白身フライ



 ポセイドンと俺とで、何を作るか相談しながら夜飯の準備中。

 ロナルディとリスティールさんは畑に青葉とか大根とか取りに行ってくれた。


「エルフって農業させたら凄いのな」

「植物の成長速度を早めるアレか。あんまり多用しない方が良いんだけどな」


 ポムはウキウキしながら竿やリールのメンテナンスをしてくれてる。リスティールさんも帰って来たら手伝うらしい。


「土の中の栄養素を一気に吸い上げてしまうから、土地が痩せるんだよ。自然任せに育てるのが1番だが、ドワーフが居るなら話は別だ」


 土地が痩せるのは問題だな、だけど……


「なんで? ドワーフって鍛冶屋さんとか炭鉱夫ってイメージしか無いけど」


 珍しい素材を手に入れてウキウキしながら武器を作ってるイメージなんだけどな。


「ドワーフは鍛冶屋じゃなくて土の一族でな、土の状態を調べたり良い状態に保つのが得意なんだ」


 ふむふむ……


「鍛冶屋のイメージは創作から来たものだろうが、あながち間違いでも無い、地面を掘るのも鍛冶仕事も得意だからな」


 2人とも雑談しながらだけど、ちゃんと手は動かしてる。

 ポセイドンが半身は白身フライにするって言って、タルタルソースを作ってんの。半身の処理も自分でやるんだと。


「なるほどな……でもさ、昆布締めも吸い物もだけど、西京焼きまで俺が作って良かったのか? 和食ならポセイどんの腕の見せ所なんじゃ?」


「甘鯛なんてな、ある程度出来る奴が調理すれば、だいたい美味いもんが出来る」


 確かに……甘鯛そのものが美味しいからな。


「俺は和食の料理修行をしたし、腕の見せ所ってのも分かる。和食ってのは旬を大切にする、だがこの甘鯛は旬を外している。和食だとこの時期は使わない魚だな」


 そうなのか? よく分からん。


「時期の物を良しとするのはわかる。それは間違いじゃないし、旬の魚は美味い」


 夏場の甘鯛は本気で美味いもんな。


「だがな、旬を外していても魚の美味い食い方なんて色々あるんだよ」


 あるだろうよ……


「俺が思う甘鯛の1番美味い食い方は……白身フライと、鱗を残したままの皮と切り身の素揚げだな。俺の特性タルタルソースをドバッと乗せるのがコツだけどな」


 聞いてるだけで美味そう。


「熟成とかさせなくてよかったのか? せっかく冷蔵庫もあんのに」


 中古の冷蔵庫だけど、ピカピカだよ。

 扉に古いお菓子のオマケのシールが貼ってあるけど。


「熟成させた方が旨味は出るが、ポムちゃんの目の輝きを見てると我慢させるのは少し酷だと思ってな」


「それは確かに。テンション振り切ってんもんな」


 ポセイドンがタモを片手に海に飛び込んだ時にポムも一緒に飛び込もうとしやがったんだよ、泳げない癖にさ。


「流石にドワーフに力ずつで止められたおかげで、身動き取れなくなってたが、あれはちょっとな……」

「溺れてたら白アマ所じゃ無かったもんなww」


 あの時のポムのテンションに、ロナルディもリスティールさんもドン引きしてたww




 ちょっとだけホイル焼きも作ろうってなって、エリンギやシメジ、玉ねぎとニンジンも入れてバターたっぷり、味付けに軽くポセ醤油生姜無しバージョン。


「匂いで余計にお腹が減る……摘み食いしていい?」

「ダメ。もうすぐ全部出来るから、出来てる奴からテーブルに運んで」


「ポムちゃん、タルタルソースをボールから直接食べたりするんじゃ無いぞ」


「ゔゔっ」なんて唸りながら料理を運んでくれてるポム。

 我慢するのが辛そうだけど、みんな揃ってからな。


「よし、もう出来るぞ。そっちはどうだ?」

「後は余熱で良いと思う、ほぼ完成だな」


 デカい皿に大量に盛られた白身フライと唐揚げ。

 5人で食べるから少し大き目に作ったホイル焼き、両方完成。


「ポムー、座って待っててー」「はーーい」


 さあ、いざ実食。




 俺とポセイドンは冷え冷えの銀色のヤツ、ポムは冷え冷えのホワイトサワー、ロナルディは冷やした白ワイン、リスティールさんは焼酎ロック。

 それぞれ中ジョッキに準備して……


「まずは熱々の白身フライをタルタルソースをてんこ盛り乗せて食ってみてくれ」


 ポセイドンイチオシだもんな……

 デカいボールに大量に作ってあるタルタルソースを匙で掬って、それぞれに好きな量のタルタルソースを白身フライに乗せて……


「いただきま……んぐっ……あつっ……うまっ!」


 サクサクしててジュワッと甘鯛の味が溢れてきて、タルタルソースが冷っとしてて……ビール……ビール。


「うううっ………………おいひい…………」


 ポムも数回噛んでからすぐホワイトサワー……


「いただきます…………あらっ…………」


 リスティールさんは、丸ごと1つ口に入れて咀嚼したけど、焼酎をグビっと1口。


「熱いけど……」


 上品に口に運んだロナルディは、白ワインも上品に1口…………


「どうだ? 甘鯛のフライはヤバいだろ?」


 4人とも頷くだけ、だって口の中に白身フライが入ってるから。


「はふぅ……こんなに美味しい思いをしたのは初めてかも…………」


「すげえな……白身フライが御馳走じゃん」


 俺とポムは2個目に手が伸びるけど、ロナルディとリスティールさんは……


「ロナ、コレはイイ物です。こんなに美味しい白身フライなんて初めてかもしれません」

「リスティ……これなら僕でも美味しいと思う。嫌な匂いは殆どしないし、あっさりしててジュワッとしてて……しっかり魚の味はして…………」


 ポセイドンが一瞬だけグッと拳を握って、手応えを感じてた。


「内陸で暮らして塩漬けの魚しか食べた事が無ければ、そんなもんだろう。どうだロナルディ? 魚も美味いだろ?」


「はい。全部同じように美味しいのですか?」


「それは食べて決めようよ。ホイル焼き開けていい? 漏れてくる匂いが我慢できない」


 2個目の白身フライを堪能したポム。ホワイトサワーも半分くらい飲んでる。


「熱い物は熱いうちに食ってくれ。冷めても美味いが熱い方が美味いからな」「だな」


 何を食っても美味い、高級魚って言うだけはあるよ。


 俺が作ったのも美味いよ。


「昆布締めがヤバい。ホイル焼きがヤバい」


「さっきからヤバいヤバい言い過ぎだろ?」


 何を食べてもヤバいしか言わなくなったポム。

 ずっと顔がニヨニヨしっぱなし。


 リスティールさんは、ロナルディにどんな味か説明しつつ、焼酎ガブ飲み……ポカリですかソレ? なんて感じの飲むペース。


「どれを食べても美味しいですけど、バター焼きに入ってるエリンギとシメジを甘鯛と一緒に食べるのと、鱗のパリパリにタルタルソースを掛けて食べるのと……」


「ロナはどっちが好き?」


 リスティールさんの質問に悩んでる悩んでる……


「1番なんて決めなくていいさ。好きな物は好き。それで良いだろ?」


 ポセイドンって、いい事言うな。


「どっちか選ばなくても美味しい物は美味しいで良いよね」


 ポムって2種類味付けがあると、何時も両方って言うもんな。


「俺は白身フライがビックリしたよ。甘鯛の白身フライなんて贅沢だよなあ……」

「タルタルソースも美味しいもんね」





 ロナルディとリスティールさんが風呂に行って、その間にあと片付けを終わらした俺たち3人。ぐでーっとしながらいっぱいになった腹をポンポンしてる。


「ポムが先に入って来いよ。俺は最後で良いや」

「うん。先に入って来るね」


 ポセイドンが話したい事があるって頭の中に話し掛けて来るからさ、ちょっと2人で話す時間を作りたかったんだ。


「んで、何? なんか大変な事?」

「大変と言うかな、あの二人の教育と言うか、ロナルディの教育をよろしく頼む」


「なんでまた、大人だろ? 教育なんて必要なのか?」


 25歳なんだよな……


「アレは本当に世間を知らずに育ったんだ。本物の温室育ちってヤツな。今は初恋の勢いに任せて行動しているが、どうなるか分かったもんじゃ無い」


「別にいいんでない、千年くらい生きるんだろ? 失敗も経験だと思うけどな」


 失敗なんかしない人生なんて無いだろ?


「アレは次代のエルフの代表になる1人なんだよ。あれの育ち方でエルフと言う種族全体が影響を受けるんだ」


「ポセイどん的には、どんな感じで育てようと思ってんだ?」


 そこが大事だよな。ある程度ポセイドンに指針を貰わないと……


「チヤホヤしなくていい、普通に扱ってくれ。幼い頃からなんでも周りがやってくれるのが当たり前で育っている奴だから、そこから変えて欲しい」


 爺ちゃんが凄ぇ金持ちって言ってたもんな……


地獄ここで生活している間に、自分で試してみる、自分で何かを決める、自分で何かを見つける、そんな風に導いてくれ」


「俺も出来てないから、教えるとか無理だよ。テキトーにぼちぼち付き合ってくしか出来ないけど、ダメそうな時はアドバイスくれよな」


「勿論だとも頼んだぞ」だってさ……


 頼まれた、世話になってるお返しだな。


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