第36話閑話 ダマルの冒険


翌日、さっそくダマルは行動に出た。


訓練場に流閃が居るのを確認し、そのまま蠱惑ノ森を目指したのだ。



「お前等、魔物が出た時はしっかり守れよ」



「任せて下さいよ旦那! 俺等、結構名のある傭兵でっせ?」



「人が寄り付かない蠱惑ノ森、腕が鳴るぜぇ」



ダマルは一人での行動は最悪の結果を避ける為に傭兵を雇った。


そして蠱惑ノ森へと入っていく。


事前に流閃が住んでいるとされる小屋の場所は情報を得ている事で準備は万全だ。



「くくくっ、住まいが燃やされた時のあの野郎の絶望する顔、想像しただけで笑えてくるぜ……」



最初は問題なく進んで行く事は出来た。


とは言え、流石に人が寄り付かない森と言われるだけあって辺りは薄暗く、時おり〝ガサ〟っと音が響く。



「へへっ、魔物かぁ? いつでも来いよ」



「魔物でも獣でも全部狩ってやるぜ?

ってかここの魔物なら良い金になるんじゃねぇか?」



「そりゃあいいな!」



すると、ガサっと音が聞こえた瞬間に魔物が飛び出して来た。



『グギャ!!』



「おっと、早速お出ましか!」



「ん~、兎か。 やり堪えのねぇ魔物だな」



「おらぁ!」



ザン!



護衛が手に持ってるのは大きな出刃包丁のような武器。


もう一人は片手斧だ。


ちなみにダマルも剣を装備しているのだが、討伐は護衛に任せている為、ここでは剣を抜かない。



「さっさと殺しちまえ! もたもたしてっと戻る時に面倒になる」



ダマルがそう指示すると魔物は護衛二人に斬られ、その命を落とした。



引き続き森の奥へと進み、襲ってくる魔物は全て確実に討っていく。


そして、更に進んで行くと遠くの方に広間が見えた。



「ケッ、結局ここの魔物も大した事ねえな!


って旦那ぁ! 川があるぜ!?」



「よし、とりあえず休憩するか」



三人が川の方へ行くと、「ふんふふ~ん」っと何やら鼻歌が聞こえた。



「おい、何か聞こえねぇか?」



「ああ、ってか女の声か……何でまたこんな場所に?」



護衛の二人が話してると、ダマルが口を開く。



「おい、川で女の声って言ったら水浴びだろうよ。

最近ご無沙汰だしな……やるか?」



「おお、旦那も人が悪いなぁ?」



「ゲヘヘヘ」



ダマルと二人の護衛が下品な笑みを浮かべながらゆっくりと川へ向かって行く。


そして、森を抜けた岩陰に隠れて鼻歌が聞こえる方へ視線を向ける。



「おお~、ヤベっ、超ラッキーじゃねぇかよ!」



一人の護衛が興奮気味に告げる。



「たまには水浴び位せんとの。 というか面倒じゃから小屋に風呂を作るか……センに頼むか」



三人が目にしたのは紫色の長い髪を川の水に浸し、のんびりと身体を拭いている美しい女性だ。


その容姿はグランドワイズでは見る事のない麗しいもの。


真っ白な肌にしっかりと実った胸。引き締まった腰回り。


もはや三人は興奮冷めやらぬ状態だ。



「ヤベェ! 俺もう我慢出来ねぇ!!」



ガサっと一人の護衛が飛び出し、それに続いて二人も踏み出した。


それぞれ手には武器を持っている。



「はぁ……何じゃ? こんな森にわざわざ女を手籠めにする為に来たのか?」



「おいおい、増々いい女じゃねぇか!

お前、死にたくなかったら大人しくしろよ? ゲヘヘヘ」



「寧ろそのまま終わるのも勿体ない。

お前、俺の愛人になれ! 金ならいくらでもくれてやるぞ?」



護衛の男は既にズボンを降ろしていた。


そしてダマルはこんないい女なら一度や二度じゃ勿体ないと愛人にしようと交渉し始める。



「アホかお前等は。 何で妾がお主等の様な品の欠片もない男に抱かれなければならんのじゃ。

鏡見て出直して来い」



「くぅ~、いいねぇ! 気が強い女は嫌いじゃねぇぜ?」



「ダメだ、我慢出来ねぇ! 大人しくしてろよ!」



一人の男が女性の腕を掴み抱き寄せる。



「折角水浴びしたのに汚い手で触るでないわ!

≪ダークボム≫!」



抱き寄せた男の腹に手を当て、無詠唱で魔法を放つ。


すると、漆黒の炎が渦巻き、ボンっと爆発を起こす。



「ぐげっ……がはっ……」



ビチャっと血や贓物が飛び散り、よく見れば男の腹には大きな穴が空いている。



「ひっ、て、てめぇ!」



「何じゃ? まだやるのか?」



「くっ、に、逃げるぞ!! この女はヤバイ!!」



ダマルは護衛を連れ、再び森の中へと引き返した。


流石にここで護衛を失えば魔物と対峙してしまった際、生き延びる自信が無かったのだ。


あんなに美しい女を手に出来なかったのは惜しいが、それでも命の方が大事だ。


それに、もっと護衛を雇ってまた来ればいい。


そう考えたのだ。



はぁ、はぁ、と森を必死に駆け抜ける事数分。



「な、何なんだよあの女! くそっ!」



護衛の男が仲間を失った事、女を抱けなかった事で怒りを露わにして叫んでいた。



「死ななかっただけマシだ。 それよりあれは……」



逃げた先には遠くの方に小屋の様な物が見える。



「あれが目的の小屋か、まあこれだけは遂行しなければならんからな!

行くぞ!」



だっと走り出し、目の前の小屋へ向かった。


しかし――



『グォォォォ!!』



「「何だ!?」」



目の前に目的地があるにも関わらず、突然大きな雄叫びが響き渡った。



「魔物か? おい、お前警戒しろ!」



「一人か、旦那も手伝ってくれよ!

一人いねぇんだから」



「仕方ない」



ゆっくりと小屋の方へと向かう。


しかし、一歩進むとガサっという音が鳴り、また一歩進むと今度はゴゴゴゴっと近くの木が薙ぎ倒された。



「おい、どうなってんだ!?」



「だ、大丈夫だ旦那! ここの魔物は大した事なかった!」



まるで言い聞かせるかのようにそう言い放ち、武器を構える。


すると、ズシ!ズシ!っと背後から足音が聞こえ、振り向けばそこには大きな虎の魔物が立っていた――



「ト、トラの魔物!?」



『グルルル……』



「おいおい、5メートルはあるぞ……」



トラの魔物は鋭く長い牙を見せつけるかのように口角を上げ、グルルルっと様子を伺っている。



「おい、こうなりゃ殺るしかねぇ!」



「俺はこんな所では死なんぞ!

―満ちたるは命より息吹く魔の根源、我が眼前たる魔の者に捌きの雷を!

≪ライトニングボルト≫!」



ダマルが雷の魔法を放つと、バチィ!っと虎の魔物にヒット。



「おらぁ!」



そして護衛の男も斧で斬り掛かった。



ズバッ!



『グラァァッァア!』



虎の魔物は攻撃された事に怒り、目の色を変えて爪を振るった。



ズバン!



「ぐっ!」



護衛の男は何とか斧で防いだが、後ろの木へ吹き飛ばされてしまう。



「ちっ! くらぇ!!」



ダマルが剣を抜き、護衛に向かっている隙を付いて目に突きを放つ。



グサッ!



『グラァァ!!』



見事にダマルの剣が虎の目に刺さった。


しかし、引き抜く事を忘れてしまい、ダマルは丸腰となってしまった。



「おい! 今の内に!」



「おう!」



虎から距離を置き、小屋へと急ごうと駆け出した――のだが……



『グルァァァア!』



今度は後ろから熊の魔物が二体現れたのだ。



「くそっ! どうなってんだこの森は!?」



「まずいっ! だが逃げるしかない!! 早く立て!」



ダマルが膝を突いている護衛に蹴りを入れ、もはや小屋などどうでもいいと必死に森の外へ向かって走る。



『グォォォォ!』



『グルァァ!!』



虎の魔物と熊の魔物は二人を追う事はせず、今度は魔物同士の争いへと発展していた。


勿論、そんな事を知る由もなく、二人は必死に走り、息を切らせても立ち止まらずにただただ出口を求めた。



ガサ!



「はぁ、はぁ、はぁ」



「ゴホッ、ゲホッ」



気付けば森から抜け、辺りは見た事のある景色が広がっている。


草原と、遠くの方には農家が幾つも建っている。



「「助かったぁ」」



逃げ切れた事に二人は安堵してへたり込む。



「今日の事は無かった事にする……」



「ああ、分かった。 報酬もいらねぇ」



散々な目に遭ったと、二人はそれぞれ岐路に着いたのだった。











「で、結局いつアイツの家を焼くんだ?」



その晩、ダマルはいつもの様にロービンの屋敷を訪れていた。


そして、話をしているとロービンから催促される形で尋ねられる。



「あ、ああ。 近々決行する予定だ。

今、その為に護衛を集めてるから待ってろ」



「分かった。 ネリアはどうだ?」



「相変わらずダメそうですわね……あの男、私の可愛さに一切見向きもしないなんて! 許せないです!!」



「大丈夫だ! お前は可愛い。

必ずアイツの心を落とせるはずだ!」



「はい。 ロービン様、今夜はその……慰めて下さいませ」



「分かった。 存分に楽しもう」



「俺は帰る。 また来るな」



「ああ」



それぞれ、もはや作戦などは決めずに各々の時間を過ごしていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る