キス


 呑みながらノートに書きなぐった港湾計画書が、後半は何を食べたいかを書いただけの落書きになってた事に軽く凹みつつ、今日は朝から干潟と防波堤設置。


「ポムは天ぷら食べるなら塩派? それとも天つゆ派?」


 干潟を作る一番の理由だもんな。


「両方。どうして片方だけを選ばせるのか意味がわかんない。」


 そりゃそっか。


「でも不思議だよな、なんで設置したらすぐに生態系が出来上がるんだろ?」


「それは、この世界が神様達から期待されてるからじゃない? 結構な数の呑兵衛な神様が、新鮮な魚料理を求めて精力的に動いてくれてるからでしょ。」


 う〜ん……意味わからん。


「私は人選くらいしか会議に参加してなかったから細かい所まで分からないけど、本会議の熱量は半端なかったよ。」


「お前も俺を選ぶ時に居たのか、会議ってどんなだったんだ?」


 モコモコせり上がってくる防波堤を見ながら、脚立を購入しつつ聞いてみたんだけど。


「候補が爆釣の他に3人居たんだけど、1人は料理できない君で、1人は生魚に触れないちゃん、もう1人は死にかけたお爺ちゃんでさ、3人ともサバイバル能力皆無だったから、爆釣に決まって当然な会議だったけど。」


 多数のライバルを蹴落として選ばれた訳じゃ無いのか。


「胴長も欲しいけど、脚立に乗ってたら大丈夫だろ。買い取りも15センチから大丈夫みたいだし、バンバン釣るぞ。」


「ポセどんも来るだろうから、ちょっと多めに釣らないとね。」


 だなって答えて釣り開始。ポセどんも来るって理由は、散々寝る前にキス天が食べたいってゴネてたから。


「白は食った事あるけど、青は食ったこと無いから楽しみだ。どっちも釣れるらしいけど青の方がが高いから青は基本的に売り物で、白を夕飯のおかずな。」


「早めに切り上げて、野菜とかも選ばないとね。」


 因みにだが、脚立は座る為に天板が横長のアルミの奴を買った、めちゃくちゃ高かったからポイント残高1桁になっちまった。


「いいねえ、さっそく1匹目フィーーシュ。おっ白だな。」「ごっはーーんっ! こっちも白。」


 2人で背中合わせで反対方向に向かって釣りしてんの、いっつも1人だったからこんなのも良いな。


「ポムはある日突然無理矢理召喚されたんだよな。帰りたいか? そこがちょっと気になるけど。」


「そんな事無いよ。召喚には拒否権だってあるんだから。」


 ふ〜ん。


「家族とか友達と離れて嫌じゃ無いのか?」

「ナイナイ。だって800年くらい血の繋がった部族の仲間だけで暮らしてたんだから、アイツらの顔なんて見るのも飽きたし。」


 ふ〜ん。てか長生き過ぎね?


「爆釣はなんで友達付き合いとかしてなかったの?」


 コイツも俺の詳細を知ってんのか……


「めんどくさかったが一番の理由かな。だって皆カネカネカネカネってさ、呑みに行っても金の話ばっかりでさ。給料が良くて、良い車乗って、可愛い彼女連れて万札ばら撒きながら遊び回って、リア充じゃないと馬鹿にされるとかめんどくさいだろ?」


「それが人間社会なんだから仕方なく無い?」


 おっ。コレは……


「青ゲット。へ〜、見た目には白の方が美味そうだけどな。」


「ありゃ、私は白だ。」


 結構釣れるんだな、つ抜け出来るかな。


「彼女が居なかった訳じゃないし、付き合いが苦手って訳でも無かったけどさ、周りを見てたら……」


「自分も変わりたいって思ってた、でしょ?」


 そうなんだよな……


「他人とズレてんのは分かってたんだよ、実家住まいで手取り13万ちょい、半分は親に家賃と食費に渡してボーナスは無し。やりたい仕事は港に近い釣り具屋の店長。趣味なんて家の近くの堤防で釣りするくらいだもんな。行きつけの店は近所の釣り道具置いてあるホムセン。」


「十分じゃない? 私なんて尻尾で床掃除するだけの簡単なお仕事と、冒険者の真似事だけで数百年暮らしてたのよ。楽しみと言えば食べる事くらいだったけど。」


 尻尾で床掃除か、モップくらい持って……てか猫の手じゃ持てないか。


「とりあえずさ、白も青も揚げて食べ比べてみようぜ。ポムは野菜なら何が食いたい?」


「アスパラと玉ねぎ、青じそも良いね。」

「タラの芽とか、椎茸も欲しいな。」

「エビも必須だろ? 必要だと思って獲って来てやった、本車海老だぞ。」


 おっやっと来たか。水深80センチくらいしか無いのに、いきなり目の前に現れやがった。腰に付けたビクに車海老が入ってら。


「おはようポセイど〜ん。」「おはようポセどん。」

「おはようございます、ばくちょうくぅ〜ん。ポムちゃぁぁん。」


 似てねえ……


「ぷッ……似てなさすぎて笑える。」「元ネタが何かわかんない。」


「昼飯に昨日の営業の残り物を使って、山菜おこわの握り飯作って来たぞ。とり天は1人1個な。」


 おお。昼前には1度上がろうと思ってたんだけどな。


「俺の座る所が無いじゃないか。あと2つあれば3方向同時に狙えるし、脚立くらいやるよ。」


 む、金持ちめ……


「なんじゃそりゃ? 手作り?」


 天板の長いアルミ脚立かと思ったら……木の脚立だ。


「ドワーフとエルフに作って貰った。留め具はドワーフ製、本体はエルフ製な。ドワーフには俺の仕込んだ酒、エルフには深海松のでっかいの渡して特注したんだ。」


 あれ? ポセイドンって……


「お前って料理屋でもやってんの? 海の神様だろ?」


 ポセイドンが驚いている。爆釣は何も反応出来ない。


「兄貴も俺も弟も自分の店を持ってんよ。兄貴なんか三店舗も経営してんだぜ。」


 へー……そうなんだ。


「兄貴は本店が大阪の鉄板焼き屋、弟はパリでイタリアンの小洒落たカフェ。俺は金沢で小さな割烹料理屋な。」


 板前修行してたくらいだもんな。って……


「もしかして、俺が売った魚ってお前の店で使ってる?」


「使ってないぞ。魚介類は自分で捕まえたらタダだからな。」


 だよな〜。


「あっ! ポム。」「うわ! 静かにしてると思ったら全部……」「すぎをみへるのがわるふぃ。」


 山菜おこわの握り飯、ちょっと楽しみだったのに。米粒1つ残さずに全部食っちまいやがんの。


「ポムは昼飯抜きな。もしくはちゃんと謝れ。」


 ポセイドンの手料理って美味いんだぞ!


「ごへんなひゃい。美味しそうな匂いにつひぃ。」


 口に食べ物を含んだまま謝りやがった。


「気にしちゃダメだよばくちょうくぅぅん。まだあるぞ。」「さすがポセイど〜ん。」


 二人とも似てなさ過ぎて、めちゃくちゃ笑えた。


「う〜元ネタがわかんない。」


 寝る前に見せてやろっかな。



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