第29話終焉の時


「こうなれば手段は選ばん! 一斉に放つぞ!!」



「「「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、我が道を阻む怨敵共に終焉の時を! 深淵より導かんは王の裁き! ≪アビスフレイム≫!!」」」



魔女軍の白装束が黒装束達を率いて集まり、魔法の詠唱を行なった。


そして、数十人の装束達から展開された魔法はまるで闇への誘い。


漆黒の炎が猛々しく燃え上がり、前方の騎士団を一気に飲み込んでいった。



「ぎゃぁぁ」


「熱い! 熱い!」


「た、助けてくれぇ~」



数十名の騎士団が炎に焼かれ、バタバタと倒れていく。



「こちらも魔法で対抗しろ! まだ生きてる者が居れば即回復の手当を!」



「はっ」



やがて騎士団からも炎や水、氷などの魔法が放たれ、周辺に爆発音が鳴り響いた。












「さて、邪魔者は消えたの。 妾の呪いを解いてもらうぞベリア」



「ふん、ミラ……忌々しい魔女め。 300年の恨みを以てアビス送りにしてあげるわ」



ズズズっと二人の魔女の周辺はそこだけがまるで別の世界になっているかのように威圧の影響により、地面がひび割れ近くに転がっていた亡骸がグシャっと潰れていく。



「≪エリアルカッター≫!!」



ミラーナから無詠唱の魔法で風の刃が幾つも放たれ、目の前のベリアローズへと襲い掛かる。



「ふん、そんな子供騙しが通用する訳ないじゃないの」



ブシャ!ブシャ!



鋭い風がベリアローズの身体を切り裂き、辺りに血が落ちる。


しかし、センとフィリアの時もそうだったが、斬られる事にまるで関心がないベリアローズは避ける事もせずに突っ立っていた。


そして、次第に斬られた箇所が塞がって行く。



「ほお、お主禁忌を使いおったか。

魔女というより化け物じゃな。 もはや」



「あら、そんな小さな身体したに化け物と言われるなんてぇ~」



「お嬢ちゃんじゃと……こんな風にしたのはお主じゃろぉぉ!!」



やはり、ミラーナは幼女に関連する言葉を浴びせられると怒り狂う。


それだけ本来の姿に自信があったのだろう。


ミラーナがその場を踏み出し、いつの間にか持っていた杖を大きく振りかぶった。


木で出来た杖は幼体化したミラーナよりも少し高く、中間から捻じれて先端には白骨化したオーガの様な頭蓋骨が飾られていた。



「はぁっ!」



ドゴォン!



ミラーナの一振りは大きなクレータを作り、その中心にはグチャっと潰れたベリアローズの姿がある。



「これでも死なんとは全くお主の執念は恐ろしいの……」



「あら、褒められてるのかしらぁ?」



ズブズブっと音を立てながら元の姿へと戻っていくベリアローズ。



「そろそろこっちの番ねぇ?」



〝パチン〟と指を鳴らすと、足元に無数の魔法陣が浮かび上がり、ズズズっと黒装束達が生み出されていく。



「殺りなさい」



無言で黒装束の集団がミラーナへと襲い掛かる。



「くっ、面倒な」



ブォンっと杖を振り抜き、襲い掛かって来る者達を次々に薙ぎ倒す。



「≪アビスバインド≫!!」



そして、攻防を繰り返すミラーナへ紫色の蔓が伸びる。



「ぐっ、≪フレイムフォール≫!」



ミラーナが透かさず周囲に炎の壁を展開した。


しかし、まるで恐怖を感じないのか、黒装束達は炎に焼かれても尚ミラーナへ突進していった。



「くそっ、厄介じゃの……」



「ふふっ、そのまま踊るといいわぁ?

≪アシッドレイン≫!!」



再びベリアローズから魔法が放たれ、ミラーナを中心として数メートル範囲に酸の雨が降り注ぐ。



ジュッジュッっとその身を溶かす。



「くぅぅ……なっ!?」



酸の痛みに耐えながら黒装束の攻撃を防いでいると、突然目の前にベリアローズが現れた。



「あらぁ、余所見はダメよぉ? 敵はこいつらだけじゃないんだからぁ」



ベリアローズの蹴りがもろに腹部へ衝撃を与える。


しかも履いているのは尖ったヒール。



「ぐっぅ!?」



グサっと腹部にヒールが刺さり、蹴りの衝撃で吹き飛ばされていく。


ドゴン!


また新たにクレータを作ると、黒装束達は追い打ちをかける様にミラーナの元へと駆ける。



「ふふっ、やっぱりその姿じゃ弱いわねぇ?」



「はぁ、はぁ、参ったの……」



「降参してさっさと殺されればいいのよぉ」



「そうは、いかぬのでな……」



ゆっくりと立ち上がり、杖を構える。


そして――



「≪ライトプロージョン≫!!」



最初に放った光の爆発魔法を展開して周囲の黒装束達を一気に殲滅。



「あやつは不死身……ではない。

禁忌、自己修復を完成させるには巫女や生娘の血が必要……ならば……」



「≪ライトスピア≫! ≪エリアルカッター≫!!」



「悪あがきねぇ」



無数の光の槍がベリアローズへと突き刺さり、風の刃がその身を切り裂く。



「何度やっても無駄よぉ?」



恐らくベリアローズはミラーナの思惑に気付いていない。



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、眼前に開かる宿敵に宿罪の裁きを下さん! ≪アイアンメイデン≫!!」



これまで無詠唱で魔法を行使してきたミラーナが詠唱をし、魔法を展開する。


ゴゴゴゴゴ



地鳴りが響き、ベリアローズの足元には魔法陣が浮かび上がった。



「ふふっ、無駄な足掻きばかりねぇ?」



魔法陣から鉄の塊が出現し、ガコンっとその扉が開かれる。


その扉の内側には無数の針が見え、中から奈落への導きの如く無数の手がガシっとベリアローズの手足を掴み、そのまま鉄の塊へと押し込んだ。



「サバキヲ……」



ガコン!


開かれた扉が勢いよく閉じると、グシャっと何かが潰れる様な音が聞こえた。


そして、鉄の塊の隙間からどんどんと真っ赤な液体が流れて来る。



「今じゃ、≪ブラッドドレイン≫!!」



攻撃を避けもせずただ受け続けているベリアローズの周囲には血の海が作られていた。


それらを吸収し、自らの体内に保管する。



やがて魔法が解けると、串刺しになってグチャグチャの状態となったベリアローズが出て来た。



「ふぅ……もういいかしらぁ?」



「そうじゃな。 大体は終わった」



「ん? ……あれ……何で……そんなっ!?」



ジュルジュルっとベリアローズの身体が修復を試みる。


しかし、先程とは異なり上手く行かない。



「なっ、何をしたのよぉぉ!!!?」



思うように動かない事実に突然怒りを露わにしたベリアローズがミラーナへ向かって咆哮する。



「お主の慢心が原因じゃな。

禁忌、自己修復。


それを完成させるには巫女や生娘の血が必要じゃ。

そして、その血を吸収し続けた事でお主は修復が可能となった」



「はっ!? まさかっ!?」



「そうじゃ。 その血を奪った。

全部その為の魔法じゃ」



「うぅ……」



修復が効かないベリアローズは仕方なく≪ヒール≫で快復をするが、もはや魔物に食い荒らされた様な状態を完全に修復する事は出来ない。


出来てもかなりの時間が掛かる。


だが、ミラーナはミラーナで傷こそ≪ヒール≫で回復しているが、高威力の魔法を連続で行使した為に疲労が見られていた。



「おのれぇぇぇ!!!」



ベリアローズは怒り心頭でミラーナへと襲い掛かる。



「ふんっ!!」



しかし、ドガっと杖で一振りされると、完全ではないその身体ごと吹き飛ばされてしまった。



「さて、終わらせるかの」












その頃、センとフィリアは戦場の南側にある小屋へ来ていた。



「さて、ルーチェル家の皆さま。

逃れられませんわよ?」



「くっ、フィリア王女殿下……」



「何よっ! 貴女が悪いのよ全部!!」



ギトンは顔を真っ青にして項垂れている。しかし、リリアンだけはまだ非を認めずにフィリアを睨みつけながら叫ぶ。



「昔からそう! 私の恋人を尽く奪っておいてよくもぉ!」



「あら、八つ当たりにもほどがありますわよ?

貴女の恋人を奪ったのではなく、相手が私に見惚れただけでしょうに」



「そうよ! だから貴女が奪ったのと一緒じゃない!」



「いいえ、わたくしが手を出した、という事でしたらわたくしに非がありますわ?

でもわたくしは全てお断りしておりますの。

他にどんな方法があるのかしら?

当時、わたくしはあなたの事はよく存じておりませんでしたし」



「キー!!」



リリアンは手に持っていた剣をフィリアに向けて振り下ろした。


しかし、リリアン自身武芸は得意ではなく、そのままフィリアは素手で剣を掴んだ。



「まあ、八つ当たりはいくらでも受けましょう。

ですが、ここまでの大事にしたのですから、流石に八つ当たりでは済みません。

まして、魔女を手引きして国自体を陥れようとしたのですから」



「うるさい! うるさい! 黙れこの異教徒め!

魔女様はミュローンの王より遥かに尊い存在だ!

その魔女様に心を捧げない王女など、死んでしまえばいいんだぁ!!」



もはやリリアンは魔女を酔狂しているようで、フィリアの言葉は全く通じていなかった。



「あんたもよセン! 何で生きてるの!? 何でフィリアの横にいるのよ!」



うわっ、遂に来た。



「いや、元々ジュベルの護衛だったし、そっからフィリアの護衛になって、どっちにしても魔女問題を解決しなきゃいけなかったからな。

だからその要になってるお前を利用しただけだ」



「酷いわっ! もう、皆嫌い! 皆死ねばいいのよ! 死ねばいいのよぉぉ!!」



〝ならば私に委ねなさいな〟



「「っ――!?」」



リリアンの叫びに対し、ここに居る誰でもない別の禍々しい声が響き渡った。


そして――



バタンっと扉が開き、そこに現れたのは血だらけでもはや人とは思えぬ状態の者だった。



「私と一つになりなさい。 そうすれば貴女の想いは全て報われる」



「ま、魔女様……」



ベリアローズとリリアンの視線が交差する。



「止めるのじゃぁ!!」



「っ!?」



後方からミラーナの叫び。


そして無意識に手が動き、シャキンっと一閃する。


センから抜かれた刀は見事にベリアローズの首を刎ねた、のだが――



「ふふふっ、遅かったわねぇ?」



「なっ!?」



ドサっと血飛沫をあげながら倒れていく〝元〟ベロアローズの身体。


そして、その血もまた、リリアンへと吸収されていった。



「やっぱりいいわぁ~、生娘の身体は最高ね。

しかも、憎悪が心地良い……」



はぁ~と恍惚とした表情を浮かべながら立つリリアン(ベリアローズ)。



「リリアン、どうしたのだ!?」



「黙りなさい。 この娘は私と一つになりました。

つまり、この子が魔女ベリアローズでもあるのよ?」



「なんだと……いくら魔女様でもそれだけは許せん!

頼む、娘を返してくれ!」



「分からず屋ねぇ? なら、死んでちょうだい?」



ズブっとリリアンの手がギトンを貫いた。



「なっ……ゴボッ……リリ、ア、ン……」



ドサっと倒れたギトン。



「ふふっ、これで自由ね。 さて、続きを始めましょうかぁ?」



〝パチン〟っと指を鳴らすと、黒装束が現れ、セン・フィリアへと襲い掛かる。



「はっ!」



「やぁ!」



シャキンっと一閃し、数名が二つに分かれる。


更にフィリアの突きで次々に黒装束が討たれていく。



「面倒だな。 ってかこれどうすんだ?

そのまま殺せばこの女も死ぬんだろ?」



「そうですわね……でも、仕方ないのかもしれません。

ある意味リリアンは魔女を受け入れてましたし」



「なら殺るしかないな」



「ええ、苦渋の決断ではありますが、他に策が浮かびません」



シャキン!っと一閃をリリアンに向けて放つ。


しかし――


ギン!


どうやらセンの剣筋は完全に見えているようだ。



「それはさっき見たわよぉ? もっと楽しませてちょうだい?」



「はっ! はっ!」



フィリアの突き、振り下ろし、振り上げ、上下左右に剣戟がリリアンに放たれる。


しかし、先程のリリアンとは違って手に持つ剣はまるで昔から鍛錬を重ねて来た武芸者のようだった。



「くっ」



「とりあえず狭いわねぇ。 ≪クラッシュボム≫!!」



リリアンが魔法を詠唱し、地面に向けて光の球を打ち放つ。


すると、着弾と共に小屋内から大規模な爆発が起こった。



ドゴォォォォォン!



その爆発は今回の戦の中でも群を抜いて一番だろう。


周囲数百メートル単位で爆風が吹き荒れた。



やがて金属がぶつかり合う音も、怒号も無く、只々静寂が流れる。



「いってぇ……」



「はぁ、はぁ……」



「フィリア、大丈夫か?」



「え、ええ……でもこれじゃ戦えないわね……」



よく見るとフィリアの足には恐らく爆風で飛ばされた騎士の剣が刺さっていた。



「とりあえず抜くぞ?」



少々手荒だがゆっくりやるよりいいだろうと、勢いよくズボっと剣を抜く。



「ん~~ッ!!!!!」



フィリアは叫ばないよう、声を押し殺し、その痛みに耐えた。



「はぁ、はぁ……こんな痛みを感じるのはもう御免だわ……」



「だな。 ただ、魔法を使える奴がいないな」



「そうですわね……セン様、負ぶって頂けますか?」



「ああ、仕方ないか。 ほら」



フィリアを背負い、とりあえずミューロンの方角へと歩く。


辺りは爆発によって命を落とした者、既に絶命していた者など、様々な亡骸が転がっている。



「あらぁ、どこに行くのかしらぁ?」



「マジか、最悪のタイミングだな」



「ええ……ごめんなさい」



「お前の所為じゃないだろ」



「でも……」



「でもじゃない。 一回下ろすぞ」



とりあえず、フィリアを背負いながらは戦えない。


だから一度下ろし、武器に手を掛ける。



「王女のナイト様ねぇ。 でも、残念だけど死んでもらうわよ?」



「まあ、簡単には死んでやらんけどな」



「はっ!はっ!」



シャシャキンっと二連の神速撃を放つ。


ギン、ギンっとリリアンがそれを防ぐが、センはその隙に跳躍し、思いっきり大太刀を振り下ろした。



ドゴン!



「何て力かしらぁ。 常人の者とは思えないわぁ」



綺麗に袈裟へ直撃した大太刀はそのままリリアンが持っていた剣をへし折り、片口から逆脇腹まで斬り裂いていた。



「痛いわねぇ。 ≪フレアアロウ≫!」



リリアンが至近距離で魔法を放ち、指から小さな炎の矢が発射された。


それはセンの身体へ着弾すると、小さな爆発を繰り返す。



ドン!ドン!ドン!



「ぐっ、がぁ、くそっ……いってぇな!」



センが力を込め脇腹で止まっていた大太刀をそのまま一気に最後まで下ろした。


だが、既に肩口は再生を始めており、斬られた箇所も塞がって行った。



「面倒な女だ」



「ならそのまま死んでちょうだい? 王女の血があればもう用は無いもの」



「残念だが、それは出来ないな」



「そう、じゃあ貴方から死んでちょうだい」



このままじゃまずい……流石に斬っても死なないとかどう相手にすりゃあ良いんだよ。



あっ、そっか!



「よしっ!!」



「あらぁ?」



シャキン!



「無駄な事、まだするのぉ?」



「無駄かどうかは後で考える」



シャキン!


シャキン!



「もう面倒だから死んで――〝シャキン〟――」





シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!


シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!


シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!


シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!




ただひたすらに抜刀と納刀を繰り返した。


そう、再生するって言っても徐々にだ。


なら、そうならない状態をこっちで維持すればいい。


制限時間は、俺の腕と体力が持つまで。




シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!


シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!


シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!


シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!シャキン!




「まるで挽肉工場ね……」



フィリアはその現状を目の当たりにしながら、そんな事を呟く。


血飛沫が飛び交い、ひたすらにリリアンが細切れになる。


ズズっと修復しようとしても斬られる。


喋ろうとしても斬られ続けてる為、言葉が発せない。



そして30分程が経過――



「セン様、体力は大丈夫ですの?」



「ああ、まだ大丈夫だな。 毎日1000回素振りしてると持久力もかなりつく様だ」



「その太刀は重いものね……」



「ほぉ、面白い事をしておるな」



「「ミラーナ(様)」」



「小屋に向かったらいきなり吹き飛ばされるとは、妾もツイてないのぉ。

しかし、再生が追い付かん状況か。 センは面白いの」



「だが制限時間はある。 今の内に対処法を考えろよ」



「分かっておる。 というかもう対処法は見つかった」



「じゃあ止めて良いのか?」



「まてまて、こっちも準備が必要じゃ

数分くれ」



ミラーナは斬られているリリアンの場所を中心に、杖で魔法陣を描き始めた。


本来は魔法を唱える事で浮かび上がるものなのだが、今回はいそいそと杖で地面を削りながら描いているのだ。


そして数分後、「ふぅ、完成じゃ」と汗を拭いながらセンの後ろに立った。



「流石にこの身体で魔法陣を描くのは難儀じゃの」



「まあそうだろうな。 じゃあ止めるぞ」



シャっと最後の一撃を加えたまま血払いをし、納刀する。



「―古の魔女たる我が血を以て契約せん。

満ちたる魔の素を器とし、黄昏より現世へと誘わん。

時満ち足りて、願うは宿敵の永久投獄。

その最たる王より裁きを与えん。

奈落の回廊へと続く扉、今開かん。

≪アバドンズホール≫!!」



ミラーナの長い詠唱。それだけ強大な魔法なのだろう。


雨空もミラーナ達が居る場所だけは真っ黒な雲となり辺りを闇へと包んでいった。


斬られ続けたリリアンは現在、三分の一ほど修復が完了している。



「長かったわねぇ。 でも、体力切れかしらぁ? ってミラ……えっ……」



「残念じゃが、終わりだベリア。 いや、今はリリアンかの?

どちらでも良いが、これでやっと念願が果たされるわ」



「ま、まさかっ!?」



リリアンが辺りを見回す。


そして、ミラーナが描いた魔法陣を見てギョっとしていた。



「ミラ、分かった。 呪いは解いてあげる。 だから許してちょうだい?

ほんの冗談じゃない。 この女の身体も返すから。

ねっ? ねっ?」



「ほんの冗談で300年もこんな姿にさせたんじゃ。

許すも何もないじゃろ?

300年後に妾に子孫が居れば、救いの手があるかもしれんな?」



「いや、いやよぉ!!」



「自分の行ないに悔いるがよい。

で、これは返してもらうぞ」



バっとリリアンの首元のネックレスを奪う。



「じゃあの、ベリア」



「いやぁぁぁぁああ!!!」



準備は整ったのか、上空から黒い塊が落ち、ドプンっと散布する。


そして、リリアンの後ろにはいつの間にか異様な存在の者が立っていた。


馬の様な見た目に王冠を被り、背中には羽が生え蠍の様な尾。



「ベリア、良き旅を」



ミラーナが別れの印として手を振ると、ズンっと突然ベリアローズの足元に巨大な空間が生まれた。


そして、ズブズブとその身が沈んでいく。


未だ完全に修復し切れていないリリアンは動く事さえ叶わず、「いやぁぁぁ」っとただ叫ぶだけだった。



ズズズ



ズズズ



ついにその身が沈み切り、異様な存在も全てが光になって消えていった。


同時に、振っていた雨も止み、辺りには陽の光が差し込んでいた。



「終わった」



「ええ」



「疲れたの。 ああ、≪ヒール≫!」



ミラーナの魔法によってようやくフィリアの足が治った。


とりあえず疲れた。



「報告してミューロンへ戻りましょう」



ようやく魔女との戦いが終わった。


これで色々な問題は解決しただろ。


いや、そう願っている。


というか、これでやっと森に帰れる!!


一行はミューロン国を目指して足を進めていったのだった。

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