第一五四食 家森夕と旭日明②
「ねえ
「!?」
「えっ……い、今からですか?」
たこ焼きをあっという間に食べ終えていきなりそんなことを言い出した
「真昼のことで、ちょっとお
「……!」
なるほど、そういうことか。
確かに俺は、真昼の親御さんと話さなければならないことが山ほどあるだろう。突然の登場に驚いてしまったが……本来であればこんな
「……分かりました」
「お、お兄さん!? わ、私のことでお話し、って……だったら私も一緒に――!」
「だーめ。私は夕くんに話を聞きたいのよ。
「うぐぅ……! こ、この後、一緒に三年生の演劇を
「わ、悪いな、真昼。すぐ戻るから、
「はいぃ……!」
「
「は、はあ……」
ぐぬぬと口を
――この時、俺はなぜか胸がざわつくような気配を覚えていた。
★
俺たちが向かったのは
ただしもちろん階下では文化祭の真っ最中であるため、生徒たちの
「ふふっ、懐かしいわ。学生時代も私、よくここで友だちとお喋りしていたのよ」
「お母さんも
「ええ、そうよ。真昼から聞いていないかしら? それもあって私、あの子が
「な、なるほど……」
そういえば以前、食事中の雑談でそんなことを聞いたような、聞かなかったような……。あの子はマシンガンのように話す
「でも〝可愛い子には旅をさせよ〟なんて言うけれど、やっぱり親としては心配なのよ? ほら、真昼ってなにかとどんくさい所があるでしょう?」
「ええ、まあ……」
母親の前で「ですね」なんて言えるはずもないので、
「あの子、顔は私によく似て美人だけれど、
「(ものすごく分かる)」
「それで……その真昼の話なんだけれどね」
不意に、渡り廊下の
わざわざ聞くまでもないことだが、話というのは真昼が俺の部屋に出入りしていることに関してだろう。明言こそ避けていたが夏祭りの時、そのことが原因で親父さんに一人暮らしをやめさせられそうになった、と真昼は言っていた。
だとすれば、真昼のお母さんである彼女が改まって言いたいことなど大体想像がつくだろう……俺は緊張に喉を鳴らしつつ、真昼母の次の句を待った。
「――まず、お礼を言わせてもらえるかしら。日頃からあの子に良くしてくれて、本当にありがとう、夕くん」
「えっ……い、いえ、こちらこそ……?」
まさかこんなにこやかにお礼を言われるとは思わず、「ありがとう」への返答としては正しくないであろう言葉を返してしまう俺。「あまり娘に干渉しないで頂戴」とか「
「……そして、ここからが本題なのだけれど――」
「(! い、いよいよ来るか!?)」
なるほど、今のは軽い
「正直なところ――夕くんはうちの真昼のことを、女の子として見ているのかしら?」
「……へ?」
予想外すぎるその問いに完全に虚を突かれ、今度こそ掛け値なしに間抜けな声を発する俺。リングの上で拳闘の構えをとっていたのに、いきなり場外からピストルを撃ち込まれたような気分である。
「あ、あの……真昼が俺の部屋に出入りしてることについて言いたいことがあるわけじゃないんですか?」
「え? いいえ、まったく?」
「(なんでだよ)」
じゃあさっきの「〝可愛い子には旅をさせよ〟」のくだりはなんだったんだ。俺がそうツッコみたいのを
「……そのことなら夏に帰省したとき、真昼が自分の言葉で決着をつけたもの。今さら蒸し返すつもりなんてないわ。まあ元々私は、真昼と夕くんの関係に反対していたわけでもないんだけれどね。あの子はどんくさいと言ったけれど、あれでも人を見る目だけは確かなのよ」
そういえば以前、
「で、話を戻すけれど……どうなの? 真昼のことを女の子として――異性として見ているのかしら? それともただのお隣の女子高生として見ているのかしら?」
「ど、『どうなの』って言われても……」
それこそ同じような質問を、前に小椿さんからされたことがあった。……ほんの一、二ヶ月前のあの時、俺はなんと答えたんだったか?
「えっと……いつか俺が真昼に手を出すんじゃないか、とかって心配されてるんだったら、そんな心配は――」
「それは質問の答えになっていないわ」
真昼母は柔らかい口調で俺の言葉を遮ると、しっかりと俺に向き直って「もう一度聞くね?」と優しく言った。
だが声色の優しさとは裏腹に、その瞳には明確な意思が
「あなたはさっき『恋人が欲しくないわけじゃないけれど、単純に相手がいない』と言っていたけれど――それならいつも近くにいる真昼のことは、一体どう思っているのかしら?」
繰り返された質問を聴覚で聞き入れながら、俺は脳の冷静な部分で「なるほど」と納得していた。
なるほど、似ていない――姉妹かと
文化祭の喧騒が遠ざかっていくような錯覚を覚える中、文字通り行き止まりまで追い詰められた心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。
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