第二一六食 ランチボックスと少女の想い③
★
「おはよ、まひる。うー、今日ちょっと寒すぎない?」
「あはは、おはよう、雪穂ちゃん。私も今朝、起きるの
「んー、まあお弁当作ってた
「うん、おはよう、
文化祭以来、
そして真昼も
「これに蒼生さんのお弁当が入ってます。ぜっっっっっっっっっっ……――たいっ! 傾けたりしないでくださいねっ!?」
「お、おう……すごい
「当然ですよ。蒼生さんに食べてもらうんですし……味はともかく、ぐちゃぐちゃになったのなんて渡したくないです」
「別に、多少形が崩れたって美味いものは
そこでチラリと視線を向けてきた夕に、真昼は頬を赤くしてわずかに
こんな風に言ってもらえるのは嬉しいものの、真昼からすればあれはやはり失敗作なので、少し複雑な気分である。
「だからって崩れていいってことにはならないんですって。家森さんだってどっちかって聞かれたら綺麗な弁当の方がいいでしょ?」
「まあ……ってあれ、なんかこれデジャヴだな」
「というわけで、絶対崩さずに蒼生さんに渡してください。家森さんの身の安全を犠牲にしてでもこのお弁当の安全を守るくらいの気持ちで」
「なんでそんな凄まじい覚悟で弁当配達しなきゃならないんだ……」
そうツッコミを入れつつ、一瞬だけ雪穂の後方へ意識を向けた夕はニヤリと悪どい
「……あー、悪いけど冬島さん? 実は俺、今日ちょっと体調が良くなくってさ。大学も休もうと思ってるんだよ。だからそのお弁当、俺から
「は、はあっ!? えっ、ちょっ!? それ一体どうい――」
「えええええっ!? たた、体調悪いって本当ですかお兄さんっ!? だったらこんな寒い所じゃなくてすぐにお部屋に入らないとっ!? そ、そうだっ、たしかこないだのお母さんからの仕送りに良く効くお薬が入ってましたからそれを飲んで、暖かい格好でお布団に――!?」
「いや、冬島さんはともかく、なんで真昼まで本気で信じてるんだよ……あー、違う、違うって!? 体調不良っていうのは嘘だから!」
眼鏡少女のリアクションを
「嘘? 嘘なんですか?」
「あ、ああ。でも、俺から青葉には渡せない、っていうのは本当だけどな」
「は、はあ……? だからそれがどういうことなのかって――」
聞いてるんですけど、と続けようとしたであろう雪穂は、しかし最後まで言葉を
「ばあっ!」
「ひゃうんっ!?」
直後に真後ろから突然、驚かすような声が
「あははっ、ドッキリ大成功~! 体育祭の時は失敗したけど流石は夕、女の子を騙し通すのはお手の物だね」
「人聞きが悪すぎる言い方すんな」
「あ、あああ蒼生さんっ!? どど、どうしてここにっ!?」
半眼の夕、そして勢いよく振り返った雪穂の視線の先に立っていたのはイケメン女子大生こと青葉蒼生だった。
「いやあ、起きたら夕から
そう言って蒼生が携帯電話を点灯させると、そこには夕から届いたメッセージが表示されていた。事情の簡単な説明の最後に、「自分で受け取りに来なかったら
「もー、
「クネクネするな、気色悪い。んなこと分かってるっつの……」
「へへ……ありがとね、夕」
「……おう」
未だに状況が飲み込めていない様子の眼鏡少女の前で短く言葉を
「おはよう、雪穂ちゃん。なんでも、私にとっても素敵なものを作ってきてくれたんだって?」
「あ、あう……」
夕に「絶対に崩すな」と言っていた時の威勢はどこへやら、途端に緊張して言葉を詰まらせてしまう雪穂。そんな恋人の姿を優しい瞳で見つめるイケメン女子大生は、先ほどまでとは種類の違う微笑みを浮かべた。
「――良ければそれ、直接受け取らせてもらえないかな?」
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