ダラダラな1日 前編



 朝起きたら空がどんより、ポムもやる気なさそうに猫型のまま、こんな日は1日ダラダラしよう。


「朝飯はカリカリで良いか? 普通に食うか?」


 作るの面倒臭い……こんな日は手軽に食えるのがいいな。


「普通に食べるにゃ」「んじゃ食パンな」


 面倒臭いからシーチキンとマヨ……ウインナーとピザソースとチーズ乗せたのも作ろっかな。


「冷蔵庫とオーブントースター買ってよかったな」


 昨日、一昨日のカワハギのおかげで、電化製品が充実したよ。


「着替えるからカーテン閉めて欲しいにゃ」「ほいよ」


 部屋の真ん中に付けたカーテンを閉めて、ぼけ〜っと外を見てたらポツポツ雨が降ってきた。


「ポムも2枚食べるか? 」「うん。飲み物はホットミルクで」


 コンテナ同士は勝手口を同じ方向に向けて簡単な屋根を作ったから濡れずに移動できる、ちゃんと洗面所も作ったよ。とりあえず顔洗って歯磨きしてから飯作ろ。



「カワハギで一気に生活が充実したな」


 ちょっと古めの電化製品ばっかりだけど、十分過ぎるくらい揃ったし。


「明日もカワハギる? 別のにする?」


 なんとなくだけど、毎日同じなのは嫌なんだよな。


「今日は1日ダラダラしながら、砂浜を作るよ。明日は潮干狩りしようぜ」「おお、潮干狩り。私得意だよ」


「ほほう……潮干狩りマスターの俺に挑んで来るとは」


 引き戸が開いて現れたのは、何時ものポセイドン。


「おはよう、びしょびしょで上がって来るなよ」


「おは、相変わらず海パンなんだね」


 一瞬で着替えて食卓に……


「ポセイドンもパンで良いか? ご飯炊いてないんだ」


「1枚はマーガリンだけ、もう1枚はウインナーとマヨだけにしてくれ。飲み物はコーヒー、砂糖少々で」


「ほいよ」


 焼き上がるまでに歯磨きしてくるだってさ。


「なんだかんだで、ポセイどんも一緒に暮らしてるみたいな感じだな」「たまに仕事で留守にするって感じ?」


「爆釣がここに住んでくれと頼んできたのだろう。まあバカンスも1人だとつまらんと言う理由もあるんだけどな」


 あ〜言った言った。あん時は逃げたくせに。


「海の便利屋扱いされると思っていたから逃げたがな、呼ばれてみれば、開発の相談くらいしかされないから拍子抜けだ。これくらいなら住んでも大丈夫と判断したんだ」


「海の便利屋?」「今でも十分便利屋な気が」


「チッチッチッチッ」


 人差し指1本左右に揺らしてチッチッ言うのがウザ……


「地球人達が俺に頼む事って知ってるか? 荒れる海を鎮ろとか、私の守護している海の生き物達を大漁に獲らせろとか、海底を漁って宝物を見つけさせてくれとか、安全を担保しろとか、結構無茶な事ばかり頼むんだぞ」


 ああ……確かに。


「お前達が俺に頼んだ事を覚えているか?」


「う〜ん。地形の相談くらい?」「そうだ」


「へ〜。私は美味しい料理を捧げろってくらいかな?」「そうだ」


 キリッとしてんな……焼けた食パンとコーヒーが入ったマグカップ持ってんのに。


「ここは気楽なんだよ。漁獲量が減った、神様に大漁祈願だ。時化が続いてる、凪になれ。いい波が来ますように。船旅が安全でありますように。etc……毎日えぐい数のお願いをされるんだぞ。」


 確かにそうだろうよ。


「プラスチックゴミで海洋生物の命を脅かして、バンバン汚染物質を海に垂れ流して、ひどい時には核実験としてたくせにな」


 プリプリ怒ってんな……


「人間は嫌いか?」


 なんとなく聞いてみたくなった。


「そんな事無いぞ、美人は好きだし、愛嬌のある娘こも好きだな。ガールフレンドだって世界中に居るし」


 けっ! 聞いた俺が馬鹿だった。


「1人だけを愛する神も居れば、あっちこっち現地妻を作る神も居るし、近場で不倫する神も居たりして、神の恋愛って自由だよね」


 ポムも神様なんじゃないのか?


「上に行く程に自由神になるのは仕方ない事さ。日々の仕事のストレスで何処かネジか飛んでしまうのだ」


 ふ〜ん。


「まっ面倒臭そうな話はいいや。砂浜を作ろうと思ってんだけど、暖流側と寒流側どっちに向けるのが良い?」


 せっかくだから海のエキスパートに聞いてみないとな。


「暖流側にしろ、夏が来れば海水浴を楽しめる。寒流側は夏でも20℃くらいの海流を引っ張って来るつもりだからな」


「了解。明日は潮干狩りだな」「それなら夜は酒蒸しと深川飯だな」「ピザとパスタも食べたい」


 明日は昼にピザとパスタ、夜は焼きハマグリとアサリの酒蒸しかな。




 ずっとしとしと雨が降ってて、ちょうど良いやって思って、昼前までボチボチと釣りの仕掛けを作って過ごしたんだけど……


「おっ今年のカタログ? 俺にも見せてくれよ」


 釣り具メーカーのカタログってさ、見てるだけでウキウキするよな。


「Web版も見ていて楽しいが、やはりカタログは紙媒体だから楽しめるよな」「見てるだけで1日潰れるもんな」


「お昼ご飯の準備ぃ〜」「ほいよ。この間お裾分けに貰ったカマスのみりん干しが良い感じになってるだろうし焼くか」「爆釣、炊飯器のスイッチは入れたのか?」


 ふふふ……


「もちろん予約してあんぞ、そこは抜かりなくさ」


「ちゃちゃっと味噌汁でも作るか。具はワカメと豆腐で良いか?」「エノキも入れて」


 ポムは完全に殿様モードだな。上げ膳据え膳ってやつ。

 テレビ版の剛田や骨川に怒りつつ、野比のダメさ加減に憤り、出来る奴は出来ない人の気持ちが分からない嫌な奴とか、源さんは風呂ばっかり入ってて体臭が気になるのかな? なんてブツブツ言ってる。


「映画版の4作品目は見せないで欲しい。俺の名が悪役だからな」「そうだっけ? 覚えてないや」


 ブロンズなのに、すぐ光の速さを超えたがる若者達の出てくるアニメでも敵役だったな……


「そういやポセイどんって、アテナと仲悪いの?」

「そんな事は無いぞ。姪達には会うと毎回、結構な額の小遣いをむしり取られるくらいだ」


 あれ……身内なの?


「身内だぞ。と言うか、爆釣は神話に興味無いのか?」

「全く無い、神話じゃ腹は膨れないからな」


 神話よりも台風が来る事の方が気になるよ。


「台風シーズンになったら教えてやるさ。それまでにもう少し住環境を整えなければな」


「あれ……声に出てた?」「あのなあ爆釣、俺は神だぞ。お前の考えてる事なんて全部分かってるよ」


 凄い便利なやつじゃ……ぬあっ!


「さっきからポムちゃんのお尻に視線が行ってるな……」


 ポセイドンが凄い小声になって余計な事を……


「尻尾がどうなってんのか気になってさ」


 ニヤニヤすんなよ、エロい事考えてたって思われるだろ。聞こえてんだぞ、ポムって耳がめっちゃ良いから。


「尻尾は腰に巻いてる」「らしいぞ……ふふっ……」


 だからニヤニヤすんなって。


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