第一七四食 家森夕と旭日真昼①
★
「一、二、
「……楽しそうだな」
「そうだねえ」
グラウンドの端っこに行儀悪く座りながら
「……
「ぶっ飛ばすぞテメェ」
人の気も知らず「今のちょっと
「あ。始まったみたいだね、フォークダンス」
「ああ、例の……」
顔を上げて見れば、キャンプファイヤーの周りでは多くの生徒たちが一つの大円を
「マイムマイムかあ。
「(マイム……? オクラ……?)」
あの踊りの名前だろうか? 別にダンスに詳しいわけでもないであろう青葉でも知っているということはそれなりにメジャーな部類なのだろうが……やはり俺には「なんだか美味しそうな名前だなあ」くらいの感想しか出てこない。
「実は私も小学生の時、給食の時間にみんなでよく踊ったんだよねえ、マイムマイム」
「どんな学校だよ」
「まだ若かった私たちは、おやつのプリンを
「だからどんな学校だよ」
そしてあの平和極まりないダンスのどこにそんな戦国武将みたいな感情を抱いたんだよ。
「ねえ、夕はどうなの? 魂を懸けたマイムマイムの
「あってたまるかそんな経験。というか俺はフォークダンス自体やったことないぞ。オクラミックスジュース? も見たことすらないし」
「オクラホマ・ミキサーだよ、なにその
俺と青葉が
「あっ、おっ、いっ、さああああああああああんっ!!」
「ぐげふぁッ!?」
「!?」
まるで闇に
〝何者か〟などと言ったが、青葉相手にこんな大胆な真似をする子は一人しかいないだろう。
「ゆ、
「すう、はあ、すう、はあ……! ああ、今私は蒼生さんのイイ
「き、聞いてる……?」
「ゆ、雪穂ちゃん! そんな勢いよくぶつかったりしたら青葉さんが
青葉に突貫した眼鏡少女の後を追って来たのは、体育祭の時にも見たことがある体操着姿の
「……もしかして、わざわざ着替えに行ってたのか? 昼間はTシャツ着てただろ?」
「あ、はい。たこ焼き屋のTシャツはあんまり汚したくないですし、それに
そう言ってその場で可愛らしくぴょぴょんと跳ねて見せた真昼に、俺は「気合い入ってんなあ」と苦笑する。彼女も今グラウンドでやっているフォークダンスに参加するつもりなのだろうか。
「(そういえば昼に
俺から見ると正直、ありがちな
「さあさあ、
「え゛っ!? い、いやそれは別に構わないけど、でも他のみんなは全員でマイムマイムを――」
「そんなのどうでもいいんです! 蒼生さんの綺麗な手を他の人に握られたくありませんし!」
「なんかすっごい格好いいこと言われた!? 私の立つ
イケメン女子大生という肩書きを
そんな考えても仕方のないことを考えていると、ふと真昼が後ろ手を組んだまま、じっとこちらを見つめていることに気がついた。
「真昼は行かなくていいのか? その……ダンスの時間が終わっちまうぞ?」
「以前話していた気になる人と一緒に踊る前に」という言葉はあえて飲み込む。わざわざ動きやすい服に着替えてきたくらい気合いが入っているんだ、それくらい真昼だって分かっているだろう。
「――はい、行きます」
真昼が、妙に熱のこもった声とともに頷いた。対して俺は「そうか」と
おそらく真昼は、その〝気になる人〟とやらをダンスに誘うつもりなのだろう。無論、俺はあんな〝伝説〟なんて
「――ですから、お兄さんも一緒に来て下さい」
「……え?」
だからこそ、続く真昼の言葉は俺にとって完全に予想外だった。一緒に来い、とは一体どういう意味だろう? もしや、
――
「お兄さん――私と二人で、一緒に踊ってもらえませんか?」
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