第37話闘技祭



騎士団達による闘技祭を前日に控えた第一部隊〝フェルニール〟


各部隊もさすがに前日は身体を休めるのだろうか、訓練場には第一部隊しかいない。



「さて、今日までよく頑張った!

君達の努力は明日の本番は勿論、その後の国を護る力にもなる事は間違いないだろう。

だが、その第一段階として重要なのは明日。

応援しているぞ!」



ミコトが騎士達の前に立ち、エールを送る。


また、セリアも激励を送り、騎士達は更に士気を上げていった。



「まっ、後は本番次第だな」



「そうだな。 自分で言うのも何だが、他の騎士に比べるとかなり強い部隊になったと思うのだが?」



ミコトはそう言いつつ前に居る騎士達を見回す。


確かに最初に比べれば皆、かなりガタイが良くなっている。


まあ、それだけのトレーニングを重ねて来たのだから当然と言えば当然なんだが。



「セリア、明日は何時から始まるんだ?」



そういえば開始の時間とか全く聞いていなかった。


ので、セリアに尋ねる。



「明日は昼前に開会式が行われ、試合が始まるのは午後からだ」



「分かった」



「ちなみに、他国の貴族や王族も見に来るから粗相のない様にしてくれよ」



「いつも粗相はしてない」



そう、俺は別に粗相をしてる訳ではない。


ただ単純に敬意を示す必要がないからそうしてるだけだ。



「はあ、まあいい。 では明日に待ってるぞ!

我等は式典の進行などを覚えなければならないからこれで」



そう言うとセリアは部隊を引き連れて城へと消えていった。



「お前はどうするんだ?」



「私もこれから依頼があるぞ」



「そうか。 じゃあ帰るかな」



皆、それぞれの用事があるようで、とりあえず訓練場を眺めつつ、振り返って城へと入って行った。


すると「流閃様」と声が掛かる。


ん?この声は……アイツじゃないな。


とりあえず振り返ると、そこには王太子妃のルビアが立っていた。



「ああ」



「訓練に付き合っていらっしゃると聞いてまして、なかなか時間が取れませんでしたがやっと来れました」



「いや、もう終わったぞ? というか今日で終わりだしな」



「ええっ!? そ、そんなぁ……」



いやいや、闘技祭明日なんだから分かるだろ。


何故かシュンとして悲し気な表情を浮かべるルビア。



「で、何か用か?」



「あっ、いえ! 特に用がある訳でもなくてですね、ただ少しお話し出来たらなぁ……っと」



「お前もか……」



「えっ!?」



「あっ、まあネリアじゃないからいっか。

良いぞ。 どこに行けばいい?」



「良かった! ではご案内致します」



こうしてルビアに連れられ、客間へと向かった。


すると、その途中で何だか気の強そうな令嬢が正面から歩いて来る。



「あらルビー、ごきげんよう」



「あっ、クラハちゃん、ごきげんよう」



どうやら知り合いの様だ。ってまあそりゃそうか。


ただ、ルビアは少し困ったというか、怯えているというか、そんな表情を浮かべていた。



「トール様とは一緒じゃないのですわね? それに、その冴えない殿方はどなたかしら?」



「あっ、えっと流閃様は学園時の同期で、今は騎士団やライナちゃんのご友人でもありますよ」



「ふ~ん、そうなの。 てっきりトール様に隠れて逢瀬でもなさってるのかと思いましてよ? ふふっ」



「お、逢瀬だなんて……」



すると、気の強そうな令嬢が俺に視線を向け、口を開く。



「私、グランドワイズ国リーベルン公爵が長女、クラハ・リーベルンですわ。

以後、お見知りおきを」



「まあ、見知っても話す事はゼロに等しいと思うが、センだ」



「ちょっと、あなた貴族に対しての口の利き方がなってないんじゃなくて?



ああ、でた。貴族の人間はほとんどこうだ。


面倒な風潮作ったの誰だよ。



「別に俺は貴族ではないが、この国の人間でもない。

だからお前がこの国の貴族だとしても、この国の人間ではない俺には関係ないし、寧ろ貴族じゃなくても態度は変わらん」



そう告げるとムスっとした表情を見せる。


が、本当に良いタイミングで王女のライナと王太子のトールが通りかかった。



「あらセン、こんな所で何してるのよ」



「ああ、ルビアに呼ばれたからとりあえず誘いに乗っかってみただけだ。

お前こそ何してんだ?」



「私はこれでも王女なんだから公務とかあるのよ!」



「ルビー、ゆっくり話をすると良いよ。

流閃くん、楽しんでくれ」



「そうさせてもらうよ」



ライナとトールは軽く会釈をし、その場を後にした。


そして、有言実行というか王族への全く敬意のない話し方を目の当たりにしたクラハは扇で口元を隠しながら、「フン!」っとそっぽむいてどこかへ行ってしまった。



「お前、アイツ苦手だろ?」



「うっ、は……はい……」



「ああいう女は格式にうるさい。

なら、ルビアの方が格上なんだから堂々としてればいいのに」



「そうですね……すみません……」



とりあえず仕切り直しで客間へと向かい、ソファに腰かける。


ルビア専用の部屋なのか、女性らしい装飾がされていて、部屋自体は甘く爽やかな香りに包まれていた。



「紅茶とお菓子を用意しますのでお待ち下さい」



メイドが告げると、いそいそとテーブルに並べられていく。


そして、紅茶が置かれるとメイド達が部屋を後にして二人の空間へと至った。



「あの、流閃様っ!」



「ん?」



って言うかそこまで緊張しなくても……



「最近、どうですか? そ、その……楽しいですか!?」



いやいや、開口一番にそれって……


寧ろ話が出来ればって誘ったなら話題位用意しておけよ。



「特に用もなく呼んだだろ……まあ、楽しいと言えば楽しいが」



「す、すみません……でも、ちゃんとお話ししたくて……」



「お前が心配したりしてくれてるのはもう分かった。


だが、それで過去が変わる訳ではないと前に言っただろ?


だからお前も気負い過ぎなくていいって」



「あ、ありがとう……ございます……」



ゆっくり紅茶を口に含み、心を落ち着かせる。



「まあ、最近ネリアが不可解な行動を取ってるけどな」



「ネリア様……確か流閃様の……」



「昔は恋人だったな」



「今はロービン様と結婚されて……

ロービン様は流閃様の……

もしかしてっ!!?」



突然、何か答えに行き着いたのか、バっと立ち上がる。



「別に何もされてないし、されても追い払える。

昔とは違うんだよ。 だから気にするな」



「ならよかったです。

実は今、ダルージャ復興に向けた動きが見られているのはご存知ですか?」



「何となくな」



「はい。 それに伴い、こちらも現段階ではグランドワイズが統治しておりますが、先日にダルージャの王弟、ドラージャ様が謁見されました」



「もうそこまで動いてるのか」



「はい。 とは言え流閃様の事は向こうにも知られております。

ですので、何かあればと思ってお伝えしておきました」



「分かった、ありがとう。 まあ何かあったらもう一回潰す。

それだけだから安心しろ」



「それじゃダメなんです! 流閃様にはもう悲しい思いはして欲しくありません! だからそうならない様に努めるのが私の役目です!」



ルビアの意志は強いようで、声を荒げて自分の想いを目の前に居る男へと伝えた。


勿論、さっき言ったようにルビアの想いはしっかりと伝わっている。


だが、これは結局当事者の問題であって部外者が口を出す事ではない。


とは言え、そうした出来事が生まれない環境を作るのは大切で、それは頑張って欲しいと思う。



「分かった分かった。 まあその、頑張ってくれ」



「ううっ何でそんな他人事何ですか……」



「いや、だって頑張るのは俺じゃないし、まあお前が頑張ってそうした土台を作れば未来に繋がるんじゃないか?」



「はい……」



ルビアは何だか不貞腐れ気味ではあるが、頑張る意志を示す。


すると、コンコンと扉がノックされ、メイドが声を掛ける。



「ルビア様、トール様がお呼びです。

謁見の間にお集まりになられてるそうです」



「分かりました」



「じゃあ、そろそろ帰るかな」



「短い時間でしたが、お話し出来て良かったです」



「まあ、気が向いたらまたな」



「はい!」



センがそう伝えると、満面な笑みで返してくる。


愛くるしいって言うのはこういう顔の事を言うのだろう。


ネリアももう少し見習った方が良いんじゃないか?



「どうしました?」



いかん、脳内で話していたら呆けてしまった。



「何でもない。 じゃあな」



ようやく話を終え、城を出て森へと戻る。


そういえばこの前小屋の近くで虎の死体を見たが、何故か目には剣が刺さっていた。


人が来るところじゃないが、まあたまに依頼でハンターが来る事はあるだろうか。


一応その剣は持って帰り、久々にゆっくりと過ごすセンであった。












闘技祭当日――



グランドワイズの街は大いに賑わっていて、騎士のレプリカやおもちゃの剣なども売られていた。


子供達がそれを以て騎士ごっこをして楽しむのだろう。



闘技場は城から南東に下った場所にあり、収容人数5000人とかなり大きく造られていた。



「じゃあ士気を上げる為にもう一度伝える!」



俺は緊張している騎士達に向けて激励を送る。



「これまでの試練を乗り越えた者には大いなる力が与えられる。

それを以てすれば他の部隊なんぞ目じゃない。


そして、ここには倭の女神ミコトがいる。

良いか? 最優秀者はこの女神と一夜を共にする事が出来るんだ。

二度とないチャンスを逃すなぁ!!」



「「「うぉぉぉぉ!!」」」



よし、一気に士気が上がったな。


というか、もはや血に飢えた野獣の如くやる気に満ち溢れている。



「はっはっは! セン殿、頼もしい言葉、感謝する。

我々はいきなり第三部隊とだからちょうどいいな」



セリアは士気の高まった騎士達を見て笑っていた。


しかし、ミコトを見ると――



「セン、貴様ぁ!」



「だから良いだろ? 据え膳喰わぬは女神の恥ってな?」



「造語ではないか! 責任取ってもらうからな!」



かくして闘技場は満員となった。


来客席にはミューロンの王ダリウムと第一王女クラリア、そしてブルードマン。


フィリアはこうした行事は好きじゃないらしい。


そしてダルージャの王弟で次の王となる予定のドラージャやその他貴族達が座っていた。



一戦目は第二部隊VS第四部隊。


二戦目は第一部隊VS第三部隊。


三戦目は上記の勝者同士。


最後に前回優勝の第五部隊との戦いになっている。


つまり、勝つにしても余力を残しておかなければならないのだ。



「最初は力技で行くのが良いだろう。

ある程度訓練場で見られているかもしれないが、一人一人の実力は間違いなくこちらが上。


また、体力もこちらが上だ。


なら、力技でサクッと終わらせ、最後の第五部隊戦で長期戦を強いた方が上策だ」



セリアが第一部隊の騎士達に作戦を告げ、いよいよ一戦目が始まろうとしていた。



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