第10話王との対面
蠱惑ノ森の深部にある滝裏の洞窟で非常に残念な魔女っ娘と遭遇したセンはとりあえず癇癪で無詠唱魔法を連発するのを宥め、話をする事にした。
「で、お前は何でここにいるんだ?」
「ここは妾の隠れ家じゃ。 寧ろ何でと言われればこちらのセリフじゃろう。 何故こんな場所に来たのじゃ?
蠱惑ノ森自体人など寄り付かぬであろうに」
洞窟内の広間より更に奥、そこはまるで外の様な木々が生い茂る空間があり、その一角に小さな小屋があった。
魔女っ娘は無意識なのか何なのか、警戒もせずにセンを招き入れ、紅茶を飲みながら訪ねる。
「俺は人間が嫌いなんだよ。 と言うかさっきも話した通り俺には魔力が無い。 魔法が使えない人間は虐げられるんだ」
「ほう、なるほどの。 それで人気のない蠱惑ノ森に居ると。
じゃがそれ以上の武を持ってるのならそれが露呈すれば問題解決なのではないのか?」
確かに、以前はここまでの武は無かった。魔力も無く、武も低いとなれば恰好の的なのだ。
しかし、今は違う。
実際に虐めの黒幕とも呼べるトマンが俺に対して手も足も出なかった。
なら、魔力が無くとも武を見せれば認められるかもしれないのだが――
「面倒」
そう、その一言に尽きる。
何でわざわざ人の為に動かなきゃいけなくなるような行動をしなければならない。
まして、これまで俺を散々馬鹿にして来た連中の為に、だ。
「お主、まあ過去の事もあるのじゃろうが、それが原因で歪んでしまっておるのか」
「まあ、そういう事だ。 だから今は蠱惑ノ森に住んでる。
丁度良い小屋もあったしな」
「小屋……小屋……はて、そんなものあったかの?
ちなみに、今って何年じゃ?」
唐突に魔女っ娘が訪ねて来た。
普通に考えて今が何年なんて聞いて来る奴はいない。誰もが知ってるからだ。
「変な事聞くのな? 確か双蒼月1350年だったかな?」
星が生まれ、やがて昼間に陽を届ける紅い星、夜を照らす蒼い月が生まれて5000年。
それから蒼い月が新たに誕生してから1350年の月日が流れている。
そうして、この世界は新しい星が生まれる毎に年号が変わるのだ。
「お主もうろ覚えか」
ビシっと鋭いツッコミが魔女っ娘から入る。
「しかし、ふむ……そうか……ならあり得るの」
「何がだ?」
魔女っ娘は顎に手を当て、何やら思考を巡らせていた。
そして、答えに辿り着いたのか、ズズっと紅茶を一口含んでセンの目を見る。
「妾が此処に始めて来たのが丁度300年程前じゃ。
その時、まあ希少ではあったが、それでも魔力が無い者はおったぞ。
じゃが、今の時代は昔と違って魔力無しが本当に稀になったのじゃな。
だから魔力を持たない者は虐げられ、魔力を持っている事が当たり前になっておるのじゃ。
まあ、もっと遡れば寧ろ逆で魔力を持ってる者の方が希少だったようじゃがの。
とは言え、有るのと無いのとでは有る方が良いに決まっておるから、その希少な存在はかなり優遇されたのじゃがな」
魔女っ娘は魔女らしくしっかりと歴史を伝えていく。やはり魔女という存在は博識なようだ。
だが、当然違和感を覚えるのだが――
「300年前って、お前幾つだ?」
「おい、女性に年齢を聞くものではないぞ?」
「女性……ねぇ……」
「貴様……またか、またそれなのか!?」
だって幼顔だし、ちっこいし……なのに300年ってどう考えてもおかしいだろ。
「誰もがそう思う。 まあ魔女っ娘だし、よくよく考えれば別に変じゃないのかもしれないがな」
「はぁ……妾は魔女っ娘ではなく、立派な魔女じゃ!
ミラーナ・ベルン・アンジェリア。 覚えておけ若造!」
「ふ~ん。 ミラーナね。 で、魔女っ娘は――「ミラーナじゃと言うとろうに!!」――」
いや、魔女っ娘が定着しつつあったのに……
ゴホン。
「ま……えっとミラーナは何でそんなにちっこいんだ? 元から?」
「今完全に魔女っ娘と言いそうになったな?」
おいおい、手に魔力溜めてないか?薄っすら光ってるぞ?
「はぁ……、まあこれは呪いじゃ。
昔は魔女と呼ばれる存在はある程度おったのじゃ。
そして、魔女同士の戦いもの。
その結果として、打ち勝ったは良いものの、死に際に呪いを掛けられてしまったのじゃ」
どうやらミラーナがちっこい幼女みたいな容姿をしているのは他の魔女からの呪いのようだ。
しかし、それにしても胸だけが立派って……
「おい、視線がおかしいぞ視線が!」
「いや、呪いって胸には効かないんだなって思ってさ」
「ふん、呪いが解ければかなりの美女じゃからな! その時はお主を顎で使ってくれるわっ!」
「そうか。 まあ何にしても今はちっこいからな。 ちび魔女」
そう告げると、ぐぬぬぬっと怒りを露わにするミラーナ。
これは面白いな。
「とりあえずまあ、話せて良かったよ。 昔は魔力無しが居たんだな。
それだけで十分な収穫だ。 じゃあ帰る」
「か、帰るのか!?」
「ん? 帰って欲しくないのか?」
「い、いや、帰れ帰れ! さっさと帰ってしまえ!」
「何だよ。 まあ、気が向いたらまた来るよ」
「ふ、ふん! 次は殺してやるからのぉ!!」
過激な見送りだこと。
こうして俺は洞窟で魔女との邂逅を果たし、小屋へと戻った。
既に外は日が暮れていて、森の中は一層闇に支配されていた。
「もう少し早く帰れば良かったな。 まあいっか」
・
・
・
そして翌日――
朝の鍛錬を終えて朝食の準備をしていると、カタカタっと普段聞かない不思議な音が聞こえた。
「何だ?」
また面倒な事にならなきゃ良いけど……
って考えるからそうなるのか?
そして予感は的中する。
『たのもー!!』
げっ……この声は……
『セン、居るのは分かっているぞ! さっさと出てくるのだ!』
ドンドンっと入り口を叩かれる。
まるで政府が犯罪者を追い詰めているかの様に……
「うるせぇ! 朝っぱらから何だよ」
「おっ、出て来たな! 早速で悪いが君にとっては面倒事だ!」
堂々と
そして、周囲を見渡せばこの前一緒に居たセリア、そして数名の騎士団と、王女のライナだった。
「セン、久しぶりね」
「ああ、って言うか何事だ? 蠱惑ノ森では考えられない景色なのだが?」
「だから面倒事ってミコトさんが言ってたでしょ?」
面倒だと分かっていてもまるで悪びれた様子もないライナがニコニコしながら近寄って来る。
「入って良いかしら?」
「いや、流石にこの人数は無理だ。 と言うか直ぐにでも帰って頂きたい」
「もう、相変わらずな態度ね。 お父様、どうぞこちらへ」
えっ、
ライナは王女。
そのお父様って事は――
「君が噂のセンとやらか。 こうして会えた事、嬉しく思うよ」
気付けば騎士団に囲まれてその中央には森に相応しくない豪華な服に身を包んだ一人の男が立っていた。
金色の髪に整えられた髭、腰には黄金の剣を下げた、正しく王と呼べる風貌の男だ。
そして、その隣には灰色の長い髪をしてローブを来た王よりも老けた感じの男。
「ええぇ……」
「中に入ってもいいかな?」
「あ、ああ」
仕方なく、渋々中に招き入れる。
そして小屋内のソファにはグランドワイズの王であるグロールが中央に座る。
横にはライナ、後ろにセリアとミコトが控えていた。
「それで、わざわざ蠱惑ノ森に国の王が何用でしょう?」
「いやね、以前娘を助けてくれた。
更にはうちの宰相の、侯爵夫人の命も救ってくれた。
ならば礼を言わなければ王として恥だ。
だが、聞けば君は人間が嫌いで城に招いても来ないというではないか」
「まあ、確かに……」
「ならば自ら出向く方が良いだろうし、それも礼儀の一つだと考えたのだ」
「なるほど。 まあ別に礼を言われる程の事はしてないので大丈夫なんだが」
「そうか、だが私の気が収まらん。 先ずは改めて、ありがとう」
王が頭を下げる事は良い事ではない。しかし、この王は平気で下げる。
それだけ物腰が柔らかいのだろうな。
「私からも、改めてありがとう」
宰相ジェラルも深々と頭を下げる。
そして――
「それと、息子の事……大変申し訳ない。
謝って済む問題ではない事は重々承知しておるが、それでもだ」
宰相の息子、トマン……この人はトマンの父親だったのか。
「父として情けなく思う。 そして、父として息子の育て方を間違えたようだ。
君に迷惑を掛けてしまった」
実際にこうして感謝をされる事に慣れてないからどうしていいか分からんのが本音だ。
また、宰相にしても張本人ではないから謝られても意味が無い。
「謝罪は受け取りました。
しかし、これは宰相殿の問題ではないでしょう。
確かに傲慢で自分勝手な態度、あれはどちらかと言えば護衛に付いた者の命が幾つあっても足りない。
それに、民の上に立つ貴族が平民を蔑むのは未来が無い」
「その通りだ。 私も仕事ばかりで相手をしなさ過ぎた事は反省している」
深々と頭を下げ、とりあえずトマンの話しは終わり。
そして、今度は王がここで口を開き、そして聞いた話の事実確認を行なっていく。
「君は魔力がないと聞いた。 それで学園時代も含めて辛い経験をしたと」
「ああ……ルビアですか?」
「そうだ。 ルビアとは留学の形ではあるがその期間は同期だったのだろう?」
「確かに同期ではありましたが、グランドワイズには関係の無い話でもあります」
「いや、関係がない訳ではないのだ。 グランドワイズはダルージャとも交流はあった。
留学がその証だ。
そして、魔力云々ではないがグランドワイズの学園でもそういった差別は当然ながらある。
だからこそ、同じ大陸の者として謝罪させて頂きたいのだ」
「もう良いですよ。
確かに魔力が無い事で迫害され、虐げられた。
まさか家を燃やされたり恋人を取られたりするとは思わなかったが。
しかも、最終的には国に殺されかけた。
結局王侯貴族ってそんなもんですよね。自分達が良ければいい、自分達の力になるものは取り込み、力にならないものは追い出す。
過去の事なんで別にどうでもいいし、その国はもうない。
それが結果ですよ。
だから俺に害を為した者達を許しはしないですし、横やり入れてくるなら全力で潰します。
もう、一度潰してますけど。
ただ、勿論何もして来ないならこちらから仕掛ける事はしません。
今の生活は俺に合ってるし楽しいですし、俺はただ平穏に過ごしたいだけなんで」
「うむ……」
「まあ、グランドワイズはグランドワイズで今後俺みたいな人間が生まれた時、力になってあげられるような国を築けばいいのでは?」
しっかりと告げた。内容的には如何なものかと思うが、それでもこれが俺の本心だ。
グランドワイズの国王グロールは険しい表情を見せたが、言っている事は至極真っ当な為、「ありがとう」と告げた。
「セン、あなたって人間嫌いな割には良い人よね? 普通に」
すると、センの言葉を聞いていたライナが口を開いた。
「何だそれ。 まあ嫌いと言うか避けていると言った方が正解かもな。
関わるとその時は楽しいかもしれないが、いずれ怒りや悲しみに繋がる。
そんな人生を過ごして来たから自分から関りたくないんだよ。
それに、さっきも言ったけど今の生活は好きだし、楽だからこの生活が崩れなきゃなんでもいい」
「ふふっ、そうね」
「君と話せて良かった。
だが、これだけは注意しておくと言い。
ダルージャは潰えたが、生き残りは少なからずいる。
当然、君の顔を知ってる者も居るだろう。
報復を考えている連中もゼロではない、という事は肝に銘じておきなさい」
王からの言葉はごもっとも。
だからこそ、「分かりました」と一言だけ告げておく。
「よし、では私は国に戻るとする。
ライナ、お前はここに残るか? セリア、ミコト殿は?」
おいおい、この王様何て事を言いやがるんだ。
「なら、少し休憩していこうかな。 お父様がそう仰るなら」
「なら私も残ろう。 騎士団としてライナ王女殿下の護衛をしなくてはならない」
「私も暇だし残るぞ」
「ハッハッハ、センよ! 娘達を頼んだぞ」
ポンポンっとまるで何かを意図していたかの様にセンの肩を叩くと、笑いながら小屋を後にした。
そして、次第に馬の蹄の音が鳴り始め、遠くの方へと消えて行った。
「おいおい、勘弁してくれよ……ただでさえ疲れたのに……」
「あら、じゃあ私が癒して差し上げようか?」
「じゃあ帰れ」
「むぅ! 王女に向かって不敬ね! 罰としてご飯作って!
それと、ヤギのミルクも御所望です!」
急に偉そうな態度を取るライナ。
すると、私も!っとミコトが手を上げる。
ここではセリアだけがヤギミルクを飲んだ事がない。
「ライナ様、ヤギのミルクと言うのは?」
「センが作ってくれるの! ヤギの魔物のミルクなんだけど、すっごい美味しんだよ。 セリアも飲もう!」
「はっ、ありがとうございます」
こうしてさっきの謝罪とかは何だったのかと言えるくらいに女三人にコキ使われるセンであった――
その夜――
「お前等、何で帰らない?」
何故かライナ、セリア、ミコトは当然の事の様に小屋に居座っていた。
「何故ってもう夜だし、森は危ないからね?」
「いや、元々居座る気だっただろ……」
「わ、私はライナ様の護衛だからな!」
セリアは相変わらずライナの護衛だと言い張る。
何よりミコトだ。
「もう食べれない……」
「お前、普通にベッドで寝る準備してるんじゃねぇ。 ってかお前等の所為で二日分の食料が無くなったじゃないか……」
「まあまあ、こんな美女に囲まれて本当は嬉しいくせに」
ライナ、セリア、ミコト、三人共グランドワイズであれば誰もが認める美女であり、実際に侍らかせながら街を歩いたら男達は嫉妬に狂うだろう。
「なら良いんだな?」
「えっ? 何がかしら?」
「美女に囲まれて嬉しいなら、良いんだよな?
「なっ!? な、何でそうなるのよ!?」
ライナは顔を真っ赤にし、胸に手を当てて守りの体勢に入る。
「わ、私は構わないぞ!」
ミコトは既に洗礼を受けている。その為、顔は赤いがどうやら受け入れる気らしい。
「なっ、ミコトまで! そういうのは付き合っているとか、貴族なら結婚してからって言うのが決まりでしょ!?」
「王女、私は貴族ではないしもう既にセンには抱かれている。
だから問題ないのだ!」
えっへんと自信たっぷりにそう告げると、再びベッドに横になり始めた。
準備は出来ているらしい。
「うぅ……良くない! そんなの! 私は絶対にいや!!」
「うるさいなぁ。 とりあえずもう寝る。
お前等どけっ、邪魔だ」
とりあえずミコトを突き飛ばしてベッドに倒れ込む。
「酷い扱いじゃないか、セン! 君はもう少し女性に優しくだな!」
「あ~、はいはい」
「ぐぬぬ……ならばこうするまで!!」
ミコトはガバっと掛布団を持ち上げると、センの横に並ぶように身体を寝かす。
「一緒になるのか? ならお前抱き枕な」
「んっ!?」
ああ、女性特有の柔らかさって良い枕になる。膝枕もそうだが、抱き枕にすればもっと堪能出来るし、最高に寝心地が良い。
「ふ、不潔よ! 信じられない! セリア! セリア!?」
ライナがセンとミコトの姿に耐えかねてセリアを呼ぶが、セリアは顔を隙間を開けた両手で覆い隠しながらもしっかりとベッドを見ていた。
そして、顔を真っ赤にしながら思考が停止しているようだ。
「セリアってば!」
ベシっとライナが肩を叩くと、ようやく意識を戻す。
「ら、ライナ様……ど、どうしますか!? 仕方ないので、私と寝ますか!?」
意識は戻ったが、思考は正常ではないようだ。
・
・
・
そして翌朝――
いつもの様に鍛錬をしようと目を覚ましたのだが……
「マジかよ……」
何故か左右にセリアとミコト、上にライナが居た。
三人共スヤスヤと眠っているのだが、腕はしっかりと捕まれていて動けない。
何より、三方向から甘い香りと柔らかい感触がしっかりと伝わって来るのだ。
「おい!」
大きく叫ぶと三人がビクっと反応し、ゆっくりと目を開けていく。
「おお、おはようセン」
「おはよう、ございます」
セリアとミコトは流石と言える。
一言でしっかりと起き上がり、目を擦りながらも意識を戻していったのだ。
しかし、どこぞの国の王女は全く違った。
「スー、スー」
「おい起きろダメ王女」
ベシっと頭に手刀を放つ。
「いたっ、何? ん~」
「起きろ。 そろそろどいてくれ」
「やっ、まだ寝る!」
おいおい、寝起きは童心に帰るけどここまで露わにする王女様も珍しいぞ。
しかも自分の寝室ならまだしも、見知らぬ他人の、更には男の部屋で……
「ライナ様、そろそろ起きましょう」
セリアが優しくライナを摩る。
っというか横に動かさないでくれ。
「やだ。 もう少しだけだから……」
そういってライナは身を丸くして布団を被る。
「っと、ライナ……それはよろしくないぞ?」
「「?」」
センの言葉にセリアとミコトがハテナを浮かべる。
「何か固いのがあって寝難い……」
「あ~」
ミコトは察したようで納得していたが、セリアは意外と初心なのか、何が何だか分かっていない。
「ライナ、とりあえず出ろ。 じゃないと襲うぞ」
「やだって! もう少し寝させて! 後、これ邪魔よ! 固いの!」
「だからそれは生理現象だ」
「えっ……?」
布団の中がモゾっと動くと、数分停止する。
そして――
「きゃぁぁぁぁ!!!」
ようやく理解したのか、ライナが跳び起きた。
「やっと出たか」
「なっ、何で、こんなっ、変態! 最低よ! やっぱり信じられない!」
ドゴッ!っとライナの拳が鳩尾目掛けてクリーンヒット。
「うぐっ!?」
「はぁ、はぁ、もう……やっぱりお嫁に行けない……ううぅ」
そして、セリアもようやく事の真相に辿り着いたのか、顔を真っ赤にし始めていた。
「いってぇ……生理現象だって言っただろ……ってか勝手に忍び込んでおいて暴力とかお前こそ最低だぞ? 暴力王女」
「だ、だって! そんなの知らないもの!」
「今知ったじゃないか。 そんなんじゃ実際に初体験する時大変そうだな」
「うっ、うるさい! バカ!」
こうして、ようやく朝の鍛錬を開始出来る様になった。
ブォン!
ブォン!
いつものように大太刀を1000回素振りをする。
今回はミコトとセリアも混ざった。
すると、ミコトが目の前に立つ。
「セン頼みが――「断る」――」
「いや、まだ言ってないぞ!? と言うか出来れば最後まで聞いて欲しいのだが!」
「えぇ~、だって面倒そうだし……」
「きっと楽しいぞ!? なっ!? だからとりあえず聞いてくれ!」
「分かったよ。 で、何だ?」
「実は今度、ハンターの昇級試験があるのだ。 それに受かれば私は銀になる」
銀、上から3番目の特級と呼ばれる階級だ。
世界には何人かいるが、それでもそこまで昇り詰められるのは凄い事でもあるのだ。
「それで?」
「一週間でいい! 一週間で良いから私に修業を付けて欲しい!」
「断る!」
「はやっ!? そこを何とか! 後生の頼みだ! 何でも言う事聞くから!
」
何でもって言ったな。
しかし、そこまで俺を頼るとは……物好きなやつだな。
「今、何でもって言ったよな……」
「いっ、た……が……ちょっと待て、セン! 顔が怖いぞ! 悪意に満ちている!」
「まあ今何をして貰うかってのは思い浮かばない。
だからその時に言う。 ってかお前は面倒事ばかり持って来るなホントに」
「じゃあっ!!」
「一週間な」
「やったぁ!!」
ミコトはこれまでに見せた事のないほどに満面な笑みで喜んだ。
流石は倭の女神。
その笑顔は誰もが心を射抜かれるだろうよ。
「じゃあとりあえずこの大太刀で素振り5回な」
ガシっと先程まで振るっていた大太刀をミコトに渡す。
「うおっ」
それを受け取った身事は女性らしからぬ声が漏れた。
「そんなに重いのかそれは?」
すると、その様子を見ていたセリアが自身の素振りを終え、近寄ってきた。
「ああ、これは持つだけなら何とかなるが、素振りかぁ……前に2回は出来たが、5回……」
「どれどれ」
ガシっとミコトからセリアへ大太刀が運ばれた。
「むぅ、こ……これは……こんな重さの太刀をあの速さで!?
センは化け物だな……」
そして、ミコトが大太刀を振り被り、胸の前まで振るうとそれを止めてみせた。
が――
「セン、こ、これ……後、4回……やる、のか……?」
一度の素振りを行ない、ぐぎぎっと力を入れているその姿は既にプルプル震えている。
「まあ無理にはしなくていいぞ。 それで腕壊れたら意味無いからな
とりあえず、限界までって事で」
こうして、センはミコトに武芸を指南する形となり、結果的に一週間泊まり込みの生活が始まったのだった――
結局俺の平穏はまた遠のいた……
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