第八六食 小椿ひよりと恋愛調査③
「ねえねえ君たち、二人で遊びに来たのー? 良かったら俺らと遊ばなーい?」
ゆるふわ女子が乗っている浮き輪を押しながらばた足を繰り返すひよりの耳に聞こえてきたのは、そんな面白味の欠片もないナンパの決まり文句だった。声の主は見るからに軽薄そうな二人組の男たち。年の頃は高校二、三年くらいといったところだろうか。
「え……えっと……?」
一方、波打ち際で砂山を作って遊んでいた
「うわー、ほんとにナンパされてるー。こんな家族連れ御用達みたいな
「みたいだね……っていうかアキ、あんた自分で泳ぎなさいよ」
「えーやだー。海水に浸かったら髪ギシギシになるんだもーん」
「あのねえ……」
わがままなことを言うマイペースなゆるふわ女子に、ひよりは浮き輪ごと彼女を足がつく辺りまで移動させた。そして状況に似つかわしくないのんきな様子で「いてらー」と手を振る
「こ、困ります……!」
「えー? いーじゃんいーじゃん、俺らと遊ぼうぜー?」
「い、いや、私ら男の人と遊びに来てるから……」
「まーたまたー。そんな警戒しなくていいってー」
「(警戒するべきなのはあんたらの方だけどね……)」
わずかに膝を震わせながらも連れの存在を
彼女の前で彼女の大切な友に手を出そうとするなど、猛獣の目の前でその仔を
「おい、あんたら――」
猛獣のごとき怒気を宿した瞳と共に、ひよりが真昼たちの腕に手を伸ばしかけているナンパ男たちに呼び掛けようとした――その時だった。
「真昼ーーーーーッ!」
「雪穂ちゃーーーーーんッ!」
「!?」
いきなり後方から聞こえてきた余裕のない、ある意味間抜けなその二つの叫び声に、ひよりは気勢を
「真昼ーーーッ! 無事かァーーーッ!?」
「ひいっ!? お、お兄さんっ!?」
「雪穂ちゃんッ! なにもされてないッ!? 胸とかお尻とか足とか触られたのッ!?」
「ひゃっ!? いいいいえあのっ、そんなことはされてないですけどっ……!?」
全力で駆けてきたのは言うまでもなく
「おのれ、この卑劣漢どもめッ……! よくもうちの可愛い女の子たちのあんなところやこんなところを触ってくれたね……!?」
「ひ、卑劣漢? あ、あの、俺らまだなんもしてないんですけど……」
「
「性犯罪者のクソ野郎!? ちょ、ちょっと待ってくれ、俺たちその子らに声掛けただけなんだけど――!」
明らかに焦った様子で物騒なことを言う二人の制止を試みる男たち。しかしその声はくわっ、と目を見開いた蒼生の声に遮られる。
「命を
「いやナンパに命懸けるヤツなんていねえよ!?」
「
「なんかぜんぜん法律関係ないやり方で報復しようとしてるんだけど!? お、おい逃げるぞ! この子たち、やべえ連中の女だったッ!」
「じょ、冗談じゃねえよ、手出したわけでもねえってのにッ!?」
軽い気持ちのナンパ程度のことで社会的に殺されてたまるかと言わんばかりに、バタバタと人波に
『(
「……聞くまでもないかな、これは」
一人そう呟いたひよりの視線の先には安堵した真昼に背中から抱きつかれ、途端に鬼の形相から〝父親〟のものとも〝母親〟のものとも違う
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます