バーベキュー



 3人分の洗濯物を5回に分けてやってたんだけど、毎日魚介類だけじゃ飽きるだろ? だから夜はバーベキューにしようってなった。


「いつも動画とか見てて疑問だったんだけどさ、アメリカ人って、なんで肉にシナモンパウダー塗りまくるんだろ? 塩コショウとかで下味付けるなら分かるけどさ。」


「食べてみたら意味が分かるぞ。」


 ふ〜ん。ポセイドンが何時もの見た目に戻ってると、なんかバーベキューが良く似合うな。


「野菜は串に通しておく。」「仕込みは任せたポセどん。」


 ポムも手伝えば良いのに。


「明日の朝まで雨降んなきゃ良いけどな。」


 2週間分くらい洗濯物溜めてたから量がえぐいや。


「天気予報でも見たらどうだ? 数日は晴れが続くはずだが、こまめにチェックして対策しとかんと、台風1発で根こそぎやられるぞ。」


 あるんだ天気予報……と言うか、台風なんて来るのかよ……スマホ……スマホ……


「明明後日が曇り雨になってんな……てか気象衛星からの映像とかも見れんのな……」


 どこにあるんだろ気象衛星……まあいっか……


「やっぱり貝は必須だよな……牡蠣とサザエ取ってこよ。」


 牡蠣もサザエも最初に立ってた岩の近くに沢山居たもんな……


「ついでにトコブシも頼む。トコブシの醤油焼きも美味いぞ。」


 おお! トコブシも良いな。醤油と酒をちょっと垂らして火を入れると美味いんだよ。


「私は乾いてる洗濯物でも畳もうかな。2人ともご飯の準備はお願いね。」


「ほいよ。」「任せておけ。」



 素潜りするならウエットスーツ欲しい……と言っても、膝くらいまで海に浸かれば牡蠣もサザエもトコブシも結構居るんだよな。


「牡蠣の種類とかまで分かんねえけど、サザエは2種類とも居るんだな。」


 殻がトゲトゲの奴と、殻がシュッとしてる奴な、関東だとトゲトゲの方が人気があって、関西だとシュッとしてる方が人気があるらしい、昔漫画で読んだ。


「どっちも焼いたら美味いんだよな、おっデカい牡蠣ゲット。」


 殻が俺の手のひらくらいあるし、でけえな。


 牡蠣で怪我しないように軍手付けてとアクアソック履いてるぜ。ポムに貰った軍手と、ポセイドンと色違いのアクアソックな。


「荒らされてないってのは、コイツらにしたら楽園なのかもな……ふがっ!」


「それは違うぞ、ばくちょうくぅぅん。」


 箱メガネを使って海の中を覗いてて、ボソリと呟いて立ち上がったらポセイドンが目の前に居た。油断してるとビビる。


「どう違うんだよ、コイツらにしたらのんびり生活出来てんじゃねえの?」


「ここは地獄の地上1階だって教えただろ? コイツらは自然死したら次も魚介類に生まれ変わるんだよ。何度も何度も繰り返しな。」


 別に慣れたら魚介類でも良さそうな気がするけど。


「蜘蛛の糸って話を知らんか? 地獄に垂らされた1本の蜘蛛のって話をさ。」


 うろ覚えだけど知ってる。生きてるうちに蜘蛛を1度だけ助けた悪人の話だったよな……


「お前が蜘蛛の糸なんだよ。自然ってのは厳しいもんなんだ、常に空きっ腹だし、捕食される恐怖もあるし、何より地獄ここに生きる生き物達は終わらない魚介類の生から抜け出したくてたまらないんだ。」


 俺が蜘蛛の糸?


「本来の地獄はこんな甘い世界じゃないんだけどな。それでも、この世界の生き物には1本だけ垂らされた蜘蛛の糸のように、お前の垂らす釣り糸が、お前が掴もうとする手のひらが、天の助けに見えるんだろうよ。」


 俺には分からん悩みってのがあるんだろうな……




「肉も野菜も準備終わってるぞ、さっさと食おうじゃないか。」


「だな。1人3個くらいで良いかもな。」


 獲り過ぎてもだよな。と言うかポセイドンって……


「お前の服って一瞬で乾くのな、どんな構造になってんだよ?」


「インベントリに海水だけを収納してんだよ、まっ分かりにくかったら、神の力とでも思っといてくれ。」


 うむ、分かりにくい。バーベキューコンロを作る能力の方が俺には魅力的だけどな。


「ポムって石を組むの上手いのな……猫なのになんで?」「猫じゃなくて、にゃん族。普通の猫とは違うんだからね。」


 ふ〜ん、確かに猫型でも二足歩行だし喋るし……


「自然と共に生きていれば、それくらい作れて当たり前だ。ドラム缶のバーベキューコンロより風情があって良いじゃないか。」


「でも網は金網なのな。」


「これは普通の金網じゃないぞ。ドワーフ作の特注品な。焦げない錆びないフッ素加工並に汚れが落ちやすい、不思議金属で出来た特別製だからな。」


 ドワーフって凄いな……


「まあ使って見れば分かるぞ。」「だな。」「牡蠣は1個生で食べたい。」


「すだちだな……またポケットから……」


 気にしちゃダメか。


「これは直接ポケットに入れてたぞ。」「せっかく気にしないって……」「皮を食べるんじゃないから大丈夫だよ。はやくはやく。」


 ポムって不器用だな……牡蠣を手で割ろうとしてやがる。


「ほれ貸してみろ……この少し空いてる隙間からペティナイフを……んで……」


 クイクイってな。


「おお! 簡単に開く……ポセどん、ちょっとかけて。」


「なかなか牡蠣を剥くのが上手いじゃないか。」


 そりゃそうだろ。毎年大量に食ってたからな。テトラポットに付いてるやつ。


「ん〜♪ ん〜♪ ん〜♪♪」「綺麗に殻取れてたか?」


 牡蠣を咀嚼しながら手足をジタバタしてやんの。


 俺も1個生で……うわっ……超クリーミィ〜。


 牡蠣の殻を剥いて、今からポセ醤油掛けて焼くよ。



 2人とも網の上を凝視し過ぎ……


「そこまで見つめなくても逃げねえだろ?」


「最高のタイミングは一瞬だ、黙って見ておけ。」

「真理眼で最高のタイミングを見極めてるんだから、静かにしといて。」


 世界の真理を見通す魔眼とか言う奴で確認してるんだと……バーベキューってそんなのじゃねえだろ?


「食わないなら頂きっ。」「あっ!」「なんとっ!」


 おお! シナモンパウダー塗りまくった肉も美味い。


「シナモンパウダーって言うからシナモンが強いと思ってたけど、スパイシーなんだな。」


 肉の焼ける匂いってのは食欲をそそるな、醤油の焼ける匂いは言わずもがなだけどな。


「貴様……我の確保していた肉を……」「爆釣……いっぺん死んでみたいのかな?」


「へいへい、焼けばいいだろ? バーベキューなんて騒ぎながら食うもんだ、蟹食ってんじゃないんだから黙んなよ。」


 トングで肉をゴソッと乗せて……


「魚介類スペースで肉を焼くな!」「味が混ざる!」


「気にし過ぎ。良いか、肉も貝も野菜も……ちゃんと3人前あるんだからガツガツ食えよ。」


 今日の俺はビールより米なんだよ米。


「米を肉で巻いて……」「あ〜私のおにく……」

「ポムちゃん、トコブシがそろそろだ構えろ!」


 おっ、いいねぇ。


「いただき……いってっ! 何すんだよ。」


 2人同時に箸で叩かれた。


「行儀悪いぞ。箸は手を叩く物じゃありません。」

「ゔゔゔゔぅぅぅ。」「それは我のトコブシだ。」


 2人に威嚇されちゃった。


「んじゃ仕方ない。肉でも食お。」


 2人が貝に集中してる隙に……


「焦がし醤油で彩られてるワサビを乗せたA5ランクのハラミは最高だ。」


 魚介類も良いけど肉も美味い。


「ポセどん。爆釣におしおきしよう。」「肉が1枚も……」


 だってお前らが見てないからだろ?


「バーベキューは早い者勝ちです。」


 アルコールの無いバーベキューでも楽しいのな。


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