第40話過去との決別



「久しぶりだな、流閃」



盗賊の様な連中に連れられた先、廃墟となった屋敷の中で待っていたのはダマル、ロービン、そしてネリアの三人。


ただし、後ろには二人ほど護衛の様な者も居る。



「何か用か?」



「ふん、一丁前に生意気な口を利くようになったな?」



「何でもいいが、用がないなら帰るぞ。

別に俺はお前等に用はないからな」



「まあそう言うなよ。 久しぶりに会ったんだから昔みたいにしようぜ?」



ニヤっと笑みを浮かべてるが、もはや下品だ。


また、後ろのロービンやネリアも一緒になってその下品な笑みを浮かべている。



「とりあえず俺は早く帰りたいから用件を言ってくれ」



「おいおい、久々に会ったのに冷たいなぁ。 犯罪者さんよぉ」



結局はこいつら俺を罵倒してストレス発散させたいだけか。


やっぱりネリアも俺の事がとかほざいてたが、これが答えなのだろう。


まあ、その作戦は思いっきり失敗に終わったようだが。



「ミコト、手は出さなくていいからな?」



「ああ、心配無用だ」



とりあえずミコトに伝えておく。


昔ならともかく、今なら別に戦っても負ける気がしない。


なら、俺の問題は俺が自分で解決する方が良いだろう。


と考えていたのだが――



「にしても流閃、いい女連れてるな?」



せっかく一人で解決しようと思ったのにいきなり巻き込みやがった。


とことん相性が悪いらしい。



「そこの女、そいつと居ても楽しい事なんて一つもないぞ?

魔力無しだからな? 笑えるだろ?

だから俺の愛人になれ。

その方が人生を謳歌出来るってもんだ」



ダマルが自信に満ちた表情でミコトに対して言い放つ。


まあ、要は抱きたいだけなんだが、ダマルの手には金貨が入った麻袋があり、それを見せつけるかの様にミコトを口説く。


平民であれば誰もがその口説きに乗るかもしれない。


特に小綺麗にしている平民の女なら金と貴族の愛人という立場は魅力的だろう。


しかし――



「生憎だが断る。 正直好みではないし、私はセンがいいのだ。

それと、金と地位で女なら誰もが振り向くと思ったら大間違いだと思うぞ。

まあ大体の女は振り向くと思うが、私より優れた容姿ではないだろう」



ズバっとミコトに断られると、ダマルの顔が少し引き攣っている様にも見えた。


というか、自分より優れたってサラっと言いやがったな。



「ちなみに私より優れた容姿……まあミューロンの第二王女とかそうだが、彼女もセンに夢中だ。

だから君が入り込む隙は全く無い! 諦めてくれ」



「おい、ここでフィリア出す意味あるのか?」



「何となくだ!」



「そうかよ」



ミコトとそんな会話をしていると、ダマルが「舐めやがって」と怒りを露わにしていく。



「ふん、いいだろう。 なら俺が調教してやる」



「ダマル、あの女は銀級ハンターだ。 気を付けろ」



後ろからロービンがアドバイスをするが、怒りで全く聞く耳を持ってないようだ。



「で、結局の所何の用なんだ?

どうせ昔みたいにとか言ってストレス発散したいだけなんだろうが、生憎それに付き合うつもりはない」



「お前に決定権はねぇんだよ! ロービン、闘技祭の鬱憤を晴らしてやろう」



ダマルがロービンを呼び、二人一斉に剣を抜く。



「流閃様? 謝るなら今の内ですよ?

今謝るなら私も譲歩して優しく抱きしめるだけならしてあげなくもないですからね」



何故かネリアが上から目線でそんな事を言い放つ。


ってか全然求めてないし。



「いらねぇよお前なんて」



「っ――!?」



「センを抱きしめて良いのは私だけだぞ?」



すると、ミコトまで前に踏み出し、しかも俺の頭を自分の胸に押し付ける形で抱きしめて来た。


素晴らしいボリューム。


素晴らしい感触。



その姿にネリアも、そしてダマルまでもが「ぐぬぬ」っと悔しさを前回にしていた。



「ぷはっ……お前急に何だよ。 窒息するだろうが」



「すまぬ。 ついな」



「くそがぁ! てめぇは俺達の玩具なんだよ!

命令に背くならここで死ねぇ!」



ダマルの怒りが遂に頂点に達したのか、剣を持って一気に襲い掛かって来た。


だが、それはあまりにも遅く、まるで避ける必要がないほどだ。


そして、ダマルが踏み出した事でロービンも突きの体勢で突進してくる。



「はぁ、無駄な時間だなぁ……」



シャキン



「「えっ……!?」」



ギンっと一瞬金属同士がぶつかる音が響き、気付けばロービンとダマルの剣が真っ二つに折られていた。


いや、むしろ斬られていたと言った方が正しいだろう。



「なっ、何だ!? 何故剣が折れる!?」



この前もそうだったが、全くセンの攻撃だと気づいていない。



「君達は弱すぎるな。 よくそれでセンに向かって行こうとするものだ。

今のに全く気付いていないだろう」



「流閃の攻撃だと!?

そんな素振り全く見せていないじゃないか!

というかアイツがそんな事出来る訳ないだろ!!」



ダマルは慌ててるのか認めたくないのか、とりあえず叫び始める。



「だから、そんな事にも気付かない君達と無駄な時間を過ごしてるのが勿体ないのだ」



ミコトはズバズバと〝無能なお前等と遊んでる暇は無い〟と伝えていく。


だが、プライドの高い貴族はその言葉の意味を理解出来ずに居た。



「ええい! 後ろの護衛! こいつらを殺せ!

貴族に対しての不敬だ!」



「「……」」



二人の護衛は全く動かない。


というか、その顔は若干青ざめているようにも見える。



「おお、君達はよく見ればギルドのハンターじゃないか。

まあ仕事なら仕方ないが、敵対するなら同じハンターでも容赦はしないぞ。

心して来るがいい」



ミコトが挑発すると、二人の護衛は顔を引き攣らせ、首を激しく横に振るっていた。


どうやら二人は赤級のハンターで現在頑張ってる最中の者達。


故に当然、このグランドワイズで唯一の現役銀級ハンターであるミコトを知っていて、自分達では太刀打ち出来ない事も理解しているのだ。



「くそっ! 使えない連中だ。

ならこの俺自ら処してくれるわっ!!」



ダマルはまだやる気らしく、護衛の剣を奪うとセンに向けて踏み出す。



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、熱き炎の槍よ、眼前の敵を貫け!

≪フレイムランス≫!!」



ロービンが後ろから魔法を放ち、炎の槍がダマルと並んで襲い掛かって来る。



「はぁ……」



心底面倒。


とりあえずダマルを黙らせるか。



一歩前に踏み出し、炎の槍を躱しつつダマルの攻撃を素手で払う。



「何っ!?」



「遅い。 出直して来い」



ドコっと思いっきり腹に拳を打ち込む。


すると、「おえぇぇ……」っと胃の中のものが一気に逆流して床にベチャベチャっと零れ落ちていく。



「うわっ、汚ねぇ」



「くっ……ぐぞっ……」



「てめぇ! 調子に乗りやがって!」



次はロービンが剣ではなく殴り掛かって来る。



シャキン!



が、ここは得意の抜刀でとりあえず髪型を変えてみる。



パラパラっと前髪が落ちて来たが、ロービンはどうなっているのか分かっていない。


その為、そのままの勢いで突っ込んでくる。



「おらぁ!」



ガッとロービンの拳を止め、強く握り返す。


日頃鍛えている為、当然握力も相当な力でたちまちにロービンの体勢が崩れていくのが分かる。



「いでっ、いででででっ!? なっ……折れる折れるー!!」



「じゃあ折ってやろうか? そしたらいちいち面倒な事して来ないだろ?

まあ、騎士団としても活動出来なくなるけど、同じような事俺に散々して来たなら仕方ないよな?」



「や、やめろ!」



「って言ってお前は止めなかった。 だから俺も止めないぞ?

当然だな」



「くっ」



「それに、殺しに掛かって来ておいてピンチになったら命乞いとか舐めてるだろ。 それでよく騎士が務まるな?」



もはやロービンは痛みに耐えるだけで何も発してこない。


必至に俺の手を離そうとしているだけだ。


すると――



「止めて! お願いだから! 私が代わりに罰を受けるから!」



ネリアが前に出て来てそう言い放った。


まあ、そこは貴族としての面子を大事にしたいのだろうな。


でも、罰を受けるって言ったな。


どうしようかな……



「なら今そこで、どっちかのハンターに抱かれてみるか?」



「えっ……!?」



「いや、罰を受けるんだろ? まあ、ハンター二人を巻き込む形になるが……」



ハンター二人は「うそー!?」って顔をしている。


いや、すまん。


巻き込むつもりは無かったんだが、ついな。



「そ、そんな……」



「何? 私が出れば丸く収まるとか思った?

だったら思い上がりも良いところだろ。


後、俺を惚れさせようとするのもそうだが、過去に自分が何をしたのか考えてから計画を立てろよ。

自分は可愛いから何でも出来ると思ったら大間違い。


ってかミコトとかその他俺と関わる女は皆お前より断然可愛くて美人だし」



「なっ――!?」



こうやって蹴落とすのが一番と考え、ネリアに告げると当人は驚きの表情を浮かべていた。


恐らく、納得がいかないのだろう。


ただ、その横で美人と褒められたミコトはニヤニヤしているのだが……



「で、どうするんだ?」



「えっと……その……」



「結局何も出来ないんだろ? ならいちいち口出してくんなよ邪魔だから」



段々ネリアの目に涙が浮かんでくる。


だが、女の涙だろうが容赦はしない。



「とりあえず脱げ」



「ぅ……」



「早く」



グッと拳に力を入れると、ロービンが「ぐわぁぁ」っと痛みに耐えきれず声を発する。


ちなみにダマルは未だ腹を抑えて絶賛悶絶中だ。



「わっ、わかり、ました……」



ネリアはロングスカートタイプのワンピースを着ている。


足を出すのは貴族としては破廉恥な行為だからだ。


しかし、脱ぐ時ワンピースの場合は上下繋がっている為、一枚脱げば足はしっかりと露わになるのだ。



涙を堪え、ゆっくりとワンピースを脱ぐと薄い布と下着姿のネリアとなる。


ネリア以外に綺麗で可愛い女性は沢山いるが、それでも一応小動物の様な愛くるしさを持つ女だ。


その女性が肌を見せる姿になれば、後ろに控えるハンター達は引き攣りながらも興奮した表情を浮かべていた。


まあ、こんな面倒な場面に巻き込んでしまったからな。


ご褒美だと言えばご褒美になるだろう。



「はい、次」



「えっ……次?」



「脱げってのは裸になれって事だぞ?」



「えっ――!? そんな……」



「やめろ、貴様ぁぁ! うがぁぁぁぁ」



ロービンが阻止しようとするが、手を捻って黙らせる。



「昔、お前に服剥がされて魔法ぶつけられたっけな」



「うっ――!?」



俺を魔法の的にしたのはロービンやダマルだけではない。


自分が魔法を使えるようになり、その後に裏切り虐げる側に回ったネリアもまた、その一人なのだ。



「するならされる可能性も当然あるだろ?」



「くっ……」



ネリアは何も言い返す事が出来ず、ただただ黙って涙を流しながらゆっくり着ているものを脱いでいった。


やがて、一糸まとわぬ姿となって恥ずかしさに必死に耐えている。



「さて、罰を受けるなら選択肢をやろう」



「ま、まだ続くの!?」



「お前俺が何年苦しんだと思ってるんだ?

それをたかだか数十分で終わると思ってんのか?」



「ぐっ……」



口を開けば論破され、何も言えなくなってしまう。


すると、ようやくダマルが復活したのか「ふぅー、ふぅー」っと荒い呼吸で立ち上がった。



「流閃、きさまぁ!!」



「ちょっと黙れ、今はお前の時間じゃない」



「くっ! うるせぇ!!」



ダマルが関係なしに殴りかかって来る。


だが、ミコトが刀身を首に当てると大人しくなる。



「善か悪かと言えばこの場合悪かもしれんな」



「悪いな、手伝ってもらっちゃって」



「いいさ今更。 まあ、センの過去を聞いてるからこそ、セン側に立っているのだが」



変な汗を掻きながらダマルはじっとする。


まあ、動いてもミコトは斬ったりしないけどな。


だがちょうどいい。



「じゃあ罰を受けると言ったネリアに三つの選択だ」



そう告げると、ゴクリっとネリアが生唾を飲む。



「一、今ここでダマルに抱かれる。

 二、その姿のままここを出て屋敷に戻る。

 三、坊主。


どれがいい?」



「なっ、そんな……そんなの出来る訳ないじゃない!!」



「出来るかどうかなんて知らん。 やるんだよ」



「何でそんな……」



「はぁ……お前はさっきから自分が一番の被害者みたいな発言しかしないな?

じゃあそんなお前達に虐げられた俺は何だ?」



「「「……」」」



「魔力がないだけで的にされ、暴力と暴言を浴びせられ、裏切られ、最終的には国に殺されかけた。

ダマル、お前には家を焼かれたな?」



「っ……」



「お前の父親を殺したのは確かに俺だ。

だが、別に俺だって殺したくて殺したんじゃない。

向こうから殺そうとしてきたのを返り討ちにしただけだ」



「だ、黙れ! だからなんだ! お前が親父を殺した事実は変わらないだろ!」



「そうだな。 だったら俺を殺せばいい。

仇を討てばいい。 だが、俺は俺の人生がある。

向かってくるなら容赦はしない。

その覚悟がお前にあるなら好きにしろ」



ギロっと殺気を込めてダマルを睨み付ける。


もはやこれまでの状況を考え、ダマル自身勝てない事は分かっている。


だからこそ、悔しさが爆発しているようだ。



「ネリア、お前も三つの選択が受け入れられないなら全部投げ捨てて俺を殺しに来てもいいぞ。

その先でどうなるかは知らんけどな。


選ぶのはお前だ」



「……」



ネリアも悔しい表情を浮かべて涙を流している。



「あっ、そこの二人」



「「はいっ」」



突然呼んだ事で声が上擦っていた。



「依頼終了。 お疲れ。

巻き込んで悪かった」



「は、はぁ」



「まあ、他言するかどうかは任せるが、気を付けて帰れよ」



「「はっはい!!!」」



ダっと一目散にその場を後にした二人の姿は、まるで大型の魔物から逃げる様な様子だった。


とは言え、これで無関係者を巻き込む事はなくなった。



「で、どうするんだ? そろそろ答えろ。

もしくは、自分の中で最善の答えがあるのなら言ってくれても構わないぞ」



ここで第四の選択肢と言う答えを与えてみる。


すると、ネリアは裸のまま一生懸命考えこむ。


そして数分後――



「私が流閃様に身も心も捧げるのは……」



「奴隷って事か?」



「……はい」



「ロービン、どうなんだ? 自分の妻が奴隷になり下がりたいってよ」



「そんな馬鹿な事させてたまるかっ!!」



「だそうだ」



「でもっ!」



「というか、聞くが何でそこまで背負おうとする?」



「それはっ……」



「貴族の力を使えば後々どうにでもなるとか思ってるなら無駄だからやめた方がいいな。


まあ、自分がそうなりたいと望むなら止めはしないが、中途半端な事はしないぞ」



「構いません。 だから私を奴隷にして下さい」



「ん~、まあとりあえず却下。

別にお前の事求めてないし」



「そんなっ……」



「それにお前だけが辛い状況になってもそれは俺の本意ではない。

お前等三人が苦しんで初めて俺の復讐になるんだよ。

残念だったな」



「だったら私が罰を受けてもそれで終わりにならないじゃないですか!」



「そもそも終わるなんて一言も言ってない」



「そんな……」



ネリアも希望が全て閉ざされてしまったのか、膝を突いて絶望的な表情を浮かべた。



「セン、そろそろ終わらせないか? もう夜になるぞ」



ここでミコトがしびれを切らしたのか、飽きたのか、帰りたいと催促して来た。



「そうだな。 俺も飽きた。

とりあえず今日の所はこれで終わりにしてやろう。

ただ、次何か俺等に危害を加えるとかして来たらその時は……」



再び殺気を思いっきり放って三人を睨み付ける。



「生きてる方が辛いと思うような場所まで連れてってやるから覚えておけよ」



センの殺気によって三人はあわあわし、冷や汗もだらだらと流している。



「はぁ、無駄な時間だったな。 分かってたけど」



「まあ、とりあえず帰ろう。 というかお腹が空いた!」



「何か狩りながら戻るか」



二人は屋敷を出て何を食べようかの話しで盛り上がっている。


その声も少しずつ遠くになり、最後は消えて行った。



「くそっ! くそっ! くそぉぉぉ!!!」



ダマル、そしてロービンは惨敗という事実を受け入れられず、只々悔しさと怒りで暴れ狂っていた。


また、ネリアは脱いだワンピースを着直し、放心状態となっている。



「これで終わりにはしない! 必ず殺してやる!」



ダマルは諦めが悪いのか、まだそんな事を言っている。



「だがどうやって……昔と違うのは痛いほどわかった。

だから今のままでは返り討ちにされるのが落ちだぞ」



「なら雇えばいい! あっ、アイツなら……」



「誰か良い奴がいるのか!?」



ダマルの中では心当たりがあるようだ。



「化け物みたいなヤツが一人いる! あれなら行けるはずだ!」











翌日、ダマルとロービンはさっそく行動を開始した。


ネリアは前日の出来事が思いの外尾を引いており体調を崩した様だ。



「おい、ここって……」



ダマルに連れられ、とある場所へと赴いたロービンは周辺を見渡し、警戒心を強めている。



「今は大丈夫だ。 だが夜になるとさすがに死ぬかも知れん。


だから今の内に行くんだ! あそこだあそこ!」



ダマルに案内されたのは優雅に川が流れている自然溢れる場所。


そして、今日も耳をすませば鼻歌が聞こえて来た。



「居たっ!」



ダマルが興奮した様に身を乗り出し、大きな岩の上に立つ。


それに続いてロービンも身を乗り出すと、数メートル先には紫色の髪を靡かせ、身体を綺麗にしている一人の女性が立っていた。


当然、水浴び中でありその女性は裸だ。



「ネリアなんて比じゃないな……」



「当たり前だ! だが平気で人を殺すから気を付けろ!

下手に行くんだ」



ゴクリ――



二人が生唾を飲みながらゆっくりと近づいていく。


しかし――



「何じゃ? ってかの?」



女性はこっちを見ていない。


だが、こないだの男と言った。



「そ、そうです! あっでも別に今日はその……下心とかじゃなくてですね……」



「何じゃ気持ちの悪い。 というか用があっても乙女の水浴び中に来るのはどうかと思うが……まあ、それはそれとして何じゃ?」



「実はですね……」



女性は水を払い、服を着直しながらダマルの話しを聞いていた。


一方でロービンは目の前の女性に完全に見惚れてしまっている。


その為、交渉はダマルに任せっぱなしだ。






「なるほどの。 その脅威となりつつある男を妾に殺せと?」



「はい! 報酬は弾みます!

この前、失礼ながらも私が雇った護衛を一撃で討った姿を思い出し、貴女しかいないと駆け付けさせて頂きました次第です」



「うむ……じゃがのぉ~妾は別にハンターでもなければ国に仕える者でもない。

かと言って傭兵の類でもないからの……」



「そ、そこを何とか!!」



ダマルは膝を突いて頭も下げる。


同時にロービンも貴族というプライドを捨て、同じ体勢を取った。



「で、その者はどんな奴なのじゃ?」



「目が細くて剣術が得意なヤツでして。

銀色の髪の男です!

これが似顔絵になります!」



「銀色……目が細い……剣が得意……」



何か思い当たる人物がいるような表情をしながらもダマルが渡した似顔絵を見る。



「いや、この絵を見る限りでは違うかもしれんな。

ちょっと似た様な者がおったのだが」



「それで……どうでしょうか?」



「そうじゃの……ちなみにどこでどうする計画なのじゃ?」



「どこかに誘き寄せるにしても行動範囲が広いと逆に怪しまれてしまう。

ですので、ここを出た先に岩場の洞窟があるので、そこでと感がております」



「そうか。 まあ、仕方がないの。

金貨で30万。

それで引き受けてやろう」



「さ、30万!?」



30万といえばかなりの大金だ。


報酬で言えば銀以上の階級が受ける依頼の額位だろう。


しかし、貴族であれば当然出せなくはない。



「わっ、分かりました!

では、明日に御願いします!」



「はいはい、では妾は戻る」



こうして計画を順調に進めているダマルはロービンと共にグランドワイズへと戻った。



「これでアイツを殺せる! この前の屈辱を全て! 倍にして返してやるぞ!」











ダマルとロービンが計画を企てていた翌日、グランドワイズでは第一部隊の祝勝会が開かれていた。


昼間から酒を飲みながらのどんちゃん騒ぎで、何故か第五部隊も一緒に混ざっている。



「おい、これ俺が参加する必要あるのか?」



「いいじゃないか! 最近こういうの無かったからな!」



「いや、元々ないだろ」



ミコトは当然こういった宴には必ず参加する。


何故なら美味しいご飯が食べれるからだ。


今回は指導した関係者でもあり、参加するのは当然なのだが。



「「「そういえばミコトさんのご褒美を貰ってません!」」」


既に酔っている騎士達がそんな事を訴えにセンの前に立った。



「あ~、そういえばそんな事言ってたな……まあ、あれだ! 皆頑張ったが、優勝を決めたのは隊長の死守と副隊長の奇策って事で」



「「「そんなぁ~」」」



「確かに危なかったな! 皆頑張ってたし、私も少々不安だった!

だが、婚姻と言う素晴らしい報酬も得られたんだし、良いではないか!

皆で副隊長を祝おう!!」



ミコトも便乗して自分報酬はなかった事にしていく。


すると――



「貴女が今グランドワイズで有名な銀級ハンター、倭の女神ミコト殿か」



真っ赤な髪の女性がミコトの前に立った。


第五部隊隊長のサーナだ。



「お初にお目に掛かる。 ハンターのミコトだ。

サーナ殿、試合は見させて貰ったが、恐ろしいな」



「いやいや、銀級であればあれがミコト殿でも同じだろう。

私も元は銀だからな」



二人が厚く握手を交わして談笑を始める。


ミコトの褒美が無くなったと知った騎士達は奥の方で涙を流しながら酒をひたすら飲んでいる。


もはやヤケ酒だ。



「さて、俺はどうすっかな」



まあ、それぞれが和気あいあいと楽しんでいる。


とは言え、実際にこういった場は不慣れで好ましくないのが正直な所だ。


すると、城の方からライナがこちらに手招きをしている。



「どうした?」



「丁度良かった。 ちょっと来てくれない?」



どうやら俺に用があったらしく、ライナに連れられ向かった先は謁見の間だった。



「ええ……」



「出た! すぐそういう顔するんだから! でもセンにとっても悪い話ではないから」



悪い話ではない、ねぇ……



ギギっと扉が開かれ、中に入っていく。


すると、正面にはグランドワイズの国王グロールが座っていた。



「久しいなセン殿」



「ええ、お久しぶりです」



「突然呼びたてて申し訳ない。

実は会わせたい人物がいてな」



王が俺に会わせたい……まさか……


そう考えていると、やはり予感は的中する。



「初めまして。 もう知っているかと思うがドラージャ・ダルジャンドだ。


として、君に会っておきたかった」



やっぱりな……



「はぁ……センです」



「君の事は聞いている。

そして、安心して欲しい。

別に報復をするとかそういうのは考えていない。

寧ろ、すまなかった」



ドラージャが頭を下げ、謝罪をする。


どこの国の王も簡単に頭を下げるな……当事者でもないのに大変な事で。



「謝罪は良いですよ。 もはやダルージャに対して何も思ってませんから。

まあ、最近元ダルージャ組がいちいちちょっかい出して来ますけど」



「それについても聞いている。 こちらから注意を促すから安心して欲しい」



おっ、知ってたのか。ってまああそこまで執拗にやってればそりゃそうか。



「兄は全てにおいて完璧な国を造ろうとしていた。

勿論、人々にとってそれが一番であり、その為に私も病に倒れる前は支えて行けるように頑張った。

だが、どこで道を踏み間違えたのか……その努力は人々に対してではなく、結局自分にとってに代わっていた。


私も病の治療に専念しながらも情報は得ていたからね。


魔力がないだけで存在を消そうとするとは……」



「まあそうですね。 貴族からの差別、国からの迫害、あの頃は本当に生きてる気がしなかった」



「そうだろうな。

そんな国だからこそ、私は変えようとしていた。

しかし、間に合わなかったようだ。

君が兄を討ち、国を崩した」



「……」



敢えて何も言わない。


話しの続きを聞こう。



「私はね、国を潰したのではなく再生の為に一度ゼロにしてくれたのだと受け取った。

だからこそ、これから新しいダルージャが始まるのだ。

故にその最初の一歩として先ずは君としっかり話がしたかったのだ」



「前にグロールさんにも言いましたが、これから俺みたいな魔力が無かったり、差別の対象になり得る者が現れたら、そこを捨てずに手を差し伸べてやればいいと思いますよ。


俺の過去が消える事はないし、その恨みも同じ。

まあ、もうその対象はほとんどいないし、どうでも良いんですけどね。

ただ、きっと何十年後、何百年後にはどうなってるか分からない。

昔みたいに魔力がある方が希少かもしれないし。


そうなっても平和に過ごせる国を作って下さい」



「ああ、ありがとう」



「何だかいい話というか、センってこういう感動秘話が生まれやすい環境にいるのかしら?」



「別に俺が求めてる訳じゃねぇよ」



「「ハッハッハッハ」」



ライナの発言にツッコミを入れると二人の王が笑う。


グラインドワイズと新ダルージャ国はまあ友好関係を築いていくんだろうな。



そして、そのままミコトを置いて無意識にグランドワイズの外に出て来てしまった。



「あっ、まあいっか」



そのままテクテクと歩いていくと、またもダマルとロービンが懲りもせずに正面に立つ。



「何だ? この前言ったはずだぞ」



「ふん、何故俺がお前のいう事を聞かなきゃならん。

まあ、でもこれが最後だ。 ちょっと来い」



「断る」



「いいからっ!」



「何でだよ。 関わるなって言っただろ」



「うるさい! 最後くらい大人しく付いてこい!」



何故だか強引に俺を連れて行こうとする。


まあ、最後だっていうなら何かあってもこの前話した通り容赦なくねじ伏せればいいだけの話しだが。



そう思って仕方なしについていくと、草原が言わばに変わり、その奥には洞窟が見えた。



「あそこが最後の決闘の場だ。 お前が勝てばもう金輪際手は出さないと誓おう」



ダマルがそう言い放つ。何故か偉そうに。



「いや、お前の誓いとか口約束以下だろ」



「貴様ぁぁ……さっきからいい気になりやがって」



いい気になってるんじゃなくて事実を伝えてるだけなんだが……



洞窟に入ると、そこは洞窟というよりも大きな穴が空いた様な造りだった。


雰囲気はミラーナが居座っている洞窟に似た様な……



「で、ここで決闘するのか? それは本気の殺し合いか?」



「ふん、馬鹿め! 死ぬのはお前一人だ! 今日の為に最強の先生を雇ったからな!」



ふ~ん。最強ね……


まあ、俺より強い奴はゴロゴロいると思うが。


とは言え、何だか覚えのある甘い匂いがするな……




「先生、お願いします!」



ダマルが大きな声でそのを呼ぶ。


すると、魔法陣が浮かび上がり、ポンと煙が立った。



「まさか……」



「おいロービン、流閃の顔が引き攣ってるぜ!」



「ああ、ざまぁねえな!!」



二人がそんな事を言ってると、やがて煙が晴れて現れた紫色の髪の



「「はぁ……」」



俺は深く溜息を吐く。


そして、目の前の魔女は頭を抱え込みながら深く溜息を吐く。



「先生! アイツです! アイツを殺して下さい!!」



「流閃! ここが貴様の墓場だ! 俺達を馬鹿にした報いを受けるがいい!」



「……」



「……」



「お前、仕事は選んだほうがいいぞ」



「「……えっ?」」



センの突然の言葉にダマルとロービンは不思議そうな表情を浮かべている。



「いや、似顔絵を見た時は似ても似つかなかったし、それで30万ゴルドも貰えるならと思っての……」



「せ、先生! 早くやっちゃって下さい!」



ダマルが魔女を急かす。


しかし、魔女は動かない。



「仕方ない。 俺がお前を倒せばそれで終わりらしいからな。

悪いな」



とりあえず大太刀を出して抜刀の構えを取る。



「ちょ、ちょっと待てセン! いくら妾でもお主相手だと無事では済まぬ気がするぞ!?」



「「センっ!?」」



二人は魔女の言葉に未だ理解が追い付いていないようで、オウム返し状態だった。



「ミラーナ、とりあえず俺から言えるのはさっきも言ったが、仕事は考えろ」



「わっ、分かっておるわ! ただ、ちょっと暇だっただけじゃっ!!」



「「ミラーナ……!?」」



「もしかして先生、こいつの事知ってるんですか?」



「知ってるも何も妾は蠱惑ノ森の洞窟に住み、こやつは森の小屋に住んでおるからの。

言わばご近所さんじゃ!

それに、ミューロンでは仲間じゃったからの」



「ミューロン……魔女……」



ここでダマルとロービンは思い返した。


つい最近、ミューロン国で魔女教との戦争があった。


実際に魔女という存在は歴史では記されているが実在しているというのは知られていない。


なのに、魔女が復活して戦争を仕掛けて来たという話がグランドワイズにも流れて来ていたのだ。


更に、その戦争をミネリアーナの魔女と銀級ハンターのミコト、そしてセンと名乗る男等が手を貸し、ミューロン国の騎士達と力を合わせて打ち勝ったのだ。



次第に現状の理解が追い付いたようで、つまりはこの最強だと思っていた魔女は流閃の仲間で、依頼したが遂行してくれる可能性はゼロに等しくなってしまったのだ。



「先生……では、今回の依頼は……?」



「す、すまぬが無しで頼む。

まあ、まだ金は貰っておらんから良いじゃろ?」



「「そんなっ……」」



ガクっと二人が膝を突く。


が、そこで終わるはずはないのだ。



「さて、じゃあお前等お仕置きな。

あれほど関わるなと釘を刺したのにこれだからな」



「「ひっ……!?」」



「ミラーナ、まあここでの事は見なかった事にしておいてくれ。

そしたら俺も今日の事は黙っておく」



「そうか、ならそうしよう」



「そんなっ! 先生なぜ!?」



「流閃なんかに何故だっ!!」



ダマルもロービンもワーワー嘆いている。


そして、二人とも結局剣を引き抜いて俺と対峙する。



「妾は見守っておくかの」



「死ねぇ!!」



「おらぁ!!」











後日、二人の貴族が大きな話題になっていた。



ダマル・デルベッポは坊主頭の状態で自分の屋敷の前に吊るされ、下には激しく燃える炎が放たれていた。



「あつっ、あっつ! くそっ、誰か下ろしてくれぇ~」






そしてロービン・フェンディル。


彼もまた、ダマルと同じく坊主頭となって自分の屋敷の前で正座をさせられていた。


更には胸の前に看板が置かれ〝魔法を当てると喜ぶよ〟と記載されていた。



「いでっ、くそっ! やめろっ! クソガキ!!」



「はははっ! いけー! ≪ファイヤーボール≫だ!!」



「あっつ! このやろぉぉお!!」

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