第7話 ドワーフは採掘がお好き?

「なんじゃい、全部終わっとるじゃないか」


 グローが礼拝堂へ入ってきた。


「これくらいはサクっと終わる」

「リーダーは此奴か」


 グローは、死体と化したバズグルの頭をコツコツと蹴った。


「魔王軍の百人長だとよ。黒醜人オークの癖に矮鬼ゴブリンの隊長なんて、間抜けにも程があるぜ」

「しかし、腐っても魔王軍残党の士官だ。王国から報奨金が出るぞ」

「金額はあんまり期待できないけどな」

「貴重な追加報酬だ」


 グローは死体を一つ一つ確認するようにして、礼拝堂を歩き回る。


「こいつらの装備、売っぱらってもいいのか?」

「王国軍の管理下になるはずだ。下手に売ったら捕まるぞい」

「こんだけあるから結構な金額になるのにな……、クソ」

「そう言うな。それも含めた上で、報奨金が出る筈だ」

「だといいんだがな。早馬で走らせたピュートはどれくらいで戻る予定だ?」


 矮鬼の巣を叩くと決めてからすぐに、ピュートに来た道を戻らせ、ギルドを通して王国軍へ連絡するよう言いつけたのだった。


「まぁ、明日の昼には王国軍関係者と一緒に戻って来るだろう。村への荷運びはそれが終わってからの出発だ」

「気長に待つか。金目の物がないか探してくるわ」


 俺はそう言って、バズグル達が使っていたと思われる部屋へ向かう。


「信仰は絶えたとはいえ、ここは神殿だぞ。罰当たりな奴め……」

「グローは礼拝堂を散策してみてくれや。何もないだろうが、隠し通路があったりしてなー」


 後ろ手に手を振りながら俺は礼拝堂を後にする。

 松明を左手に持ち、通路を歩く。

 松明の光で初めて分かったが、敷き詰められた石は御影石の様で、綺麗に磨かれた表面が松明の光を微かに反射している。

 これはかなり金の掛かった神殿だ。

 それなりに力を持った都市国家だったのだろう。

 開け放たれたドアから、部屋を覗き込む。

 一言で言って、汚い。

 礼拝堂もかなり汚かったが、ここも負けず劣らずだ。

 食べかすや骨などが床に散らばり、よく分からない汚れた布切れなども落ちている。


「臭ぇーし、汚ねー……」


 溜息を吐きながらズカズカと中へ入る。

 部屋の左手奥に、もう一つドアがあった。

 そのドア開けると、中から饐えた様な臭いが漂ってきた。


「なるほど……」


 俺は低く呟いた。

 この臭いは嗅いだ事がある。

 日光も新鮮な空気も届かない密室で女を抱き続けた臭いだ。

 足元や礼拝堂に散らばっている骨の主は、元々はここでバズグルに犯され続けていたのだろう。

 食べ物が底をついた時に解体バラされ、食糧にされたのだと容易に想像できる。

 俺は苦々しく舌打ちをした。


「おーい、ガル!」


 そんな時、グローの馬鹿デカい声が通路から響き渡ってきた。

 俺は胸糞悪い部屋を出て、もう一度礼拝堂へ向かった。


「なんだよ、なんか金目のもんでもあったか?」


 グローは礼拝堂の右奥の壁を触っていた。


「ここだ」

「何が?」

「この壁の向こうに空洞がある」

「はぁ?」


 俺はグローの言う壁をコンコンとノックする。

 ついでに他の壁もノックするが、全く同じ音で、空洞があるようには思えない。


「普通の壁だろ?」

「人が一人通れるくらいの空洞が、この壁の8メートル先から始まっている」

「……8メートル先?」


 馬鹿を言うな。

 8メートル先の空洞など、壁を叩いただけでは分からない。


「それだけじゃない。その空洞、恐らくは通路だが、混凝土コンクリートを混ぜて塞いだ様だ。ここの化粧石の向こうだけ、地質が違う」

「よく分からんが、隠し通路?」

「みたいだの」


 本当に隠し通路があるとは……。

 グローはどことなくウキウキしているように見える。

 鉱矮人ドワーフの性か……。

 いやちょっと待ってくれ。


「まさか、8メートルも混凝土を掘るのか……?」


 グローの表情から答えを察知した俺は頭を抱えた。


「なに、ワシに掛かれば一瞬だ」

「俺は手伝わねーからな」

「非力な人間ヒュームの手など借りんわい」


 グローはそう言って、壁に手を押し当てる。

 そうして、ごにょごにょと呪文を唱え始めた。


「危ないから少し離れておけ、ガル」


 言われた通り、壁から少し距離を取った。

 再びグローが詠唱する。

 グローが魔法を使う瞬間など滅多に見れない。

 少し期待しながら待つ。

 そして、グローの詠唱が終わった瞬間。


「……」


 何も起きなかった。


「おい、グロー?」

「……」

「どうしたんだよ?」

「……。さて、今日は寝るかの。作業は明日からで良いだろ」


 そう言ってスタスタと入り口の方へ歩くグロー。


「おい!さては魔力マナ切れだな!」

「……」

「偉そうに『危ないから少し離れておけ』とか言って!何も起きなかったじゃねーか!」

「……」

「黙ってねーで何とか言え!」

「『何とか』」

「ぶっ殺すぞテメェ!」


 作業は仮眠を摂ってからという事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る