第三八二食 旭日冬夜と信じる心
★
しかしそんな疑念は、実際にその男と会って話してみると泡のように消えてしまった。
職業柄、色んな悪い
『それが
そう言った彼の瞳に嘘はなかった。
『俺は試験の結果なんかより、真昼がいつも通り元気に笑ってくれていることの方が大事なんです。俺のために無理するあの子の姿なんて見たくない』
そう言った彼の心に、嘘はなかった。
酒とは人間の本質を写し出す
会って、話して、食って。それでもまだその男のことを信じ切れなかった
そして知った。
本当に真昼のためを思うならただ縛り付けるのではなく、今のあの子も納得できる方法を模索するべきだった。電子の平面に写る悲しみに暮れた真昼の姿を見て、ようやくそう気付かされた。
「俺は……もっと信じてあげるべきだったんだな。あの子の人を見る目と、あの子が惚れた男のことを」
ゆっくりと目を開け、
「なあ、家森君。
「へ? い、いえ、普段はあまり飲まないので大したものは……居酒屋で働いてる友だちが教えてくれたおつまみくらいなら作れますけど」
「せっかく料理上手なのにそれはもったいないな。まあ真昼もまだ飲める年齢でもないし仕方ないのか……よし、だったら今からとっておきを教えてやろう。俺が酒を飲む時、よく自分で作って
「い、今からですか?」
急に言い出した俺に驚きの声を上げる青年。対する俺は何を言ってるんだ、とばかりに笑ってみせた。
「夜はまだまだこれからだろう? なにせ君には、まだまだ聞かなきゃならんことが山ほど残ってるからなあ?」
「ま、まだなにか気になることが……?」
とっくに腹を割ってすべて話したつもりだったのだろう。家森君の表情にはこれ以上一体なにを問い詰められるのかという不安の色がありありと見てとれる。
そしてニヤリと悪どい笑みを浮かべた俺は、正面に座す彼に向かって言った。
「ああ、あるとも――俺はまだ君の口から、真昼との出会いやこれまでの話を全然聞かされていないからな」
母さんの携帯端末に保存された画像ファイル。そこにずらりと並ぶ、彼と真昼が二人で歩んできた
「君たちは料理からすべてが始まったと言ったな? だったら俺もそれに
「!」
「ふふ……なによそれ。要するに『お酒でも飲みながら真昼との楽しいエピソードも聞かせてほしい』ってことじゃない」
持って回った言い方をした俺に、母さんがクスクスと笑う。し、仕方ないじゃないか、
「でもいいわ、そういうことなら私だって朝まで付き合うわよ! あなた、ビールばっかり飲んでないで部屋にある
「うえぇっ!? ま、待ってくれ母さん!? 『朝まで』って、俺は明日も仕事なんだが!?」
「細かいことを気にしてるんじゃないわよ。せっかく
「うえぇっ!? ま、待ってください!? 別に
揃って情けない声を上げる男たちを無視し、ウキウキと立ち上がる我が奥様。そんな彼女の後ろ姿を見て、俺と家森君は青くなった顔を互いに見合わせるのであった。
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