第二八二食 家森夕とラブロマンス①
★
大学受験の時に世話になったこともあってどちらかと言えばコーヒー派の俺だが、たまに飲むと紅茶も悪くないものだ。俺も男なので一人で個人経営の喫茶店に入り、渋いマスターにダージリンを注文するような格好いい大人に憧れたことはある。無論、ダージリンやらアールグレイやらセイロンやらがどう違うのかは分からない。今飲んでいるアッサムより美味しいものなのだろうか。
俺がそんな取り留めもないことを考えていると、妙に
「ふふーん、いかがかしら、お兄さん?
「ファミレスごっこの次はお嬢様ごっこか。なにが
「う゛っ……い、いいじゃありませんか、お紅茶で大切なのは茶葉の
「ポットからドボドボお湯
「き、気分がロイヤルだからいいんですぅー! なんですかなんですかっ、紅茶なんて美味しく飲めればそれでいいじゃないですかっ! ふんだっ!」
「
そう問うと、そっぽを向いてしまっていた我が恋人は「あ、はいっ!」とロイヤルごっこを放り捨てて瞳を輝かせた。相変わらず、思考回路が単純で助かる。
「私、お兄さんと一緒に恋愛映画を
「えっ……れ、恋愛映画?」
予想外の提案に少し困惑する。俺は人並みに映画を観る方だと思うが、それでもラブロマンスのように恋愛が主題の作品にはほとんど
「でも俺、どんな作品が面白いのかとか全然知らないんだけど……真昼はなにか観たいもの、あるのか?」
「いえ、私も恋愛映画ってほとんど知らなくて。だけど安心してくださいお兄さんっ! 事前にオススメの恋愛映画についてリサーチしておきましたから!」
「おお、準備いいな。オススメの
「はいっ!
「どうしよう、
脳裏にダブルピースを浮かべる悪ガキコンビを思い浮かべてしまい、途端にその調査結果を信用出来なくなる俺。これが
しかし友だちのことをまったく疑っていない
「えーっと、これは亜紀ちゃんのオススメですね。『今夜、キミを襲う』」
「タイトルからしてもうヤバそうなんだけど」
ぼやきつつ、俺は自分の携帯でその映画について調べてみた。
「ほら言わんこっちゃない! 思いっきり成人向けじゃねえか!」
「えっ? 成人向――う、うえぇっ!?」
〝成人向け〟の意味がよく分からなかったらしい真昼も、検索結果として表示されたジャケット画像を見てその意味を理解したらしい。ちなみに『今夜、キミを襲う』のパッケージを簡潔に言い表すならば〝ベッド上で絡み合う男女〟である。言うまでもなく、うちの恋人にはまだ早い……というか、むしろどうして
「も、もうっ、亜紀ちゃんってばこんなのオススメしてくるなんてっ!? ……そ、そんなに面白いんでしょうか?」
「ちょっと興味持つんじゃないよ、悪ふざけに決まってるだろこんなもん! ……やっぱり赤羽さんのは駄目だ。
「は、はい。えーっと、雪穂ちゃんのオススメは……『男子高☆フィーバー! ~男同士で恋しちゃダメなんていったい誰が決めたんですか?~』」
「こっちもかよ!? なんで二人ともそんな
「ま、待ってくださいお兄さん! 雪穂ちゃんの方は題材が高校みたいだし、流石に年齢制限は掛かってないと思います!」
「いやそういう問題じゃないだろ!? 付き合い始めた次の日に彼女の部屋で男子高校生同士の熱愛模様を視聴するってどういう地獄なんだよ! まだベタベタの少女漫画展開の方が許せるわ!」
「し、少女がベタベタになる展開ですか? それならちょうど亜紀ちゃんのオススメに『魔法少女vsベタベタモンスター』っていうのがありますけど……」
「どんだけピンポイントな作品!? というかそれ絶対恋愛映画じゃないだろ!」
その後も悪ガキコンビの推薦作品を片っ端から調べてみたものの、赤羽さんのオススメはほぼ全て真昼の
そして今回の
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