お花見
今日は朝早くから船のエンジンを積む作業して、10時頃にそれも終わって、最後の仕上げに塗ってなかった部分の色を塗って、船の名前を書き直した。
「ペラコート乾いたら海に浮かべてみるか」
「おーー!」
ペラコートってのは、プロペラにフジツボとかが付いても、振動で剥がれてプロペラを綺麗に保ってくれる塗料で、ちっちゃいボトル1本で万単位の値段がする高級塗料。
舵の周りに錆防止の亜鉛板も付けて、殆ど準備完了。
因みに、ポセイドンが持って来てくれた修理済みのエンジンは、何をしたのか知らないが、やたらピカピカになってて、燃費も馬力もトルクも上がってるらしい。
「350馬力だったエンジンを800馬力まで絞り出して燃費は良くなってるなんて、どんな魔法だよ?」
「出力向上と燃焼効率上昇だな。最高速度は100ノットくらい出るはずだぞ」
漁船だよ? そんなにスピード出してどうするんだよ、kmに直したら約180kmとか……パワーボートか。
「構造自体はそれほど変わった訳じゃないから、爆釣でもメンテナンスも出来るだろ?」
見た目はまるっきり新品のエンジン。800馬力のエンジンって滅茶苦茶高いんだよ……
「結局ペラも新品みたいになっちまったし……」
「私の今持てる技術を全てを注ぎ込みましたから」
リスティールさんが、プロペラシャフトの微妙な曲がりも、プロペラの歪みも整形して、更に欠けやピンホールまで全部埋めてくれた。
「魚探も潮流計も普通に動くし……」
「ボロっちい見た目も、ピカピカになったもんね」
船体は全部色を塗り直した。
「腐りかけてた、木の部分も全部交換できましたし」
ロナルディは植物操作で腐った部分を作り替える為の木を育ててくれた、乾燥とか製材とか魔法で手伝ってくれてさ。
「爆釣、お昼はお花見しながら食べようよ」
「満開ですもんね」
「他に誰も居ないから特等席だな」
「ふふふ、エルフの技の真髄を見せられました」
コンテナハウスのすぐ横に満開の桜の木が1本。
ロナルディが来てすぐに植えて、毎日植物操作で大きくしてくれてた。
そんなに太い桜の木じゃないけど、満開に咲いた桜は綺麗だし。
「皆で昼飯作るか」「美味しい物いっぱい作ろ」
「お酒も飲みたいですね」「僕は春野菜を収穫してきます」「行楽弁当か、俺の腕の見せ所だな」
それぞれ思い思いに行動し始めた。
こんな時の行動力は全員凄いんだよな……
「自宅に満開の桜が生えてるとか贅沢だな」
それぞれに好きな食べ物を用意して、桜の下にレジャーシートを敷いてお花見中。
「葉桜になったら桜餅でも作るか」
「それって美味しい?」「俺は好きだな」
ロナルディとリスティールさんは、2人の世界に行っちゃったな……
「ロナ……あ〜ん……」「あ〜ん……」
見てると胸焼けしそうだから、ぼ〜っと桜を眺めてる。
「なあポセイどん……エンジンの修理代いくらかかったんだ?」
修理と言うか新品だろ……見た目はそっくりだけどさ……時間掛かるだろうけど修理代くらい渡さないと。
「ロナルディとリスティールが自立する手伝いをしてくれるならタダで良いんだとよ」
「リスティールさんの祖父母って……もしかしてあのドワーフさん達?」
ポムも知ってんのかな?
「あのドワーフと言われても、どのドワーフか分からんが、やたら頑固で新技術に目の無い武闘派のドワーフだな」
リスティールさんって、海洋コンテナくらいなら持ち上げちゃうくらいに力が強いんだぞ……
そんな人の祖父母が武闘派? 危険すぎるだろ……
「ロナルディもリスティールさんも自立出来てんじゃん、家事も仕事もちゃんとしてんだろ?」
「それは、見本となるお前が居るからだ。地元では誰も見せてくれない事だからな」
ふ〜ん……
「ロナの事は産まれた時から見てたからよく知ってるけど、思春期になるまで着替えすら手伝いが居たもんね」
セレブだ……
「お風呂の時もメイドに体を洗って貰ってました。自分で洗えると痒い所をピンポイントで搔けるので最高です」
2人の世界から帰って来たロナルディの爆弾発言……
メイドだと!? ……良いなぁ……メイド服……
「私は小さい頃に鉄工の才能を見出されてから、ずっと鍛冶仕事しか……」
「嫌だった?」
なんか鍛冶仕事より家事やってる方が楽しそうに見えるんだよ。
「そんな事は無いです。でも……他にも色々やってみたいとは思ってました」
え〜と……なんだったかな……
「アレをしよう、コレをしようと思って行動に移してみるのは良い事だと思うぞ。だろ?」
「それそれ、さすがポセイどん」
心を読むな……この野郎……
(さっきからポムちゃんを見れないお前が面白くてな。眼鏡を外してるポムちゃんは可愛いだろ?)
ポムが眼鏡を外して、上向いて桜を見ながら寝転がってんだ……ポカポカ陽気だからなのか、ジャージを脱いでロンTでさ。
「春だな……」「春だね……」「春ですね」「ポカポカですね」「なあ、何もやる気が起きんな」
こんな時は……
「良し! 今日は夜釣りすっぞ。明日は寝坊してもいいや」
少しくらい気合い入れよ。最近ダラダラし過ぎだし。
「水深30〜40mくらいの所に丸々と肥えたワラサやブリがわんさか来てたぞ」
毎日海を見回ってくれてるポセイドン。ホント有難いな。
「おお! 釣ってぶり大根にして欲しい」
「それは良い物ですか?」
「僕も食べられますか?」
「ぶり大根なら俺の出番だな。得意料理の1つだ、唸らせてやろう、お前達の舌を」
皆で花見のあと片付け、アルコールが抜けるまで、風呂入ったり、ボケーっとしたり、船の設備の最終確認をしたり、船に釣り道具を積み込んだり……
船ってさ、プロペラシャフトを外して、修正したり交換したりした後に海に浮かべるのは毎回緊張するんだよ。
水が漏らないかとか、ペラが回っても大きく振動しないかとかさ。
だから今回もドキドキで海に浮かべたんだけど……心配してた事なんか何にも無くて。
「おお。エンジン音が凄い静かで軽快」
重油エンジンだし、滅茶苦茶五月蝿いのが普通なのに……
「魚探や潮流計はどうだ? ちゃんと反応してるか?」
もちろんバッチリ。
「海水ポンプもバッチリだから生き餌もしっかり元気を保てるし」
久々の操船。なんか懐かしいな。
「うし! 政釣丸発進!」「おーー!」
桟橋から皆で乗り込んで、ポセイドンの案内で漁場に着くまで軽目の夕ご飯。
「やっぱり混ぜ込みわかめシリーズは美味しいね」
ブリッジで船を操作する俺の近くで、おにぎりを食べてるポム、早速船酔いして世界樹の葉って名前のレタスを食べてるロナルディとリスティールさん。
ポセイドンは……
「ハッハッハッハッハッハ」
船の横を並走してるって言うか……
「なんでバタフライで30ノットも出るんだよ!」
競泳用のゴーグル付けてバタフライで船の先導をしてくれてる……
「俺はポセイドンだからな。出そうと思えばもっと出せるぞ」
ポムがポセイドンに渡そうとして投げたおにぎりを受け取る時に、イルカみたいにジャンプして受け取るポセイドン……
「なんか楽しそうだな!」「そりゃ楽しいさ! ハッハッハッハッハッハ」
漁場に着く前に体力使い切るんじゃね?
まっ、楽しそうだからいっか。
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