第二八三食 家森夕とラブロマンス②
俺と真昼が選んだ恋愛映画のタイトルは『それでも僕は君と』。とある洋服店で働く男女が恋に落ちるも、女の
俺は「二時間弱でこの話が上手く
正直、恋愛映画を舐めていた。この完成度であれば、普段は
「んぅおおおっ……! がんばれっ、がんばって、ハナコ……!」
ふと隣を見ると、
「ま、真昼? 大事な場面で興奮するのは分かるけど、ちょっと落ち着こうな?」
「あっ、ご、ごめんなさいっ」
即座にピシィッ! と
今、俺たちはカーペットの上で肩を並べて座り、ついでに一つのイヤフォンを片方ずつ共有しながら映画を
もちろん俺の部屋に戻ればノートPCもあるし、なにもこんな環境で視聴する必要はまったくない。もっと言えば画面との距離がこの程度なら、わざわざイヤフォンを使わなくてもスピーカーで十分事足りるはずだ。しかし、そんな俺の冷静かつ合理的な
そういった
『あんな女に貴方をとられるくらいならッ!』
『は、ハナコ!?』
『――
「(ぜ、全年齢対象でも結構ギリギリの描写があるんだな……)」
自室でハナコに押し倒されたタロウにどことなく親近感を抱くと同時に、微妙な気まずさを覚える俺。一人の時であれば「へー」くらいにしか思わないが、女の子と二人きりの現状を
チラリと真昼の様子を
『ハナコ……ごめん、ごめんな……』
『た、タロウ……ううっ、ぐすっ……! 私こそ、ごめんね……!』
そんなことをしている間にどうやらタロウ氏はハナコさんと仲直りが出来たようで、画面には固く抱き締め合いながら謝罪を繰り返す二人が映っていた。おそらくここが本作一感動するシーンなのだろう、バックでは主題歌の
「(い、一番いいとこ見逃した……)」
「は、ハナコぉ……! よかった、よかったねええぇ……っ! ぐすっ、ぐすんっ……!」
「(そんで、なんで
感受性が豊かすぎる真昼に脳内でツッコミを入れている間も、映画はテンポ良く終幕へ向かっていく。タロウは元カノにスッパリ別れを告げ、ハナコも父親に許嫁の件を不問にしてほしいと
「(あとはキスの一つでもしてお
と、俺が心の中で拍手を送ろうとしたその時、俺の右手がなにか温かいものに包まれた。なんだろうかと目を向けてみると、その正体は真横に座る少女から伸びる小さな左手。
「ま、真昼……?」
「……」
どうにか動揺を押し隠して聞いてみるも、彼女は淡い桃色に染まった横顔を晒したまま、俺の手を握り続ける。い、いったいどうしたんだろうか。いや、真昼のことだ、「ちょっと握ってみたくなりました、てへっ」などと言い出してもおかしくはないのだけれども。
するとイヤフォンから映画のエンディングテーマが流れ始め、画面を見ると
『ハナコ、愛してるよ』
『タロウ……うん、私も――』
「……っ」
二人の唇が触れ合った瞬間、真昼の手にきゅっと力が込められる。わずかに絡んだ指先から彼女の体温が伝わってくるような感覚。手を繋いでいる――ただそれだけのはずなのに、俺の心臓はドクドクと大きく脈を打っていた。
「……お兄さんは」
熱を
「お兄さんは、キスってしたことあるんですか?」
「えっ……い、いや、ない、けど……」
「……そうですか」
真昼の手に、さらに少しだけ力が込もる。それはなにかを求めているようであり、一方でなにかを恐れているようでもあり。
どうすればいいのか分からずにいると、彼女はやがて「ふふっ」とその
「また一つ、お兄さんとしてみたいことが増えちゃったかもしれません」
形の良い
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