第35話魔女の試練とダマルの計画


俺とミコトがグランドワイズ国のセリア率いる第一部隊の騎士達を鍛える為に指導者として通い始めてから一週間が経った。


型に倣っての演武や模擬戦、基礎トレーニングによって騎士達の筋力・体力・立ち回りなどはかなり向上されたと思う。


また、俺自身も毎朝の素振り1000回に加えて蠱惑ノ森の魔物相手に型に倣った攻撃を鍛えた。



そして、城に行けば何かとネリアがちょっかいを出して来る。


流石にウザかったので見張り役としてライナを利用したが、それでも陰で常に監視してるような形になっていたのは言うまでもない。



「セン、結局ネリア嬢が執拗に監視してるのは何なの?」



「さぁな? 俺は拒絶してるんだがな。

それにアイツにはクズが居るのに」



「クズ……ああ、フェンディル様ね。

もしかしたら、そういう作戦なのかも?」



「作戦?」



「元々ダルージャで色々あった仲なんでしょ?

二人からしたらセンは目の敵というか、そういう対象だと思うの。

でも、そのセンが急に強くなって侮辱されたら、怒って復讐を考えるものでしょう」



ライナは「女の勘だけどね」と一言加えるが、確かに言われてみれば可能性がゼロではない。


正直ネリアが接触してくるのも不自然だし、その逆であれだけ俺を罵倒していたロービンが一切接触を断った。


二人がグルになってと考えれば意外と腑に落ちるのだ。



「まあ、その可能性も考えておくよ。 悪いな、巻き込んで」



「あら、センが謝罪するなんて珍しい!」



「うるせぇ」



こうして今日も騎士団の訓練場へと向かい、指導を始めるのだ。






ガン!ガン!ガン!



コン!コン!



「おらぁ!」



「そこ、隙だらけだぞ!」



「はぁ!」



訓練場へ向かうと、既に騎士団達が木の剣を振るっていた。


というか、集団戦の状態になっていた。


ミコト、セリア、ジニールVS18人の騎士達。



闘技祭の演目は一対一の戦いではなく、城取り合戦だ。


各騎士団に拠点があり、その拠点を奪われた方の負け。


勿論、魔法有りだ。



ドゴォン!


ドガァン!



周囲を見ると、恐らく第二か第三部隊が訓練を行なっており、対魔法戦に見立てて訓練を行なっていた。



「そういえば、こっちは魔法とか良いのか?」



集団戦の訓練を終えたセリアに尋ねる。



「ああ、そろそろ始めようと思う。

実は私の部下は魔法が意外と得意でな。

その所為もあってか接近戦や基礎体力等が欠けていたんだ」



なるほど、それを補う為の俺やミコトの指導という訳か。



「まあ、魔法は俺は使えないからその辺はミコトと話し合ってくれ」



「分かった」



「俺は引き続き基礎訓練でもさせるかな。 今日はゴリゴリに」



「任せたぞ」



ゴリゴリ、そのフレーズが聞こえたのか、騎士達の表情が少し強張った。


だが、だからといってやらない選択肢はないんだけどな。


以前ミコトに、ミラーナの力を借りてずっと魔物と戦わせるという方法を与えた。


そのおかげでミコト自身もかなり体力が付き、状況判断も迅速になったのだ。



あっ……



そうか、ならミラーナに頼んだ方が早いな。


でも、洞窟に戻ってるのか?


ミネリアーナに行くと言ってたが……まあ言ってみれば分かるか。



「今日は基礎だけでやるが、明日ちょっと外に出してもいいか?」



「外? あっ、もしかして森に?」



「だな。 まあ、森だけじゃないが」



「では許可を取って来る」



セリアはタタタっと城内へ向かった。


その間、いつもの基礎トレーニングが始まったのだが……



「よし、お前等全員とりあえず掛かって来い。

というか手は抜くが俺も攻撃する。

躱しながら自分で判断し、作戦を立てろ。


仲間と連携を取っても良し、個人戦に持ち込んでもよし。


じゃあ、開始!」



センがルールを伝え、開始と叫んだ瞬間……センから放たれる威圧と殺気で騎士達が怯む。



「おい……これ間合いってやつだよな? 訓練なのに踏み込んだら死ぬんじゃないか……?」



「や、ヤバイ……足が動かない」



ジリジリっと距離を詰めるが、恐らく間合いであろう範囲に踏み込む勇気が出ない。


そんな状態が数十分続いていると……



「時間をかけ過ぎた! 魔法も使え馬鹿者!」



後ろから戻って来たセリアが指示を出した。


そして、騎士達を無視してセリア自身がセンへと踏み出す。



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、眼前たる敵に雷の刃を!

≪サンダーニードル≫!!」



セリアが詠唱し、魔法を展開すると棘状の雷がセンへと襲い掛かった。



「さすが部隊長だな」



センがそれを躱しながら向かってくるセリアにこちらからも仕掛ける。



「はっ!」



「ふんっ!」



二人の木剣がぶつかり合うと、それを皮切りに周囲の騎士達も「うぉぉ!」

っと襲い掛かった。


当然、威圧や殺気は放ったままだが、隊長が攻めているのに見てるだけというのは騎士として、部下として情けないのだ。



「士気が上がりましたね。 では私も!」



副隊長ジニールも踏み出し、センへと木剣を振り抜いた。


ガン!


ガン!



こうして凡そ2時間程、センVS第一部隊の攻防戦が続き、終わりを迎えた。



「ふぅ、とりあえずこんなもんか」



一息入れると、騎士達はバタバタ倒れていく。



「はぁ、はぁ、もうダメだぁ」



「身体が動かない……」



「おやおや、まだまだですね皆さん」



「いや、副隊長と隊長がおかしいんですよ!」



どうやらジニールとセリアはまだいける様だ。


まあ、日頃の訓練の仕方なのだろう。



「まあ、今のは体力もそうだが、どちらかと言えばプレッシャーに耐えられるかどうかだったな」



セリアの発言に、騎士団達がハテナを浮かべる。



「流石隊長だな。 気づいてたか。 まあジニールも気付いてるとは思ったけど」



そう、センがあえて威圧や殺気を放ったのは実際に戦闘になった時、相手は必ず殺す気で掛かって来る。


その圧に当てられてしまえば判断が鈍り、恐怖心から怯んでしまう。


それらは全てが隙となり、その先はただただ殺されるのを待つだけだ。


だからそれに慣れる為に放っていたのだ。


実際にここまでの殺気や威圧を放つ奴なんてそこまで多くないとも思うしな。



「そういえばセリア、許可は下りたのか?」



「ああ、問題ない。 まあ明日だけだけど」



「じゃあ明日は外でやるから!」



「「「はっ」」」





こうして今日の訓練を終えた翌日、騎士達はグランドワイズを出て蠱惑ノ森の入り口へと集まっていた。


ミコトはハンターの仕事がある為、今日は休みとなっている。




「森は当然魔物も多いから隊列を組み、魔物が現れたら声を掛け合え。

目的の場所に向かうまでに死人が出るかもしれないから気を付けろよ」



とりあえずそう伝えておくと、騎士達の表情は一気に緊張へと変わった。


森を進んで数十分。


さっそく魔物が現れる。



『ブォォォ!!』



以前にライナが襲われたグレートボアだ。



「敵だ! 全員武器を構えろ!」



セリアの言葉に騎士達は一斉に剣を抜き、向かってくるグレートボアを捉えた。



「はぁ!」



そして、突進して来たグレートボアをギリギリで避け、横から剣を刺す。



『グォ……』



バタン。



数人の剣が横から刺さった事でグレートボアはそのまま絶命。



「何か俺達やれるぞ!」



「ああ、日頃の地獄みたいな訓練の成果がやっと実感出来た!」



以前の騎士達なら森の魔物を相手には出来なかったかもしれない。


だが、今は地獄の日々を耐え抜いて来た猛者共だ。



「油断はするな! 引き続き警戒しつつ進むぞ!」



「「「はっ!」」」



こうして誰一人欠ける事無く数時間後には無事に蠱惑ノ森の深部。


滝奥の洞窟へと到着したのだった。



「さて、居るかなぁ~?」



騎士達を引き連れてゾロゾロと入っていく。


すると――



ブォン!!



突然火の球が襲い掛かって来た。



「回避しろ!!」



セリアの号令で騎士達が散らばり、警戒する。



ブォン!



ブォー!



ドドドド!



次々と押し寄せて来る火、氷、雷。



「俺達が防ぎます!」



すると大きな盾を持った前衛の騎士達が数名前に出て魔法を食い止める。


やがて魔法は収まるといつかと同じような声が響いた。



『ココニナンノヨウダニンゲンドモ』



何か久々だなこういうの。


ちょっと笑ってしまう。



「セン、目的は何だ?」



そういえばセリア達は何故ここを目指しているのかは知らなかったんだ。



「いや、まあ修行だ、修業」



「私達は修行に来た!」



『シュギョウ……ワガセイチをキサマラノシュギョウでアラサレルノハコノマシクナイ……カエルガヨイ』



「ど、どうすえばいいのだセン殿」



「クククッ」



「セン殿?」



ああ、何か笑いが止まらなくなってしまった。



「とりあえずもう良いぞミラーナ。

俺が耐えられん」



『はぁ、久々に会ったらこれか。

全くいつになっても変わらんのぉお主は』



ポンっと魔法陣が浮かび上がり、そこからミラーナが登場する。


以前の幼児体型とは違い、呪いが解けて元に戻ったその姿は妖艶さに溢れていた。



「やっぱ違和感あるよな、その姿」



「お主、失礼にもほどがあるぞ。 寧ろこっちが本来の妾じゃと言ったであろう」



そんなやり取りをしていると、セリアや騎士達が不思議そうに見ていた。


というよりも、騎士連中はミラーナの妖艶さに思いっきり見惚れている。



「何じゃこの気持ち悪い視線は……で、何の用なのじゃ?」



「ああ、とりあえずこっちがセリア。

グランドワイズの騎士で第一部隊の隊長だ」



「セ、セリアと申します。 ここに来たのは、修業の一環なのですが……」



「そうか。 ミラーナ・ベルン・アンジェリアじゃ。

ミネリアーナの魔女、と言えば分かるじゃろ」



「「「なっ!? 魔女ぉぉ!!?」」」



騎士団連中、そしてセリアも驚きの声を上げた。



「で、セン。 修業って察するにミコトの時と同じか?」



「そうだな。 ちょっと色々あってミコトと二人で稽古を付けてるんだ」



「ほぉ、お主がの? 少しは人間として成長したようじゃな」



これまでの俺ならこんなに人と関わったりはしない。


それを知ってるミラーナだからこそ、感心していた。


とりあえず経緯を話し、早速稽古を始める。



「まあ、死なぬ程度に頑張れよ」



ミラーナがそう告げると、魔法陣が浮かび上がり、いつかのガイコツ戦士達が次々に浮かび上がってくる。



「隊列を組め! 油断は禁物だ!

また、体力に自信がない者は後退しつつ休みながら状況判断をしろ!」



セリアの言葉に騎士達が剣を構え、早速ガイコツ戦士を倒していく。



「うぉぉぉ!」



「攻撃は前衛の俺達が死守する! その隙に攻撃しろ!」



各騎士達もそれぞれ指示を出しながら攻防戦は更に激しくなっていった。



「そういえばダルージャの復興へ動いてるらしいぞ?」



突然、ミラーナがそうセンへと告げた。



「そうなのか? まあ、俺が潰しておいて何だが、今まで復興しなかったのは何でだ?


別に国全土を滅ぼすなんて一人の人間に出来る事じゃねぇし、復興はいつでも出来たと思うだが」



「元々世継ぎが居なかったのじゃよ。

ただ、王弟が生きておってな。

それが復興の準備を進めているらしい」



魔女は情報通であり、様々なところから知識を得ている。


故に、そうした状勢にも詳しいのだ。



「まあ、俺を殺そうとした本人はもういないし、なら別にダルージャが復活しても関係ないけどな。

横やり入れて来るなら受けて立つが」



「それは王弟次第じゃな。 まあそういった動きがあるから一応伝えておく」



「分かった」



そんな話をしながら優雅に紅茶を飲んでいると、後ろからドゴォンっと爆発音が響く。


どうやら魔法も使い始めたらしい。











数時間が経過――



「はぁ、はぁ、ジニール! そっちはどうだ!?」



「そうですね……なかなか厳しい状況かもしれません」



「各班、怪我人の治療と体力が残ってる者は引き続き討伐に当たれ!

役割りを以て休憩と交戦に分かれるんだ!」



「「はっ」」



本来の戦であれば倒せば魔物は消える。


だが、ここではミラーナが魔物を生み出している為、ミラーナが止めない限り魔物は永久的に出現する。


故に体力も当然削られ、騎士達は既に疲労困憊の状態だった。



「まだやるのか?

まあ、まだミコトの時の半分じゃが」



「セリア、どうする!?」



「まだやれる!!」



「だそうだ」



セリア、そして騎士達の目はまだ死んでいない。

だからこそ、この困難を乗り越えるべく奮闘しているようだ。



それから更に数時間――



途中、より困難な状況に陥った時に人は覚醒するとミラーナがガイコツ戦士ではなく、大型の魔獣を数体出現させた。


当然、既に疲労困憊の状態の騎士達は怪我人も増え、中には重傷の者も居た。


流石に死なれては困るとミラーナの質の高いヒールによって回復し、再び戦場へと赴いているが。



既に日は暮れ、当たりま真っ暗。


ようやく長時間の戦闘が終わると、「もうダメだ」と数人の騎士達が気絶する様に倒れ、眠ってしまった。


まあ、気持ちが分かるけどな。



「はぁ、はぁ、流石にこれはキツイな」



セリアもジニールも、他の騎士に比べればまだ体力はありそうだが、それでもヘバっていた。



「ミコトはこれを一人で、しかも三日間続けたんだがな」



「三日……だが良い目標になった。 ありがとう、ミラーナ殿」



「目標を立てなければ人は前に進めんからの。

日々精進する事じゃ。

まっ、またやりたくなったらいつでも来るが良い」



「ああ、お願いする」



ミラーナとセリアが握手を交わし、寝ている騎士達を叩き起こして第一部隊はグランドワイズへと戻って行った。



「さて、お主は帰るのか?」



「ああ、まあどっちでもいいかな?」



「ならたまには付き合え」



ミラーナがワインの瓶を取り出し、グラスに注ぐ。



「お前は寂しがりやの癖に引きこもるよな」



「余計なお世話じゃ!」



まあたまにはこうした交流も大事なんだろう。


チンとグラスをぶつけ、短い時間ではあるがゆったりとした空間で過ごしていくのだった――












「ネリア、どうなってるんだ!?」



「ロービン様、まだ諦めておりません!

今しばらくお待ちになって下さい」



「くそっ、第一部隊も何だか力を付けてるようだった。

まあ、我等第三部隊が負ける事はないが、これではアイツの評価にも繋がってしまう!」



ロービンもまた、貴族の鏡と言える程にプライドが高い。


その上で今回の闘技祭。


第一部隊が優勝でもしたら指導したあのハンターとあの魔力無しが評価されてしまう。


そうなれば自分の評価が埋もれてしまうかもしれない。



「流閃様、一向に振り向いてくれないのですよね……」



「ならまた小屋燃やすか?」



「「ダマル(様)!?」」



二人の屋敷にいつも通り訪れたダマル。



「あの頃の絶望とか思い出させるのはそれもそれでありだと思うんだがな」



ダルマが不敵な笑みを浮かべてそう続ける。



「だが、あいつが住んでるのは蠱惑ノ森。

そこに行くのも大変じゃないのか?」



大陸全体の常識として、蠱惑ノ森には近づかない。


魔物と遭遇した場合は逃げる事を優先する事。


討伐依頼を受ける際は必ずパーティーで行動する事。


これらが鉄則になっている。



「ふん、あいつが一人で住んでるんだぞ?

実はたいした事ないに決まってる!!」



ダマル自身、対峙してセンの実力を見たわけではない。


その為、ダマルの中ではセンの実力は昔のままかそれより少し上。


故に、そんなセンが住める場所なんてたかが知れているのだ。



「俺が小屋を燃やす。 だからネリアは引き続きアイツを落とせ」



「分かりました」



「ロービンは闘技祭に専念してくれて大丈夫だ。

こちらで全てが整ったら引き続き作戦を立てよう」



「分かった」



「待ってろよ流閃! お前は俺の手の平で転がっていればいいんだ!

ハッハッハッハ!!」

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