第三七八食 恋人たちと最後の戦い⑦
「あのお父さんはやっぱり嫌なんですか? その……僕と
「む?」
「今の話の直後に残酷な質問だな、それは。正直に『はい』と答えたりしたら、俺は〝娘の幸せより自分の感情を優先する嫌な父親〟になってしまうじゃあないか」
「い、いえ、別にそんなつもりで聞いたわけじゃ……」
「ワハハ、分かっているさ」
明るい笑い声を上げる冬夜氏。やはり
「それを聞くのは、こないだの試験のことがあったからかい?」
「は、はい、まあ……」
「試験で結果を出せるまで、
「……家森君は、俺の職業はなにか知っているかい?」
「え? は、はい、警察官をされてると
脈絡なく振られた問いに俺が答えると、彼は泡で溢れるグラスにもう一度口を付けつつ、「そうだ」と頷いて続ける。
「警察――つまり公務員である以上、当然就職する時には採用試験があるだろう? だが俺は真昼と違って
「(サラッとひどいな、あの人)」
「最初に不合格通知を見た時はやっぱりショックだったよ。なにせ基準点に全然足りていなかったからな……一応
「あれほど精神的に苦しい時期はなかった」と言って笑う冬夜氏。俺もぼんやりと公務員を志望している身だが、やはり狭き門を
「通る確証のない試験にそれでも挑み続けるか、
「!」
「最初は驚いたよ。こんな綺麗な女がこの世にいるのか、ってな。彼女の旧姓は
この手の
「そんな彼女に一目惚れしてしむった当時の俺は、一も二もなく彼女に告白したよ」
「そ、その場でですか?」
「その場でだ。そしてフラれた。というか無視された。彼女の目だけが『なんだコイツ』と
「(切なすぎる)」
試験に落ちまくって
「だがどうしても諦めきれなくてな。それ以降、俺は彼女にしつこいくらい告白した。何度も何度もな。最終的に彼女から『いい加減にしないと警察に通報しますよ』と言われたくらいだ」
「(なんで警察志望が逆にお
内心でツッコミを
「それでもめげずに彼女のことを追いかけ続け、必死にアピールを繰り返して……やがて俺と彼女は少しずつ親しくなっていった。俺の言葉で彼女がくすっと笑ったりすると、それはもう嬉しくってな……あの時の俺は文字通り恋に
当時のことを思い出しているのか、瞑目して微笑みながらポッと頬を染める真昼父。……なんだかもう、話の先が見えた気がする。
「そして明と出逢ってから約一年後――五度目の採用試験前日の夜、彼女から電話が掛かってきた。さて、どんな内容だったと思う?」
「……『試験に合格出来たら付き合ってあげてもいい』とかそんなのですか?」
「ほう、よく分かったな? その通りだ。それを言われて
そこまで言って、冬夜氏の瞳からスッ……とハイライトが消えた。
「恋愛に
「(予想通りの展開すぎる)」
期待をまったく裏切らないそのオチに、俺は感嘆とはまったく別種のため息を吐き出しそうになった。
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