第二四六食 家森夕とクリスマス③
★
「……にしても、クリスマスプレゼントのためにわざわざバイト、って……」
「あ、あうう……」
一〇分後。その場で
「その気持ちはすごく嬉しいけど……でも、俺なんかのためにそこまでしてくれなくてもいいのに」
「そ、そう言われると思ったから内緒にしてたんですよう……」
こんな寒い日にバイクに乗ったせいで冷たくなっているであろう手のひらをカップから伝わる熱で
真昼が
どうやら真昼――と彼女から口止めされていたという千歳――は「お兄さんにバレたらアルバイトに反対される」と思っていたらしい。いや実際、真昼が俺へ贈るプレゼント一つのためにバイトする、なんて事前に聞かされていたら間違いなく止めていただろう。というか止めない人間の方がどうかしている。相手は年下の、それもバイト経験などない女の子なのだから。
「そういえば、
「あ、いえ、ちゃんと四人で集まってご飯食べたり、プレゼント交換したりしました。そっちのプレゼントはお小遣いの前借りで買ったんですけど……」
「うむむ……」
思わず
何度も言うようだが学生時代、それも中学・高校生
もちろんその〝時間〟は必ずしもクリスマスパーティーに限ったものではないし、過ごした時間の長さだけが関係性のすべてを決定づけるとまでは言わない。けれど今回の真昼や冬島さんを見て、小椿さんたちが〝
「ひよりちゃんと
「!」
まさか俺の思考を読んだわけではないだろうが、少女はそう言った。
「最初、
言葉の後半は〝恋〟という単語を意識したせいか少し声量が落ちた代わりに、少女は赤みが差した顔で俺の方を見返してきた。その瞳に
「(そうだ……この子がどれだけ友だちに恵まれているかくらい、俺は知ってたはずじゃないか)」
真昼の恋愛事情をよく知る友人たちは、真昼のことが大切だからこそそう言ってくれたのだろう。無論、冬島さんのことも同様に。
考えてみれば真昼と過ごした時間の長さなら俺より小椿さんたちの方が何倍も長く、その絆がいかに強固なものであるかなど、
俺は心の中で小椿さん・赤羽さん両名に深く謝罪したのち、改めて真昼と向き直る。
「……ごめん、真昼。最初に言わなきゃいけない言葉を間違えた」
「え?」
真昼の気持ちを尊重し、その背中を押した友人たちと比べ、俺はどうだ。真昼のことを第一に考えているように振る舞っておきながら、その実、彼女の努力を否定してはいなかったか。
真昼は俺のため、本来ならば友人たちと過ごすはずだった時間を削ってくれたのだ。ならばそんな彼女に対し、俺が一番最初に伝えるべきだった言葉は――
「あ、ありがとな。その……俺なんかのためにアルバイト、頑張ってくれて」
「! ……『なんかのため』じゃないですよう。えへへぇ」
どこかたどたどしく、格好のつかない俺のお礼を聞いて、少女は小さく頬を膨らませる素振りを見せてからお日様のように笑う。
なんとなく気恥ずかしくて窓の外へ視線を逃がすと、そんな少女の笑顔に引き付けられたかのごとく、雲間に隠れていた丸い月がひょっこり顔を覗かせたところだった。
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