潮干狩り




 昨日とは打って変わって真っ青な青空。雲ひとつない快晴ってやつだ。


「爆釣、洗濯物干したら潮干狩り行こ」

「昼飯は浜でなんか焼いて食うか」


 三列作った物干し台の1つは俺、1つはポム、1つはポセイドン用。ポセイドンの分はTシャツとハーパンと海パンしか無いから楽。


「んじゃ車に色々積んで準備しないと」

「朝飯はシーチキンが1缶残ってたよな? あれをおかずにして、インスタント味噌汁で良いか?」


 今日の朝飯も手抜きな、だって……


「すげー綺麗な砂浜だな」「ちょっとテンション上がるね」


 設置した砂浜がめちゃくちゃ綺麗なんだよ。


「ゴミひとつ落ちてねえし」「漂着物1つ無いもんね」「そりゃこの島以外何も無い世界だからな」


 おお。ポセイドンが本気スタイルだ、柄が1.5mくらいあるデカいジョレン持ってる。


 業務用だろそれ?


「おはよう2人とも、朝飯はササッと済ませたいだろうと思って……ほら」

「おお、生シラスか」「うわあちっちゃい」


 朝から豪勢だな、生しらす丼なんてさ。


 生しらす丼なんて説明なんか要らないだろ? 江の島に行って食ってくれ。ちょっと値は張るけどフリーズドライのインスタント味噌汁と一緒にごちそうさまだったぜ。


「ポムはアクアソックなら何色が良いか? 1足買ってやんぞ」「灰色がいい、むしろ灰色じゃなきゃヤダ」


 チョッキも灰色だったし、灰色が好きなんだな……


 3人揃ってTシャツとハーパン、足元はアクアソック。だけど、俺とポムが持ってるのは……普通の潮干狩りセットだよ。


 セットで2000円くらいのヤツ。


 ポセイドンが一掻きでゴソッとアサリを掘ってるのを見ながら、ポムと2人でしゃがみ込んで、ちまちまと熊手で潮干狩り中なんだけど。


「すっげーデケぇハマグリじゃん。焼いたら美味そう」「パスタ...♪*゜ パスタ♪̊̈」


 なんと言うかイージーモードって奴だな、潮干狩り用に稚貝を撒いてある砂浜で掘ってる感じで、軽く掘ったらゴッソリ出てくんの。


「バケツ半分くらいになったら飯にするやつ分けとかないとな」「うん、それチョー大事」


 昼飯や夜飯のおかずにするなら先に砂抜きをしとかなきゃなんだよな、だから最初の方で掘ったやつは角バケツに海水を入れて、その中にぶち込んどいた。


「ハッハッハ! 私の実力はこんなもんじゃ無いぞ。よっせい! ほっ! とりゃさ! はっ! ふっ!」


 デカいジョレンを振り回して、ゴソッと砂ごと掘って角バケツに入った海水で砂を落としてるポセイドンなんだけど……


「なあ……そんなに獲ってどうすんだよ?」

「もちろん、自分の店で使うぞ。自分で掘れば材料費はタダだからな」


 なるほどな。でもどうやって保存しとくんだろ?


「冷凍しちゃうのか? 冷凍したら勿体なくね?」


 角バケツの中で生きてんだもん。砂抜きして、お吸い物とかにしたら、めちゃくちゃ美味そうじゃん?


「あのなあ……前に教えただろ? インベントリに保存しておけば時間も大きさも関係無いんだよ」


「便利だなそれ、冷蔵庫要らずじゃん」


 出会ってすぐに聞いたような気がする。


「冷蔵庫は必要だぞ、旨味を出す為に寝かせたり、味を染み込ませる為に冷蔵庫で保存したりするからな」


「牛乳を冷やすのも、冷たい麦茶を作るのも必要だよね」


 う〜ん……そう言われたらそうかな。


「まっ、人間の爆釣には使えない物だから気にするな」「人間のって事はポムも使えんのか?」


「私のインベントリは、カトラリーとチョッキと下着が入ってるから、もう入らないよ」


 おお、使えるんだ。神様って良いなあ……


 そんな事を話ながらも手は動かし続けてるんだけど、どんどんアサリやハマグリが溜まって行くんだよ。


「とりあえず1度売ってみるか、値段調べたいし」


 中くらいのビニール袋にいっぱいにして販売アプリを起動して魔方陣に乗せてみた……


「なあポセイどん……何だこの値段は……」


 なんだこりゃ、アサリもハマグリも1個単位で値段が付くのかよ……


「そりゃそうだろ。地獄ここに住むアサリだってハマグリだって令和の日本だと希少な固有種だ」


 ほへ〜超珍しいじゃん。


「お前が設定したのは江戸前だったろ? ハマグリは一般的に食べらている支那ハマグリや汀線ハマグリとは違う、日本固有種のハマグリだし、アサリも北海道産の粒が揃った一般的な物と違って、粒の揃っていない黒い物だが、こっちの方が実を言うと美味いんだよ」


 どっちも高級品じゃん。


「見分け方なんかは、自分で覚えろ。まあ食えば一噛みで分かるんだがな」


 楽しみだな。


「お昼ご飯の準備しなくていいの?」

「そうだな……パスタとピザだったっけ? コンロと電子レンジ……」


「ピザ窯ならあるぞ」そんな言葉と共に、ポセイドンのポケットからピザ窯と薪が出て来た……


「イタリアンなら弟から色々教わってるからな。美味い海鮮ピザとアサリのボンゴレを食わしてやろうじゃ無いか」


 砂浜に続々と出てくる調理器具……


「ポセどんってさ、移動式キッチンだよね」


 唖然としてたら、ちっちゃい声でポムから言われた。


「一流シェフ付きのなww」「だねww」


 俺と同じシャンプー使ってるはずなのに、ポムの髪からふわっといい匂いがした。




 俺とポムで4万ポイントくらい稼いで今日の潮干狩りは終了。昼前に終わってしまった。


「車からレジャーシートとお皿取ってくるね」

「ビーチパラソルもな」


 ポムに準備は任せて、俺とポセイドンでパスタとピザに別れて準備中。


「ポムちゃんって、すっごい御機嫌だな」「尻尾がピーンなってんもんな」


 聞こえてたみたいだ、ニヤニヤしながらこっちを見てるし。


「だって美味しいゴハンが待ってるんだもん、御機嫌にもなるよ」


 そりゃそっか。俺もポセイドンも鼻歌まじりだもんな。


「パスタって茹でる時に塩をちょっと入れるだけだと思ってたんだけど、結構入れるんだな」

「麺自体に塩味を付けるんだよ、そうすればオリーブオイルとの相性が更に良くなるんだぞ」


 へ〜、知らんかった。


「ピザの生地は出来合いなのな」「これは弟から作って貰って保存しておいた奴だ」「出来合いでも何でも気にならないよ、美味しそうな匂い」


 ポセイドンの弟ってパリでイタリアンカフェ&レストランやってんだよな、凄い期待出来る。


 でも、ピザの焼ける匂いって良いなあ……




 パスタもピザも完成したよ、凄い美味そう。

パスタは1人200g ピザは1人1枚。


 Lサイズくらいのアサリとハマグリの海鮮ピザと大盛りのボンゴレが昼飯と来れば……


「ダンっ! 三ツ矢なヤツ!」「サイダーだな」

「昼からもなんかするの?」


 昼からはゴロゴロしながら漁船でも選ぶつもり。


「なーんもしない。砂浜ここでゴロゴロしとくつもり」「おお。日向ぼっこ」


「俺は1度地球に帰って色々報告してくる、夕飯前には戻って来るつもりだが、日本酒買ってこようか?」


 さすがポセイドンだ、なんでか日本酒は通販サイトで買えないんだよな……料理酒は買えるのに。


「辛口のやつな」「あんまり辛いと飲めないから、私はスッキリしたのが良い」

「どっちもオススメを買ってこよう」


 ピザもパスタも……


「美味いな……やっべぇくらい美味いな……」

「アサリが凄い」「アサリの味もハマグリの味も海がギュッと濃縮されたようだろう?」


 こりゃ夜飯も期待出来るな。


「炭火焼きでハマグリは焼きたいから七輪と炭を用意しておいてくれ」「了解」「んじゃポセどん、また後で」


 昼飯が終わって満腹な俺とポム、2人で砂浜にビーチパラソル立ててレジャーシート敷いてゴロ寝中。


「なんか、こんな生活って良いなあ……日本に帰れなさそ」「爆釣は帰るつもりなの?」


 う〜ん……わからん……


「どうなんだろうな。何となくだけどさ、今の生活が気に入ってるから、地獄ここに就職しても良いかな。正社員とかになってさ……」


 満腹過ぎて眠い……


「正社員になったら何かあるの?」

「さあ? なんかあったら良いなあ……」


 寝落ちする直前に「おやすみ爆釣」って声が聞こえた気がした。




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