第二九四食 彼の故郷と聖地巡礼①
★
街を
「おおーっ! ここがお兄さんの生まれ育った街! すっっっっっ――ごく、普通ですねっ!」
「だからそう言っただろうよ」
中型二輪の後部座席から飛び降りた
「出発前にも言ったけど、この街に面白いもんなんて一つもないぞ」
「一つも、ですか」
「うん、一つも。基本に住宅街とか工場ばっかりだから遊べるようなところもないしな。ちょっとした買い物とかカラオケくらいなら出来るけど、そんなの
自分の
ちなみに今二人が居るのは駅前の小さな駐輪場。利用開始から二時間までは無料という太っ腹ぶりで、ちょっとした公園にも隣接しているので一時休憩も
建物の入り口に設置されていた自販機で二人分のホットドリンクを購入してから園内へ。ざっと見回したところ遊具や砂場に子どもたちの姿はなく、代わりに遠くのベンチに何人かの老人が集まってワハハと談笑していた。よく見ると遊具もブランコと滑り台くらいしかないので、どうやらここは子どもの遊び場というよりもおじいちゃんおばあちゃんの
「あそこの他にベンチは……なさそうだな」
「あっ、それじゃあブランコに座りましょうっ! 小さい子が来たら代わってあげればいいだけですしっ!」
「お、おう」
くいっと
それから二人は鉄の支柱から
「……なあ、真昼」
「はい?」
「なんで今日、
「んー、そうですね。たしかにそういうところにもお兄さんと行ってみたいですけど……」
「でも私、この街にどうしても一度来てみたかったんです。お兄さんが生まれ育った街に」
「? それさっきも言ってたけど……そんなにこだわるほどのことなのか? 別に珍しくも面白くもないだろ」
「そんなことありませんよ」
少女はキィ、とブランコを揺らすと、青年の方を振り向いて微笑んだ。
「きっとこの街のいろんな景色を見て、聞いて、感じたからこそ、今のお兄さんがあるんだと思うんです。だから私も同じ景色を見て、聞いて、感じて――少しでも多くのことを共有したい。
「お、
「ふふっ、おかしいですか? でも私、大好きなお兄さんのことは全部、ぜーんぶ知っておきたいですから」
「!」
その
「さあ、そうと決まればさっそく二人でお兄さん
「いやごめん、ちょっと
「ダメですっ! それに私、お兄さんと一緒ならどんな場所でも一二〇パーセント楽しめる自信がありますから大丈夫ですよ!」
「うぐっ……そ、そのキラキラした言葉ひとつで揺らぎそうになる自分が
少女の笑顔が
そんなわけで、ほぼ真昼一人しか得をしない聖地巡礼は幕を開けてしまったのであった。
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