第五九食 冬島雪穂と育乳メニュー②

「というわけで! ただ今より第一回緊急豊胸対策会議をり行います! 議長はワタクシ冬島雪穂ふゆしまゆきほが務めましょう!」

「なにが『というわけで』よ……」

「お、お昼ご飯食べながらする話題じゃないんじゃないかなぁ……」

「その前に〝豊胸〟を〝対策〟しちゃったら雪穂ゆきほは絶壁のままだけどそれでいいのー?」

「うるさいうるさーいっ! それとアキ、あんた今度こそハッキリ〝絶壁〟つったな、絶対許さないからなっ!」


 プールから戻りそのまま昼休みに突入した真昼まひるたちは、一年一組の教室でいつものように机を取り囲んでいた。

 弁当を机の端に追いやってまで自身の目の前にノート――ちなみに普通に授業で使っているもの――を大きく広げた議長こと雪穂が、ギラギラした瞳でグループの面々を見渡す。


「発言したい者はまず挙手! 議長の許可を得てから喋れ!」

「じゃ、じゃあハイ、議長……」

「発言を許可する!」


 最初に手を挙げたのは真昼でもひよりでも亜紀でもなく……いつも通り彼女らと昼食を共にしていた男子生徒、南田みなみだりょうだった。その隣には眼鏡男子こと湯前ゆのまえゆずるもいる。

 とても居心地の悪そうな顔をしている彼らを代表し、発言権を得た涼が「ええと」と言いづらそうに言った。


「そ、そういう話し合いはせめて俺たちのいないところでやってもらえないでしょうか?」

「え、なんで?」

「な、なんでって……な、なあユズル?」

「俺に振るんじゃない。……普通に考えろ、馬鹿女。女子の……む、胸の話をするのに男がいたらまずいだろうが」

「? そりゃそうでしょ、男の前でこんな話するわけないじゃん」

「……え? もしかして俺とユズル、お前らに男として見られてないの……?」


 ごーん、と遠い目になった男子二名を無視し、雪穂がバンッ、と机を叩いた。


「えー、それではまず先ほどの討論の結果から話しましょうか!」

「〝討論〟って……ほとんど雪穂アンタがキャラ崩壊してただけじゃな――」

「『胸を大きくするためには健康的な食事が有効的』という話でしたね、解説のひよりさん!?」

「誰が解説のひよりさんよ」

「まず討議の場に解説役が居る意味が分からん」


 弦が椅子に横座りしながらぼそっとツッコミを入れる中、亜紀あきが「まーそうだねー」と更衣室での話を繰り返す。


「実際まひるの胸は急成長を遂げてるわけだしねー」

「ブッ!?!?」

「あ、亜紀ちゃんッ! お、男の子もいる前でそんな話しないでッ!?」

「まー私としては〝おにーさんに揉まれまくった説〟を推したいんだけモガモガッ!?」

「あーきーちゃーんーッ!!」

「このバカアキ、線引きくらい考えな!」

「いだだだっ!? ご、ごめん、ごめんってぇっ!?」


 弦が咳き込み、ゆるふわ系女子改め失言系女子が真昼とひよりから二人掛かりのオシオキを受ける脇で雪穂は「ふむふむ」とノートにシャープペンシルを走らせる。


「やっぱ可能性が高いのはその二つだね。でも揉まれまくるのは現状まひるにしか出来ない方法だし――」

「いや私にも出来ないからね、してないからねッ!?」

「じゃあひよりは? さっきはまひるにばっか注目しちゃってたけど、ひよりもなんだかんだで育ってるよねねたましい」

「流れるように憎悪の目を向けてこないでくれない」


 息をついたひよりは亜紀をヘッドロックから解放し、長い足を組んで椅子に座り直した。


「別になにもしてないわよ。さっきも言ったけど、胸なんて動くのに邪魔なだけなんだから」

「ひよりちゃんは剣道もあるもんねぇ」

「くっ……! どうせ『最近胴着がキツくなってきたわね……』とか言ってるんでしょ!? この私を差し置いて!?」

「どういう嫉妬よ。それにそんなこと言わないから」

「えっ、そうなの? もしかして実は私が思ってるほど成長してないとか――」

「中学の時に着てたのはかなり窮屈になったから、高校に上がる時に一式買い替えたのよ」

「テメェッ!? 私がほんのり抱いた仲間意識を返せッ! 返せよッ!?」

「まあまあー。中学の時に着てたのが高校上がる頃に着られなくなるなんて普通のことだってばー」


 再びキャラ崩壊を起こしてひよりに掴みかかろうとした雪穂を机に突っ伏した亜紀がいさめる。それを聞いて「むむ……そ、それもそうか……」と多少冷静になった眼鏡女子は、そのまま亜紀にターゲットを移した。


「じゃあアキ、あんたはどうなの? どうやったらそんなけしからん身体になるのさ?」

「言い方ー。んー、私はたぶん遺伝だしなー。中学に上がったくらいにはもう今の雪穂よりだいぶあったと思うしー」

「切る煮る焼く削ぐ絞める埋めるり潰す……ッ!」

「怖い怖い!? 物騒過ぎるよ雪穂ちゃん!?」

「ちなみに雪穂のお母さんはどうなのー?」

「〝絶壁〟だよッ! みなまで聞くんじゃねぇッ!」

「遺伝が全部ってわけでもないでしょ……やっぱり食生活とかが大事なんじゃないの? ひま、あんた家森やもりさんとこ行くようになってからよく食べてるものとかない?」

「そ、そう言われても……」


 確かにゆうの家に行くようになってからというもの、惣菜やコンビニ弁当ばかりだった真昼の食生活は劇的に改善された。素人なりに栄養バランスを考えた食事を二人で考えたりもしている。

 だがそれらが発育にどういう影響を及ぼすかなど考えたこともない。かといってこんなこと、とてもではないが夕には聞けないし……とそこまで考えたところで真昼はハッと顔を上げる。


「そ、そうだ雪穂ちゃん! もしかしたらそういうことに詳しい人がいるかも!」


 真昼のその言葉に、雪穂はきょとんと首を傾けるのだった。

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