第一八四食 旭日真昼と初デート②
★
私立
中でも大学祭の規模は一段と大きい。特に近年では
とにかくその歌種大学の大学祭が、今日から始まるのである。
「お、おお~……や、やっぱり大学って大きいなあ~……!」
無数の人が流れていくキャンパス内にて、通行の邪魔にならないように
そして肝心の大学祭については、今真昼がいる大きな通りの対面側で各学部のゼミナールや部活・サークルに所属している学生たちが本格的な飲食物の屋台を出している他、〝多学部共同研究発表会〟や〝コスプレコンテスト〟といった面白そうな企画が
しかしながら、配布されていた
「(こ、これ、ちゃんとお兄さんと会えるのかなあ……?)」
――そう、本日の待ち合わせ相手である隣人の大学生・
「(うう……やっぱり一緒に来てもらった方が良かったかも……)」
そもそも同じ建物に住んでいるはずの真昼と夕がわざわざキャンパス内で待ち合わせしているのは、別になにか深い意図があってのことではない。
約一週間前――友人たちの後押しもあって今日の大学祭、もとい真昼にとっては初めてとなる〝デートっぽいデート〟に夕を誘うことを決意したその日の夕食時。少女は青年に「デートをしましょう!」と言おうとして、失敗した。より厳密に言えば、先に向こうから誘われてしまったのだ。
『体育祭とか文化祭とか招待してもらったし、
想定もしていなかった想い人からの誘いに、真昼が一も二もなく飛び付いたのは言うまでもない。だが続く「じゃあ当日は一〇時くらいに出ようか」という言葉に関しては決して首を縦に振らず、最後まで
『せ、せっかくの機会なので、ちょっとだけ一人で大学の中を見て回りたいんですっ!?』
そんなこんなで――素直に「デートっぽく〝待ち合わせ〟をしてみたいんです」と言えない自分を恥じながらも――二人は朝一〇時にキャンパス内の法学部棟前、すなわち真昼が立っているこの場所で集合することになったものの……予想を遥かに上回る人の多さに、少女は早くも後悔し始めているというわけだ。
「(というか、いくらなんでも早く来すぎちゃったかも……)」
頭の中で呟きつつ、真昼は携帯電話の液晶画面に表示された時刻を見た。現在九時二八分、まだ集合時間より三〇分も前である。
小さい頃から「五分前行動をしなさい」と教育されて育った真昼は〝確実に五分前行動が出来るように一〇分前行動をする〟タイプの人間だ。
そこまで予測した上で少女は「ふっ……私は騙されませんよ、お兄さん」とニヒルぶった笑みを浮かべつつ、〝
この手の待ち合わせの
しかし絶賛片想い中の彼女は〝想い人を待たせる〟ことだけは絶対にしたくなかった。夕よりも遅れて到着してしまい、「真昼は俺ほど大学祭を楽しみにしてなかったのかな……」などと思われたら困るからだ。
ゆえになんとしてでも「お待たせ――」の
「(お兄さん、まだ来てないよね……?)」
キョロキョロと法学部棟付近を見回してみる真昼。まだ待ち合わせより三〇分も前だと分かっていても、大学という慣れない場所、そしてこの人混みの中で一人ぼっちだという事実からくる不安には勝てなかった。
「……いるわけない、よね。うう、どうしよう……」
どうするもなにもこれは待ち合わせなんだから待つしかないけど、と真昼が自分の呟きに対して心中でツッコミをしていると。
「あれ、真昼? も、もう
「へ?」
耳に
「真昼、随分早かったんだな。なんか大学の中見て回りたいとか言ってなかったっけ……あ、もしかして今から行くのか?」
「え!? い、いえ、それはもう済ませました、二分くらいで!」
「早っ!? うちの
「お、お兄さんこそ早くないですか!? ま、まだ約束の三〇分も前なのに!」
「お、おう……俺は先にゼミの課題出しに行ってたんだ。うちのゼミは学祭で出し物してない分、準備期間中も普通に授業あったからさ」
「な、なるほど!」
そんな真昼のことを
「それじゃあちょっと早いけど、色々見て回ろうか」
「は、はいっ!」
何はともあれ、予定よりも早く夕とのデートを始められることに満面の笑みを浮かべる真昼。
〝
……結局〝例の会話〟が出来ていないことに気付いてショックを受けるのは、この数十秒後のことだった。
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