山と川
ポセイドンがアルコールを抜いてくるって言いながら海に行って、ロナルディとリスティールさんが起きた直後に風呂に向かった後、俺の腹の上でだらしなく肢体をデロ〜ンと伸ばしたまま仰向けに寝てるポムを起こして、ゴソゴソと俺も起き出す。
「くぁ〜頭痛え。モロに二日酔いだわ」
「うるさいにゃ、ポムの頭にも響くから叫ばないで欲しいにゃ」
ロナルディの作ってる野菜の中から、薬がわりに
「くぁ〜苦え……きくぅー」
「スッキリしたにゃ。でも朝ごはんを食べ逃したにゃ」
もうお日様は真上に来てて、時計を見たら昼回ってて……
「派手に寝過ごしたな……」
「爆釣、昼ご飯の準備をするにゃ。ポムは着替えて来るにゃ」
まっ軽めで良いかな。二日酔いは治ったけど、沢山食べたい気分でも無いし。
「味噌汁はインスタントでいいだろ? ぶり大根温め直すから、着替えたらキッチンに持って来てくれよ」
「了解だにゃ。お味噌汁はシジミにして欲しいにゃ」
1晩経って味の染みた大根の美味さを堪能して、ササッと後片付けを終わらせて、今日は前々から作ろうと思ってた山と川の作成。
「山に植える木は、落葉樹をメインで多少の針葉樹を交ぜれば良いんだよな?」
「木の選別は僕達に任せて欲しいです。地形的には今で問題無いです」
数日前から作成してた3Dマップを確認しつつ、ロナルディとリスティールさんと一緒に回りながら設置しては手直しを繰り返して、だいたいの地形は完成。
「動物も必要なんだよな?」
「多少は居た方が良いですが、虫でも構いませんよ」
虫か……
「昆虫だけだと数の調整は必要でしょうけど」
そりゃめんどくさい。
「雑食の動物とか小鳥とか居た方が良いなら、ランダムガチャ回しまくるよ」
生態系っての? ある程度放置出来る方が楽だもんな。
「ガチャを回すのにポイントを使うのですか?」
「無料ガチャを1回も回してないから、溜まってるんだ。無料で70回くらい回せるし。回した後の召喚決定する前に、当たった生き物で大丈夫か見てくれよ」
無料なのに引き直せるガチャって有難い。
「爆釣、川を作るなら、ある程度蛇行させろよ」
ほえ? 真っ直ぐ海にって思ってたけど……
「川を曲げたら、洪水とかなんね?」
「自然に出来た川が直線なんて事はあるか?」
う〜ん……
「無い」「川底の深さも、川幅もちゃんと考えろよ」
おっふ……なんも考えてなかった……
ロナルディとリスティールさんに川の事を相談しても、2人とも川は門外漢だって言うし……
「ポムならどんな感じの川にする?」
「鮭が登って来れる川にする!」
……………………いいなそれ!
「ポセイどん。つまり鮭が食いたいそうだ。だからどんな感じが良いか教えてくれ。頼む!」
「それなら銚子以北を流れている、鮭の登ってくる川を参考に東に向けて作れ」
ほえ?
「なんでまた東に? 湾に流れ込む川だけじゃダメ?」
「鮭は政島の東側の海を回遊してるから、小政島との間の西側の湾に向けて川を作っても意味が無いぞ」
マジか……面倒臭さ倍増…………
標高150Mくらいの山と、東西に一本ずつ川を設置して、家に帰って来たんだけど、夜飯は天ぷらだから、そんなに準備に時間もかからなくて……
「鮭の群れは俺が誘導しといてやる。1回産卵すれば毎年登ってくるようになるからな」
「毎回頼ってばかりですまぬ……なんか礼でもしないとな……」
「ほんとソレ。私からも何かお返ししたいけど何が良い?」
ロナルディとリスティールさんが、俺が買った山に植える木と草を選別してくれてる間に夜飯の準備中。
まだ4時なんだけどな……
「それなら……子供1人預かってくれないか?」
「子供?」「子供ってポセイどんの?」
子供か……どんな子だろ?
「俺のじゃ無いさ。俺の子は地球の海で大切に育ててるからな」
「なら、どこから連れて来るんだよ?」
「隠し子って訳でも無さそうだ……」
少し難しい顔してるな……
「色々訳アリな子供でな、見過ごせ無いなら隠して保護してしまおうと思ってな……」
「なんかあんのかよ?」「そっか……地上の生き物に手を……」
後で細かく話すだってさ。
テーブルに大き目のカセットコンロを置いて、天ぷらを揚げながら夜飯食ってんだけど。
「ブリの天ぷらって初めて食ったけど美味いのな」
「春野菜の天ぷらって最高です。いくらでも食べられますよ」
ロナルディとリスティールさんが作ってる野菜の天ぷらも美味いのな。
「イカも火を通したら硬くなるのが普通なのに、隠し包丁を入れてあるから簡単に噛み切れますね」
「肉も魚も野菜もキノコも揚げればたいがい美味い。コレは真理だぞ」
ポセイドンと俺のダブルドヤ顔。だって半分は俺が仕込んだんだもん。
「私は何を食べても美味しく思えるよ。天つゆもお塩も最高」
昨日遅くまで飲んでたから今日の酒は少しにしようなって言ってたけど……
「お酒が進みますね」「日本酒ってのも美味しいね」
冷酒をがぶ飲みしてるリスティールさんと、そこそこ飲んでるロナルディ。
「東側の川の川底は砂地にしといてくれよ、西側は岩と苔な」
俺のスマホをでかくして、川の形を細かく指示をくれるポセイドン、飲んでるのは濃いめのハイボール。
「二日酔いの次の日も二日酔いになりそうな予感がするけど、美味しいのには負けてしまう……」
冷凍してあったキスとか甘鯛の切身、アスパラや茎生姜、椎茸の肉詰め、その他も色々と揚げながらバクバク食ってるポムは普段よりアルコール度数高めの7%のホワイトサワー。
俺は何時もの銀色のヤツな。
「苔の生えてる方は鮎?」「そうだ」
マジか! 天然鮎が食えるのか……
「最初の稚鮎は俺が地球から持ち込む。次世代からは勝手に繁殖してくれるはずだぞ」
「それならしっかり環境を整えないとな」
汽水域も必要ぽいな……
「川の途中に簡易的なダムを作らないと、スズキみたいな淡水にも適応出来るフィッシュイーターが登って行くから気をつけろよ」
「スズキ……夏になったら釣りたいな」
夏場のスズキはすげー美味いもんな。
「日本近海固有種のスズキは美味いよな」
「シーバスって言うけど、実を言うとスズキじゃないんだろ? なんかで読んだ気がする」
シーバスとスズキは微妙に違うらしいんだが、よく分からん。
「スズキってあれでしょ? ガオーって言いながら人魚さん達を捕食する奴」
「海の暴君でしたっけ?」「5mくらいの大きな魚ですよね? 討伐指定種になってる……」
5m……ナニソレ?
「地球のスズキはせいぜい1.5mくらいまでだ。しかし面白そうだな。
ポセイドンがポム達異世界組を見ながら連れて来るとか言い出して……嫌だぞ……
「やめてくれよ。また腹を壊すだろ? ボブで懲りたよ……」
あれはマジ辛かった……
「ヴォブな」「爆釣、ヴォブだよ」「ヴォブがいるんですか?」「ヴォブが釣れるなら食べたいですね」
魚は苦手とか言ってたロナルディまで……
「ヴォブなら少し切り身を冷凍してあるし、解凍して揚げて見よっか」
「おお、ポムちゃん。残してあったのか」
「良いですね」なんて言って、ロナルディもリスティールさんも賛成しやがった……
「爆釣、ガツガツ食わなきゃ大丈夫だ。それに、世界樹と一緒に食べれば脂を吸収してくれるから腹は下さんぞ」
マジか……万能過ぎるだろ
結局、ボブの天ぷらは美味しくて、
「んでさ、子供って何時連れて来るんだ?」
「そうだな……梅雨前には連れて来る。出来るだけな、大きな声を出したり、叱ったりしないでやって欲しい」
何となく理解した……
「虐待か? 育児放棄か?」
「どっちもだ……俺に地上の生き物をどうにかする権限が少しでもあれば、攫ってでも大切に育ててやるんだけどな……」
あれ? 連れて来るって……
「攫って来るんじゃ無いのかよ?」
「時間を切り取って来るだけだ。楽しい思い出1つも無しに黄泉路へ行かせるのもなんだと思ってな……」
「でもここは地獄だぞ? 地獄って事は生きたまま連れて来れないんじゃ?」
「そこは、お前のスマホの確定ガチャをいじってどうにかする」
そんな事出来るのか……確率操作とか見つかったら……
「なに、バレないように操作するし、バレたら俺が話は付けてやる」
「んじゃポイント使わずに残しとくよ。何歳くらいの子供なんだ?」
色々準備しといてやらないとな。
「今春小学校に上がる予定だった6歳の女の子だ」
「了解。帰りたく無くなる程に大事にしてやるよ」
ポセイドンの奴……湯船の中に顔をつけて顔を歪めたまま「頼んだぞ」だってさ……
「頼まれたよ」
任せとけ!
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