第39話闘技祭 激闘の末



闘技祭、第二戦目。


試合開始の合図が響くと、第一部隊は一気に第三部隊の拠点を狙った。


拠点の護衛は6名ほど。


大きな盾を構えて周囲を警戒する。


残りの12名が三人編成の四班に分かれて四方から攻め込んでいく作戦だ。



「「うぉぉぉぉおお!」」



何やら物凄い気迫で第一部隊の前衛騎士が第三部隊の拠点に向けて突進している。


その前衛部隊を率いているのは副隊長のジニール。


セリアは隊長として拠点にて最終防壁となっているようだ。



「来たぞぉ! 何としても死守しろ!!」



第一部隊の姿を確認し、第三部隊の騎士達が周囲に待機する仲間へ伝える。


しかし――



「おや、守りが成ってませんね。 このまま突破する! 続けぇ!!」



ジニールの号令で速度を維持したまま第三部隊の騎士達が一気に突撃をした。



ドドドドド!



やがて双方の騎士が交差し、手に持つ武器を交える。


だが、第三部隊の猛攻は止まらない。



「なっ、何だコイツら!? ぐわぁ!!」



「くっ、このぉ!!」



「くそっ! 増援を頼む!!」



第一部隊の突進はまるで騎馬隊さながら。


その速度を落とす事なく第三部隊の騎士達を吹き飛ばし、薙ぎ倒し、拠点に向けて全速前進だ。



「ふん、少しはやるようだな。 だが!」



中央広間の第一関門を突破した先には、ロービンが数名の騎士と共に待ち構えていた。



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、凍てつく刃となりて敵を穿て!

≪アイスニードル≫!!」



後方の騎士が魔法を放ち、氷の棘が襲い掛かる。


しかし、魔法などお構いなしにジニール率いる前衛部隊は突撃を続ける。




「はぁ!」



ロービンは魔法が放たれたのを皮切りに突進する騎士に剣を振るった。


ガキン!っと両者の剣がぶつかり合う。



「邪魔だぁ!!」



しかし、ロービンの一撃は効果が無く、第一部隊の振るった剣がしっかりとロービンを捉えてしまっていた。



「ぐぅ! 何だと!?」



「どけぇ!!」



そして、まるでイノシシの魔物に撥ね飛ばされるようにロービンは突撃兵の衝撃に吹き飛ばされてしまった。



「くそぉぉぉぉぉ」



「このまま突破します! 左右の部隊も怯む事無くそのまま拠点へ向かいなさい!」



「「はっ!」」












「おいおい、第三部隊ってあんな弱かったのか?」



「いや、あれは私達が鍛えすぎてしまったと考えた方がいいのではないかな?」



ミコトが言うように、もはや別人とも言える第一部隊の騎士達。


その突撃と雄叫びが観客のボルテージを上げ、「いけぇ!! 突撃だ~!」っと観客からも声援が飛ぶ。



「まあ、何にせよいい仕事をしたわけだな」



「そうだな。 後は行く末をのんびりと見守ろうではないか」











副隊長ジニール部隊が猛突進を続ける最中、いつの間にか第三部隊の隊長ゴールドンは第一部隊の拠点付近まで来ていた。


どうやら第四部隊に倣って隠密行動を行なっていたらしい。



「久しいなセリア」



「ゴールドン殿か。 近接が得意な第三が隠密を働くとは」



「勝てばいいんだ勝てば。

しかし……まさか隊長同士で戦う事になるとは」



「まあ、負ける気はしないがな!」



「お~、怖いねぇ全く。

流石騎士団長の娘だ」



「それは関係ない! 掛かって来ないならこちらから行くぞ!」



セリアが勢いよく踏み出す。


その瞬間、ゴールドンはニヤっと不敵な笑みを浮かべる。



「まだまだ甘いなぁ?」



「っ!?」



ガサっと音が鳴り、気付けば後ろと左右から伏兵が飛び出したのだ。



「流石に四対一じゃお前も分が悪いだろぉ? がっはっはっは!!


さて、そのまま寝てろぉ!!」



「うむ、見事な連携だ。

だが、ここで寝てる訳にもいかないのでな!」



セリアは地獄の鍛錬の日々を思い返した。


大太刀を振るっての素振り。


ブォンっと音を鳴らしながらしっかり振るう事は最初こそ出来なかったが、少しずつその回数を延ばす事が出来た。


また、センに攻撃の速度についても指南を受けた。


それを今、披露する時!



「はぁっ!!!」



セリアの武器は刀でこそ無いが、抜刀をイメージしながら自分が成せる最高の速度で剣を振るった。



「なっ!?」



一閃を回転しながら加える事で後ろと左右の伏兵を一振りで薙ぎ倒す。


そしてその回転を活かして正面に立つゴールドンを斬り伏せる。



「がはっ、な、何……が……」



「鍛錬の賜物だ。 ゆっくり寝てるがいい」



バタっとゴールドンが倒され、同時にジニール率いる前衛も拠点を落とした様だ。



〝勝者、第一部隊フェルニール!!!〟



「「おぉぉぉぉ!!」」



「すげぇ! あの突進はすごかったな!」



「あんなの第五部隊もキツイんじゃないか!?」



どうやら第一部隊の攻撃方法は客ウケが良いようで、大きな歓声が湧き上がっていた。



続く第一部隊フェルニール対第四部隊フェンニール。


第四部隊は前の試合での突進をしっかり見ていた為、トラップの設置に力を入れた。


更に、隠密の人数を増やして果敢に攻め込んだのだが、セリアの奮闘と後衛の強固な護り。


そしてジニール部隊の猛突進によってトラップが意味を成さず、完膚なきまでに叩き潰されてしまったのだ。



試合が終わり、1時間の休憩が入る。


その後に前回優勝の第五部隊との決勝戦が幕開けとなる。





「よし! 良い調子だ。

だが、最後の相手は第五部隊。

全員気を引き締めろ!」



「「「はっ!」」」



「おお、やってるな。 ってか全員ピンピンしてるじゃん」



「おお、セン殿か。 見ての通りまだまだいけそうだ」



「最後の試合が楽しみだな」



ミコトもセンの後ろで楽し気な表情を浮かべながら第一部隊の騎士達に激励を送る。












〝これより、闘技祭最終試合!

第一部隊フェルニール対第五部隊オルトニールの闘技を始めます!

両部隊、拠点へ移動して下さい〟



進行役の男が告げると、一気に開場のテンションが上がり、ボルテージが恐らく今日一番と言える程に歓声が沸いた。



そして、第五部隊の登場で増々熱気が押し寄せて来る。



第五部隊隊長サーナ・ライネリア。

元銀級ハンターで、真っ赤な髪の女性だ。


美しい見た目とは裏腹に漢気勝る立ち振る舞いは同性をも虜にしてしまう。


また、部下達は隊長ではなく〝姐さん〟と呼ぶらしい。




「今回は突進ではなく慎重にいった方が良いだろう。

私達を鍛えてくれたミコトもそうだが、今回は相手も元銀級ハンター。

とは言え、経験も実力も上だと考えていい。


だが、負ける気はない! 我々の力の全てを今ここで出し尽くすぞ!!」



「「「おお!!」」」



セリアはこれまで以上に気合を入れ、立ち上がる。







「第一部隊、仕上げて来たようだな。

お前達! 油断するなよ? だが、いつも通りでいい。

獅子の恐ろしさを焼き付けてやれっ!!」



「「「おう!!!」」」



第五部隊も準備万端の様だ。



そして、遂にその火ぶたが切って落とされた。




〝只今より、闘技祭最終戦を開催いたします!


闘技、始めっ!!〟



ゴーンっと開始の合図が鳴り響く。



「「うぉぉぉぉ!!!」」



第一、第三、両部隊の騎士が前進し、中央広間は瞬く間に戦場と化した。



「ほお、良い動きじゃねぇか! ちっとは楽しませてくれよぉ!!」



第五部隊の騎士からの猛攻をしっかりと防ぎながらも隙を見て反撃に出る。


しかし、やはり第五部隊は経験と知識がある為、全て防がれてしまう。



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、我が身に宿る熱き魂の灯よ!

全てを焼き尽くす太陽となりて光の導きにて敵を焼き払わん!

≪サンライズフレア≫!!」



第五部隊側の砦から真っ赤な髪を掻き上げ、魔法を詠唱しそれを討ち放った。


まるで小さな太陽の様な凝縮した光の球が浮かび上がり、灼熱の熱波が第一部隊を広範囲で襲う。



「がはっ、クソっ! 熱い、これはまずいぞ」



「全員一度退避!」



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、全ての源となる水の飛沫よ、周囲に吹き荒れ恵みを与えん!

≪ヒーリングスコール≫!」



第一部隊の騎士が魔法を放ち、回復魔法に似た雨を降らせる。


仲間は徐々に体の不調が無くなり、同時に第五部隊による熱波と雨が混ざり、周囲は蒸発の煙に覆われてしまった。



「チャンスだ! このまま一旦退きます!」



ジニールはこれを好機と捉え、各部隊に指示を出した。



「ほう、やるな。 だがこれからだぞ?」



サーナは数名を引き連れ、あえて煙に覆われた広間へと突撃していく。



「がぁ!?」



「ぐわっ」



「だ、誰だ!? ぎゃぁ!」



客席からも含めて闘技場の中央は煙で中がどうなっているのか全く分からない。


しかし、それでも様々な所で騎士達の悲鳴が聞こえていた。



「ほらほら! 腕を上げてもこんなものかぁ!?」



ドドドドっと地鳴りのようなものまで聞こえ、同時に騎士達の悲鳴が更に響き渡る。



そして、ようやく煙が晴れた頃には中央広間は第一部隊の騎士達の半分が倒れていた。



「はぁ!!」



ギン!



「ほお、セリアか。 良い所で来るじゃないか」



セリアが中央まで進み、これ以上の被害を出さぬよう自らがサーラを止めに来たのだ。



「サーラさん! これ以上はさせない!」



「ならお前の武を私に見せてみろぉ!!」



ズゴン!!っと重たい一撃が加えられ、更には威圧が全体に広がっていく。



「くっ、流石サーラさん。 でも、私だって耐えて来たんだ!

そんな威圧が通用するものかぁ!!」



ギン!ギン!



隊長同士の攻防戦は周囲に衝撃波を生むほどに激しいものだった。


だが、客席の連中は待ってましたと言わんばかりに「やれぇ!いいぞぉ!」っと更に熱を帯びていた。



「はぁ!」



ジニールも隊長に撒避けて後退する訳にはいかないと奮闘し、サーラ以外の騎士達を薙ぎ払っていく。



「ジニールを止めろ!!」



第五部隊の騎士達が声を荒げて叫ぶ。


ジニール、第一部隊の副隊長ではあるが、その武は第五部隊でも目を見張るものがある。


故に第一部隊とは言え、脅威となる存在でもあるのだ。



「はぁ! はぁ!! 悪いが通らせて貰います!」



「ぎゃあ!」



「くそ、させるかよぉ!」



ギン!ギン!



金属がぶつかり合う音が響き、次第にそれぞれの騎士達も疲労が伺える。


一方セリアとサーナの激闘は未だ続いていた。



「は!! とぉ!」



「ふんっ! 小賢しい!」



「ぐわっ!?」



サーナの重たい一撃を受け、防ぎ切れずにセリアが吹き飛ばされてしまう。



「くっ、このままじゃまずいな……ならっ!」



「ん!?」



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、我が希望の名のもとにその輝きをその眼に焼き付けろ! ≪サンライト≫!!」



ピカっと眩い閃光が発せられた。



「ぐっ、小癪な真似を!」



所謂目くらましでサーナの視界を奪うと、「たぁ!」っと鋭い突きをサーナの腹に放った。



「ぐふっ……ふふふっ、私に一撃くらわせるとは成長したな。

良い判断だ。


だが、詰めが甘いな」



「っ!?」



激閃げきせん!」



サーナの目はまだ回復していない。


しかし、感覚が鋭いのか真っ直ぐ、かなりの速度でセリアにタックルをした。


そして、吹き飛ばされた瞬間にタックルの形から剣を振り抜き二撃目を加えた。


その威力は凄まじく、吹き飛ばされたセリアはあっという間にその姿を消してしまった。



「さて、拠点に向かおうか」



ある程度の敵を打ち倒したサーナは第一部隊の拠点へと足を運ぶ。


その頃、ジニールは既に第五部隊の拠点前に到着していた。


しかし、その前には大きな壁がある。



「久しぶりじゃないか



「久しぶりだね、ルキ」



剣を構えて相手の出方を伺うジニール。


目の前に立つルキと名乗る女性。


第五部隊副隊長であり、元はサーナと共にハンター業を熟していた銀級ハンターだ。


同時にジニールとは友人関係にある。



「悪いが、そこを通して貰うよ」



「ははっ、通れるものならなっ!!」



ジニールは剣、ルキは両手に短剣を持つスタイル。



キン!キン!っと金属音が響き、二人の剣が火花を散らす。



「あぁ、やっぱりいいねぇ! ジニーのその綺麗な顔と力強い攻撃っ!

興奮してくるよ!」



ルキが恍惚とした表情を浮かべながらも四方八方から二本の短剣が襲い掛かって来る。



「君の攻撃も相変わらず激しいな。 はっ! そこっ!」



「いいよぉ、いいよぉ! それそれそれそれぇ!!」



キン!キン!キン!



「ルキ」



「何さ?」



「君とは昔からこうして戦って来たね」



「何だい今更」



「なかなか君には勝てなかったけど、今日は勝たせてもらうよ」



「やってみなよ」



ジニールが距離を取り、霞の構えを取る。


そして、ただ真っ直ぐに突きを放った。



「その距離で突いても届かなっ――!?」



突きを放つ際に手首を捻り回転を加える。


これもひとえに厳しい地獄の様な鍛錬を行なったからだろう。


放たれた突きは人が放ったとは思えぬほどの速さで衝撃波を生み、更には回転を加えた事でその力が増していたのだ。



「ぐわっ!?」



「一撃必殺って所かな」



「くっ、そ……まだ……やれる、ぞ……」



「無理をするな。 あっ、じゃあせっかくだし伝えておくよ」



「な、何だよ」



「闘技祭が終わったら結婚しよう」



「へっ!?」



敵であるジニールからのまさかの発言に何が何だか理解が追い付かないルキ。


しかし、結婚の言葉に顔はどんどん赤くなっていく。


姐さん的な立場ではあるのだが、実際にそういった言葉に対しては初心なのだ。だからこそ、もはや勝負所ではなくなってしまっていた。



「じゃあ、拠点は貰うよ」



「……けっ……こん……?」



ジニールの言葉に放心状態となってしまったルキだが、まだ試合中の為にジニールはそのままルキを置いて第五部隊の拠点へと向かった。












時は少し遡り――




「はぁぁあ!!」



「そらぁ!!」



ドゴン!


ズゴォン!


至る所で爆発音や金属がぶつかる音が響く。


その中で第一部隊の拠点では後衛が護りを固めて必死に抗っていた。


そして、セリアも傷ついた身体を根性で奮い立たせ、再びサーナと対峙していたのだ。



「その根性は認めてやる。 だが、既にゴールは目の前だ。

遠慮はせんぞ!!」



サーナは第一部隊の初戦の様に突進しながら次々と騎士達を薙ぎ倒していく。


既に他の部下達は倒され、この場に居るのはサーナ一人。


だが、その一人がもはや手に負えない野獣なのだ。



「負けてたまるか~!!」



セリアも奮闘し、二人の剣が交差する。



「はぁ! はぁ!」



キン! キン! 


セリアの剣がサーナの剣を弾いていく。


そして、いくら強いとはいえ、長時間の戦闘でサーナも限界が来ていたのかバランスを崩してしまった。



「そこだぁ!!」



その隙をセリアは逃さなかった。



「させるか!」



しかし、サーナも倒れながらセリアの手に蹴りを入れ、剣を飛ばす。



「くっ、ならこれでどうだぁぁ!!」



剣を飛ばされた事で素手になってしまったのだが、それでも諦めない気持ちでセリアがサーナの腹に掌打を放った。



「ぐほぁ!?」



「はぁ、はぁ……」



「くっ、まさか私が……こんな所で……」



「お願い……もう私も……無理かも……」



二人ともどうにか立っている。だが、足を前に進める事が出来ない。


そんな時――




〝拠点制覇~!!!〟



「「えっ!?」」



〝第一部隊副隊長ジニールの猛攻により、第五部隊の拠点が落とされました~! よって、今回の優勝は第一部隊フェルニール!!!〟




「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」」






「「……」」



「ははっ、そういえばジニーの存在を忘れていたな……」



「やったぁ、優勝だぁ~!!」



全身の力が抜け、セリアがその場に倒れていく。



しかし――



「おいおい、この私を倒して倒れるなんて止めてくれ」



「サーナさん、ありがとう」



「ふん、もっと胸を張れ。

肩を貸してやるから」



「は、はいっ!!」



既にセリアの目には涙が溜まっていた。


それだけ大きな結果を成し遂げる事が出来たのだ。


そして、それは騎士団皆の努力の結果でもある。




「「「隊長ぉぉ~!!!」」」




中央広間へ向かうと、第一部隊、第五部隊の騎士達が集まっていた。



「「「姐さん! すまねぇ……」」」



第五部隊の騎士達は落ち込んでいる。


中には涙を流しているものもいた。



「泣くな! その悔しさを糧にしろ! 第一部隊は私達より努力をした。

なら、それ以上の努力を以て次は我々獅子が勝つ!!」



「「「おおっ!!」」」



流石第五部隊。


最後まで漢気勝る言葉だった。



「ところでルキ、まるで意識が無い様だが?」



「け……け……」



「ん? ジニー、お前何をしたんだ?」



サーナがルキの異変に疑問を感じてジニールに尋ねる。



「まあ、とどめの一撃って事ですかね?

結婚しようと思いまして」



「「「えっ!?」」」



「けっ……こん……」



「「「ええーっ!!?」」」



ルキは最早顔を赤らめながらも上の空状態。



「なるほど、遂に心を決めたか。 

まあルキもずっと待ってたしな。

だが、こんな状態で大丈夫なのか?」



「それは分かりませんが、後でどうにかしましょう。

今はとりあえず、我々の優勝を祝して頂ければと」



「そうだな。 おめでとう!」



「ありがとうございます」



こうして無事に?闘技祭は幕を閉じた。


今回優勝した事で第一部隊は全ての部隊の纏め役となる。


故に仕事が増えるから忙しくなるのだろう。



とは言え、今日はもはや全員ボロボロの状態だった為、祝勝会は後日となった。











「いやぁ、見事だったなぁ~!」



闘技祭が閉幕した後、ミコトは満足げな顔をしながら歩いていた。


自分が教えた騎士達がしっかりと優勝という結果を掴み取ったからだ。


本来ならすぐにでも労いたいのだが、激化した戦いだった為に怪我人も多く、先ずは治療を優先させる形となっていた。



「第五部隊は強者揃いだったし、まあ運と努力が優勝への架け橋になったようだな」



正直、あの隊長の怒涛の攻めはもうダメかと思った。


だが、セリアもジニールも必死に食らい付き、耐え抜いた。


それは二週間という短い期間であったが、その中の濃厚な日々の賜物になるのだろう。



「それにしても気付けば闘技中に求婚とは、何があるか分からないな」



センは今回の闘技の最後のシーンを振り返る。


実はジニールが第五部隊の副隊長ルキに求婚した事は一気に広まり、寧ろ観客が見守る中で返事をする形になってしまっていた。



〝今大会優勝の第一部隊副隊長、ジニール・トラヴィス様が何と、第五部隊副隊長のルキ様へ求婚をされたとの事!!〟



「「「なんだってぇ~!!?」」」



闘技場内に告げられた瞬間、観客達は興奮冷めやらぬムードから一気にお祝いムードへと変わった。


ただ、極一部では「俺のロキちゃんがぁ~」っと嘆いているのも居る。


ロキやサーナ、男勝りな二人ではあるが容姿は整っており、街中にもファンは多いのだ。



〝しかし、何とロキ様はまだ返事をしていないとの事っ!

ならば、この場を借りて返事をして貰おうではありませんかっ!!〟



「っ――!?」



これまでずっと「け……け……」っと上の空だったロキが一気に意識を取り戻し、「こっ、ここでぇ~!?」っと顔を真っ赤にした。



〝ではジニール様、ロキ様、是非とも前にお越し下さい〟



司会進行を務める女性に指示され、二人が闘技場の中央に立つ。



〝では、お願いします!〟



「ロキ、何だか大変な事になってしまったが、改めて伝えよう。

君とは昔からの馴染だ。

そして、昔から今でも、私は君に想いを寄せている。

どうか私と共に人生を歩んで欲しい」



ジニールが跪き、ロキの手を取り甲に唇を落とす。



「あぅ……あ、そ……その……えっと……」



ロキは男勝りな性格が故にこうした色恋に不慣れだった為、顔を真っ赤にしてあわあわしている。



〝さぁ、ロキ様! 返事は如何にっ!?〟



もやは進行する女性は楽しんでいるようだ。



「は、はぃ……わ、私で良ければ……」



まるでプシューっと音が聞こえそうな程に顔を真っ赤にしたロキがジニールの求婚に答える。


その瞬間――



〝前代未聞です! 今宵、二人の婚約が成立致しましたぁ~!!〟



「「「わぁ~! おめでとぉ~!!」」」



闘技場内が歓喜に沸き、大きな声援と共に二人が祝福されたのだった。












「さて、依頼も終えたし森に帰るかな」



「今日は私も森に行くぞ」



「えぇ……」



「良いだろう?」



「良いというか最早返答関係なく来るだろうが」



そんなこんなで街を歩いていると、突然数人の男達に囲まれた。



「ちょっと来てもらおうか?」



まるで盗賊の様な格好をした男が前に立ち、そう告げる。


後ろの連中はミコトの姿を見てニヤニヤしているのだが――



「面倒いから断る。 俺は森に帰るんだよ。

邪魔だ」



まあいつも通り断ってさっさと歩く。



「良いから来い。 舐めてっと痛い目に――っ!?」



男が乱暴にセンの腕を掴み、連れて行こうとした瞬間にミコトの刀身が男の首元で光る。



「すまんが邪魔をしないでもらえるか?

せっかくの楽しい気分なんだ。

害するなら容赦はせんぞ」



ギロっと睨み付けるミコトからはかなりの威圧が放たれていて、センの腕を掴む男と後ろに控える連中もいつの間にか向けられた刀に身じろぎ、後退って行く。



「わっ、悪かった! だが、こっちも仕事なんだ!

頼むから来てくれ」



すると、正面の男が焦ったように今度は乱暴な誘いから丁寧なお願いに変わる。



「依頼者は誰だ?」



とりあえず聞いてみる。まあ、凡その見当は付くのだが……



「そ、それは……」



「言えないならどいてくれ。 まあ聞いても判断するのはこっちだが」



「ダ……ダマルって奴だ。 後、第三部隊のロービン!

だ、だから頼む! 俺等が殺されちまう」



「やっぱりな。 はぁ……まあお前等が死のうが関係なんだけどな」



「た、頼むよ!」



「全くいつまでも面倒な奴らだ」



ここでこいつらの頼みを聞かなくてもどうせいずれちょっかい出してくるんだろうな。


ならここで潰しとくか……


まあ、過去との決別を果たすにはちょうどいい機会なのかもしれないし。



「仕方ない。 どこだ?」



「あっ、ありがてぇ」



「良いのかセン?」



「まあ、いずれは決着を着けなきゃ終わらなそうだしな」



「なるほど。 なら私も行くぞ」



こうして盗賊の様な連中に連れられ、向かったのは街の裏手にある廃墟となった屋敷だった。


入り口の扉は破壊されていて出入りは自由だ。



「こ、ここだ」



男が緊張した様な面持ちで案内をし、屋敷の中へと入っていく。


すると、広間の中央に三人の姿があった。




「案内ご苦労。 じゃあお前等は帰って良いぞ」



一人が金が入った麻袋を投げ渡すと、急ぎ足でその場を去って行った。



「久しぶりだな、流閃」



広間の中央に立っている男、ダマルが不敵な笑みを浮かべながら口を開き、センを歓迎するのであった。

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