サバ
今日は朝から湾を作ろうかと思って、どの方向に作るのがいいかポムと2人で相談してんだけど、なかなかどの方向に向けて作るか決まらないんだ。
こんな時は……
「助けてポセイど〜ん……」
困った時の神頼みってやつさ。
「神は気まぐれだから、来ないと思うんだけ……来ちゃうのね……」
今日のポセイドンは水中眼鏡じゃ無くて、競泳用のゴーグルだな。バタフライで水飛沫を飛ばしながら泳いで来るのは分かるけど、浜の近くまで来たら華麗にジャンプして……
「どうしたんだい? ばくちょ〜う〜くぅ〜ん。」
変な決めポーズでキリッとしてやがる。
「猫型ロボのモノマネ……下手過ぎんだろ? おはようポセイドン。」「おはようポセイドン。服くらい着てほしい。」
「おはよう、2人とも。今日は素晴らしい天気だな、2人ともニンニク臭ハンパねぇのな。牛乳を飲め牛乳を。」
仕方ない、美味そうな牛乳を見つけてたんだよ。
「ポムも飲むか?」「聞かずにサッと用意してくれるのがデキる男でしょ? 」
む? どっから取り出したんだ? 白の大き目の……
「それ良いな……俺もマグカップ買おうかな。」
3人仲良く、食パンにメジナマヨと刻んだサラ玉挟んで朝飯。飲み物はもちろん牛乳だよ。
朝飯食ってから3人で桟橋に移動して来た。
「なるほど、湾を作りたいのか。俺のオススメは若狭湾か駿河湾だけどな。内海にするなら有明海とかもオススメだけど、どうだ?」
「まだそこまで考えられねえよ。干潟を設置して、泥が沖に流れ出さない程度の防波堤に囲まれた港湾で十分だよ。」
ポムの奴は、難しい話は男に任せるって言って、桟橋の上で釣竿持ったまま仰向けに寝転んで日向ぼっこ中。レジャーシートまで買ってやがった……
「それなら、江戸を参考に作るのがオススメだな。元々は湾内の穏やかな海で、長い時間を掛ければいつかは出来ていた物なのだろうが、人間の手が入ったおかげで、短期間であれ程の豊かな海になったんだ。他の地域ではそうそうお目にかかれないモノだったからな。」
ふ〜ん……とりあえず調べてみっかな。スマホスマホっと……
「なるほどね、月形に防波堤を設置すりゃ良いのか。岩で組んだら隙間も魚の住処になるし……へ〜こんなのあったんだな。」
おっ、ポムの竿に付けてる鈴が鳴ってる……
「ぶにゃっ! ごっはーーーんっ!」
おお、ちゃんと合わせた……ヒットとかフィッシュって掛け声は聞いた事あるけど……ゴハンって掛け声は初めて聞いたよ……
「今日の売り上げ確保したら拡張してみっかな。小さくても湾が出来れば、船買っても良いしだし。」
「アレをしよう、コレをしようと思って行動に移してみるのは良いことだと思うぞ。実家の経営する造船所でくすぶってた頃の自分の事を良く思い出して、色々やってみろ。」
それを言われたらな……
「何、お前って俺の事知ってんのかよ?」
「そりゃ俺も人選する時の会議に出てたからな。お前を選んだのは会議に参加してた20人のうち16人だ……って俺にも……フィーーシュ!」
へ〜、多数決で決めてんのか。
「ポム、タモ使うか? 竿もリールも安モンだから、ぶっこ抜いたら壊れんぞ。」
おお、でっかいサバ。30センチ超えてんぞ。
「爆釣、こっちも頼む。デカいぞ……」
ぬおっ! 40センチ近くあんじゃね? いいなあ……
調子悪いな……俺にはアタリすら来ないのに、2人はバンバン釣り上げてくし……
「で、さっきから針すら付けずに糸を垂らして何してんだ?」「それは私も気になってた、太公望気取り?」
えっ? マジだ……
「考え事しながらじゃダメだな……釣ってから考えようかな。」
素で気付かなかったよww 失敗。
釣り上げたサバは、ビチビチしてるうちに首をポキッって折って首折れサバみたいにして、ポセイドンがポケットから出した氷が入ってる角バケツに投げ込んでる。角バケツってのは、漁協とかで使われてる奴な。結構大きいぜ。
「俺は昼飯の準備してくるけど2人はどうする?」
午前中だけで十分な漁獲量だな。俺も釣り針を付けてから5匹は釣ったし、毎日1万pくらい稼げてたら十分だろ。
「しめ鯖は俺が作るから、その分避けて開いて塩して焼いといてくれ、夜は味噌煮でどうだ?」
「私は食べる専門。作るのは任せた。」
味噌煮とかも良いな……まっ夕飯が楽しみだな。
だって、超新鮮な天然モノだぜ。
サバって寄生虫が居たりして、生で食べたらヤバかったりするだろ? でも最近のサバには養殖ってのも居るんだよ。ちゃんと寄生虫を駆除する餌を与えられて、生で安全に食べられる丸々太ったやつがな。
養殖サバって1匹1500円くらいすんの、アレを刺身で食った時は感動だったぜ。餌船を修理に持って来た養殖業者さんから貰って食った時は、サバの刺身の美味さに感動したね。
「新鮮過ぎて骨が抜けねえ……アイツらなら小骨くらい食っても大丈夫だろ。」
ポムもポセイドンもメジナなんか骨ごと食うもんな。俺はちゃんと骨は出すぞ。
うむ、脂が炭火に弾ける音が食欲をそそる。
「お〜い、焼けたぞー。昼メシー。」
2人で角バケツを持って来てくれた……水も氷もサバも沢山入ってんのに……
「ポセイドンは分かるよ。ポムも腕力あるんだな、ちょっと意外。」
うひゃっ。氷投げられた。
「女子に腕力とか言わない。さっさと、ご飯と味噌汁もよそってよ。」「へいへい。」
「俺はご飯大盛りな。」「へいへい。」
うむ、サバを焼くのは正義だ。美味い。
「ポセ醤油って、色んなのに合うのな。販売すりゃ良いんじゃね? ネットショップにあったら俺も買うよ。」
「大豆から自分で手作りしてるから量産は出来ないんだよ。自分のトコで使う分を確保して、気に入った奴にお裾分けするくらいしか作れないんだ。」
ほえ〜、そんな事までやってんのか……
「神ってのは不思議な人が多いよね。私の上司も饂飩を作るのに、まず麦と石臼を作るとこからって変人だし。」
小麦粉くらい買えよ……神様って暇なのか?
「爆釣は恵まれた立場なんだぞ。ポイントを得る手段も自由に出来る立場も用意されてるからな。人型の神なら、最初にタブレット1つ渡されて仕事漬けの毎日なんだからな。」
へ〜、人間で良かった。
んで夕方。今日の売り上げは1万3千p、十分だろ。
あーでもない、こーでもない言いながらポセイドンとポムを交えて、防波堤の形とか干潟の広さとか相談しつつ、炙りしめ鯖と味噌煮を肴に呑んでるんだけど……
「結局の所、お前の考え次第だ。失敗しても作り替えれば良いんだから好きにしたら良いんじゃないか?」
「甲斐性さえあってくれたら十分。毎日キチンと美味しいモノを食べさせてくれたらそれで良し。」
肴も無くなってから、ダラダラとポムのカリカリを食べながら呑んでるんだけど……
「案外カリカリも美味かったりするんだな。」
「このカリカリは猫好きな神のオリジナルレシピの特別製だろ?」
「特製カリカリ通販の企画会議で「利益率0%で」とか言って皆から猛反対されてた美味しいカリカリだもんね。人間が食べても美味しいでしょ?」
暗くなる前に、のんびり風呂にでも浸かって、ホカホカになって寝ようかな。
「んで、なんでお前まで入って来るんだよ。」
「そう言うな爆釣、嫌ならもう少し拡げてくれて良いんだぞ露天風呂をな。」
ポムが先に入ってる間に倉庫に閉じ込められた俺とポセイドンだったんだけど……
「明日の朝イチで拡げる……」
2人で狭い露天風呂のぬるま湯に浸かってバカ騒ぎ。
「男って馬鹿だにゃ。」
ポムが呆れてた。
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