第一五食 家森夕とイケメン女子②
午後の授業を乗り越え、俺はまっすぐに帰宅した。今日はバイトもないし、昨日買い物に行ったばかりなので冷蔵庫の中身の心配もない。強いて言えば普段行かないスーパーで卵の
自宅に戻り、玄関脇に筆箱くらいしか入っていない軽い鞄を放り投げて奥の部屋へ。今日も
部屋の
「友だちの可愛い女の子が家に来てるのに無視して読書とはどういうことなの?」
「……残念ながら、俺には『可愛い女友達』なんていう架空の存在は身に覚えがないな」
様々なハンバーグのアレンジレシピが載っているページを眺めながら冷たく返すと、なぜか大学から家までついてきた長身の女――
「顔を上げてごらんよ。ほーら、目の前にこんなに可愛い女の子が居るよ? そして私とキミは唯一無二の親友だろう?」
「自己評価高すぎかよ。そして俺とお前は百歩譲って友だちではあっても親友ではない」
「二百歩譲ってキミと友だちでなくてもいいから、私の評価は『可愛い』ということにしておいてもらえないだろうか」
「俺と友だちであることよりも自分の評価優先してんじゃねえぞこの野郎」
俺がため息混じりに顔を上げると、彼女はいつものようにケラケラと愉快そうに笑う。
「……というか本当に何しに来たんだよ、青葉。俺の家にそんな面白いもんなんてないぞ」
「知ってるよ? 別に初めて来たわけでもあるまいし、今さら
「そこまで理解してるくせになんでついてきたんだ……飲み会行くんじゃなかったのか」
「うん。だから夕の家で宅飲みしようと思って」
「はあ!? ふざけんな、なに勝手なこと言ってんだ!」
「いいじゃんかー。ねえ私カシスオレンジがいいんだけど冷蔵庫にある?」
「ねえよ! そもそも俺は家で酒飲まねえし!」
「ええー? 困るよ、それならそうと早く言っといて貰わないと。じゃあ今から買ってくるね」
「困るのはお前だっつの! もうほんと帰れよ! だいたいこの後先約があるって言っただ――」
ろ、と言い終える前に、ピンポーン、とチャイムの音が鳴った。思わずハッとして玄関の方を見てしまった俺に、青葉が我が意を得たり、とばかりに悪どい笑みを浮かべる。
「はーい、どちら様ですかぁ~?」
「ま、待て青葉!? お前さては最初からそのつもりで――!」
なんとか制止しようと試みるも、時既に遅し。勝手に玄関のドアを開けやがった青葉の前には――
「こんにちはー、お兄さんっ! 友だちのお
――いつもの朝日のような笑顔をみるみるうちに困惑の表情へと変えていく、お隣の女子高生の姿があった。
そんな彼女に対し、青葉は面白がるように演技がかった仕草をしながら話しかける。
「こんにちは、可愛らしいお嬢さん。どうしたんだい、そんな困った顔をして?」
「す――スミマセンッ!? 私もしかして部屋を間違えて――」
「ないから」
「いだあっ!?」
混乱してアワアワと部屋番号を確認する真昼の言葉を遮りつつ、青葉の後頭部をスパーンッ、と
「ごめんな、真昼。馬鹿が迷惑な真似して」
「お、お兄さんっ!」
「ひ、酷いよお兄さん!? なにも叩くことないじゃないか!」
「
「あ、あのお兄さん、この人は……?」
頭を押さえながらクレームを入れてくる青葉。そしてそんな青葉に困惑を目を向ける真昼。
「コレは俺の大学の飲んだくれだ。悪いな、今すぐ追い出すから入って待っててくれ」
「酷い!? 宅飲みの約束はどうするつもりさ!?」
「そんな約束した覚えはねえよ! 俺の先約はこの子だっつの!」
「そんなっ!? わ、私とは遊びだったっていうの!?」
ギャーギャー
「お、お兄さんのお友だちの方なんですよね? だったら――」
「ほーらこの子も気にしないって言ってるよ! ……フフ、良い子だね。あとでお姉さんが美味しい
「子どもにそんなもん飲ませようとしてんじゃねえ!」
「あだあっ!?」
俺は青葉の背中に思い切りケリを入れるも――結局真昼に説得される形でこの飲んだくれの侵入を許可してしまうのであった。
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