第3話過去

二人が小屋へと戻った時には既に夕日が沈んでいく頃――


小屋に戻ると、第一声が「手当して」だった。


全く、どこまで図太い女なんだ。


仕方なくベッドに下ろして足を冷やし、包帯を巻く。



「それで、あなたは何者なの?」



「何者って人間だけど?」



「そうじゃない! さっき猪倒した時、何したのよ」



どうやらこの女には何も見えてなかったらしい。



「別に、ただ刀を抜いて斬って戻しただけだ」



「はっ~~!? そ、そんな動作なんて一つもなかったじゃない!」



「いや、したけど? まあ見えないならそれはそれで俺の鍛錬の成果だから喜ばしい事なんだが」



「そ、そう……鍛錬、ね……」



何故か鍛錬という言葉に反応を示し、そこから何も話さなくなってしまった。



「とりあえず、もう遅いし、泊めてやるけど、明日には帰れよ」



「だから道が分からないし、まだ足痛いから無理!

そこまで帰って欲しいなら送ってよ、ちゃんと! グランドワイズまで!」



「おいおい、図々しい上に厚かましいな」



「出た! またそうやってすぐ嫌そうな顔をする!」



「嫌じゃなくて、なんだよ」



「何でそこまで毛嫌いするのよ!」



「別にお前に話す必要はない」



「あのねっ! 転がり込んでおいて言うのはあれだけど、あなたかなり失礼よ?」



「失礼? 俺は自分主義なだけだ。 寧ろ、だからここで暮らしてるんだよ。 

それに、失礼と言うなら俺からしたらお前の方だ。

女を助けるのが普通みたいなそれこそ自分主義な発言ばっかりしやがって。

人の穏やかな生活ぶち壊してよく言うわ」



「うぅ……そんな、酷い事……言わなくて、も……いいじゃない……うぅ……」



おいおい、人には散々な事言う割に言われると打たれ弱いってなんだよ。


俺、悪くないぞ?



「私だって……居たくて、ここに、居るんじゃ、ないもぉん!!

魔物だって、一人では初めて倒したし……でも、……でも、怖かったんだからぁ……あんたが来てくれた時、安心したのにぃ!!!」


次第に涙が止まらなくなったのか、うえ~んっと大きな声で泣き叫び出してしまった。










「とりあえずこれ飲んで落ち着け」



「……ありがと……」



散々泣き喚いて落ち着いたのか、目を真っ赤に腫らした女はホットミルクを手に取り、ゆっくりと口に入れて行く。



「……美味しい……」



「当たり前だ。 山羊の魔物の乳だからな。 

魔物の肉は不味くても乳は美味いって発見したんだ。

まあ、魔物の肉も調理次第ではあるが」



「そっか……それで、何でこんな所に住んでるの?」



「言う必要はないって言っただろ。

まあ、簡単に言えば人が嫌いだから。 

一人の方が楽だし、穏やかに過ごせる」



「人が嫌い……それで私をさっさと追い返そうとしてたの?」



「そういう事」



正直、こうして誰かと話すのは久しぶりだ。とはいえ、嬉しくも無ければ楽しくも無い。


寧ろ気疲れするから好ましくない。



「色々とごめんなさい」



すると、突然女はこれまでの我儘や暴言に対して謝罪し始めた。


人間が嫌いだからという部分を知ったからだろうけど、別に求めてないぞ?



「別に気にしてない。 寧ろ謝られるとそれはそれで俺が困る」



「変な人……ふふっ」



目が腫れてるのがあれだが、それでも女は笑うとかなり美人だった。


いや、そもそも美人で、笑う事で攻撃力が何倍も高まるのだろう。


俺じゃなかったら直ぐに落ちただろうに。



「あっ、今更だけど……ライナ・レグ・ワイズよ」



「っ!? レグ・ワイズ……王族だったのか」



「あっ、その辺の知識はあるのね?」



「当たり前だろ。 まあ、だからと言って畏まったりはしないけどな」



「そこが失礼に感じるのよ。 お前なんて言われた事なかったし……

ううん、でももう必要ないわね。 で、あなたは?」



「……センだ」



「セン、か。 じゃあセン、改めて明日、グランドワイズまでの護衛をお願いしてもいい?」



「……」



「いい?」



「はぁ~……断ったらまた泣き喚くんだろ?」



「ううん、ここに居座る」



この女は何て性格してるんだ……ニコっと微笑みながら有無を言わさずのオーラを放ちながら言いやがった。


と言うか王族で未婚の女が男の家に居座るとか……本当の意味で俺の平穏が奪われかねない。



「分かった……」



「今、色々考えたでしょ?」



「そりゃあな」



「ふふっ、性格の悪さはお互い様ね? じゃあ宜しく」



「街には入らないからな。 街の前までにしてくれ。

あんな人込み頭がおかしくなる」



「いいわよ。 じゃあ交渉成立~!」



すると、ぎゅるるるるっとライナのお腹が鳴り響いた。



「わっ、私、じゃない、からねっ!!」



「はいはい。 さっきの猪焼くから待ってろ」



「うん」



何でこうなった……まさかここで二人分の食料が一日でなくなってしまうとは……そんな事を考えながらセンはせっせと猪の肉を焼いていく。


すると、ライナが刀に視線を送り、センに尋ねる。



「これ、太刀が三本あるけど全部センが使うの?」



「ああ、でも基本的には大太刀だよ。

人相手や狭い場所なら普通の太刀。

小太刀は素材を集める時くらい」



ライナが不意に置いてある大太刀に手を掛ける。


ズシっとかなりの重量があり、座った状態だと持ち上げる事すら出来なかった。



「セン、これいくら何でも重すぎない?」



「最初は持ち上げるのもやっとだった。

今は問題ないけど」



「だって……この重さであの速度なのよね……」



「何?」



「あ、ううん! 何でもない」



(人が近寄らない森に住み着き、普通の人じゃ振るえない程の大きな刀を……センと言う男の武、かなり凄いんじゃ……)


そうライナがセンの後姿を見ながら考えていた。


そして数分後には猪の肉のステーキが机に並ぶ。


香ばしい匂いと食べ応えのある肉の塊に、ライナの目が野生化していくようだった。



「うわぁ~、これぞ野外飯よねっ! 城では絶対に出てこないやつ!」



「お前、目が獣と化してるぞ」



「ふっふっふ、喰らってやるぞぉ! 頂きますっ」



カブっと肉に食らい付き、美味しそうな表情を浮かべる。



「ライナって本当に姫なのか?」



ひふへいへ失礼ねっ!」



「はいはい、食べてから喋ろうな」



結局ライナは喋る事なくしっかりと肉を食し、満足げな表情で「ふぅ~」と一息ついた。



「そういえば、結局お前は何でこんな所に居たんだ?」



「あっ、話してなかったね」



「まあ、盗賊とか彷徨ってたとか聞いたらそれなりに予想は付くけどな」



と言う訳で、ライナは港町の帰りに盗賊に襲われ、逃げ付いたのがこの場所だった事を一応センに説明した。



「盗賊ねぇ~、まぁあいつらもこの森には入って来ないからな」



「もしかしてセンがここに住んでるのって……」



「そりゃあ当然、さっきも言ったが人が来ないからだよ。 

だからお前がここで倒れてた時は参ったな。 

面倒事か?って思ったし、後はそうだな……持ち上げるにしてもとは考えた」



「あっ、へ、変な事してないでしょうねっ!?」



突然ライナは顔を赤らめて怒り口調で言い放つ。



「するかよ。 人間嫌いだって言ってるだろうに」



「で、でも興味は、あるんでしょ? その、は、裸とか、おっぱいとか……」



「いや、自分で言って赤くなるなよ」



ライナは自分から発言した癖に顔を真っ赤にして俯いてしまった。



「うぅ、だって恥ずかしいじゃない!」



「なら言わなきゃいいのに。 興味はそりゃああるけど、無くてもだな。

強いて言えば今の所見せて貰ったり触らせてくれそうなの、ライナしかいないし」



「はっ!?」



センの突然の発言にライナの顔は先ほどよりも赤みを帯び、まるで熟した木の実のようだった。



「いや、だって俺知り合いとかいないし、寧ろ仲良くなりたくないし、なら一応こうして話せるライナにしか頼めないだろ?」



「い、いやよっ! 何言ってるの!? バカ! 変態!」



「自分で話振っておいて意味の分からない奴だ」



ライナは顔を真っ赤にしながらも怒りでセンをポカポカ叩く。



そして、その夜――



「先に言っておくけど、ベッドは一つしかないからライナ床な?」



「えぇっ!? 普通、女性にベッド譲るものでしょう!?」



「出た、お前の普通。 ってかそもそも俺が招いたわけじゃないし」



「そ・れ・で・も! 寧ろ王女の私と同じ部屋で寝れる事自体、光栄に思うのが民の思考でしょう!?」



「それ、傲慢って言うんだぞ? 後、俺はグランドワイズの民ではない。

ん~、なら一緒に寝るか? ベッドで」



「いっ、一緒に!? まさか、私の身体を……やっぱりセンって変態だったのね!?」



「なら床な?」



「うぅ……わ、分かったわよ……ベッドで、寝る……

ぜ、絶対に触らないでよ!! って言うか反対向いてよねっ!!」



仕方なく、警戒心たっぷりで枕を抱きながら防御態勢に入ると、そのままそっとベッドに入り、背中を向けてライナは横になった。



「な、何かしたら殺すわよ」



「こえーな、王女様からの言葉には思えない」



「だって……その、男の人と一緒なんて初めてだもの……」



「大丈夫だ、俺もだから」



次第に部屋は静寂が支配していく。


すると――



「ねぇ、セン」



「ん?」



「何で、その……人が嫌いなのか聞いてもいい?」



「ああ~、まああまり言いたくはないけど……」



「そ、そう……」



「〝俺は魔法が使えないんだ〟」



「えっ――」



ライナはセンの思わぬ発言に驚愕し、何も言えなくなってしまった。


何故なら、魔法は誰もが使えるものであり、それは王侯貴族や平民など関係なくなのだから。


寧ろ、魔物でも使える程に当たり前の事でもある。だからこそ、その当たり前が出来ないという事実はライナにとって予想だにしない事でもあった。











センこと俺は、元々グランドワイズ国ではなく、東の島国〝やまと 〟で生まれた。


本名は時実流閃ときざねりゅうせん


どの国でも5歳になると簡単な魔法を習い始めるのが共通だ。


その上で実家である時実家は3歳頃から武芸を始める。


父である当主、【時実創玄ときざねそうげん】が剣術道場を営んでおり、時実家は代々倭の武士として国に仕えているのだ。


最初は良かった。


時実家の者としてしっかりと鍛錬に励み、剣を磨いた。


だが、5歳の時に地獄への門が叩かれる事となる。



「では流閃くん、ここに手を当てて」



魔法を習う際、先ずは魔力の量や質などを調べる為に同じく5歳になる子供達が城に集められる。


皆楽しそうに他の人が魔力を調べている姿を見ながらワクワクしている。


俺もそうだった。


そうだったのだが……



「なんとっ!?」



「どうした?」



球体に触れ、魔力を調べていたら突然目の前の神官の様な人が驚き、その反応で父創玄が口を開いた。



「恐れ入りますが創玄様……その……」



「申せ」



「では……えっと、息子さんですが……こんな事初めてなのですが……」



神官の様な男は何とも言い難いといった表情を浮かべながらもしどろもどろしていると、その様子に嫌気が差したのか、次第に創玄の口調も荒くなる。



「ええいっ、申せと言っているだろう!」



「はっ、はい! その、息子さんには魔力が!」



「なっ!? 何、だと……!?」



「ひぃぃっ」



この時、神官の様な男は死を覚悟したという。


何せ、その発言によって創玄の顔は鬼その物だったというのだから――





かくして魔力を持たない人間が初めて確認されてしまった時実家は創玄が怒り狂い、センの母である三縁みよりに何の相談も無しに「魔力無くして武士は務まらん! 故にお前は武家の恥! 出て行け! 勘当だ!」と言い放たれた。


武士たるもの、当然ながら魔法よりも武芸に重きを置くのだが、それでも自身の強化や武と魔の融合技などによって武士としての質を高めていくもの。


故に魔法が使えないセンは武こそ優れていたとしてもいずれは伸びしろが無くなり、功績を得るに至らなくなる。


そうなれば時実家の恥にも成り兼ねない。


そして俺は5歳にして倭を追い出され、クランベリア大陸に住む親戚に預けられた。



大陸で三番目に大きな国、ダルージャ。


北東に位置するこの国は海に面しており、倭国との貿易が盛んな場所だった。


その為、当然倭出身の民も多く、親戚もそういった意味でこの国に住んでいるらしい。




しかしながら、やはり魔力が無いという事での差別は場所を選ばない。


魔力があり、魔法が使えるというのは全世界の共通認識だからだ。


故に親戚に預けられた中でも親戚は周囲の目を気にして俺を迫害した。


部屋は無く、食事も寝るのも外にあった物置。


もはや人間として扱われず、まるで家畜だ。仕方なくやる事もない俺は物置にしまってあった大太刀を見付け、親戚にバレないよう、それで鍛錬を始めた。


鍛錬の時だけが何も考えずに居られるから心の拠り所でもあったのだ。




そんな生活でもずっと耐えていると慣れ、12歳になると世間体を気にする親戚は俺を学園へと通わせた。


武芸や学問を学んでいくのだが、結局魔力無しはすぐに露呈し、やはり差別が働く。


武芸に関しては幼い頃から習っていた事で問題は無かったが、やはり魔法の授業になれば周囲の目は変わるのだ。


最初は親しくしていた友人なども「気にするな」と言っていたが、それも時が経つにつれて「魔力無しが話し掛けて来るな」と態度が変わる。


と言うよりも、それは王侯貴族の力が働いていたようで、当時俺を執拗に虐げてたロービンと言う侯爵子息が裏で手を引いていたのだ。


周囲は哀れむ視線を送り、ロービンは数人を引き連れて俺を虐げ、時に魔法の的にもした。


本来、学園内では貴族階級の差別は禁じられ、王族だろうが平民だろうが皆平等。


だが、結局蓋を開ければそれは表向きに公表されているだけだと知った。


仕方なく虐げられる日常に耐えながらも、きっと学園が終わればどうにかなると心の片隅に僅かの希望を抱いて過ごしていったのだった。





高等部に上がるとクラス替えがあり、そこで俺と似た様な境遇の少女と出会った。



【ネリア・ミルフィッシュ】


ダルージャ国の伯爵令嬢で、センと同じではないが魔力が少なく、魔法も上手く扱えない女の子だった。


茶色い髪で青く綺麗な瞳。


背はちょっと低くて所謂小動物系の可愛らしい女の子だ。



「流閃くん、一緒に頑張ろうね! 私が付いてるから大丈夫だよっ」



そう何度も励ましてくれたりもしたし、俺の心の支えにもなっていた。



そんな日常を過ごしていた矢先、俺を迫害し続けた親戚が病によって他界した。


最後の言葉までもが「お前みたいな疫病神が来るから……」だった。


どこまでも俺を迫害し続けるんだと更に闇が深くなった。


その所為で一時期その所為で自暴自棄になった事もあったのだが、それでも恋人であるネリアは側に居て励ましてくれた。



そしてようやく気持ちの面でも立ち直り、半年ほどが過ぎた頃、何故こんなに追い込まれなければならないのだろうと言うほどに悪い事が起こる。



事の発端は恋人だったネリアが魔力覚醒を起こして魔法を扱える様になった事だ。


勿論、最初は喜んだ。


同じ苦労を味わった分、報われる喜びを共有出来た事で俺も頑張ろうとより糧になった。



しかし、魔法が扱える様になれば当然、周囲の反応や態度が変わる。それはこれまでに嫌と言うほど見て来た。



次第にネリアとの距離が遠く感じ、それと同時にロービンからの虐めも激化したのだ。


魔法の的も含めたストレスのはけ口は普段通りだったのだが、「お前には必要ないだろ?」と教材を燃やされ、金を毟り取られ、最終的には家を燃やされた。



それはロービンだけではなく、どうやら他の貴族も手を貸したようだ。


貴族と言っても所詮は国の犬であり、そんな自国に魔力無しの者が存在するというのが許せないのだ。



更に追い打ちをかけるように恋人のネリアが気付けばロービンと婚約をした。


それを聞いたのはネリアの誕生パーティー会場。



周囲は祝福を上げながらも窓際に立っていた俺に不敵な笑みを浮かべている。


まるで「魔力無しのお前と釣り合う訳ないだろう」と言いたげに……


その後、ネリア自身も結局はそちら側に染まり、俺を避け、時には罵る事もあった。


あれほど惨めな事はない。


更にはクラスのみならず、学園の全校生徒が俺を哀れみ、時に虐げ、教員連中は見て見ぬふりをする。


いや、虐めに混ざり授業の一環だと俺に魔法を何度もぶつけて来たヤツも居たな。


流石に見かねた同じクラスだったグランドワイズ国第一王子の婚約者である【ルビア・シュタッドフィール】が手を差し伸べてくれた事もあったが、最早時既に遅し。


別に責める訳ではないが、寧ろ動くならもっと前に動けただろう。




結局は学園と言うよりも国が魔力無しの存在を無くしたいが為に動いたのだ。それが国のやり方。



その後、俺の存在を消さんと本当に国が動き、俺は必死に抵抗して最終的にはグランドワイズ北西にあったこの〝蠱惑ノ森〟へと逃げて来たのだ。

それが15の時。












とりあえず「何故人間が嫌いなのか」という質問に対し、経緯の全てを話しても仕方がないし、寧ろ昨日あったばかりの人間にそこまで深く教える必要もないと考えた俺は、



〝どんなに仲良くなっても、魔力がない俺を結局は差別視するからだ〟



と告げた。


その一言で王族なら十分分かるだろう。


寧ろ、それで理解が出来なければ国の未来は真っ暗になってしまう。



「実家も、学園も、国も、結局は魔力が無い俺を置いておきたくないんだよ。

それが汚点にもなるからな。

綺麗ごと並べても魔力がない時点で俺はその対象だ。

ならそんな国に居ない方が良いだろ。

その方が俺も気楽に過ごせるしな」



「そう、だったんだ……」



「まあお前が気にする事じゃない。 とりあえず寝るぞ」



「うん」



正直、魔法がなくても今となっては十分戦える。


と言うより、下手したら騎士団連中より強いと思う。


森に住む前、住んでから、何もかもを忘れようとひたすら鍛錬を続けて来た。


そのおかげで蠱惑ノ森の魔物は当然自分より下だ。


世間的には蠱惑の魔物は強く、ハンターでの討伐依頼でも中級から上級ランクになる。



「確かにあんたは強いと思う。 それは目の前でみたもの。

なら、自信持てばいいのに」



「自信はある。 でも性格が歪んでしまったからな。

だから自分が良ければそれでいいんだ。

国とか誰かを頼っても手の平を返されるのがオチだから」



信じて落とされるなら信じない方が良い。


まして、自分でどうにか出来るなら他人なんて不要だ。


だからこそ、街で過ごすよりもこの場所で過ごしている方が楽だし自分に合っていると強く感じたのだ。



「何だか寂しいね……」



「余計なお世話だ」



「そうね。 じゃあおやすみなさい」



こうして目を瞑り、意識が手放されていった。



そして翌朝――




「995……996……997……998……999……1000」



ブオンっといつもと同じく大きな風切り音を立てながら大太刀を千回振るい、鍛錬を終える。


一応、ライナが居ることで森ではなく小屋の前での素振りになるのだが。



「おはよう……」



小屋に戻ると、ライナが起きて来た。



「おはよう。 ライナ、服が乱れて丸見えだぞ」



「ん~? 服?」



寝ぼけてて何を言ってるのか理解出来ていなかったライナだが、ゆっくり視線を降ろすと服のボタンが外されており、バーンっと大きな胸がこれ見よがしに強調されていた。



「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!」



そして一気に眠気が吹き飛んだのか、ライナの悲鳴が小屋に響き渡った。



「み、みみみ、見たっ!?」



「見たより、見せたの間違いだろ」



「見せてないっ! 変態! もうっ! うぅ、お嫁に行けない……」



うぅ……っと顔を赤くして項垂れるライナ。



「まあ、見えたもんは仕方ないだろ。 とりあえず起きろ。

昼には着ける様にここを出るからな」



「セン、一国の姫の胸を見たのよ……せめて、もう少し反応しなさいよ」



「お前言ってる事がめちゃくちゃだぞ。 喜べばいいのか?

でも喜んだらそれはそれでお前怒るだろ」



「見えてしまったのは仕方ないけど、せめてそれ位の反応がないと自信が無くなるって事! バカ!」



もう!っとライナは寝巻から元々来ていた計装の鎧に着替えていく。


そこで、ふとライナは思った。


そして視線を横にずらすと、センはのんびりと飲み物を口に含めながらライナを見ている。



「っ~~!?」



「早く着替えろよ」



「見た!?」



「またか。 見たんじゃなくて、勝手に着替え始めたんだろ」



「うぅ……もう、この人に全て見られた気がする……」



「全てではないけどな。 まあ大体は」



「言わんでいい!!」



着替えを終えたライナは軽く朝食を取り、森を出る支度を終えた。



「歩けそうか?」



「う~ん、ゆっくりなら平気そうかな?」



「そうか。 と言うか、治療魔法使えないのか?」



「治療はね……使えるけど、弱いんだよね。

攻撃に特化してるみたいで、私」



なるほどな。


魔法を扱える者は大きく二種類に分かれる。


簡単に言えば前衛と後衛みたいなもので、敵への攻撃を得意とする場合と、回復やサポートに回る場合だ。


ライナは攻撃型の様だ。



「一応掛けてみたら良いんじゃねぇか?」



「ん~、分かった」



そして、「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、癒しの風吹き安らぎを与えん! ≪ヒール≫!」



詠唱を行ない、魔法を発動するとライナの身体が淡い緑色の光に包まれた。



「どうだ?」



「うん! 一応普通に歩く事は出来そうね」



「よし! これでおぶらなくて済む」



「本当はおぶりたかったんじゃないのぉ~?」



何故か、ここぞとばかりに不敵な笑みを浮かべながらゼンを人差し指で突っつくライナ。


これは、おっぱいが当たらなくて残念がってるんじゃないの?という意味だろう。


なら――



モニュ



「これでおぶらなくても問題ないぞ」



モニュモニュ



「っ~~~!?」



「おっぱいって柔らかいんだな? 男が求める気持ちが少し分かった気がするよ」



モニュモニュ



「……っ」



モニュモニュ



「い、いつまで揉んでんのよこの変態!! 最低! 信じられないっ!

ついに、ついに触ったわね!!

一国の王女の神聖な胸を!! 

もう許さないんだからぁぁあ!!」



「おい、大声出すと魔物が来るぞ?」



「そんなの全部殺してやるわよ、あんたごとね!!」



ふーふーと鼻息を荒くしたライナが怒りを全面に押し出し、のそのそと歩いていく。



「おぶらなくていいのって聞くから悪い。

と言うか、恥ずかしがったり武器にして来たり、意味の分からん女だな?」



「それでも普通揉む!? 堂々と? 王女の胸よ、お・う・じょ・の!

ここが城なら死刑よ!」



「まあいいじゃん。 お前しかそういうの体験出来ないって話してるし」



「はぁ……またお嫁に行けなくなった……」



「俺は御免だぞ」



「私だって御免よ!! ってか何でそういう意味で捉えるのよ!

もう疲れた……早く帰りたい……」



しくしくとセンとのやり取りに疲れたライナは黙って森の外へと歩いていくのだった――

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