第一六三食 大学生組と後夜祭伝説②
★
「はァ!? 前に話してた子と付き合うことになっただァ!? なにワケ分かんねェこと言ってンだてめェは、バカじゃねェのか!?」
「よく理解できなかったからって罵倒しないでよ、
体育館へ向かう途中で、隣を歩きながら「というかホントになんでキミがここにいるのさ?」と
なぜかヤモリと
「……
「いや酷い言われようなんだけど……反論出来ないのが悲しい」
オレの遠慮しない物言いに、青葉ががっくりと肩を落とす。いくら
「……大丈夫なのかよ?」
我ながらぶっきらぼうな口調で短く問う。すると青葉はわずかに目を見開いてから、真剣な顔をして頷く。
「
「……」
なるほど、そんな状況なのに慌ててその子を追わないのは、一応
オレが馬鹿馬鹿しいながらも難しい現状を聞いて
「優しいんだね、千鶴ちゃんって。なんか驚いちゃったよ。もしかしたら私、今日までキミのことを誤解してたのかな?」
「あ、あァ!? 急に何言い出してやがンだ、気持ち
「あはは、分かってる分かってる」
「ニヤニヤすんじゃねェッ!? と、とにかくキッチリ落とし前はつけやがれってンだ! 年下相手に中途半端な責任の取り方しやがったら承知しねェぞ!?」
「うん――ちゃんと、分かってる」
最後の言葉が帯びる真摯な空気に、これ以上言う必要はないと判断したオレは「フンッ」と鼻を鳴らして顔を
「――うふふ。二人とも、とってもいいお友だちなのね」
「あ、あァ!?」
前方から掛けられた声に反射的に噛み付いたオレは、それが旭日真昼の母の声だと気付いて内心「うっ」と言葉に詰まる。オレは相手を選んで態度をコロコロ変えたりはしない
そしてオレが喉を詰まらせたのをいいことに、青葉が「そうなんですよ~」と軽薄なことを言いやがった。
「私と
「(呼ばれてねェし呼ばせるワケねェだろ!)」
「あらあら、そうなの? それじゃあうちの真昼は大変ね、こんな美人さん二人と夕くんを取り合うなんて」
「(誰があんな爬虫類なンか取り合うかよ!?)」
「あはは、夕は恋人にしてもつまらなそうだから私はやめときますよ」
「(さらっと酷いなてめェ!? そ、そんな言い方されたらヤモリがちょっと可哀想だろうが!?)」
そんな話をしているうちに、オレたちの視線は自然と前を歩く二人に集まった。片方はなにやら身振り手振りをしながら一生懸命になにかを話している少女、もう片方はそんな少女の言葉を、普段オレたちの前では見せないような優しい
こうして後ろから眺めているとものすごく仲の良い
「(つーかあんな笑顔向けられてンのに、なんであの爬虫類野郎は『真昼には他に好きな男がいる』とかほざいてンだよ。
いくら誤解があるとはいえ、恋愛に
「(もしそうだとしても、現時点でヤモリにその気がない以上はフラれちまう確率の方が高そうなモンだが……)」
もちろんこれは単なる憶測だし、あの子がどういうつもりでヤモリを文化祭に呼んだのかは分からない。あくまでも第三者に過ぎないオレは、それでもぼんやりと前を歩く二人の背中を見ずにはいられなかった。
「あっ、こ、これですお兄さん!
「わ、分かった、分かったからそんなに引っ張るなって」
彼らが眺めていた体育館前に立て掛けられている看板に目を向けると――次の演目欄には「演劇 〝後夜祭の伝説〟」とだけ記されていた。
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