ミル貝
なんか変な匂いがするって思ったら、犯人はポムだった。
「なあポム……お前って、会ってから1回も風呂とか入ってないよな? 身体すら洗ってねえんじゃね?」
うわ、凄いジト目で見てくる……
「爆釣がスケベなハプニングに期待してるのはよく分かった。そんな事を考えてたなんてガッカリだよ。」
「違う違う。お前って臭いぞ。」
ぬあっ!
「女子に臭いとか、デリカシーの欠片も無い事なんか言える爆釣は……そこで反省してなさい。」
コンテナに閉じ込められた……
「ここで大人しくしてるから風呂入っとけよ。」
せっかく設置したんだからな、露天風呂。
因みに、露天風呂は最初に土地を拡張した日に購入したよ。1m×1mの広さで、深さが60cm位のやつ。お湯はヤカンで沸かして、ポセイドンから貰った水道で水を足して入ってる。
俺の入浴シーンなんて需要が無さそうだったから、別に言わんでも良いかな? って思ってたけど、これからはポムも入るだろうしな。100pの安物ボディーソープだけじゃダメだろうし、歯ブラシとかも揃えてやんないと。
「とりあえず寝るか……」
って全然寝られねえの。仕方ないから魚介類買い取りアプリを起動して、買取表一覧をぼけ〜っと見てるんだけど。
「甲殻類は買い取り基準が色々なんだな……ミル貝って設置した砂浜に居たよな……キロ1800pもすんのか……」
もうすぐ昼飯だし、飯食ったらミル貝でも獲ってみるかい。ダジャレだな……くだらねえ。
1匹残しといて夜飯にすっかな。美味そうなレシピでも探しとこ。
む、コンテナの扉が開いたと思ったら……風呂上がりで、ほっこりしたポムが居る。
「ボディーソープの匂いだな。風呂くらい毎日入れよ、さすがに臭いのはどうかと思うぞ。」
「このアバターだったら濡れても平気だったから毎日入る。お風呂用品とかドライヤーとか用意しといて。」
何言ってんだよ。
「お前も働いて売り上げに貢献すんの、働かざる者食うべからず。ペットってならともかく、簡単な仕事くらい出来るだろ? 自分で稼げよ。」
あっ……ポムって……
「お前って泳げんの?」
「バカだなあ爆釣は。猫が泳げる訳がないでしょ、濡れるのも嫌いだったのに。何回か溺れた事はあるけど?」
だよなあ……
「膝くらいまでなら海に入っても大丈夫だろ? ミル貝獲るからカゴ持っといてくれよ。俺は潜るからさ。」
なんだかんだで手伝ってはくれそう。
「酒蒸しとバター焼き、ビールは苦手だからホワイトサワー系のチューハイが夕飯なら手伝う。」
おっ。言われてみたら刺身以外の料理も食いたいな。
「んじゃ契約成立。10kgくらい売り物にすんの獲ってから、夕飯のおかずの捕獲な。」
久々の素潜りだな。昔はウニとかトコブシとかナマコとか獲るのに潜ってたんだけどな……禁漁区になってる所で密漁する奴がめちゃくちゃ居てさ、密漁と間違われるようになってからあんまり潜ってないんだ。
「漁師さん達も生活が掛かってたんだし仕方ないのか……」
「ん? 何か言った?」
ボクサーブリーフ一丁になって、水中眼鏡とシュノーケルを着けてアクアソックを履いたら、いざ出陣。
「別に。」
ほんと綺麗な海だよなあ、人間が居なきゃ俺ん家の近くの海もこんな感じだったんだろうか? 5mくらいの深さなら海面から見えてんのな。
おっ、1個目発見。
「ポムー、1個目獲ったどー。」
デカイな……1.5kgくらいあんじゃね?
でろ〜んと水管をだらしなく垂らしてる白ミル。変な形してんよな。
ミル貝って言うと主に2種類かな。白ミルと黒ミル。黒の方は加食部位が少ないくせに、味は白ミルよりずっと美味いから値段は倍以上すんの。
白ミルってのはナミガイってのが正式名称。回転寿司とかのミル貝がコレ。
黒ミルってのはミルクイってのが正式名称で、こっちが回らない寿司屋で食べれる本ミルってやつ。
「お〜いるいる。うじゃうじゃって程じゃ無いけど、探せば結構居るもんだな。」
ポムの立ってる所と、ミル貝が居る所を往復する事8回目……そろそろ飯用でもと思ったら……
「ブホッ! おげぇぇぇぇ……」
目の前に俺とそっくりな格好をした白髪の……
「何してんだよポセイどん。ビビらすなよ。」
ポセイドンが居た……片手に黒ミル持って。
「よっす爆釣。エンジョイしてっか? 今日もお土産持って来てやったぞ。」
白だった海パンがピンクになってる……
「よ〜猫、アバター貰ったんだな。猫舌じゃ無くなってるだろうしアツアツの美味いもん食わせてやろうか?」
俺も食わせろ。
「今日はここまでで良いや、風呂入って飯でも作るか。」
「風呂なんて作ったのか? やっぱり日本人だなあ。」
日本人だからと言うわけじゃ無いぞ、常日頃から魚を触ってるから、身体を洗ってないと車の中に匂いが充満して魚臭くて眠れないんだよ。
「俺も入らせて貰おうかな。たまには湯船に浸かりたいからよ。」
む? 狭いぞ……どうしてこうなった?
「なあ……なんで2人で同時に浸からないといけないんだ? 交互でも良かったんじゃ?」
「お湯溜めるの面倒くさいだろ? なんで露天風呂を設置して、源泉を買ってないんだよ。水風呂とか海水と変わらんだろうが。」
ポセイドンと2人で狭い露天風呂に浸かってるんだ、2人ともちっちゃくなってさ。ポムも遠巻きに見ながら呆れてるな。
「だって源泉って300万pだぞ。そんな余裕があると思ってんのか?」
ガワは安いんだよ。中身は1度買ったらずっと使えるらしいから、損にはならないんだろうけど、今は買えない。
「後でお湯の出る蛇口もやるよ」だってさ。さすが便利な男ポセイドンだ。
そんなこんなで、ポセイドンがポケットから取り出したシステムキッチンでミル貝を料理してんだけど……
「なあ、どうやってキッチンとか入れてんだよ? どんな構造になってんだハーパンのポケット。」
「だから、インベントリから直接出してんだって。ポケットに手を入れるのは癖なの癖。気にすんな。」
ポセイドンの手際が良すぎる。水管を刺身に取ってくれて、酒蒸しも同時に作ってくれてる。
俺は……バターでニンニクを焦がして、ヒモをニンニクバター焼きにしてるとこ。
黒ミルの水管の刺身と酒蒸し、ヒモのバター焼きと来たら。
ダンっ! 銀色のヤツ!
なんだかんだで、今日の売り上げ2万3千pと満足のいく結果だったし、飯が美味いのは間違いないし、ポムもポセイドンもなかなか良い奴だし……
「明日は朝から鯖でも狙おうか。」
「しめ鯖と塩焼きだな。」「私も明日から釣りする。」
寝る時にポムと車の中で並んで寝るって考えたらドキドキしてたんだけど、寝る時は猫に戻りやがった。
「ポム、おやすみ。」「おやすみにゃさい。」
ポセイドンは海に帰ってったよ、海水に溶け込んで寝るらしい。
「ミル貝、美味かったな。」「バター焼きが美味しかったにゃ。」
2人ともニンニク臭くて……次の日の朝起きたら、車の中が酷い匂いになってた。
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