第二五〇食 うたたねハイツと忘年会①
★
「ゆう、しっているか。わたしは、びいるしかのまない」
「知らないよ、そんなどうでもいい情報」
うたたねハイツ二〇六号室の、決して広いとは言えないキッチンにて。缶ビールやジュースがこれでもかと詰め込まれた冷蔵庫を開きながら謎の宣告をしたイケメン女子大生こと
「ねえ、まだ飲んじゃダメなの~? 私ここ一週間、ほとんどお酒飲めてないんだよぉ、早く飲みたい~」
「もうちょっと我慢しろよ、まだ鍋の
「野菜の
「お前、酒が掛かってると急に
「うえぇ、そんなの
嘆く友人に苦笑を向けてから、夕は部屋の用意を済ませにかかる。
いつもは部屋の
もちろん真冬の室内には高めの設定温度で
「あ、そういえば
「……いや、まだ来てないな。
「ぷぷーっ! やーい、夕ってばフラれてやんのー!」
「やっぱり『青葉も来るけど』って付け足したのは良くなかったか……」
「……え? もしかして千鶴ちゃんが来てくれないのって私のせいなの?」
そんな会話をしている間に、時刻は夕方の六時を過ぎた。少女たちの帰りを心配する夕を蒼生が「お兄さんってば過保護なんだからぁ~っ!」とからかっていると、玄関の鍵が外から開けられる音が聞こえてくる。
「ただいまですー! お兄さん、
「お、噂をすれば帰ってきたね」
靴を脱いで上がってくるのはコートやマフラー、手袋といった防寒具で武装した少女たち。ひよりを除く三名がスカート姿なのはいわゆる〝オシャレは我慢〟というヤツなのだろうかと考えつつ、夕は隣人の少女・
「おかえり、みんな。ごめんな、こんな時間に買い物行かせて」
「ほんとですよ
「なに
「いいよいいよ
「うわーんっ!? あ、蒼生さーんっ、ひよりが
「あはは、おーよしよし。じゃあお菓子代は私が出すよ。夕には
泣き真似をしながら抱きついてくる同性の恋人を受け止めて格好を付ける蒼生。そんな彼女に「あ」と思い出したように
「お菓子入ってるのはその袋だけじゃないからねー。こっちの袋と、あとそっちの袋も全部お菓子だからー」
「え゛っ……もも、もちろん大丈夫だよっ!? い、一度『出す』って言ったんだから……ね、ねっ、
「分かった分かった、半分は俺が出すから……それよりみんな、手洗いうがいしたら座って待っててくれるか? 急いで残りの準備済ませるから」
「あっ、私も手伝いますお兄さんっ! ふふーんっ、みんなに私が作った肉団子を食べさせてあげるよ!」
「えー、まひるんが作るのー? じゃー私はおにーさんが作ったやつ食ーべよっと」
「私も家森さんのでー。まひると挽き肉の組み合わせは黒焦げハンバーグのイメージしかないし」
「右に同じ」
「み、みんなひどいっ!? も、もうっ、絶対『おいしい』って言わせちゃうんだからね!? 行きましょう、お兄さんっ!」
「はいはい、分かったから引っ張るな引っ張るな」
一気に騒がしさが三倍になった部屋を背景に、真昼に腕を引かれた夕がキッチンの前に立つ。そして揃いのエプロンを後ろ手できゅっと結び、「それじゃ、さっさと始めようか」と微笑んでみせた。
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