ!」


 カッカッカと高笑いしながら、あっという間に瓦礫を吹っ飛ばし終えた。

 お陰で反対側の壁は見るも無残な状態になってしまっている。


「さて、行くぞ!」


 グローは意気揚々と隠し通路へ入っていく。

 それに続いて、俺も通路へと足を踏み入れた。

 高さと幅が2メートルくらいの真っ暗な通路だった。


「暗過ぎる……、松明点けようぜ」


 そう言って俺が小型の松明を取り出すと、グローは慌てて俺を止めた。


「何をしておる!行き止まりの可能性もあるんだぞ!松明なんぞ使ったら、すぐに空気がなくなるわい!」


 確かに、何処に繋がっているのか、むしろ何処かにちゃんと繋がっているかも分からない隠し通路だ。

 こうやって空気がある時点で奇跡なのだろう。


「じゃあ、角灯ランタンにするか……」


 松明の代わりに小さな角灯に火を灯す。

 ぼんやりと辺りが映し出されたが、やはり先が全く見えない。

 何とも不気味で、嫌な雰囲気だ。


「なんじゃい、怖いのか?」


 グローは何ともあっけらかんとしている。

 まぁ、鉱矮人ドワーフだから慣れているのだろう。


「鉱矮人のお前と違って、土の中は慣れてないんだよ……」

「安心せい。この通路は5メートル先で左に折れるが、作りはしっかりしておるから潰れる事はないぞ」

「そういう事じゃなく……」


 再び溜息を吐く俺。

 そんな俺を置いて、この空気読めない鉱矮人はスタスタと迷いなく奥へ歩いていく。

 言った通り、5メートル程進むと通路が左に折れた。


「ん?」


 グローが声を上げた。


「なんだ?」

「いや、15メートルくらい先、光が見えないか?」

「あ?」


 目を凝らすがよく見えない。


「うむ、部屋があるな……」


 グローは何かに呼ばれるように速足で通路を進む。


「おい!ちょっと待てって!」


 それにつられて、俺も小走りになる。


「ここは!」


 そこにあったのは円形の広い部屋だった。

 見上げると、20メートルほど上にポッカリと丸い穴が開き、青空が覗いていた。


「なんだ……、ここ……」

「おい、ガル」


 上を見ていた俺をグローが呼ぶ。

 それは丸い部屋の中央に鎮座していた。


「石の寝台……?」

「丁寧に屋根付きだぞい」


 俺とグローがその寝台に近付く。


「嘘だろ……?」

「生きておるのか……?」


 寝台の上には女が横たわっていた。

 銀髪シルバーブロンドの長く美しい髪。

 透き通るような白い肌。

 そして、ピンと尖った耳。


「まさか……、古代耳長人エルフ……?」

「見ろ、呼吸しとる。生きておるぞ」


 輝くような真っ白なローブに包まれ、ゆっくりだが、しっかり呼吸をしている。

 生きているのだ。


「グロー、さっきの壁、塞がれたのがいつ頃か分かるか?」

「……、1000年はそのままだったはずだ」

「上から降りてきたって可能性も……」

「そいつは無理だ」

「何故だ」

「上を見てみろ。穴が開いてる様に見えるが、魔法で蓋をしてある。空気以外は通過できないはずだ。試しに矢でも撃ってみろ」


 そう言われても、都合よく弓矢など持っていない。

 俺は周りを見渡す。

 すると、女が眠っている寝台の近くに、2本の短剣と弓矢が置いてあった。

 それを拾い、矢を番えて例の穴を目掛けて引き絞る。

 放った矢が穴へ近付くと青い稲妻が走った。


「あの魔法のお陰で雨は勿論、虫一匹入れやせん。新鮮な空気だけを通しておるようだの」

「……、これは守られてるのか?」

「分からんが、恐らくそうだろ」

「……、起こしてみるか」

「なんだと!?」


 好奇心がムクムクと膨れ上がった俺は、マジマジと顔を近付け、女を観察する。

 絶世の美女とはこういう女の事を言うのだろう。

 整い過ぎた顔立ちは、まるで作り物の様に見えてくる。


「やめんか!魔法で眠っておる!触れたらどうなるか分かったもんじゃないぞ!」

「こういうのはな、キスしたら起きるって、相場が決まってんだよ」


 そう言って俺は、軽く唇を重ねた。


「……」

「……」

「……、何も起きんの……」

「面白くねーなー」

「まぁ、この女の事は王国軍に任せて、俺達は村に向かうかの」

「そうだな」


 俺達はそのまま通路へ向かう。


「あ、弓と短剣だけは貰っていくか」

「辞めんか!それじゃ墓荒らしだて!」

「死んでないから墓じゃないだろ?」


 笑いながら振り返る。

 その瞬間、背筋が凍った。


「マジかよ……」


 先程まで眠っていた筈の女が、弓を引き絞ってこちらを狙っていた。

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