第一一七食 旭日真昼と複雑な気持ち
★
「じゃあ俺は部屋に戻るからな。今日はまだ安静にしてろよ?」
「あはは、流石に分かってますよ~。朝ごはん、ごちそうさまでした!」
「おう」
隣人の大学生が部屋を出ていくのを見届け、一人ぼっちになった
「……お兄さん、やっぱり優しいなあ……」
そう小さく呟く一方で、少女の表情はどこか不満げだった。
もちろん
「(別に、お兄さんが持っててくれて良かったのになあ……)」
そもそもこれは昨日の夜、夕に病院に連れていって貰った後に渡したものだ。その時の真昼は動くのも
真昼はそれが不服だった。なにせ真昼の方は夏休みに入って以来、夕の部屋の鍵を持たせてもらっているままなのだから。これではなんというか、不公平ではないだろうか?
しかし夕の部屋で食事を
それでも一度渡した合鍵を普通に返されるというのはなんだかショックだった。「
「(そういえば昨日も私のて、手を握ってくれた時も、お兄さんは普通にしてた気がする……け、結構大胆なお願いしちゃったのに……)」
昨夜、
ちなみに実際は二人とも同じくらい真っ赤になって照れていたのだが……その時の真昼は繋がれた二人の手の方に意識を奪われ、夕の
「(……あとは最近私の様子がおかしかった理由も『風邪のせいだった』ってあっさり信じちゃってたし……ちょっとくらい変だなーって思ってくれてもよかったのに……)」
自分も全力でその解釈に乗っかっておきながら、なんともワガママな言い分である。
真昼は自分の中でもまだ夕に対する気持ちの整理がついていない。当然、このタイミングで本人に好意がバレるのは困る。なにせこの好意が〝恋慕〟と呼ぶべきものかどうかさえ分からないのだから。
しかしその一方で「気付いてほしい」と思っている
「(だ、だからって本当に気付かれても困るっていうか、心の準備が出来てないっていうか……ほ、ほんのり気付いてくれるくらいでいいっていうか)」
要は、真昼は夕にももう少しだけ自分のことを意識してほしいのだ。その根底には彼にも自分と同じ気持ちを共有してほしいという欲求があったのかもしれない。
とはいえ真昼自身、このところ自分が夕を異性として意識しすぎたせいで今まで通りに接することが出来なくなっていた自覚はある。だからこそそれはすべて風邪のせいだったという夕の解釈に全力で乗っかったわけで。
そういう意味では、夕が
しかし、それでも合鍵をあっさり返却された乙女心は複雑だった。夕は
それにひきかえ真昼の方は、風邪で倒れた自分を病院までおぶっていってくれたり、今日も朝からわざわざ朝食を作ってきてくれたりと、〝お兄さん〟の優しさにますます
「う、うう~っ……ず、ずるいですよ、お兄さん~っ……!」
寒くもないのに布団を頭まで
隣人に心をかき乱される少女の苦悩は、まだしばらく続きそうだった。
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