第六一食 冬島雪穂と育乳メニュー④
「き、気にしなくていい……ですか?」
きょとんとした瞳で問い掛ける
「……やっぱり小さいのは、嫌なんです……」
「どうして嫌なの?」
「え……?」
顔を上げた雪穂に、蒼生はもう一度優しい声で問うた。
「そもそも雪穂ちゃんは、どうして胸を大きくしたいの?」
「えっと……む、胸が大きい子が羨ましいから……」
「胸が大きい子のどういうところが羨ましい? 具体的に言ってごらん?」
「そ、それは……お、大きい方が、男の子は好きだろうから……」
「ふうん? それは特定の〝誰か〟がいるの? たとえばクラスメイトの男の子が好きー、とかさ」
「い、いえ、特にそういう相手が居るわけじゃないんですけど……」
「そっかそっか。うん、じゃあやっぱり気にしなくていいよ」
さっぱりした口調で、蒼生は笑顔で断言した。だがそう言われても、真剣に悩んでいた雪穂がすぐに納得出来るわけもない。
するとイケメン女子大生はコーラの残りを一口含んでから、静かに立ち上がって雪穂の肩にぽん、と手を置いた。
「いいかい、雪穂ちゃん。世の中には実に多様な性癖の持ち主がいるんだ」
「いっ、いきなりなんの話ですか!?」
「ああいや、
日頃の行いもあって蒼生がいつものように下ネタをぶちかましてきたのかと勘違いした真昼を苦笑で制し、彼女は続ける。
「雪穂ちゃんは胸を大きくして男の子に好かれたい――端的に言うとモテたいんだって言ったよね。でも仮にそれが上手くいったとして、もし雪穂ちゃんがこの先好きになった人が小さい胸の方が好きだったらどうする? 『大きい胸の人とは付き合いたくない!』っていう人だったら?」
「そ、それは……」
「つまりはそういうことなんだよ。もし今雪穂ちゃんに好きな人がいて、その人が大きい胸が好きだっていうなら私も全力で応援したけどね」
「……」
正論を受けて俯いてしまった雪穂に、長身の女子大生は彼女と目線を合わせるようにわずかに屈んだ。
「雪穂ちゃんには雪穂ちゃんにしかない魅力がたくさんある。だから自分にないものを付け足そうとするんじゃなくて、キミがもう持ってる素敵な部分をもっともっと磨いていこうよ」
「……!」
蒼生の言葉にハッとしたように、雪穂が彼女の顔を見つめる。……ちなみにこの時の真昼は内心で「(あの
「まあそれでも胸のことが気になっちゃうって言うなら私考案の〝育乳メニュー〟を教えてあげるのも
「……あの……その前に一つだけ……一つだけ、聞いてもいいですか?」
「ん? なんだい?」
赤い顔をした眼鏡女子は、男と勘違いしたままのイケメン女子大生に瞳を潤ませて問い掛ける。
「あ、蒼生さんは……蒼生さんは、小さい胸の女の子でもいいですか!?」
「えっ、わ、私? うん、まあ……そ、そうだね、私は女の子の胸にこだわりとかはない、かなっ?」
「(あんなに良いこと言った後なのにその嘘は貫き通すんだ……)」
あからさまに動揺している不自然な蒼生に、しかし幸いというべきか、雪穂は特に不信感を抱きはしなかったらしい。代わりに彼女は眼鏡の奥に決意の炎を
「わ、私っ! 胸のことで悩むの、もう止めますっ! 今の自分にあるものを磨いて、素敵な女の子になってみせますっ!」
「おお! うんうん、その意気その意気! 女の子の価値を決めるのは胸だけじゃないんだか――」
「そしていつか絶対絶対! 蒼生さんに相応しい女の子になってみせます!」
「……へ?」
今なんて? と蒼生が聞き返すよりも早く、興奮状態の少女は善は急げと言わんばかりに背を向ける。
「今日はありがとうございました! まひる! 私今すぐ帰って色々準備するから!」
「えっ……あ、う、うん。頑張って……ね?」
「ありがとうっ! それじゃあっ!」
「あっ、ちょ、ちょっと待――!」
慌てて手を伸ばすも、あっという間に走り去ってしまった
そして公園のベンチに取り残された蒼生は、隣に座っているもう一人の女子高生にギ、ギ、ギ……と歪な笑顔を向けてきた。
「……ね、ねえ真昼ちゃん……なんだかとーってもややこしいことになっちゃったような気がするの、私だけかな……?」
「……え、ええっと、私にはよく分からないですけど……でもお兄さんならきっとこう言うと思います」
真昼はこほん、と咳払いをして、出せるだけ男らしい声を作って言った。
「『自業自得だ』」
「うわめっちゃ言いそう! でもそんなあっ!?」
……こうして、女子高生の純真を
★
――その日の夕食時、うたたねハイツ二〇六号室にて。
「あ、あのお兄さん……お兄さんはその、好きな胸の大きさとかって……ごにょごにょ……」
「え? 今なんて?」
「い、いえっ、なんでもないですっ!?」
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