第28話魔女襲撃戦Ⅱ



「報告致します。 現状はこちらが優勢となっております。

別動隊も出て来ましたが、後衛が守り抜きました」



「そうか。 皆、奮闘しているのだな」



「はっ」



「怪我人は下がらせ、治療に専念しろ。

このまま一気に、と言いたいところだが……魔女の動向も気になる。

注意するように」



「はっ」



王は報告を聞きながら指示を出す。


しかし、未だ魔女は動いていない。


故に警戒する必要があるのだ。



「民達に危険が及びそうな時は迷わず守りを固めろ。

民は誰一人死なせる訳にはいかん」



「はっ」



王城でも各自役割を以て行動し、非常事態に備えている。


勿論、問題なく終わればそれが一番なのだが……











「あはははっ、そぉ~れっ!!」



ドゴン!



その戦場では、そぐわない見た目の女性が大きなハンマーを持って暴れていた。



「おいフィリア、あれって……」



「ええ、お姉様ね。 やっぱろストレス発散じゃないの。

何がわたくしの心配よ……」



「いや、そこじゃないと思うんだが……」



フィリアの姉、第一王女クラリアはそれは楽しそうにハンマーを振るい続けている。



『グルァウ!!』



狼の魔物がクラリアへ爪を伸ばして襲い掛かる。



シャッ!



すると、その爪はしっかりと届いてしまい、クラリアの頬に薄っすらと赤い三本の線が出来てしまった。



『グラァァア!!』



「おい?」



ビクッ!!



突然、ドス黒く低い声が響き、狼の魔物は一瞬怯んでしまう。



「てめぇ、女の顔に傷付けて……分かってんだろうな? あぁ?」



『グル……』



クラリアから威圧が放たれる。


それは想像を超えるもので、もはや狼の目の前にいるのは一人の王女ではなく、まるで魔物を統べる王ばりの威圧だ。



『グル……クゥン……』



「殺されたくなかったら、分かってんな? お前がこの辺の魔物殺って来い」



『クゥ……』



「いいなぁ!!!」



『キャウッ!!』



ダっとその場から離れ、物凄い速度で周囲の魔物を狩って行く、狼の魔物。



「おいフィリア、お前の姉ちゃんヤバいな……?」



「ホント、怒るといつもああなるのですよ。

喧嘩が絶えなかった時はもう大変でしたもの」



王女同士の喧嘩……なんか国が滅びそうなんだが……



とりあえず仕事に戻るか。


そうして大太刀で次々と敵を斬り伏せていく。


横ではフィリアも同じ様に魔物や黒装束を倒していくと、突然足元が爆発した。



ドゴォォン!



「あっぶなかったわね。 何かしら?」



「あらぁ、流石は私が求める王族の血を持つ者。

ちょっとやそっとじゃ倒れないわねぇ?」



爆破と同時に現れたのは、フードを被った女性。


しかし、その身から放たれる禍々しさはこれまでの暗殺者達を含めても初めての経験だ。


グっと力が入る。



「初めまして。 ベルベロスという組織を束ねております、ベリアローズ・ジャム・ガーラントですわぁ」



フードを派手に脱ぎ、その身を晒す。


真っ赤な長い巻き髪に髑髏をモチーフにした魔女ハット。


ビキニアーマーの様な格好に着崩した薄紫のローブに首元には何かを閉じ込めているような淡く光るネックレス。


フィリア顔負けのスタイルに妖艶な雰囲気を最大限に発揮させた魔女が優雅に挨拶を交わす。



「ミューロン国第二王女、フィリア・ノール・ミューロンよ」



「それでぇ、そちらの殿方は?」



フィリアの横に居たセンへと悩まし気な視線を送る。



「言わなくても大体分かってんだろ」



「あらぁ、そんな怖い目をしてぇ~、か弱い女性に送る視線じゃないわよぉ?」



「何百年も生きてんのにか弱いとか言われても説得力ねぇよ」



「ふふっ、辛辣ねぇ。 にしてもあなた、ミラーナの匂いがプンプンするわぁ」



ズズズっと威圧を放っていくベリアローズ。


その威圧感はこの世の者とは思えぬほどに重く、巻き込まれてしまった周囲の騎士や黒装束達はまるで魂が抜かれてしまった様にバタバタと倒れ始めた。



「はっ」



シャキンっとセンが抜刀し、斬り掛かる。


すると、防ぐ事もせずに一刀を身に受け、真っ二つとはいかなかったが、ベリアローズの身体は文字通り腹部が皮一枚で繋がった状態になった。



「何だ? 呆気ないな」



「あら、大体そういうセリフを言うと死なないんですわよ?」



「ふふふっ、その通りねぇ。 これくらいじゃ死ねないのよねぇ」



「うげぇ……」



ギリギリ皮一枚で繋がっていた腹部から流れる血がまるで無数に蠢くミミズの様にうねうねしながら胴体が元通りになっていく。



「それにしても、早いわねぇ? 見切れない事もないけどぉ、常人なら気付かないまま即死ね」



「そりゃどーも! はっ!」



シャキン、シャキン!



「たぁ!!」



シュ!シュ!



センの抜刀に合わせてフィリアも鋭い突きを放つ。


ズバッ!バシュッ!っとベリアローズの身が斬られ、突き刺され、血飛沫が飛ぶ。


しかし、ベリアローズ自身は平然と立っており、特に気にする様子もない。



「マジか……ミラーナもこんななのか?」



「信じられないわね。 寧ろ勝てる術が思い浮かばないですわ」



「じゃあ次はこちらの番ねぇ?」



〝パチン〟



ベリアローズの指が鳴ると、突然センやフィリアの周囲が爆発を起こす。


ドゴン!


ドガン!



「ぐわっ!?」



「きゃっ!?」



「まだまだこれからよぉ? ≪アビスニードル≫!」



ベリアローズが魔法を展開すると、二人の足元から漆黒の棘が伸びる。



「くそっ、間に合え!」



足元に気付いたセンが爆発で困惑しているフィリアの方へと飛び、押し出す。



「きゃっ、セン様!?」



「ふぅ……間一髪だな……ゴホッ」



どうにかフィリアを棘から守れた。


しかし、俺の脇腹には一本の太い棘が刺さり、貫いていた。



「いやっ、セン様! お気を確かに!」



「いででで……まあ、とりあえず死んではいない……はぁ、はぁ」



「あら、惜しかったわねぇ。 でもこれで一対一。

やっと王族の血を頂けるわぁ」



「くっ、どうすれば……とりあえずセン様を……はっ!」



バシュ!



フィリアは剣を振るい、とりあえずセンに突き刺さっている棘を切り離した。


出来れば回復魔法を使いたい。


しかし、フィリアは魔法が不得意だ。


センの様に魔力が無い訳ではないが、それでもこれまで上手く使えた事がないのだ。




「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、かの者の傷を癒し、正常へと還さん! ≪ヒール≫!!」



「……」



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、かの者の傷を癒し、正常へと還さん! ≪ヒール≫!! ≪ヒール≫!!」



「ふふふっ、魔法すら扱えないなんて可哀そうな王女様ねぇ?」



「黙りなさい! 後で殺してあげるから!」



ベリアローズの挑発に憤り、王女らしからぬ発言。


しかし、今は目の前のセンを助けたい。



「何故魔法が使えないの……こんな時だからこそ使えて欲しいのに!!」



ポタポタと涙が溢れて来る。


普段は別に使えなくてもいい。


魔法が使えなくても武芸でどうにかなるから。


でも、目の前で一番死んでほしくない人が居る。



「せっかく仲良くなれたのに……もっと沢山お話ししたいのに……」



「おいおい……あんだけ強気だった王女がそんな泣きじゃくってたらダメだろ……」



「だって……セン様……」



「落ち着け、とりあえずミラーナを呼べ。

あいつなら何とかなる。

それに、貫かれたとはいえ、致命傷じゃない。

だから安心しろって」



「うぅ……はい……」



「話しは纏まったかしらぁ? じゃあ王女殿下、その血を頂きますわねぇ?」



ベリアローズが物凄い早さで襲い掛かる。


その顔は先ほどの妖艶な美貌ではなく、寧ろ狂気に満ちた魔物の様な顔だった。



「させない! はぁぁ!!」



フィリアの怒りがこもった鋭い連撃。



「くっ、邪魔ねぇ……黙って喰われろぉぉ!!」



ズドォォン!!!



辺りには土煙が昇り、中の様子が分からない。


しかし、近づけば巻き込まれてしまう。


だからこそ、周囲の騎士や黒装束は踏み込めずに只々その様子を見る事しか出来なかった。





「全く以て不快なヤツじゃの。

その醜い顔を整えて出直してくるのじゃ」



「ッ――!?」



「「ミラーナ(様)!」」



「≪ライトプロージョン≫!!」



カッっと目を開けられない程の閃光が放たれ、同時に「ギャァァァア」っとベリアローズの叫び声が鳴り響いた。



ズドォォンっと再度爆発音が響き、気付けばベリアローズが吹き飛ばされていた。



「とりあえず、派手にやられたの。

≪ヒール≫!」



ぱぁ~とセンの身体が緑色に光り、傷口が塞がって行く。



「ふぅ、助かった」



「セン様~!」



センの無事を確認したフィリアがガバっと抱き付く。


それほど心配していたのだろう。強気な分、悲しみを抱くと途端に脆くなってしまう。


もしかしたらフィリアの弱点なのかもしれない。



「悪いな。 でもあれじゃ死なないって言っただろ?」



「でも、違うのです。 魔法が使えない事が悔しくて……セン様が怪我してるのにって……」



「分かった分かった。 とりあえずまだ戦いは終わってないから落ち着けって」



「……はい……」



「見せつけてくれるのう。 フィリアが魔法が使えんのはセンと同じじゃ。

魔力こそあるものの、使用するに値しない魔力量じゃ。

まあ二人を見てれば、その分武芸に長けるという事じゃな」



「はぁ……そうだったのですか……」



「まあ、良いじゃん。 余計に似た者同士って事だな」



「そうみたいですわね」



そうしている内にベリアローズが再び立ちはだかる。



「おのれミラーナ、邪魔者めが」



「おやおや、口調が変わっておるぞ?」



「黙れ! ふん、幼女姿が似合ってるじゃないか。

それで私を殺せるとでも思ってるのか?」



「ふん、この姿でも十分に戦えるわい。

それに、お主は最早魔女ではなく、ただの吸血鬼じゃろ。

血ばかり求めおって」



これから魔女同士の戦いが始まる。


それは、当然広域に魔法が降り注ぐと言ってもいいだろう。


故に巻き込まれる可能性は十二分にあるのだ。



「セン、フィリア、お主等は敵を討ちつつ首謀者を捕まえておくのじゃ。

放っておいたら殺されるぞ。

この女は妾に任せるのじゃ」



「分かった。 フィリア、行こう」



「ええ、ミラーナ様、帰りをお待ちしておりますわ」





黒装束と魔物VSミューロン軍は既に勝敗は期している。


第一王女クラリア、回復したブルードマンがそこに加わっていつかの情熱的なダンスの様に暴れまわっているからだ。


数十名、城の方へと強行突破したが、そちらにもミコトが居る。


故に、ベリアローズとミラーナ。


この二人に今回の戦の最終的な勝敗は委ねられているのだ。





「さて、邪魔者は消えたの。 妾の呪いを解いてもらうぞベリア」



「ふん、ミラ……忌々しい魔女め。 300年の恨みを以てアビス送りにしてあげるわ」


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