第三七二食 恋人たちと最後の戦い①
★
「お兄さん? なんだか顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫だよ……だいじょうぶダイジョウブ」
心配そうに問うてくる
「本当に大丈夫ですか? 具合が悪いならすぐに言ってくださいね。今日はお兄さん、たくさん運転したから疲れてるだろうし、体調を崩しちゃったら大変ですから」
台所の椅子に座った俺が顔を上げると、真昼は
「
「うっ……ま、まあ……」
図星を突かれ、思わず
「大丈夫ですよ、お兄さん! お兄さんならきっとすぐにお父さんとも仲良くなれますから!」
「な、なんだその根拠のない自信……さっきのお母さんの話を聞く限り、とてもそうは思えないんだが」
なにせこれから対面するのは
「(ドラマなんかじゃ定番のシーンだもんなあ、『娘さんを僕にください!』ってやつ)」
今どきそんな古典的なやり取りが現実で起こり
「(だけど……逃げるわけにはいかない)」
心中で呟き、覚悟を決める。逃げてどうにかなるような問題ではないし、そもそも逃げ出すくらいなら最初からここには来ていない。真昼父と顔を合わせるのはたしかに怖いが、しかし隣に咲く真昼の笑顔を守るためだと思えば耐えられる。あの眼鏡の高校生とも約束してしまったしな――真昼のことを絶対に幸せにする、と。
「(逃げられない戦い……魔王に挑む勇者も、もしかしたらこんな気持ちだったりするんだろうか)」
柄にもなくファンタジックなことを考えてしまい、自嘲する。自分の恋愛と世界の命運を
するとその時、膝の上で握り固めた俺の
「これは、お兄さん一人の戦いじゃありませんから」
「!」
思考を読んだのかと疑ってしまうほど的確なその言葉に、俺は全身を支配していた緊張がわずかながら
「……ああ、そうだな……そうだったな」
「はい」
小さくて温かい手のひらをそっと握り返し、頷く。俺が真昼に一人で行かせたくなかったのと同じように、真昼だって俺一人にすべて
そして笑みを
最後の戦いが、これから始まろうとしていた。
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