第二一八食 質素デーと嵐の夜①
★
「雨、
「季節外れの大型台風、らしいからなあ。
「今夜中……」
俺が冷蔵庫・冷凍庫の中身チェックを再開しながらそう答えると、真昼はなんだか微妙そうなトーンで言葉を繰り返した。
「真昼? どうかしたのか?」
「い、いえ、なんでもないですよ? ほ、本当です、
なにかを
「まあいいか。それよりも――」
俺は真昼から視線を切ると、自らの手元にある品々へ意識を戻した。そこにあるのはカップラーメンが数個、
「雨を嫌ってここ数日、買い物に行ってなかったからなあ……真昼、そっちの部屋はどうだ?」
「えっと、冷蔵庫に作り置きしてるポテトサラダと、お弁当用の味付け
「だよな……」
真昼の部屋でも料理が出来る環境が整ったとはいえ、食費の関係で食材はなるべく俺の部屋に
いつもなら安売り時に買い溜めした卵や朝食用のベーコンがあるが、それらも今朝で綺麗に品切れ。水曜日から買い物に行っていなかった我が家の小さな冷蔵庫は日曜日の今日、見事にすっからかんである。
「予期せぬ
「これで食べ物、全部ですか?」
「ああ。
サバ缶一つとレトルトカレーが一袋、そして味海苔……どう考えてもこの後の昼夕二食は乗り切れまい。俺一人であればカップ麺の汁をおかずにすることはもちろん、醤油を直接ご飯に垂らして食うことさえ
「仕方ない、コンビニになにか買いに――」
「ダメですよ、警報だって出てるんですから」
「そうだけど……でもコンビニなんてすぐそこだし――」
「ダメです」
「いやあの――」
「ダ、メ、で、す」
「……はい」
ジトッとした目で人差し指を振る年下の少女に、あえなく
無論、大雨警報に強風注意報――場合によっては暴風警報も発令されかねないような状況なのだから、正しいのは真昼だ。「ちょっとコンビニに」と外出し、風で飛んできた
「とはいえどうしようか……これじゃ今日、ろくなもの食えないぞ」
「? これだけあれば一日くらいなんとかなりませんか?」
「そりゃそうだけど……でも昼飯カップ麺一つとかになるんだぞ? いいのか?」
「私はそれでも大丈夫ですよ? それにごはんがあるならおにぎりだって作れますし」
「あ……その手があったか」
この子の得意料理の存在を完全に失念していた。というか醤油ぶっかけご飯は駄目だと思うのに、おにぎりになった途端に〝料理〟と認識するのだから不思議なものだ。おにぎりだって言ってしまえば〝塩ぶっかけご飯〟なのにな。
「今日くらいはおうちでゆっくり過ごしましょう。その代わり明日お買い物に行ったら私、腕によりをかけて美味しいものを作りますから!」
「はは、頼もしいなあ」
「……そうだな。じゃあ今日は
「はい! えへへ……こういうのもたまには楽しいですね!」
なにがそんなに嬉しいのかニコニコ笑顔でそう言った真昼に、俺はもう一度微笑を浮かべるのであった。
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