ダラダラな1日 後編
ちゃちゃっと昼飯も食い終わって、3人で【第1回砂浜をどうするか会議】を始めたんだけどさ……
「10㎡ずつ増やすとか面倒臭いからテンプレ砂浜を買え」「一年中潮干狩り出来る砂浜が良いな」
200ポイントずつ使って少しずつ購入しようとしてたんだけど、ポセイドンは面倒臭いって言うし……
夏は泳ぎたいから綺麗なビーチを選ぼうとしたらポムは反対するし……
「面倒でもちゃんと考えて設置したいんだよ。それと、一年中潮干狩りなんて俺が嫌なんだ」
どっちも拒否だよ。
「それなら何処かのビーチを参考にして1度値段を調べてみれば良いさ。結局テンプレの方が安く済むと分かるはずだ」「私は泳げないから潮干狩りだけで良い」
ぐぬぬ……
「俺の理想としては釣りも潮干狩りも海水浴も出来る万能な砂浜が良いんだけどな」
どうせなら全部出来る海岸がいいんだよ。
「贅沢な悩みだな。それぞれに特化した海岸を作ると言う手もあるんだぞ?」
何ヶ所も作るか……無駄だよな……
ポムが何かに気付いたみたいだけど、こんな時はろくな事言わなさそう……
「そうだ。地引き網も出来る海岸にしようよ」
む……それは良いかも……それなら……
「吹上浜……」「ほほう……吹上浜か」「何処それ?」
鹿児島にある日本三大砂丘の1つ吹上砂丘……
「マップをスクリーンショットで撮って、写真を編集からカットして、設置アプリに読み込んでみろ、地形だけの値段と設備を含む値段が出るはずだ」
「ねぇねぇ、何処それ?」
ポセイドンから教えて貰いながら、日本地図をカットして、異世界こっちのマップにペーストしてみた。
なるほど……マップにこんな使い方もあるんだな。
「えとな、日本って国の鹿児島って地域にある砂浜で、ウミガメの産卵とかで有名なとこ。釣りも潮干狩りも海水浴も出来るし、もちろん地引き網だってできるぜ」「お〜、それいいね」
設置に掛かる費用……ぐはっ……
「なあポセイどん……1/4スケールにして設備無しでも6千万ポイントなんだが……」
「そりゃそうだろうよ。日本三大砂丘の1つと言うのも理由だが、日本の渚100選の1つでもあるんだからな。安い訳がないだろ」
仕方ない……
「テンプレ砂浜でも100万ポイントからじゃん……」
「普通に100メートルくらいの砂浜から作れば? 小さい所からコツコツ広げてこ」
「そうしろ、そうしろ。いきなり無理をしても何にもならん。あとな、砂浜を作るなら1つ頼みがある」
おっ? どんな頼みだろ?
「マテ貝も住めるように潟も有る環境にしてくれ。あれにちょっと酒と醤油垂らして煮ると美味いんだ。」
「おお、それいいな。マテ貝って最高の肴になるもんな」
「美味しそうな雰囲気がする。マテ貝ってどんなの? どんなの?」
スマホで画像検索して見せてみた。
「私これ知ってる。2mくらいあるやつでしょ?」
「はあぁ? せいぜい10cmだろ?」
2mってなんだよ……怖いよそれ。
「2人とも間違って無いぞ。それぞれの住んでいた世界では、その大きさだ」
マジ? 2mのマテ貝って……デカイな、おい。
「油断して上を歩くと、ドカーンって下から強烈に突き上げてくる魔物でしょ?」「塩をちょっと撒くと飛び出してくるちっちゃい貝だよ」「地球産のなら少し持ってるから食ってみるか?」
おお、ポセイドン頼もしい。
「食べるか聞かなくても食べる。美味しそうな予感がするもん」「まあ、酒に合うな」「んじゃ何か他のツマミでも作るか」
まっ何時ものパターンだな。
俺とポセイドンは水周り兼キッチンの方のコンテナハウスで料理、ポムは服に尻尾の穴を開けるからって裁縫……縫えるんだ……
「んで、ポムちゃんと何処までいったんだ?」
「はあぁ? 何もしてねえよ」
ポムは猫だぞ……猫だよな……
ポセイドンと2人並んで料理をしてんだけど、包丁の使い方、魚の下拵えとか色々習いながらなんだ、和食の板前ってだけあって魚を捌くの超上手いんだポセイドンって。
「若い男女が同じ部屋で寝食を共にして何もしてない? お前は不能なのか?」
「んなわけねえ。それにポムは猫だろ? 猫と恋人になるとかどんだけ寂しい奴なんだよ」
まあ恋人代わりの猫すら俺には居なかったんだけどな。
「アバター買い与えてたから、てっきり惚れてんのかと思ったが違ったのか……」
「そんな理由で買い与えた訳じゃねえよ。まあ多少は期待したトコはあるけどさ」
多少な。
「寝る時は猫に戻るんだぞ、猫の時はただ可愛いだけじゃんか」
「ふ〜ん……ふふふっ」
ニヤケんな……
「しかし、爆釣は自炊でもしてたのか? ある程度の基本は出来てんだな」
「自炊ってか、自分で釣って料理して食べるまでが趣味だったからな。ほとんど独学だけど、漁師の爺ちゃんから教わった捌き方だぜ」
一本釣りの漁師だったんだ……
「なるほどな。漁師風か、だから豪快なんだな」
まあな。爺ちゃんって、美味い部分しか食わない人だったもんな……
「なあポセイどん……俺の爺ちゃんも異世界ここに来てんのかな?」
「ん? 時期が違うからそれは無いぞ。それに、お前の祖父なら俺の部下になってるからな」
ホワイ? 爺ちゃんがポセイドンの部下? 神様って事?
「死ぬ時は海で死にたいとか言って、ホントに海で死んだらしいな。兄貴から海担当の新神って紹介されたのが4年前だったかな……今は豊後水道の端っこを管理をさせてるぞ」
「マジ? 死んでも海で仕事するとか……爺ちゃんらしいっちゃらしいかな」
関サバとか釣ってそう……
「骨を切る時は関節に包丁を入れろ。力の無駄だ。あとな、少し中骨に身を残せ、吸い物にした時に身が無いと寂しいだろ」
「了解。でも腹骨のトコはめちゃくちゃ薄く取るんだな」
そっか……爺ちゃん元気してそうだな。
「腹骨の部分は出汁を取るくらいしか使わんからな。残った部分は骨を綺麗に取り除いてやって猫の餌だ」
ふむ……ポムにやったら……文句言われそ。
「お前の祖父は楽しくやってる、それは海の最高神の俺が保証してやる」「うん……それならいいや」
「ただな……すぐに同僚を捌いて食べようとするから、少し苦情が来てるんだよ……」
「ぷッ……有り得そう。水族館とか行ったら美味そうとしか言わない爺ちゃんだったもんな」
なるほど……出汁を引く時は……
「美イルカちゃんとか、美海亀ちゃんとかを捌いて食おうとした時は皆で必死に止めたんだからな」
「あ〜。イルカも海亀も食い物だって言ってたもん」
てかイルカとか海亀に美人とかあんのか?
「出汁を取った後の昆布は佃煮にするから刻んでおけ。美味い佃煮の作り方を教えてやるぞ」
「了解。小さめに刻んで良いのか?」
なんだかんだで、男二人で料理してんのも楽しいもんだな。ポセイドンの手元を見てると勉強になるし。
「ポムー、出来たやつから運んでくれー」
「は〜い。ちょっと待ってねー」
砂浜を作った後は漁船でも買おうかな……
「おお……美味しそうな匂い」
「匂いだけじゃ無いぞ、味見したけど超美味かった」
む! ポムの尻尾が……
「おお……尻尾ってそんなとこから生えてんのか」
腰のトコ……ベルトのちょい下くらいかな。
「お腹に巻いてるとモッサリしてて気持ち悪いけど、外に出してると楽で良いや」
尻尾の先をぴょこぴょこしてやんの。
「なあ爆釣……」「ん?」
(お前ら付き合ってんだろ? 恋人同士の日常会話みたいに聞こえるぞ)
うわっ! 頭の中に直接響いて来た……確か最初に会った時もこんな感じで……
「んなわけないだろ。バカ言ってないでさっさと運ぶぞ」
「どうしたの?」「いや、何でもない」
寝る前までずっと、ポセイドンが言ってた「付き合ってんだろ?」が引っかかってモヤモヤしてたんだけど……
「おやすみポム」「おやすみにゃさいにゃ」
俺の枕元に置いてあるダンボール箱の中で丸くなるポムを見たら、そんなのどうでも良くなった。
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