第三七九食 恋人たちと最後の戦い⑧
要するに
たしかに冬夜氏の
一般的に勉強という形の〝努力〟が出来ない人間は、仕事で必要な知識・技術の吸収にも支障を
「(だけど……)」
そこまで思案した俺の
冬夜氏が真昼の将来的な幸せを思ってあんな制約を課したのは分かる。けれど同時に、あの制約によって真昼が深く悲しみ、涙を流したことも事実だ。不確定な未来のため、あの時の彼女が傷付かなければならなかった理由はなんなのだろうか。もっと他に――現在と未来、両方の真昼を笑顔にする方法はなかったのだろうか。
あの時は思いつかなかったし、今でもその答えは分からない。仮に今後その方法が分かったとしても、あの時彼女が流した涙が消えるわけでもない。後悔は決して先に立ってはくれないから。
だからこそ、思ってしまうのだ。
「俺は……それが
「!」
俺が言うと、グラスを傾けていた真昼父は驚いたように目を見開いた。
「……フフ、なかなか生意気なことを言うじゃあないか」
「あっ……す、すみません、別にお父さんの教育方針が間違ってるとか、そういうことが言いたいわけじゃなくて……」
「いい、
「うちの子が
「……俺が真昼にあんな電話をしたと知った時、母さんも君と似たようなことを言ったよ」
「お母さんが、ですか?」
俺が問うと、親父さんは「ああ」と
「『子どもだった真昼も恋を知って、ようやく大人になろうとしている』『あの子のためと言うなら今のあの子の幸せも考えてあげるべき』――
それを聞いて少し驚かされる俺。だって昼に話した時、明さんは俺たちの関係を祝福しながらも、冬夜氏のやり方に対して否定的という
するとちょうどそこへ、隣の部屋に居た明さんが引き戸を開いて姿を現した。
「真昼、ぐっすり眠ってるわ。よっぽど疲れてたみたいね」
「そうか。相変わらず
「逆よ逆。『お兄さんがいるならもう大丈夫』って思ってるのよ、あの子は。
娘同様に風呂上がりのすっぴん姿でもなんら変わらず綺麗な彼女がきょとんとした顔で聞いてくるので、俺は「あ、いえ」と若干
「真昼のためにお母さんが怒ったって、ちょっと意外だなと思いまして……」
「私が真昼のために……? ああ、もしかして夕くんの部屋に行くな云々の時の話?」
すると明さんは「なんで話しちゃうのよ」と言わんばかりに苦笑してから、冬夜氏の隣に腰を下ろして言った。
「私は真昼がどのくらい夕くんのことを好きなのか、この人より知っていたからね。夕くんと会えないなんてことになったらあの子がどれくらい悲しむか、おおよその予想は出来ていたのよ。第一あの子はムチよりアメの
「なっ……!? そ、そんな乱れた条件、俺が許すわけがないだろう、母さん!?」
「(なんかそれ、わりと最近聞いた
つい先日、どこぞの悪魔少女が似たようなことを言っていたような言わなかったような……。真昼父が机を叩いて立ち上がる正面で俺が頬が熱くなる感覚を覚えていると、
「それに夕くんと会えない間の真昼の姿を見ちゃったら、反対の一つもしたくなるというものよ。だってあの子、あんなに落ち込んでいたんだもの」
「「……え?」」
まるで自分の目で見たかのようなその物言いに、俺と冬夜氏が同時に顔を上げる。そして視線を浴びせられた明さんが机の上に取り出したのは、彼女のものと
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