〝蠱惑ノ森の住人〟

第2話招かれざる客

森の一角ではブォン!ブォン!っと風切り音が響き、小動物や弱い魔物達はその音に警戒しながら偵察を行なっている。



「995……996……997……998……999……1000」



ブォン!!っと最後は少し強めに大太刀を振るうと思いの外勢いがあったのか、風圧が周囲に飛び、それに当てられた魔物達が一斉に逃げ出す。



「ふぅ~、……はっ!」



素振りを終え、一瞬気合を入れるとチンっと金属音が響き、いつの間にか手に持っていた大太刀が鞘に納められていた。



「まあ、こんなもんだろ」



今日も鍛錬完了っと、近くの川で水浴びをしてから小屋へと戻っていく。


すると、いつもとは違う雰囲気が小屋の周辺に漂っていた――



「あれ、扉が空いてる……何か鼻を擽る様な匂いもするし……まさか……ついに小屋の所有者が!?」



もし所有者が来て、出て行けと言われてしまえば俺は完全に浮浪者になる。

やたら大きな音で響く鼓動で生唾をゴクリと飲み込み、覚悟を決めて普段とは違うに警戒しつつ小屋の中へと入っていく。


小屋は入り口からすぐ目の前に暖炉があり、その奥にはキッチン。


暖炉の近くに机と椅子があり、ダイニングになっているのだ。


一番奥にはベッドが設置され、言わば調理場がある宿泊部屋だと考えると分かりやすいだろう。


ただ、風呂やトイレは無く、外に常設されたトイレらしきもので用を足す事が出来る形になっているのが少々不便だが……


まあ、こんな森の奥だし特に問題はない。



ゆっくりと部屋へ足を踏み入れると、鼻を擽る匂いの正体が目の前にあった。


そう、何故かは分からないが一人の女性が力尽きた様に倒れていた――



「えぇ……嘘だろ……と言うか、所有者ではなさそう?」



とは言え、これどうするの?


そもそも、何故こんな場所に人が?


とりあえずこんな場所で倒れられても困る、という事で倒れている女性に近づく。


恐らく同い年か年下であろうその女性は肩に届かない位の綺麗な金髪で、頬や服などが多少土で汚れていた。

もしかしたら必死に森の中を駆けて来たのかもしれない。



「おーい……」



軽く肩を揺らしてみる。すると「ん~」っと艶めかしい声が発せられるが、それでも起きる事は無い。


あぁ面倒臭い。


あぁ心底面倒だ。


事自体久しぶりであり、好ましくないからこそ「はぁ~」と大きな溜め息が出る。


だが、とりあえずここに居られるのは邪魔だから――



「仕方ない……運ぶか」



倒れてる女性の膝裏と腋下に手を入れ、お姫様抱っこの形でベッドへと運んでいく。


思ったよりも重かった。


あっ、これ言ったら怒られるやつか……まあ、とりあえず起きるまで待とう。









女性は余程疲労があったのか、今はスヤスヤと寝ていた。


その間に食材を捌き、刀の手入れなどをしながらのんびりと起きるのを待っている。


女性の存在は別としても、のんびり過ごすのが俺の生活スタイルでもある。


そして数時間後――



「んっ、んん~」



女性が目を覚ましたのか、またも艶めかしい声を発しながらもゆっくりと身体を起こした。



「あれ、ここは……」



女性は眠気眼で周囲を見渡し、あくびをしながら目を擦る。



「起きたか?」



「えっ……きゃっ!? だ、誰!? まさか、盗賊の仲間!?」



女性は横から突然男の声がした事で驚き、警戒心を露わにする。



「いや、誰かどうかはこっちのセリフだぞ? それにこの森に盗賊なんていねぇよ」



「えっ? あっ、もしかしてここ、あなたの家なの? 

確か〝蠱惑ノ森〟を彷徨って、気付いたら目の前に小屋があって……」



女性は自分の記憶を辿りながら経緯を話していく。



「そして中に入ったら倒れたんだろ? 

戻って来たら人が倒れてるし、正直焦った。

いや、焦ったというよりも面倒だった」



「う……す、すみません……それと、ありがとう……」



ようやく、この人に助けられたのだと理解した女性は、面倒という言葉に一瞬ムっとするが、そこは抑えてとりあえず感謝の言葉を伝える。



「身体は動く?」



「えっ、あっ、はい!」



「良かった。 じゃあ悪いが



「はっ……!?」



突然告げられた男からの「帰ってくれ」に驚愕し、口をパクパクさせ始めた。


動くからと言って〝盗賊〟や〝森を彷徨う〟という単語で、何故ここに居たのかは容易に想像が付く。


しかし……



「いや、動くならここに居なくてもいいだろ? だから帰ってくれ。

俺は一人が良いんだ」



「あっ、そ……そうです、か……」



否が応でも告げられる〝帰ってくれ〟の言葉に腑に落ちない表情を浮かべるが、それでも助けて貰った側の自分が文句を言うのは筋違い。


布団をギュっと握りしめならが、そう自分を納得させた。



「……」



そして二人の中で沈黙が流れ、しかしながら次第にその沈黙に耐えられなくなったのか、女性がゆっくりとベッドから移動し、入り口の方へと歩いていく。


はぁ……ようやく落ち着ける。



「あの、一つ良いですか?」



すると、女性が入り口の手前で振り返って口を開いた。



「何?」



「グランドワイズへはどう行けばいいでしょう?」



どうやら女性はグランドワイズへと行きたいらしい。


だが、ここは蠱惑ノ森の深部。


慣れてない場合は再び彷徨う事になり、当然ながら力尽きた所を魔物に襲われてしまうのが落ちだ。



「入り口を出て小屋を背にしたら北東に真っ直ぐ行けば2時間くらいで森を抜けられると思うよ」



「にっ、2時間っ!?」



「そう、2時間。 ここは蠱惑ノ森の深部に近いからな」



「……」



そう説明すると、女性は少しプルプルと震えながら佇んでいた。


早く帰らないかな……やる事あるから出来れば今直ぐに……


そんな事を考えていると、女性がバッと振り返り、顔を真っ赤にしながら向き合って来た。



「何? 顔真っ赤だけど……そろそろ俺も用事で出るし、元気なら急いだ方がいい。 

日が暮れると魔物も活発になる」



俺って親切!まだ昼過ぎだけど、遅くなると森は更に闇が深くなり、慣れていても迷う事があるのだ。


そうなれば魔物にとっての格好の餌食となってしまう。


だからその旨を伝える、増々女性の顔が赤くなっていく。


大丈夫かな?



「――つうさ……――がさ……」



何やら女性がぶつぶつ言い始める。



「何? どうした?」



すると、突然女性が爆発したように「あぁぁぁあ」っと叫び出した。



「はい?」



「あのね、普通女性が一人で倒れてたら何かしらの経緯があると思わないわけ!? 

休ませてくれたのは感謝するけど、蠱惑ノ森に一人放つってどういう神経してるのあなたはっ!!

男ならちゃんと送り届けなさいよっ!!」



ムキーっと怒りを露わにすると弾丸の様にその言葉をぶつけて来る。


まあ経緯はあるだろうけど、想像は付くし、その上で俺には関係ないから元気があるなら早く帰って欲しいじゃん?


そもそも、普通って何?その普通が苦労して来た俺に対して何を言ってるんだ?



「はぁ~」と盛大な溜息が漏れる。


そして、女性の言葉で感じた事を俺も直接伝える。



「なら聞くが、普通って何だ? 街にいりゃあその普通で誰かが助けてくれるだろうよ。

男だからと下心満載でエスコートしてくれるだろうよ。


だが、生憎ここは街ではない。

つまり、お前の言う普通は通用しないんだよ。

誰もが当たり前に優しいとか女性をエスコートすると思ったら大間違いだ。


それにだ、別にお前が森で彷徨って死のうが俺には関係ないんだよ。

俺はのんびり過ごしたいだけだからその俺の時間をお前の普通で奪うな」



俺はのんびりと平和に暮らしたい。ただそれだけ。


だからこそ、突然現れた人間にそれを壊されたくないのが本音だ。


そして、その本音をしっかりとぶつけると、女性は更にプルプル震えていた。



「なっ!? 何て男なの……」



そして、呆れているのか、そんな言葉を言われたのが初めてなのか、再び口をパクパクさせ、次第には少し涙目になっている。



「とりあえずそれだけ元気なら大丈夫だろ? 

腰に剣だって下げてるし、なら問題ないじゃん」



「そ、そういう問題じゃないと思うけど!? 

魔物が出たら、ど……どうするのよ!?」



「いや、倒せばいいじゃん。 何の為の剣だよ」



「う゛う゛~」



何を言っても持論を展開して断られてしまう事に、女性は歯をギリギリさせながら怒りを露わにしていった。



「屈辱よ、こんな言われ方したの初めてだわっ!」



バンっと勢いよく扉が開き、そして閉まった。



「ようやく帰ったか。 全くうるさいやつだ……」











「もう! 何なのよあの男! 最低っ! 信じられないっ!」



一人の女性が怒りに身を任せ、地団太を踏む様にズカズカと森の中を歩いて行く。



「皆、大丈夫かしら……」



本当はこんな場所なんて来るはずじゃなかった。


グランドワイズの北、ここ蠱惑ノ森沿いに道を真っ直ぐ進んだ先の港町に用があり、私は馬車に揺られながら向かっていたのだ。


そして、用を終えてグランドワイズへの帰路の途中、大勢の盗賊に囲まれてしまった。


護衛は居たもの、意外と腕の立つ連中で数人は殺されてしまったのだ。


何とか逃げる為に御者へ指示を出し、道から外れて蠱惑ノ森の北部へ進路を変更して駆けだしたけど、盗賊達も追いかけて来て、正に死闘。



もしかしてがバレてしまったのかもしれない……



そう考えると、どうにかしてでも逃げなくてはと思った。


でも、結局途中で御者が殺されてしまい、馬車は転倒。


私は蠱惑ノ森の中に投げ出されてしまった。


それが夜明けの時間帯。


その後、ようやく一軒の小屋を見付けると、安堵し、そのまま意識を手放してしまったの。


で、恐らく私を助けてくれたであろう目の前の銀色の髪をした男。



目付きは鋭いけど、最初は柔らかい話し方で安心した。


女性である以上、しかも二人っきりの密室であれば相手が男の時点で何があるか分からないからだ。


とは言え、結局は別の意味で最低な男だった。途中から早く出て行けオーラがすごかったし。


ボロボロのシャツに長ズボン姿。


ずっとこの小屋に住んでるのかな……



「って、そもそも蠱惑ノ森に住んでるって何っ!? 

どういう状況なのよ全く!!」



もう苛々が止まらない。


でも、とりあえずグランドワイズに戻らないと……


そう思ってあの最低男の言葉通り北東に真っ直ぐ歩いていくと、川が見えた。



「ちょっと休憩、しても大丈夫かな……?」



綺麗な川が流れていても、ここは蠱惑ノ森。


魔物も居れば狂暴な獣も居る。


と言うよりも、本来この森に入ってはいけないというのは周辺国なら当たり前の様に言い聞かされる。


そんな場所に今、私は一人でいるのだ。



「とりあえず……周りを警戒しつつ水浴びしよう」



グっと拳を握り、迅速に服を抜いで身体を拭いていく。


そして、ある程度終えるとすぐに服を着る。



「本当はお風呂に入りたいけど……仕方ないかっ……はぁ~」



すると、少し血生臭さが漂い、見れば綺麗だった川が時おり赤みがかっていく。



「えっ!? これ……」



徐々に赤みが増え、よく見れば血だ。



「あれはっ!?」



さっと岩陰に隠れて視線を送ると、自分が居た場所より上流の方で『グルルル』と獅子の様な姿をした魔物が鹿を喰らっていた。



「うっ……」



臭いし、鹿は内臓が……ダメ、気持ち悪い……



その場から立ち去ろうとしたが、その時――



〝パキ〟



「しまった!?」



枝が折れる音が響き、そっと視線を送ると獅子の魔物がこちらを睨みつけていた。



「まずいっ!」



『グルァァア!!』



魔物が鹿を置き、タンッタンッと足早に迫ってきた。


徐々に距離を縮め、気付けば背には大きな木、そして正面には獅子の魔物。



「くっ、こうなったら……」



思い出すのは最低男とのやり取り。




『魔物が出たらどうするのよ!?』



『いや、倒せばいいじゃん。 何の為の剣?』




ぐぬぬぬっと思い出すだけでも怒りが収まらない!



「やってやろうじゃないのっ! このぉ!!」



腰に下げていた細い剣を抜き、獅子の魔物と対峙した。


乗っていた馬車と同じくらいであろうサイズの魔物は、まるで弱者を見る様な目で女の様子を伺う。



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、我が眼前にて立つ宿敵を焼き払わん! 顕現せしは悪を滅する業火の礫! ≪ファイヤーボール≫!!」



女の詠唱によって体内の魔力が手の平に集束され、燃え盛る火の球が放たれた。



『グァァァア!!』



それは真っ直ぐに勢いよく獅子の魔物へ放たれ、その顔を一気に焦がしていく。


しかし、それだけではこの魔物を倒す事は出来ない。



「このぉぉ!」



女が追い打ちをかけるように跳躍し、一気に下降して剣を魔物の頭部に突き立てた。



『グガ……ガガァァ』



脳天を一突きにされた獅子の魔物がやがて動かなくなり、その場にドンっと倒れる。



「ふっ、ふん! やってやったわ! どうだ! 参ったか最低男!」



声高らかに勝利宣言をすると、しかし恐怖は当然あったわけで、女はその場にへたり込んでしまった。


すると――



ザザッ!



「えっ!?」



ザザザッ!



「も、もしかして……まだ居るの……!?」



ザザザザッ!



もう無理、さっきので限界!


そもそも魔物と戦うなんて……前に討伐をした事があったが、それは騎士団が同行してのもの。


しかし、今は一人。


弱音を吐きそうになるが、森ではその様な悠長な事は言ってられ無いのだ。



ザザっと出て来たのは先ほどの獅子の魔物と同じくらいの大きさの猪の魔物だった。


しかも二体も居る。



『フゴッフゴッ、ゴゴゴゴア!』



目の前でへたれ込んだ標的に向かって勢いよく突進していく。



「ひっ!?」



ズガンっと標的が突進を避けると、後方の太い木がズガァン!っと一撃で薙ぎ倒されてしまった。



「流石にあれくらったら無事じゃないわね……でも、逃げ場が……」



猪の魔物の突進を避けたのは良いが、気付けば後方は大きな岩があり、正面には二体の猪の魔物。



「一体避けても次で終わり、ね……はぁ、こんなところで死ぬなんていやよ……まだ結婚もしてないのに……」



頭では諦めてない。


しかし、この状況から逃れる術がない女は絶望を感じながらも再びへたり込んでしまった。



『フゴッフゴッ』



猪の魔物はまるでカウントダウンの様に前脚で地面を蹴る動作を始めていた。



くっ、こんな所で死ぬくらいなら抗ってやるわよっ!



「―満ちたるは命より息吹く魔の根源、天より轟く閃光の稲妻よ!

眼前たる敵に神の裁きを! ≪ライトニングボルト≫!!」



再び詠唱を行ない、今度は女の手の平から雷が放たれて二体の猪を直撃した。



『グゴゴゴゴ!』


『ブゴォォォ!』



二体の猪の動きが鈍くなる。



「水辺って事もあって痺れてるのかも! なら今の内に逃げなきゃ」



サッと立ち上がり、川を渡って反対側へと走って行く。


しかし、魔法の威力が弱かったのか、猪の魔物は体勢を整えると一気に川を駆け抜け、追いついてしまった。



ドンっと女は猪の突進を躱しきれずに吹き飛ばされる。



「いったぁ~い……」



『フゴッフゴッ』



「もう……本当にツイてない……これじゃ走れないし……」



突進で吹き飛ばされてしまった事で足を挫き、足首が赤く腫れあがっていた。



「これでもう終わりね……全く、散々だったわ……」



はぁ、っと大きなため息を吐いて猪の方に視線を送る。


すると、更にその奥に見覚えのある姿を捉えた。



「あぁ? まだ居たのかお前」



「えっ?」



「いや、方向違ってるぞ? そろそろ日が暮れ始めるからさっさと行けよな」



あの最低男が何故か猪の後ろから現れたのだ。


しかも、明らかに魔物に襲われてる状況で「まだ居たの」って……



「――けて――」



「何?」



「助けてって言ってるでしょ! 足怪我して動けないのよ!」



「えぇ……」



いやいや、そこでそんな嫌そうな顔する普通!?


あっ、普通が通用しないんだっけこの男……



「わ、分かった! じゃあ貴方を雇います! だから助けて下さい!」



女性は突然助けてだけではなく〝雇う〟と宣言した。


しかし――



「いや、金に困ってないし……と言うよりここでの生活に金必要ないし……」



「はっ? も、もう! 何でもいいからとりあえず助けてって言ってるのよ! この分からずやぁぁ!!」



「はぁ~」



最低男から大きな溜め息が吐かれると、「今回だけな」と告げた。


って言うか目の前にピンチなか弱い女性が居て助けを求めてるのに溜め息ってどんだけ失礼なのよ全く!


でも、そこからは一瞬の事で何が何だか分からなかった。



「はっ!」



聞こえたのはシャキンって言う金属音が続けて二回。


そして、気付けば二匹の猪はズズっと胴体が二つに分かれ、崩れていった。



「えっ……」



何?今何かしたのこの男?


えっ?どういう事?



「なぁ、一つ聞いてもいいか?」



すると、男が奥からこちらへ向かいながら訪ねて来た。



「な、何……?」



「魔法、使った?」



「えっと……二回



「はぁ~」



えっ、何?また溜め息ですけど?



「あのな、ここで魔法使うと魔力を感知して魔物がその場所に押し寄せて来るんだよ」



「嘘……だ、だって魔物見付けたら倒せって言ったじゃない!!」



「言ったけどさ。 でも剣の話しかしてないぞ」



「ここで屁理屈言われても遅いわよ! もう使っちゃったんだから!」



「……まあなんでも良いけど、とりあえずここに居るとまた来るぞ」



「そういう所よ! そ・う・い・う! 

怪我してるって言ったでしょ!

運んでよ!!」



「えっ……やだ」



「はっぁぁぁぁ――!?」



またもあからさまな嫌な顔をしながら、ハッキリと言った。


〝やだ〟



「人でなし! 最低! アホ! 良いから助けて! 早く!!」



「うわっ、自分勝手な女だ」



「何でもいいわよ! って言うか私だってあなたみたいな最低な薄情者に助けて欲しくなんて無いわよ! 

でもあなたしかいないんだから仕方ないでしょ!」



「全く……でも、どうしろって?」



「おぶってよ! 足痛いんだから」



「おぶるとおっぱい当たるよ?」



「おっ――!? こ、この際我慢す、するわ!」



本当に最低!この期に及んでおっぱいって言った!?


で、でも……密着するのは仕方ない……私、歩けないし……



「足触るよ? あっ、おぶるならお尻か?」



「いちいち言わないっ! 早く! 魔物来るんでしょ?」



「面倒臭い女だなぁ……」



ゆっくりと持ち上げられ、しっかりと太ももとお尻の間を掴まれた。


男の人に触れられるのは初めてだ。


なのに、初めてがこんな男だなんて……



「ん?泣いてるのか?」



「うるさいっ! 泣いてないわよっ!」



「いや、うるさいのはどう考えてもお前だろ……」



こうして女は助け出され、再び小屋へと戻って行ったのだった。

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