第5話 俺の獲物はコイツらじゃない
夜更け。
周辺の地図を圃矮人が持っていたのでそれを借りた。
わざと逃がした1匹が逃げた方向、周辺の地形から、大まかな巣の位置も割り出している。
圃矮人達は地図以外にも面白いモノを持っていたので、使わせてもらう事にした。
金を取られるかと思ったが、元々こういう事の為に用意しているものらしく、請求は来ないらしい。
一安心だ。
グローは休憩所で迎撃を、俺は巣に奇襲を掛ける事にした。
恐らく、休憩所を襲撃しに来る矮鬼の数の方が圧倒的に多いだろう。
その対策も完了している。
俺よりもグローの仕事の方楽だろう。
問題は、この群れの長だ。
矮鬼達の装備が整い過ぎているというか、統一されていた。
つまり、一種の軍隊として形成されている可能性が高い。
時期から鑑みれば、魔王軍の一部隊か。
そうなると、長は矮鬼ではなく、魔王軍の士官クラス。
幸い、矮鬼の部隊ならばそれ程上級の士官ではない筈だ。
とは言っても、警戒しておく必要がある事には変わりない。
俺は巣があると予想した地点に向かって真っすぐに進んでいた。
運が良ければ休憩所へ向かう襲撃部隊を目視で確認できるかもしれない。
「ん?」
僅かであるが地面が揺れる。
微かに集団の足音の様なものも聞こえてきた。
俺はすぐさま木の上に登る。
しばらくすると道のない木々の間を走る大量の矮鬼たちが真下を通過していく。
かなりの数だ、装備も揃っている。
まぁ、こいつらはグローの得物なので興味はない。
俺は矮鬼たちの姿が見えなくなるのを待ち、再び地面に降りた。
「さて、巣の中は最低限の兵力しか残してないだろ」
巣に向けて足を速めた。
†
矮鬼たちは茂みの中から休憩所を覗いていた。
荷馬車が綺麗に並べて止められ、馬は手綱を木の幹に括り付けられ、休んでいた。
テントが3つ。
微かに焚火と食べ物の匂いもする。
矮鬼たちは逃げ帰ってきた仲間がやられたという輸送隊がこいつらだと確信した。
すぐさま休憩所を取り囲む。
その殺気に気付いたのか、馬が起き上がり嘶き始めた。
隊長格の矮鬼が叫び、大量の矮鬼が休憩所に飛び出した。
しかし、矮鬼たちは目を疑った。
先程までそこにあった筈のテントも荷馬車も姿を消していた。
奇妙な丸い水晶が中央付近にあるだけだ。
何が起きたのか理解できない矮鬼たちは全員休憩所内でポカンとしている。
「ここまで上手くいくと笑いも出らんの」
グローの声が聞こえた。
しかし、姿は見えない。
「主ら、ここで終わりだ」
グローが何やら呪文を唱える。
その瞬間、休憩所の地面が揺れ、砕けた。
矮鬼たちは何も出来ないまま、砕けた地面の下、5メートル程地下に落ちた。
「ワシは
落ちた矮鬼たちを見下ろすグロー。
矮鬼たちは地上へ這い上がろうともがいている。
「そろそろ良いかの」
グローが松明を持っていた。
そこでやっと矮鬼たちは気が付く。
この巨大な落とし穴の底に、液体が大量に溜まっている事に。
水ではない。
それは妙に臭うものだ。
「その穴の壁面は石化の魔法を掛けておる。掘ろうとしても硬くて無理だ」
そう言って松明を放り投げた。
一瞬にして火は炎となり、全ての矮鬼を飲み込む。
「さて、ワシの仕事は終わりだ。ガルを追うかの」
矮鬼たちの断末魔を完全に無視し、 グローは矮鬼の巣へ向かった。
†
俺は茂みに隠れながら、古い遺跡を監視していた。
街道からはかなり離れた場所、かつて栄えた
入り口と思われる壊れた門の前には、見張りの矮鬼が2匹。
大きな欠伸をしながら槍を抱えている。
予想通りだ。
ここが矮鬼達のねぐらになっている。
俺は平たい
小剣はそれぞれのゴブリンの喉元に深々と刺さる。
倒れた2匹の元へ音もなく走り寄り、確認も兼ねて刺さった小剣をねじりながら抜く。
反応はない。
しっかりと死んでいる。
小剣にべったりと付いた血を拭い取り、仕舞う。
「さて、行きますか」
高い建物の上を伝うようにして、遺跡となった街へ侵入した。
矮鬼は基本的に夜行性だ。
昼間は寝て過ごしている。
つまり、寝床は太陽光の届かない室内か地下だ。
古代耳長人は地母神信仰が主だったと聞く。
そのため、ある程度の大きさの街になると、地下神殿がある事が多い。
この遺跡も多分に漏れずそうだろう。
寝床は恐らくそこ。
グローのいる休憩所にあれだけの数を割いたのだ。
侵入は楽だろう。
問題は、残った矮鬼をどうやって一掃するかだ。
まぁ、策はある。
「ここだな」
街の最奥、切り立った山肌にぽっかりと開いた洞窟。
その洞窟の前は綺麗に整えられ、装飾彫りの施された柱などで、シンプルながら神々しく飾り立てられている。
どうやらこの街では、洞窟を神殿として使った様だ。
見張りは4匹。
槍が2、弓が2。
片手に2本ずつ、計4本の小剣を取り出し、同時に投げる。
先程と同じように、4匹の矮鬼が倒れる。
小剣を回収した後、4つの死体を物陰に隠し神殿の内部へと足音を立てずに侵入した。
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