アサリとハマグリ



 ビーチパラソルの下で昼寝してたはずなのに、目が覚めたら首から下が砂に埋まってた……


「なあポム、起きないからって何でもしていい訳じゃないぞ」


 服を着たまんまだから砂が入ってきて気持ち悪い。


「1mも砂を盛られて起きない爆釣もどうかと思うよ。 疲れてた?」


 う〜ん……そんな事ないな。


「疲れてないよ。普通に気持ちよく昼寝してただけかな……と言うか砂を除けてくれよ」


 しっかりと水で硬められてる、結構重い。


「吹上浜砂の祭典の真似してみたんだけどダメだった?」「ダメだった」


 何してんだよ、砂像ってなら分かるけど人を埋める祭典じゃないぞ。


「ちぇっ。力作だったのに……」

「それは、映像に残しておくべきだろう」


「そんな事言わずに助けてくれよポセイどん」


 スーツ姿のポセイドン、似合ってんなスーツ。


「ぐるっと動画に収めてからな」「ポセどん、頼んでたの買ってきてくれた?」


 む? ポセイどんの右手に普段から使ってるスマホ、左手に家電量販店の紙袋……中は……


「もちろんだとも、使い方は分かるよな?」


 おお、スマホだ。


「 WiFiは爆釣の頭頂部がアンテナになってるから、爆釣の近くじゃないと電波届かないぞ」


 なんですと?


「うん。ありがとうポセどん」


 俺の頭頂部がWiFiルーターのアンテナなの?


「そうだぞ、お前の体は作り替えられたって教えただろ? 基本的には人間だが、頭頂部にはWiFiルーターが仕込んであるぞ」


「何処にだよ」「頭皮と同化してるぞ」


 ぇぇぇぇぇぇ…………なんだよそれ、キモっ……


 ちなみに、俺が埋まってた砂山は、クオリティの高いカニの砂像だった。俺も写真撮っといた。



 寝ててすっかり忘れてた七輪と炭はポムが用意してくれてた、網はもちろんドワーフ製。ポセイドンに貰ったやつ。


「上善如水か……またいい酒を」「だろ? 辛口で呑みやすいと言えばコレだな」「ちっちゃいね」


 5合瓶だもんな、まあ十分だよ。


「普段ポムちゃんが呑んでるホワイトサワーだと、これのコップ1杯が、ホワイトサワー4杯分だな」


 ポムの呑んでるホワイトサワー系のチューハイってアルコール3%だもんな。


「焼きハマとアサリの酒蒸しと深川飯だけじゃ寂しいだろうと思って煮ハマも作って来たぞ、握ってやろうじゃないか」


 おお……


「それなら小アジの味醂干しも焼くか」

「エリンギとネギ、あとトウモロコシも」


 婆ちゃんが良く作ってた味醂干し、調味料の分量はまんま婆ちゃんが作ってたのと同じ。


「まっ俺は先に風呂入って来るよ、砂がパンツの中に入ってて気持ち悪いんだ」

「それなら俺も入ろうじゃないか、風呂は拡げたんだろ?」


 もちろん拡げたぞ、男二人密着状態で入るのヤダし。


「爆釣が寝てる間にお風呂は入ったから、私はスマホの設定しとくね。ムフフ」


 ポムのやつ嬉しそ……





「爆釣、お前の活動報告をしたら、色々と意見が出てな、お前に関係有りそうなのだけ教えとく」「うむ」


 ポセイドンと2人、露天風呂に浸かりながら雑談中。


「概ね好感触だな、お前のやりたいようにやっていれば十分な報酬を支払われるぞ。ただな……」


 ただ?


「もう少し漁獲量を上げてくれだとさ。たまたま日本むこう時化しけ続きの時期があってな、魚貝類の入手が困難になった時に、お前が大量に鯖を水あげしてくれて助かったらしい」


 漁業なんて天気次第なとこがあるもんな。


「俺からは礼を言っておく。絶滅危惧種達に住む場所を与えてくれてありがとうな」

「なんだそりゃ?」


 ポセイドンが深々と頭を下げてやんの。


「青キスもハマグリもアサリも地球では環境の変化に対応出来ずに絶滅しかけてるんだよ」


 ふむふむ……


「お前が江戸前の環境を選んでくれたから、地獄こっちで増やして地球むこうに連れて行く事が出来る、そこは感謝してるんだ」


「欲しい環境があれば教えてくれよ、別にこれと言ったプランなんて無いんだからさ、どうせなら地獄こっちで養殖して増やすとかもアリだろ?」


 アリだよな?


「それなら魅惑のマーメイドちゃんの住める環境を……なんだその目は……」


「それは、なんかヤダ」「ちっ……」


 なんでか分からないけど、2人で爆笑してしまった。



 いつもの様にコンテナハウスのキッチンで料理を始めた俺とポセイドンなんだけど、今日の俺は見学。


 ポセイドンなんか板前モードになってて、いかにも美味しいモノを作りますって見た目になってる。


「今回は適当に俺の店のレシピで酢飯を作るが、自分なりの作り方を模索してみろ」


 確かに、こんだけ魚貝類が豊富なら寿司とか自分で握れた方が良いかもな。


「煮ハマも同じく調味料の分量を調整してオリジナルレシピを作ってみろ、自分の好きな味を作り出すのも料理の楽しみなんだからな」


 んだな。俺オリジナルレシピか……


「ポムー、七輪の準備出来てるかー?」

「全部準備は終わってるよー」


 流石だな、食べる事の方がスマホより大事っぽいもんな。


「あれ? ハマグリ握らんの?」「食う直前に握ってやるさ、昭和後期に寿司屋で修行もしていたから、腕は確かだぞ」


 すげえなポセイドン、和食のエキスパートじゃん。


「そういう事は声に出して言ってくれて良いんだぞ」





 またやってる……


「お前らさ、焼く時に黙んなよ」


 目付きが真剣過ぎる……


「最高のタイミングで食べてやらねば食材に失礼だろ」「私もそう思う。爆釣は適当過ぎ」


 めんどくさいな……


「エリンギもーらい。ハマグリ焼けたら教えてくれよ」


 酒蒸しでも食お。ネギ散らして良い感じに美味いよ。それ以外になんも言えない。


「深川飯も煮ハマの握りも美味えのな」


 網の上から醤油の焼ける匂いとハマグリの匂いが……


「これなんかもう良いだろ?」「あっ!」「何をする!」


 ヤバい……美味すぎる。


「なんだこりゃ。しみ出てる汁も醤油の焦げも最高じゃんかよ、焼き過ぎて硬くなる前に食え食え」


 そっからは3人で奪い合いな。わちゃわちゃ言いながらさ。


「辛めのスッキリした日本酒飲みながら酒蒸し食うとか、日本人で良かったなあと思う瞬間だな」


「ワイン蒸しも美味いが酒蒸しも美味い、とは言っても、貝なんてよっぽどの事が無ければ焼くか蒸すかすれば美味いんだけどな」


 ポムなんか、殆ど無言で深川飯をかっこんでるし。


「美味かった……なあポセイドンさんよ」


「なんだ?」「俺にさ、料理教えてくれねえかな?」


「あっ。私も教えて欲しい」


 今まではテキトーだったんだけどさ、なんか勿体無い気がして来たんだよな。


「いつも教えてんだろ? 職人の技法を見るだけでも勉強になってないか?」


 確かに、手元とか見てると勉強になる。


「爆釣だけズルい。私も美味しいもの作りたい」


 それは、ポムがキッチンに来ないからだろ。


「本格的に習いたいなら量をこなさないとなのだが、知ってるだけでも十分な財産になる。俺は誰かに教えた事が無いから上手く教えられるか分からんが……」


「十分教えるの上手いよ」


「だね。爆釣の料理の見た目が変わったもん。前はごちゃごちゃだったのに、今はちゃんと盛り付けとかしてるし」


 だな。見た目も美味しそうに見えるようにって考え始めたもんな。


「それじゃ明日はイワシでも釣るか」「なんでまたイワシ?」「イワシ! 私大好き」


 ポセイドンがニヤニヤしてる……


「俺の店で出す分の下処理をさせてやる。3年分くらい在庫を増やしてくれよな」


 どんだけだよ……


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