第30話宴と契
「諸君等のお陰で無事、魔女軍を壊滅出来た。
誇りに思う。
ミューロンの平和も保たれた。 ありがとう」
戦争が終わり、その晩にセン、ミコト、ジュベル、そしてフィリア、クラリア、ブルードマン等が謁見の間に呼ばれた。
また、今回参加した騎士達へも労いの言葉を送り、褒美を与えた。
「そういえば、ミラーナはどこいった?」
「妾ならここじゃ」
バンっと勢いよく扉が開かれる。
すると、そこにはミラーナではなく別の人物が立っていた。
「いや、誰だ……」
「じゃからミラーナじゃ。 呪いも解けたのでな。
これが本来の姿なのじゃよ。 どうじゃ? 見惚れたかの?」
これまでのミラーナは紫色の髪に真っ黒な瞳、方眼鏡を付けて魔女ハットを被った幼い少女だった。
しかし、今目の前にいるのは――
「胸はそのままなんだな?」
「貴様……言い残す事はそれだけか……?」
ブォンっとセンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「冗談だよ、冗談!」
幼い娘は恐らく160センチを超える女性へと変貌していた。
胸はそのまま、当然出るところはしっかりと出ていて、更にスタイル抜群。
フィリアといい勝負かもしれない。
方眼鏡と魔女ハットはセットなのか、胸同様そのままだ。
「ミラーナ様、美しゅうございます! 流石はミラーナ様、もう寧ろ神々しいでございますぅぅ!!」
ジュベルはミネリアーナの巫女、故にミラーナの侍女みたいなものの為、かなり褒め讃えていた。
「おお、先代の描いたあの絵と同じだな。
お美しい」
「じゃろ? お主の先代はこの姿に見惚れ、もう大変だったのじゃ」
周囲の騎士達も鼻の下を伸ばしきっている。
魔女って皆こうだったのかな?
「ゴホン」
改めて王が咳ばらいをし、話しを戻した。
「魔女、ベリアローズは兼ねてよりフィリアの血を狙っていたようだ。
だが、それももうない。
ミラーナ様、改めてこれからもミューロンとミネリアーナの架け橋になってもらいたい」
「そうじゃな。 こういった習わしは続けるべきじゃ」
「お父様、ルーチェル家は没落という形になりますが」
「そうだな。 残念だが致し方ない。 それはおいおいこちらで決めよう」
「はい」
「各自、褒美を取らせるが、今日は疲れもあるだろう。
ゆっくり休んでくれ」
「「「はっ」」」
「はぁ、確かに疲れたな。 とりあえず寝たい」
「そうだな。 って言うか今回私の出番ほとんどなかったぞ!?」
「次があるだろ次が」
「むぅ……あればいいのだが」
ミコトは少し残念そうな表情を浮かべている。
「皆さん、お腹は?」
「「「空いた~」」」
「ふふっ、じゃあ先ずは食事に致しましょうか」
「ならば私達も参加させて頂こう! 我が友よ、良いだろうか!?」
「おい、友になった覚えはないんだがな」
「いや、戦場で戦ったもの同士、それはつまり友だ!
しかも助けて貰った! ならば一生かけてその恩を返さなければ軍人としての誇りが失われてしまう!」
熱い男、ブルードマンはそう言うと、「ハッハッハ」と笑いながらダイニングへと向かった。
どうやら断るという選択肢はないらしい。
「まあ、いいじゃないか。 たまには皆でワイワイ楽しもう!」
「お前は美味い飯が食いたいだけだろう」
ミコトは既に涎が垂れかかっている。
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皆が席につき、待っていると次々に料理が運ばれてきた。
しかもパーティーの時に出る様な豪華なものばかりだ。
「さぁ、皆さん。 今日は一日疲れたと思いますが、無理せず楽しんで下さい。
今回の戦いで命を落とした方も多い。
そうした屍の上にわたくし達は立っております。
祈りを捧げ、糧にしましょう」
フィリアの言葉に皆が胸に手を当て、祈りを捧げる。
そして数秒沈黙が流れ、宴が始まった。
「早速だがワインを頂こうかの」
ミラーナは身体が戻った事に喜びを感じ、早速祝杯を挙げていた。
「ミラーナ様がお飲みになるのなら私もご一緒します!」
ジュベルもどうやら参加するらしい、がまだ16歳。
お酒はそこまで経験がないはずだ。
大丈夫か……?
ミコトはクラリアと一緒に豪快に食事を楽しんでいた。
「ミコトは銀級だったわよね?
ちなみに、私も銀級よ!
実はたまにストレス発散でハンターをやっているの」
何と、クラリアはハンター業も行なっているらしい。
まあ、通りであんなどでかいハンマーをぶん回せる訳だ。
「なら銀級同士仲良くしようではないか!」
二人は意気投合したらしく、酒を注ぎ合い一気に流し込んでいった。
「皆さん、楽しそうですわね」
「そうだな。 まあ、あまりこういう場は得意ではないが」
「得意不得意ではなく、経験がないのでは?」
「ああ、そうだな。 貴族でもないしこうした機会は皆無だったな」
フィリアが横に座り、優雅に食事を取りながら会話を重ねる。
「セン様はお酒は飲めて?」
「酒か、それもちゃんとは初だな」
「ではどうぞこちらを」
チンっとグラスを当てて乾杯をする。
こうして皆がワイワイと食事をし、やがて酔っ払った者達が暴れ始める。
「我が友よ! 今日は熱く語り合おうじゃないか!」
「うるせぇ! 暑苦しい!」
「ハッハッハ! それが私の売りなのだぁ!!」
ブルードマンは何故か上半身裸になって美しく逞しい身体を惜しげもなく披露している。
誰に?
「ちょっとブルー! あんたの裸を見て良いのは私だけでしょうが!!」
ドゴっと顔を赤らめたクラリアが嫉妬なのか何なのか、ブルードマンのボディに強烈な一撃を放った。
「ぐはっ、ふ、ふん! 効かぬ! 効かぬぞクラリア!!」
何の勝負だよ。
「セ~ン~! 飲んれるのかぁ?」
「ミコト、呂律が回ってねぇ」
「うるはい! 君はそうやっていつもいつもぉ!」
「はいはい、お前もあのボディの打ち合いに混ざって来い」
「なにぃ~? おお、クラリアの身体、いいじゃないか……」
ミコト、おっさんみたいな発言してるぞ……
「何じゃ、お主は酔わんのか?」
「いや、まあまあ酔ってる、のかな? 分からんが」
「かっかっか、そうかのぉ~?」
ミラーナも上機嫌なようでワインのボトルを手に持ちながら歩き回っている。
一方ジュベルは既に潰れてしまっているようで、テーブルの端でスヤスヤと眠っていた。
「おお、やっとるな」
すると、王であるダリウムがダイニングを訪れた。
騎士団長のゼウムも一緒だ。
「あらぁ、お父様もどうですか?」
「そうかそうか、まさかフィリアに酒を注がれる日が来ようとは」
普段、フィリアは自由に行動している為、こうした食事の場にも来ない事が多い。
その為、王に酒を注ぐのは基本的にクラリアの場合が多いのだ。
しかし、そのクラリアは――
「ゼウム! 貴方もボディを鍛えなさいボディを!」
「ははっ、姫様……少々酔いすぎでは……?」
「うるさぁい!!」
ドゴッ!!
しかし――
「酔った姫様の拳など、私には効きませんぞ?」
「くっ、やはり強敵! あはははは」
「すまんなセン殿。 基本的に畏まった場面が多いのでこうした酒の席だとそれらのたがが外れてしまうのだ」
「ああ、まあ楽しそうでいいじゃないですかね?」
「君はこの国を護った英雄だ」
「?」
王からの突然の言葉にハテナが浮かぶ。
「君の事は知っている。 というか調べさせてもらった」
魔力が無い事で辛い人生を歩んだのだろ」
「まあ王族なら当然か。 そうですね。
でも最近楽しいですけどね。 俺も少しずつなんか変わってるんでしょう。
許せない部分は許せないし、曲げない所は曲げないですけど」
「ハハハッ! それでいい。
困った時はいつでもミューロンへ来てくれ。
何なら嫁いでも構わんぞ?
フィリも気に入っているようだからな」
おいおい、親公認かよ。
辞めてくれ……まだ早い。
「お父様、セン様は結婚とかそういうの考えてないようですわ。
だから、既成事実を作りましょう!」
「おい」
フィリアはいつの間にか酔っている様で、何やら爆弾発言をした。
そういえば身体許す的な事を平然と言ってたしな。
「フィリの好きなようにしなさい。 私は口を出さんからな」
「いや、そこは止めて下さいよ! ってか王族が何を言ってるんだ」
「何ぃ~? セン様はわたくしがお嫌いかしら?」
ジーっと見つめてくる。既に良いが回ってるのか、トロンとして据わった目で。
「何だ? そんなに抱いて欲しいのか?」
「えっ!?」
「いや、だって言ってたし」
「ん~、そうね。 セン様ならいいわよ」
「よし、二人を専用部屋へ案内してくれ!」
王がパンパンと手を叩くと、メイドが二人こちらへとやって来た。
って専用部屋って何だ!?
寧ろ王、大事な娘だろ!?
よく見れば王は顔が赤くなっていた。
そして、よく見れば王のグラスに注がれた酒、変な色してる……
多分、フィリアに注がれたというだけでの飲まなきゃと思ったのだろう。
ワイン、エール、シャンパン、全種類がそこに注がれていたようだ。
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・
ミューロン国王城の最上階。
ここに〝専用部屋〟がある。
別名≪愛の器≫
王族が契りを結ぶ時に使う神聖な部屋らしく、クラリアとブルードマンも既に利用済との事。
勿論、相手と結ばれても結ばれなくても、その時に愛があれば関係ないらしい。
王侯貴族の癖に貞操概念軽いな。
「はぁ、酔ったわ……酔ってしまったわぁ」
「そうだな。 まあ楽しかったんだからいいじゃねぇか?」
「あなたはつまらなそうね?」
「そんな事はない。 ただ、慣れてないから表に出にくいだけだ」
「ならいいけれどね」
いつの間にかフィリアの口調が親しい関係の様な形になっていた。
それは酔ってるからなのか、それともそう思ってくれてるからなのか、どっちかは分からない。
「お嬢様、先ずはこちらへ」
すると、メイドの一人がフィリアを連れて隣の部屋へと向かった。
酔ってるとは言え、そうなる時は事前の準備が必要不可欠なのだ。
すると、バン!!っと入り口の扉が開き、「お嬢様ぁ~」っと専属侍女のセーラが突撃して来た。
「あら、セン様。 遂に、遂にこの時が来たのですね!
このセーラ、最高の夜、最高に甘美な夜をお迎え頂くべく、準備をさせて頂きますので、今しばらくお待ちくださいませ」
まるで演劇の様な立ち振る舞いで自分のセリフを言い終わったセーラは横のフィリアが準備をしている部屋へと突撃した。
「きゃっ、セーラ!?」
「はい、お嬢様! ここはわたくしめが最高の芸術を作り上げてさしあげましょう!」
「わ、分かったわ? でも、芸術って……?」
「まあまあ、では始めましょう!」
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うん、正直眠い……
初めての酒でさっきまでは目が冴えて居たが、ここは薄っすらと灯がある程度の部屋。
窓からはミューロン国が一望出来る。
そんな空間でのんびりと寛いでたらそりゃあ眠くなるでしょう。
だが、寝たら殺されそうだから必死に我慢する。
すると、メイド達がバタバタと部屋から出ていく。
その際、セーラは何故かサムズアップしていた。
この国、色々大丈夫か……
そして、ギギーっとゆっくり扉が開き、フィリアが出て来る。
その瞬間、初めてかも知れない。
眠気が一気に覚め、血が噴き出るくらいの勢いで前進を巡った。
「えっと、そのぉ……わたくしも準備までの間で酔いが醒めてしまって……ものすごく恥ずかしいのだけれど……」
「だろうな。 でも最高だぞ?」
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