第一九五食 家森夕と自炊少女(?)①
★
大学から戻った俺は、ヘルメットを原付のシート下に
さっさと部屋に戻って温かいものでも飲もうと、俺は通学用の
自分では――というより我が家のキッチン設備では――とても作れないような
「(元々が無趣味だったとはいえ、俺がここまで料理を楽しめるようになるとはな……)」
カップ麺に白米でも「自炊」だと言い張っていた頃が懐かしい。たった半年でも人は随分変わるものなのだなあ、としみじみ実感する。それもこれも、きっかけとなったのはやはりあの隣人の少女なのだろう。
「……ん?」
自室のある二階へ上がり、廊下へ出た俺は思わず
一番奥は俺の部屋なのだから、開いているその扉が誰の部屋のものかなど考えるまでもない。
「ハッ!? ま、まさか――ッ!?」
もしや
もちろんこれは後から考えれば
「ま、真昼ッ! 無事かッ!?」
「ふひゃあっ!?」
半開きのドアを勢いよく開くのと同時、可愛らしい悲鳴が響いた。玄関のすぐ
「お、お兄さんっ!? どど、どうかしたんですか、そんなに慌て――あだあっ!?」
「!?」
驚愕する少女のリアクションは、しかし最後まで続くことはなかった。というのも彼女は振り向いた際、たまたま足下に転がっていた
「だ、大丈夫かっ――……あ」
すぐに彼女を助け起こそうとした俺だったが、しかしそれを目撃してしまったがためにブオンッ、と体感音速超えの速度で視線を
「み――見ましたかっ!?」
直後、盛大な声で問われる俺。もしもこの場に居合わせず、ただ音声だけを聞いている第三者が居たとしたら、いったいなんのことかと首を
い、いや、もちろん俺にもなんのことかなんて分からない。転んだ
「……み、見テナイ、ヨ?」
「絶対嘘ですっ!? なんですかその怪しい
「み、見てない見てない!? すぐ目逸らしたし、気分的にはこれっぽっちも見てない!」
「『気分的には』ってなんですか!? 理性的には見たってことですか!?」
「……え、えっと……」
「やっぱり見てるじゃないですかっ!? うわあああああ……っ! も、もうダメです、事ここに至ったからには――もはや死ぬしか」
「いやなんでだよ!? だ、大丈夫だ!? ほ、ほら、前にも掃除の時見ちゃったこともあるから……!」
「それ全然
「ハッ! い、言われてみれば……」
そんな間抜けなやり取りを続けているうちに落ち着いてきたのだろう。
「ご、ごめんな、急に入ったりして……ドアが半分開いてたから、なにかあったんじゃないかと心配になってさ」
「あ、そ、そういうことだったんですか。こ、こちらこそご心配をおかけしてすみません」
そう言って、ぺこぺこと頭を下げ合う俺たち。そして暗黙のうちに、先ほどはなにもなかったことにしようという空気が
俺も
「と、ところでどうしたんだ、コレは? やけに大きい荷物みたいだけど」
仕方がないので無理やり話題を変えることで記憶の抹消を
すると真昼は「あ、そうなんですよ!」と言って困ったような上目遣いでこちらを見上げてくる。
「実は……お母さんが自炊用の道具を揃えて、まとめて送ってきてくれたみたいなんです」
「……え?」
困惑したようにそう告げた真昼に、俺もまた戸惑いの疑問符を浮かべずにはいられなかった。
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