ぶり大根

小政島から西に10分程船を走らせた所で、バタフライで先導してたポセイドンが船に乗ってきた。

 乗った直後に服装が変わって、海パンから釣り人に……


「この辺りだな。魚探の反応はどうだ?」

「瀬の周りの影が魚影だよな?」


 水深30mくらいから一気に150mくらいまで落ち込んでる所に大きな影が2カ所映ってる。


「どっちもワラサやブリの群れだ。影が潮下になるように船を動かして錨を下ろせ」


 ポセイドンから、潮流計や魚探を見てどこに船を止めて、どんな感じに狙えば良いのか指導を受けつつ、一本釣りの準備。


「餌はメタルジグでいい」


 俺は船に付いてる一本釣りをの仕掛けを使って、大物が掛かっても大丈夫なようにして……


「小さなアタリが来た後に一気に引き込まれる。竿はしっかり握っておけよ」


「はい!」「ぶり大根♪。.:*・゜♪。」「頑張ります」


 他の3人は釣竿を構えてる。


 すげえ楽しみ。デカいブリ……ワラサでも良いな。


 


「なあポセイどん……釣れ過ぎじゃないか?」


「さっきくらい魚探に反応があれば網を仕掛ければ1トン近く掛かってくるんだぞ。釣れ過ぎなんて事は無いさ、まだまだ掛かってくるぞ」


 まだ完全に夜にもなってない……漁場に着いて1時間くらいで……


「捕食される事が殆ど無いデカさの魚で、漁網の存在しない世界ならこんなもんだよ。無警戒なフィッシュイーター達だからな餌が見えたら食らい付い来るさ」


 巻き上げ機で上げてるんだけど……


「それにしても10分1匹ペースって……」


 釣れる毎に活け締めして神経抜きまで終わらせて水氷の中に突っ込んで……


 なんやかんやで全員合わせたら20匹くらい釣れたから、真っ暗になる前に帰ろうってなった。



 桟橋に到着して、食べる分を残して売ろうとアプリを起動して査定してみたら……


「安っ!? 1kg140ポイントって……」


「そんなもんだろ? 養殖が出回るようになってから天然ブリは安いぞ。ブランドが付いてない限りそんなもんだ」


 全部で130kgもあるんだよ? それなのに……


「天然には寄生虫が居る事もあるからな、それが普通の値段なんだよ」


 寄生虫か……


「それじゃ刺身は止めた方が良いか?」


 刺身は無しって聞こえたらしく、ポムがショボーンってなってる……


地獄ここには寄生虫なんて居ないから刺身で大丈夫だぞ。脂の乗って丸々と太ったブリの刺身とぶり大根を堪能しようじゃないか」


「イェーイ! ぶり大根、お刺身!」


 ぴょんぴょんはしゃぎすぎww




 15kgくらいあるブリを1本、丸々使って刺身とぶり大根を作るってなって、俺とポセイドンは準備中。


 ポムとリスティールさんは先に風呂。


「ロナルディも魚を捌いてみるか?」


「小さいのから練習してみたいです。初めてがその大きさは……」


 丸々としてるけど長さだって1m超えのブリだもんな。


「んじゃ大根の面取りを頼んで良いか?」

「はい!」


 俺とロナルディのやり取りを見てポセイドンがニヤッとしてら……


「刺身は平切りと削ぎ切りの2種類を食べ比べてみるか」

「半身全部刺身は多すぎじゃないか?」


 大皿にもさっと乗せなきゃだぞ……


「刺身が余ったら衣を付けて天ぷらにするんだよ。九州のとある地方のブリの養殖で有名な島では、余ったブリの刺身は天ぷらにするのが一般的だからな、それの真似をしてみようじゃないか」


 ポセイドンって……


「色んな食い方知ってんのな……ブリの天ぷらとか……」


 美味そう…………




 男3人で風呂に入ってる間に、ぶり大根と刺身をリスティールさんに見張ってて貰って、ポムは食器とか酒の準備。


「匂いが……」なんて言いながら、つまみ食いしそうなポムをキッチンから遠ざけるのが少し面倒だった。



「さあ、寒ブリと呼ばれる時期は少し過ぎたが、それでも十分に脂の乗ったブリだ。堪能しようじゃないか」


 刺身はデカい平皿2つ分。ぶり大根は鍋のまんま……


「醤油も今日は2種類な。正月にはぶりを食う事で有名な鹿児島の醤油と、寒ブリで有名な北陸の醤油な」


 相変わらずポケットから醤油差しを取り出すポセイドンだけど、最近気にならなくなってきたな。



「醤油がヤバい! ちょっと付けたら脂が……」


「ん〜! ん〜!」


「美味しい……」「美味しいですねえ……」


 一切れ醤油に付けただけなのに脂が浮いて醤油がテカテカしてるし……どっちの醤油を付けて食べても美味いし……


「ねえ、この大根がヤバい。そんなに味は染みてないけど凄い美味しい」


 ポムがだらしなくニヤけてる、相当美味いんだろうな。どれどれ…………


「なんじゃこりゃ……青ネギも美味っ!」


 ブリと青ネギと大根……何を食っても美味い……


「ふっ。俺の得意料理だって言っただろ? どうだ、唸れたか?」


 口の端がニヤリってなるよ……

 ポムもロナルディもリスティールさんも……


「すげえなあ……そんなに味付けに拘ってたようには見えなかったし、火加減とかもテキトーに見えたのに……こりゃ参った」


「経長年の験と勘と言いたい所だが、誰が作っても美味くなるさ、最高級のブリだったんだからな」


「刺身もヤバいくらい美味いもんな」


「カマも開いて塩してあるから、明日の昼にでも焼いて食おうか」


「ううっ……凄い楽しみ……」


「夜は他の食材をある程度見繕って、余った刺身を天ぷらにな」


 ロナルディとリスティールさんは、食べながら2人の世界に入っちゃったし、ポムはぶり大根を肴にカルピス酎ハイ飲みながら猫型ロボットの映画版を見始めて……


「ポムちゃん、その回は面白くないから見ない方が良いぞ」


「あっ、そうそう。その回より次のやつが面白いぞ」


 忘れてた! ポセイドンが見せないでくれって言ってた4作目……


「順番に見たいの。面白く無くても良いよ」


 結局最後まで見る事になって……


「ポセイドンってお城だったの? 海の神様でしょ?」


「俺は城じゃないし、悪者でも無いし、ましてやプログラムされたコンピュータでも無いからな」


 ポセイドンがちょっとむくれてら……


「創作だと分かりますが、神の名を悪役にするなんて、なんて恐れ多い事を……」


「ポセイドン様、お気を確かに……」


「アニメとかで出てくるポセイドンって、たいがい悪役だよな?」


 と言ってもポセイドンが出てくるアニメなんて殆ど知らんけど。


「たまに神罰を喰らわせたくなるが、名前を使われたくらいで、そこまで怒ったりはせんよ」


 少し怒ってるくせに……


「悪役でも無名よりはマシだ。日本のアニメに登場出来るのは、少し自慢になるんだからな」


「そうなの?」「悪役でも良いの?」


「世界中のありとあらゆる神話を創作のネタに使う風潮なのに、名前すら出して貰えないとか、あっちの方が凹むぞ。俺ってそんなに認知度が無かったのかなんてな」


 なるほどなあ……


「でも、今のを見て猫型ロボが創作だってハッキリ分かったから良いや」


 む? どういう事?


「未だにドキュメント系のアニメだと思っていたのか?」


「へへへ、ちょっとだけ……でもコレは創作だ。だってポセイドンって良い奴だもん」


 確かに嫌な奴じゃないか。


「悪役って感じはしないな。どっちかと言うと、おふざけキャラと言うか……ギャグ漫画の登場人物と言うか……」


「それはそれで失礼だぞ、爆釣」


「すまんすまん。楽しい奴って事だよ」


 結局うだうだと深夜過ぎまで飲んで、後片付けも全部しないままで、俺の部屋に5人で雑魚寝……


「明日のご飯が楽しみにゃ」「楽しみだな」


 ロナルディとリスティールさんは1つの毛布にくるまって、ポセイドンは海パンいっちょでいびきをかいて……


「おやすみ」「おやすみにゃ」


 明日は全員寝坊だな。





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