第一七三食 旭日真昼と自分の番?③
校舎の壁に沿うように立ち並んでいた屋台のほとんどが解体され、騒がしさが薄くなった
ホームルームが終わった後、小さなごみ袋を集積所まで持っていった
「あれ……お母さんと
「あら、真昼じゃない。こんなところでなにしてるのよ?」
「そ、それはこっちのセリフだけど……二人でどうしたの? もうすぐ後夜祭始まっちゃうよ?」
言いながら真昼がてててっ、と駆け寄ると、母の隣に立つ金髪ピアスの女子大生がなぜか口元を押さえながら顔を
そんな可愛いもの好きの彼女を尻目に、娘からの質問に答えたのは
「真昼、お母さんと
「えっ、か、帰っちゃうの? せ、せっかくだから最後まで見ていけばいいのに……」
「ふふ、そうね。お母さんも本当は最後までいたかったんだけれどね……いろいろな意味で」
「?」
なにやら意味深な言い方に首を
「でもお母さん、この後学生時代の友だちと
「その言い方はひどくない!?」
「冗談冗談、そんなに怒らないの。それで千鶴ちゃんももう帰るそうだから、じゃあ門まで一緒に行きましょうってことになったのよ。
「お、お兄さんたちが残るなら千鶴さんも最後まで一緒に……」
「いや、
「目的……あっ、そういえば千鶴さんは、
「ッ!? そ、それ誰から聞いた!?」
「え? お兄さんが『十中八九そう』だって……」
「あ、あの野郎ッ!?」
「ひっ!?」
鬼のような顔で怒号を上げた千鶴に、真昼がビクッと肩を震わせた。そしてそんな少女の姿にハッと我に返った
「……それにしてもあの爬虫類野郎め、人の気も知らねェで恩を
「お、恩を仇で……って?」
「い、いやなんでもねェよ。とにかくオレはあんな
「は、はい」
よほど蒼生のために来たと思われたくないらしい千鶴の圧力に屈したようにこくこくと頷いて返す真昼。隣人の青年というたしかなスジからの情報ではあったが、本人が「そうでない」と言っているのだから押し通す必要はあるまい。
「そ、それでお母さんはお友だちとご飯に行ってからどうするの? もしかして、もう
「ううん、今日は友だちの家に泊めてもらって、
「ぎくっ!? そ、そんなことないもん!?」
嘘である。一応文化祭の準備が本格化する前に――夕に「自分で片付け出来ないなら〝G〟が出ても助けてやらないぞ」と言われたこともあって――一度掃除をしたのだが、結局一週間も
そしてやはりと言うべきか、真昼の下手な嘘など母親にはまったく通じず、明は半眼でこちらを見下ろしてくる。
「……そんなことで夕くんに愛想尽かされちゃってもしらないからね?」
「お、お兄さんは今関係ないでしょ!?」
「まあいいけど……でも真昼、あなたはもうちょっと危機感を持った方がいいわね」
「え……? ど、どういう意味?」
「そのままの意味」
急に真面目な顔になった母に、真昼は無意識のうちに背筋をピンと伸ばした。
「……今日お母さん、夕くんと二人で話しに行ったでしょう? その時、夕くんに聞いてみたのよ。『真昼のことを女の子として見られるか』って」
「なッ……!?」
まさかあの時、そんな話をしていたとは思いもよらず、真昼は絶句した。自然な話の流れでそうなったのか、それとも明が前触れもなくそれを聞いたのだろうか? どちらもあり得そうだし、どちらかによって話の意味合いは大きく変わってくるが……真昼がそれを
「その時、夕くんがなんて答えたか――分かる?」
「わ、分からないよ、そんなの……」
「『真昼はまだ高校生で自分は大学生だから、
「!!」
巨大な
夕が
「本当は、
「……ねえ真昼、夏休みに
「え……」
「『
「……!」
明の問い掛けに、真昼は衝撃の抜け切っていない頭で思い返す。
「〝言葉にすること〟って簡単なことのようでいて実はすごく大切で、すごく難しいことなんじゃないか」――母はあの時、たしかそう言っていた。
「どうかしら、真昼。今のあなたは、きちんと〝言葉にすること〟が出来るようになったかしら?」
「……私は」
――長い一日が、ついに終わろうとしている。
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