第5話倭の女神


グランドワイズ国の第一王女であるライナが無事に送り届けられた事で、街は安堵に包まれた。


そして、早速ライナは謁見の間へと訪れ、起こった事の顛末を父であり、グランドワイズ国王のグロール・レグ・ワイズへと伝える。



「ライナ、無事で良かった。 心配したぞ」



「本当よっ! もう会えないかと思ったわ」



母であり、王妃のリザーナも涙を浮かべながら目の前の愛娘、ライナを優しく抱きしめている。


謁見の間にはその他に、王太子のトールと王太子妃であるルビア。


第二王子のデリー、騎士団長グロッグ、騎士団長の娘の第一部隊隊長セリア、その他大臣や宰相などが集ってた。



「お母様、お父様、ご心配おかけして申し訳ありません。

ライナ・レグ・ワイズ、無事帰還致しました」



ライナが抱きしめる母から少し距離を取ると、跪いて敬意を表する。



「本当に無事、戻って来てくれてありがとう。

疲れもあると思うが、何があったのかを報告してくれ」



「はい」



王、グッロールの言葉にライナは港町へ物資を取りに向かった事、帰り道に盗賊に襲われ、その物資諸共奪われ、護衛が数人殺されてしまった事。


そして蠱惑ノ森に逃げ込み、一人の青年が助けてくれ、その青年と共に無事国へと戻って来れた事をしっかりと伝えていく。




「なるほどな……しかし、蠱惑ノ森に住んでいる青年とはまた……」



「父上、宜しいでしょうか?」



すると、トールが発言の許可を求めた。



「何だ? 申せ」



「その青年ですが、名を流閃と言います。

そしてルビアが昔、ダルージャへ留学していた頃の同期となります」



「そうだったか。 しかし……流閃とは確か……」



「はい。 幼少期にやまと国から勘当され、ダルージャの親戚に預けられたそうです。 

〝魔力が無い〟という理由で」



トールのその言葉に控える騎士達までもがざわつき、大臣や宰相などは確かその様な者が居たな、と思い出したように呟いた。



「お父様!」



すると、今度は当事者であるライナが口を開いた。



「センは魔力が無い事を理由に虐げられ、学園や国からも見放されたと言っておりました。

詳しくは分かりませんが、ルビアお義姉様も力及ばずに、今では人間を嫌い、信用せず、誰も来ないあの森に住み着いたようです」



「なるほどな。 だが……ダルージャか……」



グロールは顎髭を撫でながらも神妙な面持ちで言葉を放った。



「魔力無しの者が居るという事は知っておった。国同士の情報は命綱になるからな。


しかし、ダルージャ国は。」




ダルージャ国へ入国する為には、入国申請が必要になる。


この時にその者の情報を保管し、過去に犯罪などの経歴がある場合は入国を拒否する事も出来るのだ。


故に、センが倭国から預けられた際もセンの情報はしっかりと記録された。


当然〝魔力無し〟という情報も。


そして、センが親戚から迫害され、学校では虐げられ、恋人だったネリアの魔力が覚醒した際には国が後ろ盾になりロービンとの婚約へと繋げた。


また、センが家を燃やされた時も国自体が見て見ぬふりをしたのだ。


その対応にセンは怒り、暴れたが結局は取り押さえられ、王侯貴族への不敬罪で国外追放となってしまったのだ。


唯一ずっと過ごして来た物置は残り、センは全てを忘れる為に一心不乱に大太刀を振るった。


この時、毎日欠かさず鍛錬を続けていた事で高等部へ上がった時にはしっかりと素振りなど出来るようになっていた。



しかし、たまたま鍛錬する姿を見た国の兵士が「謀反を起こす」と勘違いをし、「やはり魔力無しがこの国へ居てはならん! 倭の時実家へ伝達しておけ」と王命を出し、実父である時実家当主からの承諾を経てセンを討つべく兵が動いたのだ。



「だが、失敗した。

大太刀を振るい続けたかの者は既にその武が自身の想像を超えるものとなっていたのだろう。


兵は皆返り討ち、そして生き残った兵からの情報では恐らく兵が動いた事で国への憎悪が爆発し、やがては王城へと赴き、王を殺害。


その後、姿を消したと聞いていた……のだが……」




「私も魔力云々ではないとどうにか力になりたかったのですが……力及ばず……彼に辛い思いばかりさせてしまいました……


国からも迫害され、その命さえも奪われそうになってしまった……流閃様の気持ちを考えると……」



「うぅ……」と涙を流し、トールの方に額を当てる。



蠱惑ノ森の魔物は狂暴であり、上級ハンターや騎士団であれば部隊を率いていかなければ討伐は難しい。


そんな森に住んでいるとなれば、それ相応の武が無ければ不可能な場所。



「私も目の前で見ましたが、恐らく実力だけで見れば銀級、もしくは金級のハンターに匹敵するかと」



〝おお!〟



再びライナの言葉に周囲が驚きと感心を込めた声が湧き上がった。



「魔力を持たず、武だけでそれほどの実力か……」



今度は騎士団長のグロッグが興味津々な様子で発言する。



「父上、私とどちらが強いでしょうか?」



グロッグの娘、セリアも興味を抱き、そう発するとグロッグがライナに詳細を訪ねた。



「そうですね……最初に助けてくれた時はグレードボアを初太刀で二頭真っ二つに。

剣閃は全く見えず、私自身何をしたのかは分かりませんでしたが」



「ほう」



グレードボアはイノシシの魔物で、体調は3メートルから5メートル。


突進されれば騎士やハンターでもその衝撃で吹き飛ばされてしまう狂暴な魔物だ。



「剣閃が見えずに二頭を真っ二つか……セリア、それが本当ならお前より上かもしれぬな」



「やってみなければ分かりません」



セリアは少しムっとした表情を浮かべて拳に力が入った。



「娘を守ってくれた男が人間嫌いか……ダルージャの事もあり、犯罪者を城へ招待するのは問題だ。

まあ、招待出来たとしても断られるだろうが」



「センは私に対しても敬意は皆無でしたから、恐らく……それが不敬と言われればそうなのですが……センの過去を考えると強く言えません」



王の言葉にライナも少し悲し気な表情を浮かべる。そして、その話を聞いていたトールやルビアも同じ様に俯いてしまった。



「まあよい、機会があれば礼をさせて貰おう。

ライナ、ゆっくりと休むといい」



「はい、ありがとうございます」



こうしてライナの近況報告は終わり、それぞれが公務や部屋へと戻って行った。










その頃、センは急ぎ足で戻り、既に蠱惑ノ森の中央まで来ていた。


既に日は暮れ始め、森の中がより一層深みを増していく。



「はっ」



シャキンっと音を響かせ、一刀。


そしてまた一刀と襲い掛かって来る魔物を返り討ちにしていく。



「おっ、今日の夕食にちょうどいいな」



額に角を生やした兎の魔物を数匹狩ると、そのまま器用に捌いて布に仕舞う。


今日は兎のシチューにでもするか!


そう考えながら歩いていると、どんどんお腹が空いていく。


そしてようやく小屋へと辿り着き、そのまま夕食の準備をしていった。



「やっぱ一人が一番! もう誰も来ませんように」



俺の平穏は邪魔させない!人が増えると食料もそれなりに減るからな。



こうしてのんびりとした時間が戻り、いつも通り鍛錬をし、食料を狩ってという日常が戻って一ヶ月。





辺りは冬季が訪れ、蠱惑ノ森でも雪が積もり始めていた。


獣達は冬眠の準備を始めるのだが、魔物は基本冬眠はしない。


ただ、食料となる獣が冬眠に入ってしまう事で人を襲う頻度が高くなるのだ。


その為、街や国のハンターギルドでは魔物の討伐依頼が増えていた。


しかし、蠱惑ノ森は別だ。


勿論、魔物と獣の関係性は同じなのだが、それでも近隣国のハンターはわざわざ危険を冒してまで蠱惑ノ森へは来ないのだ。



「寒っ! 雪ばっかだと食料に困るな……ある程度は備蓄があるけど……」



蠱惑ノ森に住んでいる魔物と同様に、俺も困っている。


一週間くらいなら生きていけるが、それ以降の食料は無い。


最近、その食料を探しに索敵範囲を広げてはいるのだが、一向に獣は出てこない。


まあ、出てきたらそれはそれで魔物の餌にされてしまうから仕方ないんだけど……


こうなりゃ魔物の肉をどうにか美味く調理するか?


そんな事を考えながら暖炉に火を汲み、鍛錬で冷えた身体を温めていると――



〝たのもー!!〟



突然、外から大きな声が響いた。



「えっ……」



『たのもー!! 人の気配がするのだが、中に入れてもらえないだろうか!!』



「うわ……マジか……」



出る事を渋っていると、段々外から聞こえる声が荒くなり、しまいには入り口のドアがドンドンと叩かれていく。


まずい、ってかあんな強く叩いたら壊れるだろ!


この時期ドアが壊れるって地獄だからな!この野郎!ちくしょー!!



「叩くな叩くな! 壊れたらどうするんだ!?」



「おっ、やっと出て来たな!」



ドアを救出すると、目の前には艶のある黒髪を一本に束ねた美少女が立っていた。


寒さで鼻が赤くなっているが、柔らかな表情で背が高く、胸も大きい。


黒い袴と真紅の着物を着た、この場に全くそぐわない服装をしている女だ。



「何だ? ってか何でこんな所に人が来るんだよ。 蠱惑ノ森だぞ?」



「いや、それを言うなら君こそ蠱惑ノ森に小屋なんか建てて、まるでここに住んでいるようじゃないか!」



「俺は住んでるんだよ。 で、何だ?」



「済まないが雪が降って来てしまったのでな。 不躾だが、一晩泊めてはくれないだろうか?」



確かに空を見上げれば雪が降り始め、風も朝に比べると強くなっている。


このまま外に居れば凍死するだろうな。


しかし――



「いや、断る。 俺は人間が嫌いだからここに住んでるんだ。

悪いが――「では、これでどうだ?」――!?」



いつも通り断りを入れて中に戻ろうとしたが、女は引き下がらずに条件だとある物を指した。


後方はいつの間にか不自然な形で盛り上がっていて、雪が被って何が置いてあるのかは分からない。



「先程襲い掛かって来たものだからつい討ってしまってな。

良ければ食料として受け取ってくれ。

熊一頭分だし、君も助かるのではないか?」



うりうりっとニヤ付きながらも女は盛り上がってる膨らみの雪を掻き分けて見せた。


すると、そこには言われた通りの大きな熊が倒れ、既に絶命している。


魔物ではなく、しっかりと獣の方の熊だ。



「うっ……」



「おっ、その反応からすると食料に悩んでいたな? どうだ!

泊めてくれるならこれをお礼として渡そう」



「わっ、分かった。 背に腹は代えられん」



「よしっ! 交渉成立だな。 この熊はどこに置けばいいのだ?」



「じゃあ、そこの倉庫に。 後で捌く」



すると、女は倒れている熊を難なく持ち上げ、そのまま倉庫に突っ込んだ。


背は高いが細身の割にかなり鍛えられてるんだな……











「改めて、助かった。 私はミコト。 ハンターを生業としている」



丁寧な正座で深々と頭を下げたミコトはニコっと柔らかい笑顔で挨拶をした。



「俺はセン。 とりあえず冷えてるだろうし、ホットミルクでも飲め」



コトっと机にコップを置くと、「恩に着る」とミコトがソファに腰かけてゆっくりとホットミルクを口に含んでいく。



「わわわぁ、美味しい!」



ん~っと目をぎゅっと瞑ってその美味しさを表情で表し、満足した様にゆっくりと飲み干していった。



「で、ハンターでも寄り付かない蠱惑ノ森にわざわざ何しに来たんだ?」



「まあ、討伐は討伐だ。 ただ、標的だった魔物が森近くの畑を荒らしていてな。 それを追いかけて来たらこの森の中に逃げ込まれてしまったのだ」



「それで探してたら迷って、気が付けば雪も降って来たからここに、か」



「その通り」



「はぁ~」



そういう方法で人が入り込んでくる事があるのか、と改めて勉強になったセンだった。



「まあいいではないか! こんな森の奥で一人寂しく過ごすよりも、このと謳われる私と一緒に過ごせるんだからな!」



「要らん! 帰れ」



「なっ、辛辣な……君は性格が歪んでいるのか!?

大体の男は女神と聞けば飛び込んでくるものだぞ!?」



「自分で言うなよ。 ってかお前も大概だろ」



むむっと納得がいかない素振りを見せながらも、ホットミルクのお代わりを要求してくるミコト。



なお、ハンターは階級がある。


・七色ハンター 覇者

・金色ハンター 英雄

・銀色ハンター 特級者

・黒色ハンター 上級者

・赤色ハンター 中級者

・青色ハンター 初級者

・白色ハンター 見習い


ミコトは上級ハンターで、黒いプレートをぶら下げている。


もうすぐ特級の銀色へと昇級出来るそうだ。


ちなみに、俺は青色。


まあ、別に最初の頃はお金を稼がなきゃと始めただけで、実際には蠱惑ノ森で問題なく過ごせてるから正直に言えばハンターなんてならなくても生活は出来た。



「で、君は何故こんな辺鄙な所に住んでるのだ? 人間が嫌いと言っていたが?」



「ああ、人間が嫌いだからここに住んでるんだよ。 人は寄り付かないし、別に食料は魔物や獣を狩ってれば問題ないからな」



「なるほど、しかし寂しいだろ。

話し相手も居ないのだぞ? 


あっ!さては君、女を知らないな?

だから求めない、故に寂しさの感じ方も薄いのではないか?」



ミコトはニヤニヤしながらセンを追求していく。


確かに女は知らん。と言うか昔に交際していた時期も、それこそ手を繋ぐ程度だったが、魔力無しと虐げられてからは恋愛などの概念も飛んで行ってしまった。


だから――



「知らんし興味もない。 俺は思春期をどっかに置いてきたようだ。

と言うか女がそういう発言をするのもどうかと思うぞ?」



「よいではないか、よいではないか。

私は貴族でも無ければ淑女でもないからな。

寧ろハンターがそんな感じだと狙われるのがオチだ。

ならいっそ開き直った方が好感が持てるものだ!」



「まあ、確かにそうかもしれないな」



「であろう? どうだ、久々の女子は!?

しかも美人、ハンター共なら我先にと襲い掛かってくるぞ」



確かに美人だが、こういった発言は寧ろマイナスなんじゃなかろうか?


まあ本人が楽しそうならそれでいいんだが……


すると、



「あっ!!」



ミコトが部屋の奥に視線を向け、何かを発見したようにバっとソファから立ち上がるとベッドの方へと駆け寄った。


そして、立て掛けてあった大太刀の前に座る。



「これは君の武器か!?」



「ああ」



「三本とも?」



「まあ正確には二本だな。 大太刀と太刀。 

小太刀は魔物とか捌く用だから」



「ほお!」と、まるで鍛冶屋職人の様に大太刀を隅々まで見渡し、そして持ち上げる。



「この重さ! 間違いない!」



「どした?」



何故か大太刀を持ち上げながらテンションが上がっているミコト。


その様子を見ながらも訪ねると、ミコトは嬉しそうに語り出した。



「大太刀は今は造られていない武器なのだ。

倭国では数百年前に何本か造られ、普及したのだが、結局は重すぎて扱える人間が少なかった為に太刀へと戻って行った。


だが、それでも大太刀を扱う武士が何人か居て、その大太刀は倭国の宝物庫に保管されているらしい。

私は一度で良いから大太刀を見て、触れてみたかったのだ」



そこまでの熱を持っているのは珍しい。まあ、確かに珍しいものである事は俺も知っているが。



「抜いてみても良いか?」



「ああ」



シャキンっと抜刀されると長い刃が露わになる。


しっかりと掃除がされていて刃こぼれもない。



「丁寧に扱っているのだな」



「まあ、唯一の友みたなもんだからな」



「そうか、すまなかった。 ありがとう」



シャキっと大太刀を納刀し、元の場所へ戻すとそのままソファへと腰かけた。



「センは倭出身なのか? 大太刀もそうだが、何となく雰囲気も……」



「まあ出身はそうだが、勘当された身だ」



「そ、そうか……私も倭出身だからな」



「倭の女神だっけ? まあ美人だしお似合いの二つ名だと思うぞ」



性格を除けば、の話しだが



「そ、そうか!? 女に興味がない君に言われると、何だか嬉しい限りだな!」



「先に言っておくが、興味がないって言うのは女にじゃなくて、恋愛とかの人付き合い、人間関係がだからな?」



「んん? なら私には興味ないが、この身体には興味があると、そういう事か?」



スッと立ち上がり、何故か悩まし気なポーズを取り始めるミコト。


背も高く、豊満な胸によって大抵の男ならミコトに誘われれば寧ろ懇願する勢いかも知れないな。


だが、やはり発言が引っ掛かる。



「お前は……痴女か何かか?」



「ち、痴女とは失礼な! これは森の奥に住み着いて女性との接点が皆無な君への哀れみとだ!」



「悪戯って言ってもな。 まあ素晴らしい身体だとは思うが、やっぱりその発言がどうも台無しにしてる感が……」



思った事をストレートに伝えると、ミコトは少し悔しそうにした。



「な、ならこういうのはどうだ? いや、どうじゃ?」



「はい?」



突然、口調を変えると何故か胸元を緩めて右肩だけを露出させる。


白く、まるで外で降り注いでいる雪の様な素肌。


傷も無く、ハンターとは思えない程綺麗なものだ。



「我慢せずとも良い。 この身体、好きにしても良いのじゃぞ?」



コイツはちょっと調子に乗ってる気がするな。


あまり俺を弄るとどうなるか、そろそろ教えてやらなければならなそうだ。


そう考え、鋭い視線を送りながらゆっくりミコトに近づく。



「おっ、ついに興味が表に出て来たか!

あっ、違った。

ほれ、据え膳喰わぬは男の恥じゃぞ?」



スルスルっと着物が滑り落ち、豊満な胸がもう少しで露わになってしまうギリギリの場所で止まっている。



「お前、後悔するなよ?」



「ふぇ?」



そう一言だけ告げると、センはバっとお姫様抱っこをしてベッドまで無言で運んでいった。



「あれ……な、何を……?」



「口調、戻ってるぞ」



「いや、その~、ちょ、ちょちょちょ!」



バンっと乱暴にベッドへミコトの身体を投げると、そのまま上から覆いかぶさる。



「ん? 誘ったのはお前だろ?」



「いや、そのぉ~、何の事だろうか……?」



「自分の行ないを悔やむんだな。

据え膳喰わぬわ、だろ?」



着物の帯を緩め、既に肩が露出されている状態の胸元を一気に広げると、ドーンっという効果音が響きそうな雰囲気でミコトの大きな胸が露わになった。



「わわわっ、ちょっと待って! お願いだから、待ってくれ!

私が悪かった! やり過ぎた!」



「遅い! 断る!」



「そんな、ご無体な!」



「だから自分の行ないを悔めって。 女を知らないと馬鹿にしたお前が悪い」



「っ~~~!?」



「まあ、たまにはこういうのも良いな」



ミコトの至高とも呼べそうな胸元へ手を滑らせると、「んっ……」っと観念したのか、顔を赤らめながらもそれを受け入れた。


倭の武士だけあって覚悟と責任は持ってるようだ。



「その、優しくしてくれると……助かる」



「どうだろうな。 経験がある訳じゃないから分からん」



「なっ、だがその手付きは……んっ、ああっ!? ほ、本当にか!?」



次第にミコトの着物は全て剥がされ、目の前にはまるで透き通る白い肌とメリハリのある魅惑の身体が露出した。



「お前、すごいな? 色々と」



「うっ、褒められているのか貶されているのか分からん!

それにっ! セン! こうなれば自棄だ! 貴様も脱げっ!!」



こうして二人は初対面にも関わらず、ミコトの悪戯心から思わぬ展開へと発展してしまったのだった――











「うぅ……こ、こんなはずではなかったのだが……」



「これに懲りたら控えるんだな。

にしても……」



「何だ? 良かったのか!? せめてそう言ってくれ!

そうでなければ悲しくて悔しくて心が折れてしまう!!」



「いや、まあ良かったは良かったけど……疲れるな?」



「はいっ……!?」



うん。美女を抱けたという事実はまあ良いとしても。


夢中になるほどかはまた別だ。


それに、人間嫌いな俺からすればずっと肌を密着させてるのは辛い。


早く一人になりたい。


まあ、今日は泊めなきゃいけないから仕方ないが……



「そういえばお前はではないんだな?」



「貴族ではないから別に結婚するまではとか、貞操概念は堅くはない。


だ、だからと言って誰かれ構わずではないんだぞっ!?

いや、君との流れを考えると良い訳にしかならないかもしれないが……って何を言わせる!!」



「知らん、自分で言ったんだろ。 とりあえず飯作る」



「あ、ああ。 すまない」











なっ、何なのだこの男は……


確かに私が反応を見て楽しみたいから少しからかってみたのだが……結局最後までされてしまった。


まあ嫌なら本気で抵抗すれば良かったのだが、泊めてくれるし、自分から仕掛けた申し訳なさから受け入れてしまった。


同じ倭の人間というのもあって許してしまったのもあるが……


し、仕方ない!


してしまった事を悔やんでも解決はしない!


切り替えよう!


それにしてもあの大太刀……あれを扱える人間が居たのか。


持ち上げる事は出来たが、あれで戦闘をするとなるとかなりの鍛錬が必要だ。


もしかして……センと言う男はとんでもなく強いのでは?



「おい、シチューで良いか? 簡単だし」



「あ、ああ! 何でも大丈夫だ。 寧ろ御馳走になる側だから文句など言えない。

助かる」



人間が嫌いと言いつつも、世話焼きっぽいな。


時おり優しさを感じられる。


だが、なぜ人間が嫌いなのだ?


倭では勘当されたと言っていた。


余程大きな問題を起こさなければそんな事はまずないのだが……



「セン」



「何だ? 急に名前で」



「言いたくなかったら良いのだが……何故、勘当されたのか聞いても良いか?」



「ん~、まあ良いけど。 俺は魔力が無い。 それで勘当された」



「まっ!? 魔力が、無い……!?」



「そう。 誰もが普通に持ってる魔力を俺は持たなかった。

だから武家としてそんな子は要らんってな。

その考えは倭だけじゃなくて、どこに行っても同じだろ。

学園に通えば虐げられ、哀れみの目で見られ、大人は何事もなく空気として扱う。

そんな環境に嫌気が差してここに住んでるんだ」



「そうだったのか……すまない。 何て言えばいいのか……」



「別にお前が何を言っても何かが変わる事はないから心配すんな。

それに今の生活が好きなんだ俺は」



「セン! なら、寂しくなったらいつでも言ってくれ! 私が力になる!」



「おいおい、お前ここに居座る気か!?

勘弁してくれ。

俺は一人が好きなんだ」



「じ、じゃあたまに来ても、良いか……?」



「まあたまにならな。 ってどうした急に? 抱かれた事で情でも湧いたか?」



「そ、そうじゃない! ただ、何となく、その、ああ! 分からない! 分かったら伝えるっ!!」



「お、おお」



突然、何やら混乱したらしくミコトがわーわー言い出した為にこの話は終わりだ。


もう少しで飯も出来るし、とりあえずのんびり過ごそう。



「シチュー出来たからとりあえず服着てこっち来い」



「あ、ああ! 良い匂いだな」



ミコトはセンのシャツを借りてソファに座ると、シチューを食べ始める。


パンはない。


シチューのみだが、こうしてのんびり過ごす時間が何よりも好きだ。

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